星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

おかえりママに薔薇のキス

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                  2

 ――そうよ、この人、右京さんだっ……星子ママが、大切なはずの家族を捨ててまで、あとを追った人、その右京さんが今、目の前にいる……。
 半分息が止まったような顔で、星子は立ちすくんだ。
 その星子を、宙太、けげんそうに見た。
「右京さんって……キミ、彼を知ってるわけ? ちょっと、星子チャン!」
「は、はい?」
「だから、おたく、右京君と会ったことがあるのかって」
「あ、いえ、その……つまり……」
 頭の中がボーッとして、言葉が出てこない。それでも、なんとか、声を絞り出すようにして聞いた。
「う、右京さんって、おっしゃる……んですね?」
「そうさ、この美貌とルックスで女性検事や女性裁判官、女性の証人までメロメロにさせてしまうという、今、売り出し中の青年弁護士、十文字右京先生だ。おかげで、こっちは仕事がやりにくくってさ。なんせ、右京君にかかると、どんなに真っ黒なホシでも、裁判でシロになっちまう。もっとも、このボクチャンには通用しないけどね。んなっ、右京センセイ?」
 宙太、顔はにんまりと、しかし、いどむような鋭い視線で右京を見た。 
 一方、右京のほうは軽く受け流すように、涼やかな目を星子に向けた。
 ――いい、すっごく、いいオトコ……す、すっごくセクシィ……すっごく……。
 見つめられただけで、ズズーンと背筋に電流のようなものが走り、カーッと熱いものが体中を駆け巡った。
 こんな気分になったのは、はじめて。
このォ、オンナゴロシっ。そんな言葉がぴったり。
 その右京が、星子を見つめながらいった。
「どこかで、お目にかかりましたか?」
 うっ、いいっ、声もステキ。囁くような、そして、甘い低音の声だ。もう、セクシィもいいとこ。
 すっごく、いいっ。立ってらんない。
「失礼ですが、お名前は?」
「は?」
 星子、とっさに返事が出来ない。
 見かねたように、宙太が、
「あ、星子さん。流れ星の子と書くんだ」
「流星子さん……そうですか、すてきな名前ですね」
 キャッ。ギャギャッ。
 もう、星子、へなへな。いまにも失神しそう。
「でも、美空警部もやるじゃないですか」
 右京、柔らかな笑みを浮かべながら宙太を見た。
「こんな可愛いお友達がいるなんて」
「ノンノン、友達じゃないの」
「というと?」
「きまってるだろ。コホン、コホン」
「あ、なるほど。それは、失礼を」
 右京、軽く頭を下げた。
 ボーっとしていた星子、一瞬、我にかえった。
 こ、このオトコ、どさくさにまぎれて、ナニいいだすんじゃ。
「ち、違います! この人、恋人なんかじゃありません!」
「違う?」
「ええ、なれなれしくされて、迷惑してるんです! ほんと、大迷惑です!」
「なんていっちゃって。カノジョ、照れ屋さんだから。それに、女の子って、いい男を前にするとカッコつけたがるしね。シシシッ」
「シツレイな! カッコなんかつけてないわ!」
「いいから、いいから」
「よくない!」
「ま、ま、ま。痴話喧嘩はあとにしようや。それより、右京君……」
 宙太、適当にごまかすと、右京にいった。
「僕に会いたいって、三日月君にいったそうだけど、なにかアリ?」
「うん」
 右京、宙太とマサルを促して星子から離れた。
 どうやら、お仕事の話らしい。聞いてはいけないよね、と、思いながらも、つい、聞き耳を立ててしまう。
「ガイシャ、つまりコインパーキングで殺されたのは、僕と同じ弁護士の佐々木先生だってね」
「そういうこと。情報がお早いことで」
