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第三話 終着駅・長崎
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「ふーん、長崎ですかぁ」
エキゾチック・シティNAGASAKI。異国情緒あふれる港町、悲しい恋のオペラ「蝶蝶夫人」の舞台・ナガサキ。あの竜馬サマが大活躍した幕末維新の街・長崎。そして、チャンポンと皿うどん、しっぽくの街・ナガサキ。
「うーん、恋の予感!」
チャンポンや皿うどんなんかと恋の予感が一緒になるなんて、いかにも、星子らしい。
そう、カノジョの名前は、流星子。東京の某女子高二年生。素敵な恋を探して、はじめての一人旅、着いた駅が長崎本線の終着駅・長崎だった。
長崎新幹線が開通するまでには、まだ時間がかかりそうだけど、東京を朝早い新幹線に乗って博多まで。特急・白いかもめに乗り換えて、合計約七時間半。飛行機にくらべて時間はかかるけど、高まる恋の期待度を味わうには、なんたって列車の旅がイチバンですっ。
あ、もちろん、パパやママには、いい恋さがしに一人旅してきます、なんて、いうわけないでしょ。
「リツ子んちの熱海の別荘で、一緒にオベンキョウしてきまぁす」
リツ子っていうのは、秀才で超リッチな同級生。一応友達ってことになっているけど、ま、都合よく利用し合う仲ってとこかな。
え? 一人旅、危険じゃないかって?
ご心配なく、頼りになるボディガード、ドラ猫のゴンベエが守ってくれる。今も星子が背中に背負ったリュックの中でしっかりと、っていいたいけど、鼾が聞こえてくるみたい。
こういう時は、「さてっと、長崎のおいしいハンバーガーでも食べに行こうかなっと」
そうつぶやいたとたん、「フニャーゴ」
ゴンベエ、リュックから首を出して舌舐めずりした。なんとも、ゲンキンなヤツ。
ま、こっちも丁度お腹がすいてきたところだし、いい恋さがしの前に腹ごしらえといきますか。
星子、弾むような足取りで改札口を通り抜けた。
その時、背後で「ママ」と叫ぶ女の子の声が聞こえた。
可愛い声じゃん。ちいちゃい子がお母さんを呼んでいるのかな。
それ以上、気にも留めずに歩きかけると、再び、星子の背後で、
「ママ!」
「ママっ」
さっきより、もっと大きな声で、それも、女の子と男の子の声が聞こえてきた。
お母さんを呼んでいるのは、二人の子供みたいだ。それも、声の感じは泣き叫ぶような感じだった。
どうかしたのかな。星子がちょっと気になって振り向こうとしたとたん、右の腕に女の子が「ママ!」と叫びながらとびついてきた。
ほとんど同時に、今度は左の腕に男の子が「ママ!」と大きな声で叫びながら飛びついた。
「ちょ、ちょっと!」
星子、よろけながらも、なんとか、足を踏ん張って体を支えた。二人とも、まだ、三歳か四歳ぐらいの幼い子供だ。ペアのジーンズにオシャレな帽子をかぶり、背中にはかわいいリュックを背負っている。
「ま、待って。人違いよ。わたし、あなた達のママじゃないから……」
星子、困った顔で二人の手を離そうとした。でも、男の子も女の子もしっかりと星子の腕にしがみついたまま離そうとしない。それどころか、
「ママ! ママぁ!」
「ママ!」
そう叫びながら、ワァワァ泣き出した。星子のシャツはたちまち二人の涙でぐっしょりだ。
「ね、ちょ、ちょっと……困ったな、どうなってんの、ったくぅ……」
まったく、感違いもいいとこだ。まだ高校生なのに、母親と間違えられるなんて、サイアクじゃん。
星子が顔をしかめた時だ。一人の男がこっちへ向かって走ってきた。ジーンズ姿で背中には大きなリュックを背負っている。二十代半ばくらいの、それなりにカッコいい男の人だった。
「あ、すんません! 申し訳ない!」
男の人、謝りながら、男の子と女の子にいった。
「しょうがないな、人違いだよ! ご迷惑じゃないか。さ、手を離して。星丸、宙美……」
どうやら、男の子は星丸、女の子は宙美っていう名前らしい。
