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エピローグ
どこか、遠くで猫の鳴き声がする。
……フニャーゴ、フニャーッ……。
かわゆくない鳴き声だ。まるで、ゴンベエが鳴いているような……ああ、もう、うるさいなっ。
星子、目を開けた。
ぼんやりとした視界の中で、ゴンベエがリュックの中から顔を出して鳴いている。
「なによっ、うるさいな!」
ゲンコツだよっ、と、拳を振り上げた時、
「長崎ィ、長崎です」
外からアナウンスが聞こえてきた。
「はん? ナガサキ?」
首をかしげながら目をやると、窓の外は駅のホームで「長崎」という駅名の看板がズズーンと飛び込んできた。
なんと、星子、特急列車の座席に座っているじゃないですか。
「どういうこと? ね、ゴンベエ、どうなってんのよ?」
なんていったって、わかるわけニャァーダロ。
とにかく、リュックを掴み、急いで列車を降りる。
ふーっ、そうか、長崎かぁ。
一息ついたところで、だんだん状況がはっきりしてきた。
宙太パパとケータイでお別れ電話をしたあと、光の柱に巻き込まれ、気を失って、目が覚めたら、なんと、ナガサキ。
そういえば、今回のおかしな出来事のはじまりも、長崎だった。ということは、振り出しに戻ったわけか。
念のため、ケータイで日付けを見てみる。
「!……」
なんと、まったく同じ日付で同じ時間じゃないですか。ということは、今までの出来事すべてが、一瞬の夢……。
星子ママも、宙太パパも、双子ちゃんも、春ちゃんも、右京さんや亜利沙さん、マサルさんも、みんな、一瞬の夢の中で出会った人達なわけ?
「……」
星子、茫然とした足取りで改札口を出た。
瞬間、ポンと肩を叩かれ、誰と振り向くと、
「!……」
たれ目の人なつこい顔が、ニカッと笑っている。
「ち、宙太さんっ」
ああ、もう、二度と会えないと思っていたのに。一瞬の夢となって消えたと思っていたのに。
ちょっと、待って。そうよ、この前もここで宙太パパと出会ったんだ。ということは、時間があの時に戻ったんだ。
「宙太さーん!」
星子、宙太に抱きついた。嬉し涙が、ポロポロとこぼれてくる。宙太も、しっかりと星子を抱きしめた。
「それで、どこにいるの?」
星子、宙太の胸にすがりついたまま聞いた。
「どこって、だれが?」
「きまってるじゃない、双子ちゃんよ」
「双子ちゃん?」
「そうよ、星丸くんと宙美ちゃん、つまり、わたし達の子供……」
「おっと、そこまでいくかい。すっげぇ、超高速アタックだ!」
「はぁ?」
「会ったばかしなのに、もう、子供のハナシなわけ? いいでしょう、子作り大好き。いくらでも、お手伝いしますんで、ハイ!」
「?」
どうも、話が噛みあわない。
「それでは、早速、ホテルへ。チャンポン喰って、子作りに励みますか! シシシッ」
宙太、楽しそうに笑った。
その笑い声、もしかして、そう、あの独身の宙太……。
星子、ハッとなって離れると、まじまじと見つめた。
ピアスにメッシュ、ド派手なファッション。そして、なんともニヤけたスケベ顔。マジメさとか、誠実さ、秘めた哀愁、なんて、まるでないっ。
間違いない、宙太パパじゃないほうの宙太だっ。
う、うひゃーっ、とんだ人違い。
「どうったの、そんな顔して? ボクチャンのこと、忘れた? んなことないよね、同じ列車に乗ってたじゃん」
知るか、そんなこと。
「ああ、銀河を渡りし牽牛と織女。まさに、運命の出会いだったわけ」
「んもぅ、ふざけないで!」
星子、ピッシャッと宙太に平手打ちを食わすと、憤然と歩きだした。
「イタタッ、ね、ちょいと、カノジョ、姫っ。子作りの話はどうなったわけ? 待ってくれよ! ハニィちゃーん!」
宙太、頬っぺたをさすりながらわめいたけど、知るかっ。
ああ、もう、サイアク!
あのにやけた男が、宙太パパと同一人物とは、とても思えない。
あいつが、将来、わたしと結婚する?
わたしが、あんな男の子供を産む?
ジョーダンきついよっ。
絶対に、イヤだっ。
いい恋さがしの一人旅。一杯恋をして、素敵な人を見つけて、その人の子供を産む。それが、わたしの夢。その夢に、あいつはカンケイない。
……でも、そうなると、双子ちゃんとは会えないことになる……。
そんなの、いや。もう一度、会いたい。ぜったい、会いたい!
そういえば、春ちゃん、こんなこといってたっけ。
「ちょっとした時間のずれで、変わってしまう。宙太さんと結婚しないし、そうなれば、双子ちゃんも生まれない。宙太さんの手を離してはだめ。宙太さんと二人の時間を作るのよ」
って。
それって、このこと?
双子ちゃんに会いたかったら、あいつと?
キャーッ、どうしたいいの?
……どうしたら……。
星子、茫然と立ちすくんだ。そんな星子の背中で、ゴンベエがフニャッと笑った。
(おわり)
追記 やっとのことで、最終回を迎えました。途中、いろいろありまして、かなり時間がかかってしまい、すみませんでした。お付き合い下さったこと、感謝します。ほんとうに、有難うございました。
これで、長い間、僕の懸案だった「星子結婚編」のエンディングの幕を下ろせたわけです。原点に戻ったところで、この先、あらたに星子シリーズをはじめるかどうか。それとも、星子ミニスカデカをはじめるか。しばらく、時間をおいて考えてみたいと思います。その節は、御迷惑でしょうが、また、お付き合い下さい。
家内のことで、ご心配かけています。なかなか思うように回復せず、今しばらく時間がかかりそうです。
日毎、春の気配が近づいてきます。とはいえ三寒四温、くれぐれも、ご自愛ください。
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