「たまたま、他の仕事で近くにきていたんだ。で、ホシの手掛かりは?」
「いや、今のところは」
「財布とか腕時計が奪われているんだって?」
「たしかに」
「じゃ、強盗とか車上荒らしの犯行かもな。コロシの凶器は拳銃だっていうし、早く手配した方がいいんじゃないのか」
「ちょっと、あんた」
 マサルが、不愉快そうに睨んだ。
「捜査するのは、こっちなんだ。余計な指図はしないでくれ」
「マサル」
 すかさず、宙太がたしなめた。
「強盗の線もあるけどさ、佐々木弁護士にはいろいろと悪い噂も付きまとっているようだし、おたくもよく知ってるんじゃないの? 一緒に事件の捜査を担当したこともあるんだろ?」
「くわしいんだな」
「記憶力だけはいいいのが取柄でさ。ま、そういうわけで、慎重に捜査しないとね」
「なるほど。ま、お手並み拝見といきますか」
 右京、静かに微笑んだ。
 なんか、男同士の火花がパチパチと弾けるみたいで、ぞくぞくしてくる。それに、ミステリー大好きの星子としては、興味しんしんだ。
 そのせいか、今さっきまでのボーっとしていた頭の中がすっきりしてきた。
 ――ちょっと、待って……。 
星子の脳裏に、宙太パパとマサルのいったことが甦った。たしか、右京が事件に関係している。ヤバイ展開になってきたって。春之介も、ぜったいに右京にかかわるな、と、厳しい顔でいったっけ。
 その事件と、今度の事件とは別なわけ?
 ううん、もっと、おかしなところがある。だって、右京さん、行方知れずになってるはずじゃ。でも、こうして、何事もないかのように宙太さんやマサルさんの前にあらわれて話をしている。
 あ、宙太さんもマサルさんも、ホンモノじゃない。そっくりさんだよね。そうすると、この右京さんも、ただのそっくりさん?
 わかんない。なにがどうなってるのか、よく、わからない。
 星子が困惑した顔で立っていると、右京が宙太とマサルから離れて、
「じゃ、これで」
 星子に軽く会釈すると、車に乗り込みかけた。
瞬間、星子、
「すいません、ちょっと……」
 追いかけるように、いった。
「ん?」
 振り向いた右京に、
「あ、あのぅ、ピアノ……」
「ピアノ?」
「わたしのケータイに、ピアノの演奏が……あなたが弾いていたんですか?」
「いや」
 右京、きっぱりと首を振った。
「僕は君のケータイの番号を知らないしね」
「え?」
「それに、ピアノは弾かないよ」
「弾かない?」
「昔は習っていたけどね、今はやめているんだ」
「でも……」
「僕、急ぐから」
「あ、もう一つだけ。お願いしますっ」
「なんだい?」
「星子ママ、あ、いえ、星丸クンや宙美チャンという双子のママなんですけど、会ったことは……」
「いいや、そんな人は知らないね。星子という名前は、君がはじめてだ」
「……」
 右京の顔、嘘はいっていないようだ。わたしのケータイの番号を、知らない。ピアノも、今はやめている。
 ということは、星子ママがあとを追った右京さんとは別人ってこと? でも、ルックスも弁護士という仕事も、まったく同じだけど。
「じゃ、いいかな?」
「は、はい……ごめんなさい、変なこと聞いて……」
「いいんだよ、気にしなくても」
 右京、やさしく微笑むと、
「流れ星の子か。また、どこかで会えるかもしれないね」
そういって、車に乗り込み、スタートさせた。開け放った窓から、白いマフラーがひらりと泳いで夕暮れの街へ吸い込まれた。
「……」
 見送る星子の胸に、ふっと甘酸っぱいものが込み上げてきた。
「流れ星の子か、また、どこかで会えるかもしれないね」
 ふいに、宙太の声が耳元で聞こえた。
「よくいうよ、あのオトコ。でもさ、気をつけた方がいいぜ」
「なにが?」
「右京クンに近づいた女の子は、みんな、身を滅ぼす。そういう伝説があるんだ」