「さぁ、早く手を離すんだよ。早くっ」
男の人がいくらいっても、二人は星子の腕をしっかりと掴み、泣きながら叫んだ。
「やだやだ! ママだよ! ママだったら!」
「ママぁ!」
「まいったな、もう」
男の人、溜息をつきながら顔を星子に向けた。ちょっとたれ目の人なつこそうな顔立ちだ。ま、一応、美形といっておきますか。
「すいません、ほんとに。二人とも、あなたを母親と勘違いしているみたいで……どういうことかな、まったく……」
ふいに、男の人、まじまじと星子を見詰めた。
「あっ」
次の瞬間、その顔がまるでストップモーションのようにこわばり動かなくなった。みるみる血の気が引いて、茫然自失といった感じだ。
ど、どうしちゃったんだろ。
星子が唖然と見ていると、男の人の目から涙がチラッと、じきに、あふれた涙が頬へ流れ始めた。
「……星子……星子さん……」
「え?」
この人、なんで私の名前を知っているわけ。
きょとんとなった星子に、男はポロポロと泣きながら、声をふるわせた。
「……僕だよ、宙太だよっ……」
(つづく)
追記 第三話、こういうことになってしまいました。結局、一度だけでも星丸クンや宙美ちゃんに星子を会わせてやりたかった、ということです。時空を超えた親子の再会、こういう展開もありなのかどうか。自信はありませんが、頑張ってみますね。
これで三つの恋物語はそろったわけですが、どの話を先に書いていくか、ご意見を聞かせていただければ幸いです。
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終着駅・三つの恋物語
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第二話・終着駅・たまステーション
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「な、なん……なんなの、これ!」
星子、大きな目をパチクリさせた。
「ゴンベエ! ちょっと、ね、見てごらん! ゴンベエったら!」
リュックの中でのんびり昼寝をしていたゴンベエ、星子のどなり声に目を覚まし、やれやれとリュックから顔をのぞかせた。
どうせいつものように大したことじゃないぜ、ほんと、困ったご主人様だ。なんていいたそうな目で下界を眺めたとたん、
フニャッ。
しゃっくりが飛び出し、長い鼻毛がブルルッと震えた。
な、なんと、目の前には巨大な猫の頭がデーンと聳え立っているじゃないですか。その巨大な頭のてっぺんには、大きな文字で、こう書いてある。
「ねこステーション」
あ、ゴンベエに字が読めるかどうか、そこんところはおまかせ。
「ねこステーション」という名前でわかるように、巨大な猫の頭は、じつは駅舎なのだ。それも、どこかの遊園地の乗り物の駅舎なんかじゃない、れっきとした私鉄の終着駅に建っているんですよ。
場所は、みかんと梅で有名な和歌山県の貴志駅。和歌山市から貴志川線というローカルな電車に乗って、約三十分ほどで着く。普段ならどうってことのない地方の小さな無人駅なんだけど、この駅、結構有名なんだよね。
その理由は、ねこの駅長さんがいるから。
そう、ねこファンの人なら知ってるよね。マスコミにもかなり取り上げられているし。廃線になる寸前のローカル鉄道を救った招き猫、ねこ駅長ってことで。
星子、別に猫ファンってわけじゃないけど、ゴンベエとの付き合いはあくまで旅の用心棒という関係だし。でも、ま、旅マニアとしては、ねこ駅長の話題はニュースで聞いたことがあった。だけど、いくら好奇心のかたまりみたいな星子でも、わざわざ出かけていく気持ちにはならなかった。
その理由は、ごく単純、つまり、いい恋に出会える確率はあまり高くないと思ったから。だって、ねこ駅長見にくる男の子って、つまり、ネコ好きなわけでしょ。ネコ好きタイプは、マイペースの勝手気ままな遊び人、そんな先入観があったからだ。
え? 自分のことだね、って?
おだまり! お仕置きだよッ。
その星子が、なぜ、貴志駅まではるばるやってきたのか。
そう、そこだよね。
じつは、愛三四郎という男の子がからんでいるからだった。
眉目秀麗、沖田総司の生まれ変わりといわれる高校生剣士。女子高生の間でモテモテで、とくにリツ子は超の字が幾つもつく熱狂的なファンだ。でも、だからなんなの。あまのじゃく的性格の星子としては、超モテ男には返って反発してしまう。
ところが、とんでもないことになった。というのも、星子の分身『星子』が、三四郎に入れ込んでしまったのだ。それも、ミーハーなんて次元じゃない、「食べちゃお」、「グルメしたぁい」。
『星子』のグルメ、お料理じゃないからコワイ。本家の星子とは正反対、まさに、いんらん少女、そのもの。つまり、グルメの対象は、「オトコ」。そのスペシャル・メニューに三四郎が選ばれたわけ。
おっと、スペシャル・メニューはもう一品ありました。それは、宙太。星子にいわせれば、なにがスペシャルよ、ただのゲテモノじゃん、ということ。でも、『星子』のほうは、目をエッチ色に染めて――どういう色じゃい――宙太を食べようと狙っている。まさに、サイアク。
しかもですよ、そのスペシャル・メニュー同士が剣道で試合することになった。
「飛び入りで、師範代やらせてもらえますか」
宙太、タレメのにっこり顔でいったけど、宙太に剣道が出来るなんて聞いたことがない。相手の三四郎は、端正な顔から殺気が今にもはじけそうな感じだ。見ているだけで、背筋がゾクッと――それがたまらなく、いい……。
ちょっと、ハナシが違うよッ。
とにかく、宙太、メタメタにやられるに違いない。出しゃばりには、いい薬かもね。そう思ったけど、読みが違った。
まず、宙太の剣道着姿の凛々しくカッコいいことったら。三四郎にひけを取らないとくる。さらに、試合が始まると、互角に戦うじゃないですか。
そう、なに、これ、の世界。
「うーっ、シビレル。さすが、宙太さん、花鳥風月一刀流免許皆伝の腕前ねっ」
『星子』、うっとり顔でいった。
「は? なんでそんなこと知ってるわけ?」
「この前、宙太さんの部屋に忍び込んだ時、壁に学が飾ってあったのよ」
『星子』、にんまりと笑った。
なんてヤツだ、自在に姿を消せるのをいいことに、宙太の部屋に忍び込むとは。
ま、そのことはあとできびしくいってやるとして、試合のほうは、あれっていう展開になった。宙太、裂ぱくの気合いで三四郎と激しく竹刀で打ち合っていたのに、突然、
「まいった!」
ガラッと竹刀を投げだし、床に手をついたのだ。
「お見事! まいりました! さすがは高校剣士ナンバーワン、じつに鮮やかな竹刀さばき。恐れ入りました!」
これには、三四郎も唖然となったのか、竹刀を構えたまま、戸惑ったように立ち尽くしている。
「なにさ、もう! だらしないの、宙太さん」
『星子』は顔をしかめたが、星子、いまいち、腑に落ちなかった。
なんか、ワケがありそうだ。きっとね。
そこで、宙太の様子をうかがっていたところ、マサルがあらわれ、宙太に小声で話しかけた。立ち聞きしようとしたけど、ちょっと近づけそうにもない。すると、『星子』が、「わたしにおまかせ」って合図すると、スイッと二人のそばへ。
そうか、自在に姿を消すことが出来るんだよね。で、そのあと、話を立ち聞きして戻ってきた『星子』から話を聞くと、
「宙太さんはね、三四郎クンの太刀裁きを調べるために、一芝居打ったらしいよ」
なるほど。そういうことか。
「でも、なぜ?」
「きまってるじゃん、捜査のためよ」
「捜査って?」
「なんでも、最近、日本のあちこちで辻斬りがはやっているんだって」
そのニュースなら、星子もテレビで見ていた。
「ということは、つまり、三四郎さんに疑いが……」
「らしいよ」
「で、どうだったわけ?」
「グレーゾーン、つまり、怪しいってこと」
「ほんと!」
「でも、相手は未成年だし、これといった証拠もないし、当分、泳がせて様子を見ようってわけ」
そういうことか。
星子、意外な展開に茫然となった。あの超美剣士・愛三四郎に、辻斬りの疑いがあるとは。
すると、『星子』が、
「ウソ! ありえないよ!」
ホッぺをふくらませながらいった。
「宙太さん、どうかしてる! 絶対に、あり得ないから!」