「フン、関係ないわ。別にどうってことないもん」
「ダメダメ、ちゃんと顔に出てるぜ」
「ウ、ウソッ」
 い、いかん。惚れっぽいのが、玉にキズの星子さんだ。忘れること。あの手の男は、忘れるに限る。
「とにかく、カレには近づかないこと。オーケー?」
「ほっといて。もう、わたしには、構わないでよッ」
 星子、憤然として歩き出した。
「あ、ちょっと、姫! 星子ちゃん!」
 あとを追いかけようとした宙太の腕を、マサルがすかさず掴んだ。
「警部、仕事、シゴト!」
「ったくぅ」
 宙太、唇をとがらせ、渋々戻っていった。
 ったくぅ、っていいたいのは、こっちのほうよ。もう、ニセというか、そっくりというか、あのオトコの顔も見たくない。それにくらべて、宙太パパのほうは、心が温かくて、やさしくて、ほんとに心が休まる人よね。
 おとな。うん、大人の宙太さんだ。
 なんだか、甘えてみたいな。
 そう思うと、無性に宙太パパにも会いたくなってくる。もう帰ったほうがいいっていわれてるし、今さら会えないけど、双子ちゃんの様子を見るついでに、せめて、宙太パパの顔だけでも。
星子、下北沢の駅から井の頭線に乗り、渋谷で東横線に乗り換えた。田園調布駅に着いた頃には、あたりはすっかり暗くなり、街灯の明かりが寂しく光っている。高級住宅街なので、余計寂しく感じるのかしらね。
しばらく歩くと、宙太パパの住むマンションが近づいてきた。なんだか、とても懐かしく感じてしまう。まるで、そう、我が家へ帰ってきたみたい。ヘンよね、たった一晩泊まっただけなのに。
宙太パパの部屋は、三階の東南の角部屋だ。住宅地に建つ低層マンションなので、三階が最上階ってわけ。
植え込み越しに見上げてみると、ん、部屋の明かりは点いていなくて、どの部屋も真っ暗だ。
双子チャン達、帰ってないのかな。それとも、春チャンに連れられて、外食に出かけてるのかもね。わたしも、一緒したかったな。一人ぽっちでゴハンを食べるのって、寂しいもん。以前は、慣れてたのにね。
星子、なんだか寂しくなって、クシュンと鼻をすすった。
一瞬、街灯の明かりがパチッと強く光ったと思うと、消えてしまった。
あらっ、と、見上げた時、一台の車がサーチライトを光らせて走ってくると、ガレージの前で停まった。
運転席に乗っているのは、宙太パパじゃないですか。宙太パパ、車内からリモコンを差し出した。すると、ガレージのドアが静かに開いていく。
会いたい。宙太パパと、話がしたい。
星子、思わず暗がりから飛び出しかけたけど、なんとか、思い止まった。
いけないんだ、会ってはいけない。
なんとか自分にいい聞かせて、そっと離れようとした瞬間、宙太パパ、こっちのほうを見た。
ヤバッ。
星子、あわてて逃げだしたけど、じきに、なにかにつまづいてつんのめり、そのまま、植え込みに頭から突っ込んでしまった。
痛いっ。
頭を引き抜こうとしたけど、枝が絡まって抜けやしない。もがいているところへ、宙太パパが駆けつけてきた。
「星子さん! 星子さんかい?」
「ううん、違います! 星子じゃありません! 痛いっ」
「あ、動かない、今、助けてあげるからさ」
 そういいながら、宙太パパ、枝をかき分けて星子を助け出した。
「大丈夫? 怪我してないかな」
「平気ですっ」
「いいから、僕に見せてごらん」
「いいんです! なんともないです!」
 星子、宙太パパの手を払いのけて逃げようとした。でも、足がよろけて、宙太パパに抱きついた。
「星子さん! ハニィ、しっかりしろ!」
「!……」
 ――ハニィ、今、ハニィって……わたしのことを……。
「……宙太さん……」
「ん? なんだい?」
「……わたし……」
 星子、急に熱いものがこみあげてきて、声がのどにからんだ。
 なぜか、涙があふれてきて、泣きだした。
 まるで、子供のように泣きだしていた……。