「でも、太刀裁きが似てるって」
「そんなこと、証拠にならないの! あんな綺麗な顔した子に、人殺しが出来るわけないじゃん! 私のこの目に狂いはないから!」
「そんなぁ……」
そういう理屈は通用しない、と思うけど。
「お黙り! こうなったら、わたし、三四郎クンを守ってやる! しっかりと守って見せるからね!」
そういって、『星子』、パッと体を翻した。
やれやれ、わたし以上に思いつめちゃうんだから。といっても、あいつもわたしの分身ではあるんだよね。
そうなると、ほってはおけない。『星子』がバカな真似しないように、しっかりと見張らないと。でも、自分で自分を見張るなんて、おかしな話だけどね。
そして、その翌日、三四郎は全国高校生剣道選手権に出場するため、三四郎、会場へ向かった。会場は大阪のシンボル、大阪城近くの体育館だ。
試合は明日からだし、さぞかし練習で大変だろうなと思ったら、三四郎、途中でこっそりと抜け出してお出かけだ。もちろん、『星子』も姿を見せないまま、三四郎にピタリと付き添っている。一体どこへいくつもりなんだろう。
ということで、たどりついた所が、ここ、ねこステーションだった。
なぜ? なぜ、ねこステーションへきたわけ?
星子、そう思いながら、三四郎の姿を目で追った。
(つづく)
追記 ネットのニュースで知ったんですが、今月十二日に貴志駅で不審火があったとか。幸い、ボヤ程度でねこ駅長も無事だったとか。やれやれでした。
ところで、一応、第二話の三四郎編をスタートさせてみました。この先、どうなることか、ニャンともわかりませんが、よろしくです。
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終着駅・三つの恋物語
第一話・終着駅青森
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「ったく、もう!」
星子、ホームのベンチに座ると、唇をとがらせながらため息をついた。特急「つがる33号」はすべての乗客が降りたあと回送列車となってホームを離れ、赤いテールランプも夜の闇に溶け込んで、ホームには人影も見当たらない。
それも、当り前だよね。「つがる33号」、この青森駅に到着する最終列車だった。一昔前だったら、青函連絡船に乗り換えて北海道へ向かう乗客でさぞかし賑わったと思うけど。そんな光景、想像も出来ない。今年の暮れには東北新幹線が新青森まで延長されるし、そうなればもっとさびれることだろう。
ホームを吹き抜ける風はかなり冷たい。今年は猛暑だったけど、やっぱり、本州の北の果てだけあって、冬が来るのも早いようだ。ぶるるっと首をすぼめたとたん、お腹がキューっと鳴った。
おっと、鳴ったのは星子のお腹じゃない。背中に背負ったリュックの中のゴンベエですからね。なんて、とぼけてもダメ。
「腹へったぁ、死にそう」
星子、まだ、晩飯を食べていないのだ。ほんとは、ハナ金の今夜、銀座の居酒屋の歓迎パーティで、たらふくご馳走して貰えるはずだった。
誰の歓迎パーティかって? もちろん、
「わたしにきまってるでしょっ」
そう、星子が晴れて警視庁捜査一課の刑事になったお祝いを兼ねたパーティだ。配属先は、「紅薔薇チーム」。
はん? ふざけんなっ。お堅い警視庁にそんな名前の部署があるかって思うでしょ。もちろん、正式にはない。星子が配属された特別捜査班のチームの一つにつけられた愛称なわけ。
チーフは、美空宙太警部。にやけたタレメの超お調子者。その下に、超マジメの三日月マサル刑事。ステキなニューハーフの伊集院春乃介刑事。そして、ツッパリの剣小次郎刑事。皆さん、個性は強いけど、ま、なんとかガマン出来そう。
ちなみに、特別捜査課にはもう一つチームがあって、そちらのほうは「白薔薇チーム」。
チーフは本庁婦警みんなの憧れの貴公子、十文字右京警部。その下に、右京警部の弟ですね者の左京刑事。影のある美形の立川圭一刑事。猟犬のようなタケル刑事がいる。
え? 白薔薇チームまである? それじゃ、まるでタカラズカじゃないの。
ほんとホント。犯罪から市民を守り、命を賭けて悪と戦うサムライ集団にはふさわしくない愛称だ。こんな下らないネーミング、誰がつけたわけ?