               (つづく)


追記 なんだか深夜便になってしまったけど。よろしくです。

             第三部
         
               1

 ――わたし、夢を見ていたのかもね……。
 星子、窓の外に見える夕焼け雲を、ぼんやりと見上げていた。
 長崎での宙太や双子チャン達との出会いからはじまった今回の旅、ほんとにいろいろあった。ずいぶん時間がかかったように感じるけど、まだ、一日ちょっとしかたっていない。でも、我が家へ帰ってきて、ソファにへたりこんだあと、まるで潮が引くみたいに時間が遠のいていった。同時に、昨日から今日にかけて起こったことが、次第に現実感がなくなってきて、なんだか長い夢でも見ていたような気分がしてくる。
 ま、正直いってそうあって欲しい。右京って人がからんだ、なんか、とんでもない事件に巻き込まれそうな感じだったし。
 春ちゃんがいったように、もうこれ以上、係わり合いにならない方が、わたしのためなんだ。
 そう、夢だ、夢なんだ、忘れよう、忘れちゃえ。いいね、星子。
 何度も自分にいい聞かせると、星子、ソファから起き上がった。
 さぁ、マジメに試験勉強しないと。明日から始まる期末テスト、がんばらないとヤバイ。今度赤点取ったら、進級できなくなるよ。
 本日、サラリーマンのパパは札幌に出張中。看護師やってるママも夜勤で帰りが遅いし、勉強に集中できる環境はバッチリ。一人っ子でカギっ子の身分はお気楽なもんです。晩御飯はピザのデリバリィ頼んで、しっかりと勉強だ。
 え? ゴンベエの晩飯どうするかって?
 知るかい。そのへんのメス猫にお呼ばれすれば。あんたみたいなドラにラブする物好きなネコちゃんもいるかもね。
 だよね、ゴンベエ?
 でも、当のご本人はガスストーブの脇で鼾をかいている。あれじゃ、とても、ラブロマンスなんかに縁はなさそう。
 ゴンベエのことなんか、どうでもいい。やるぞ、星子。ファイトだ、星子。
 おぅ!
 気合を入れて自分の部屋に入り、勉強机に向かって、さぁ、始まったよッ。
 と、いいたいところだけどォ、
 ――春チャン、星丸クンと宙美ちゃんをお迎えにいったかな……。
 ――晩ご飯、なにを作ってあげるんだろ。栄養のバランス考えてあげてよ……。
 ――宙太パパがお仕事でいないけど、双子チャン、お留守番出来るのかな……。
 そして、なによりも気になるのは、
 ――わたしがいなくなって、双子チャン、大丈夫かしら……ママお帰りって、あんなに喜んでいたのに……急にまた、いなくなったわけだし……ショックでおかしくならないかな……可愛そうな双子チャン……。
 あどけない双子チャンの顔が、頭の中にくっきりと浮かんでいる。
 星子、急に悲しくなって、涙が目にあふれてきた。
「……ごめん、ごめんね、星丸クン、宙美チャン……」
 涙をぬぐっても、すぐまた、あふれてくる。
 ――ママ、どこ? どこにいるの?……帰ってきて、ママ……。
 二人の呼ぶ声が、聞こえてくるような気がする。
 星子、たまらなくなって耳を手でふさぎ、頭の中の二人の顔を書き消そうとした。でも、全然、効果なし。
 ――星子ママ、ね、光の壁から抜け出して、双子チャンのところへ帰ってあげて。お願い!
 そうよ、星子ママが帰れば、すべて解決するんだ。それしか、ないんだよね。でも、その見込みはなさそうだった。
 こうなったら、ちょっと様子を見てこようか。とても、勉強どころじゃないしね。
 春チャンにはもう係わるなっていわれてるけど、ちょっとだけ、外から様子を見るだけだから。
「ゴンベエ、出かけるよッ」
 パッと立ち上がった星子、ジャンパーを引っかけ、リュックを掴むと、ゴンベエを促した。でも、ゴンベエ、聞こえぬふりだ。もうお出かけはうんざり、っていう気分らしい。
ま、いいか。どうせ、すぐ戻ってくるわけだし。
「じゃ、留守番、よろしくね」
 星子、ゴンベエに声かけて家を出た。
 そろそろ木枯らしが吹く頃だし、おまけに夕暮れ時で肌寒い。
 うふっ、オトコの肌が恋しい季節ですねぇ。
 なんて、バカいわせないでっ。
 星子の自宅のある下北沢から宙太のマンションのある田園調布へいくには、井の頭線で渋谷で出て、東横線に乗り換える。ラッシュ時だし、ちょっとユウウツ・タイムのはずだけど、なぜか、気にならない。
 早く、双子ちゃんの顔がみたいな。うーん、早く見たい!
 気持ちがわくわく、まるで、我が子に会いにいくような……ちょっと、やめてよ。わたしは、星子ママじゃないの。いくら星子ママがわたしにそっくりさんでも、そこだけは違うんだから。
 わたし、まだ、バージン・レディ。赤ちゃんの作り方なんて、ゼーンゼン、知りまっしぇーん。なんちゃって。
 肩をすくめ、駅に向かって歩き出した時、いきなり、背後から、
「よっ」
 ポンと、肩を叩かれた。