責任者、出てこい!
って、その責任者がとんでもないヤツだった。
新井リツ子。
星子と高校同期の超リッチのお嬢様、しかも、超秀才で東大法学部に現役トップの成績で合格したとか。もともと友達関係なんかなかったし、高校出たあとは音信不通、リツ子がどこで何していようと、星子にはまったく興味なし。とにかく、自己ちゅうのかたまり、世界の中心は自分と思い込んでいるオメデタ人間だ。死んでも係わり合いにはなりたくない相手だった。
ところがですよ、所轄のミニスカポリスの活躍が認められて、晴れて抜擢された本庁捜査一課で、リツ子とばったり顔を合わせる羽目になるとは。それも、なんと、星子の上司、つまり、特別捜査班のリーダーとくる。リツ子の肩書きは、警視。キャリア組のトップで、しかも警視総監賞をいくつも貰い、異例の出世をしたんだとか。それに比べて、星子はヒラ。肩書きもタダの巡査。もう、月とスッポンの差どころの話じゃない。
愕然となった星子に、リツ子、にっこりと微笑んでこういった。
「待ってたわよ、星子ォ」
「は? 待ってた?」
そう、リツ子、星子が捜査一課に配属されると知り、自分の部下にスカウトしたってわけ。
「高校時代の親友がそばに、いればあなたも安心して働けるでしょ。感謝してね」
と、きた。
もしかして、高校時代の借りを返すつもりで、いびってやろうと。けっこう、星子も高校時代、リツ子をコケにしてたしね。
でも、リツ子、そんな陰険な女じゃない。心底、星子のためを思っていると信じているらしい。だから、余計に始末が悪い。
今日、突然、青森へ出張するはめになったのも、そんなリツ子の思いやりってわけ。
じつは、今日の午後、ヨコハマの宝石店でピストル強盗があって、警備員が殺され、店員二人が重傷という凶悪事件が起きた。
リツ子がいうには、
「ここ三カ月の間に、東京と大阪、名古屋で連続して起きた拳銃強盗事件、広域捜査事案1999に手口が良く似ているの。紅薔薇さん、出動お願いね」
「でも、その事案なら十文字クンのチームがすでに捜査をはじめてるじゃないスか」
と、宙太がいったけど、
「だから、あなた達はサポートよろしくね。何が何でも、ぜったいにホシを挙げるの。絶対にね!」
リツ子、まなじりを釣り上げていった。
「今回も、警視総監賞狙いってことかいな」
宙太、肩をすくめたあと、星子にウインクした。
「んじゃ、ハニィ、キミの歓迎パーティの前に初仕事といこうか」
ヒトを気安く呼ぶな、このォ。
すると、リツ子、
「あ、流さんには別の仕事を用意してます」
「別の仕事?」
「広域事案3333の件で、今すぐ青森にいって貰います」
「そんなぁ」
宙太、ムッとなった。
「広域事案3333のホシ・悠木忍(しのぶ)は、たんなるチンピラの車上荒らしですよ。しかも、ホシは先月俺達が逮捕した後、心臓の病気で入院中じゃないですか」
「それがね、今さっき連絡があったの。病院から脱走したって」
「脱走?」
「隣りのベッドに寝ていた患者の話だと、隠し持っていたケータイで誰かと連絡を取り合っていたって……今夜、青森駅で待ち合せようって。なんでも、相手は最終列車でくるらしいわ」
「だったら、地元の青森県警にまかせればいいでしょう。こっちから、わざわざ、出向くような事案じゃないですよ」
「そうはいきません!」
リツ子、キッと睨みつけた。
「一度捕まえたホシに逃げられるなんて、うちのチームの恥です! 必ず、こちらで捕まえます! わかりましたね!」
「はいはい」
宙太、やれやれという顔でいった。
「じゃ、ハニィ、いや、流クン一人じゃなく、僕も一緒に……」
「いいえ、相手は病人です。流さん一人で十分です! どんなドジなネコでも、弱ったネズミは捕まえられるものよ。でしょ、星子?」
「え、ええ」
こ、このォ、ヒトをドジ猫扱いしおって。
それをいうなら、背中のリュックの中のゴンベエにいっておくれっ。
とにかく、ま、そんなわけで、東京駅へ直行。東北新幹線「はやて27号」に乗って終点の八戸へ。連絡特急の「つがる27号」に乗り換えて青森へと向かったわけ。
あ、いっとくけど、拳銃は所持していない。相手の悠木忍はチンピラの車上荒らしだし、病人でもあるし、合気道初段の腕前なら十分、ってリツ子にいわれた。星子もそう思っていたけど、あとで取り返しのつかないことになるとは、その時は思ってもいなかった。
で、青森には定刻の21時17分着。悠木忍が落ち合う相手は、青森に着く最終列車に乗ってくるという。そこで、ホームで張り込むことにしたわけ。
ところで、最終列車というと、青森には東北本線の他に秋田弘前方面からくる奥羽本線、函館方面からくる海峡線、そして、海峡線と途中で別れて津軽半島の先端へ向かう津軽線がある。時刻表では、津軽海峡線っていうんだけどね。
奥羽本線の上り最終列車は、特急なら新潟発「いなほ7号」、青森着22時01分。大館発の普通列車では青森着22時39分。津軽海峡線の最終列車は、函館発の特急「スーパー白鳥44号」22時20分着。
星子、どの列車もしっかりとチェックした。でも、肝心の悠木忍の姿は青森駅のホームにはあらわれない。顔写真片手に懸命に探してみたけど、だめ。最後の望みを託して、東北本線の最終列車「つがる33号」の到着を待った。だけど、収穫はなし。
「ああぁ、なんだっていうわけ」
まさか、リツ子のヤツ、星子をからかうつもりで、デタラメな情報をくれたんじゃないよね。
星子、がっくりと肩を落とした。
しゃぁない、明日の朝の列車で帰るとしますか。重い足取りで階段へ向かいかけた時だ。背中のリュックの中で、ゴンベエがフーッと低い声で唸り声を上げた。
「ん?……」
ちらっと眼をやると、売店の陰に人影らしいものが見える。
もしかして、悠木忍かも!
星子の背中を、冷たいものが走った。
(つづく)
追記 なんとか、はじめてみました。今回の第一話は、星子のミニスカデカ・シリーズです。前回のプロローグからはかなり時間がたっているので、整理を兼ねながら
再スタートさせてみました。
第二話としては、三四郎編を予定しています。やはり、終着駅からです。さて、どこの駅かお楽しみに。
そして、第三話は、銀河巡礼編ということになります。これも、終着駅スタートですが、はてさてどこの駅になるやら。
ま、時間をかけてじっくりといきますんで、よろしく。とにかく、スタートすることが肝心ですからね。
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