 まさか、その声は、と、思いながら振り向くと、ああ、やっぱり、そっくり宙太がたれ目のにやけ顔で立っている。
「うーん、やっぱり、運命だね」
 いきなりの一言。
「運命?」
「そ、こんなに早く再会出来るなんて。僕達、金の糸で結ばれてるわけ」
「は?」
「赤い糸、なんてダサイ。キラキラ輝く金の糸こそ、僕らの運命にふさわしいのね」
 このキザで軽薄さ。宙太パパと顔はそっくりでも、サイテイもいいとこ。
「よしてよっ。わたし、用事で出かけるだけなんだから」
「それでも、僕チャンと出会った」
「ただの偶然ですっ。それとも、ストーカー? わたしが宙太さんの家を出たあと、ずっと、あとをつけてたわけ?」
「いんや。今もいっただろ。キミと僕は金の糸で結ばれているって。だから、ストーカーやる必要はナシ。現にこうして会えたしさ。それに、いっておくけど、君をエスコートしたマンションはほんとに僕の家なんだぜ」
「じゃ、あの時、どうして突然いなくなったのよ? 本物の宙太さんが出てきたんで、あわてて逃げたんでしょ」
「とととっ、本物の宙太はこのボク。それにさ、あの時は君のあとから玄関ホールに入ろうとした瞬間、いきなり、光の壁みたいなものにぶつかって……」
「光の壁?」
 そういえば、春之介の話だと星子ママも光の壁に……。
「でさ、一瞬気が遠くなって、気がついたら、光の壁は消えていて、君の姿はなかったんだ。おかしいなと思いながら、あらためてマンションへ入ろうとした時、ケータイに事件のことで連絡が入ってね」
「事件……」
「うん、コインパーキングに駐車中のクルマの中から、殺された死体が見つかったんだ。で、その捜査で下北沢にきたってわけ。あ、申し遅れましたが、これでも、ワタクシ、警視庁捜査一課の刑事でして、ハイ」
 そういいながら、宙太、ポケットから名刺を取り出し、星子に差し出した。
「!……」
 そっくり宙太、なんと、宙太パパと同じ刑事だったなんて。それも、名刺の肩書は警部。まったく、同じだ。
 でも、ほんとにこのヒト、刑事? 宙太パパなら納得できるけど、そっくり宙太、あまりにも軽過ぎる。
「なになに、そんな疑いの目で見たりして。あまりにもいい男なんで、デカのイメージがわかない、ナルホド、ごもっと」
 このっ、よくいうよ。
 にんまり笑った宙太の前に、一台のオートバイがザーッと乗りつけた。黒色のナナハンで、着古した茶色の革ジャンを着たライダーがハンドルを握っている。夕闇のせいでイマイチわからないけど、どこかで見た顔だ。
「紹介するよ。僕の相棒の……」
 ライダー、軽く会釈しながら、ヘルメットを脱いだ。
「あっ」
 星子、思わず声を上げた。それほど背は高くないけれど、屈強な体躯に、日焼けした精悍な顔、ワイルドだけど孤独で寂しげな双眸、そして、薄く引き締まった唇。その顔は、宙太パパが紹介してくれた三日月マサルって人にそっくりだった。
「ん? 知ってるのかい、彼を?」
 けげんそうに見た宙太に、星子、
「ええ、あ、ううん……」
 首を振りながら、しどろもどろに答えた。
「ちょっと、似た人が……」
「そうか、じゃ、あらためて紹介を。彼の名前は、三日月マサル刑事。ちょっと荒っぽいけど、頼りになるヤツさ」
「……」
 星子、茫然もいいとこ。だって、三日月マサルという名前まで同じだとは。しいて違うところを探せば、星子を見つめる眼差しが、あのマサルよりは柔らかいってことかな。
 本物のマサルの目は、星子ママの一件もあって、星子を厳しく責めていた。でも、そっくりマサルのほうは、初対面の相手を見る時の眼差しっていうか、星子と目が合い、遠慮がちに目を伏せた。取っつきにくいけど、いいヒトみたい。
 それにしても、そっくり宙太の次はそっくりマサルさんとは。いったい、どうなってるわけ。
 首をかしげる、星子さんだ。
一方、宙太はマサルに、
「で、どうなってる? 何か、手掛かりはあったわけ?」
 頷いたマサル、低い声で宙太に耳打ちした。
「ん? カレが現場に? どういうことだ?」
「そこんところは、本人に聞いてみるさ。警部に会いたいって、もうじき、ここへくるはずだ」
「そうか」
 そっくり宙太が、さっきとは一転、キリリッと顔を引き締めたところへ、一台のベンツが、すべるように近づいてきた。ピカピカに光るボディには街の光やネオンがきれいに映っている。
「おっ、早速お越しですか」
 宙太、ちょっと身構えるようにベンツを迎えた。
 すると、停車したベンツの運転席から、白いマフラーを、まるでマントのように翻しながら、一人の男が降り立った。
 すらりとした長身で、顔立ちは彫りが深く、女性のように睫毛が長い貴公子だ。それこそ、一目見ただけでうっとりとする、まさに、超の字がつく美形だった。 
 でも、待って。この人の顔も、どこかで見たような……そう、そうよ、星子ママと宙太パパの結婚写真に映っていた、あの人……。
「……う、右京さんっ……」
 星子、思わず叫んでいた。


                           (つづく)



追記  第三部、なんとかスタートしました。よろしくです。


 

                 9

 ――わたしが見たのは、星子ママ……。
「ほ、ほんとなの!」
 星子、息が止まったような顔で春之介を見据えた。
「でも、どうして? あなたに、なぜ、わかったの!」
「もう半年近く前になるかしら。あたしのケータイに星子ママから電話が……」
「えっ」
「星子ママ、泣きそうな声でいってたわ……家に帰りたい、宙太さんや星丸くん、宙美ちゃんに会いたい。抱きしめてあげたいって……でも、帰れない……帰れない体になってしまったって……」
「帰れない体? どういうこと?」
「吸い込まれていくって、体が……光る壁の中にね……」
「えっ」
「中に閉じ込められて、もう外へは出られないって。外の世界は見えても、出ることが出来ないって……」
「!……」
 星子、唾を呑み込もうとしたけど、口の中はからからだった。
「……外の世界は、見える……」
「ええ、まぶしい光りの合間に、おぼろげにね……宙太さんや、星丸くん、宙美ちゃんの姿も見えるそうよ……」
「!……」
「だけど、いくら手を差し伸べても、ダメだって。いくら、名前を呼んでもダメだって……」
「!……」
「つらいことよね、すごく。どんなにつらいか……星子ママの気持ちを思うと、あたし……」
 春之介の目から、ポロポロと涙がこぼれた。
 ――そうか、星子ママは宙太さんや双子チャン達を見ていたんだ。でも、抱きしめられないなんて、声もかけられないなんて、どんなにつらかっただろう。どんなにか……。
 星子も、胸がジーンとなって、目頭をこすった。
「星子ママ、こういってたわ……きっと、バチがあたったんだ、みんな、わたしのせいだって……」
「……」
 ――バチがあたった。みんな、自分のせいだ……。
 星子ママ、どんな思いでそういったんだろう。想像しただけで、つらくなる。
「それが、あたしが聞いた星子ママの最後の言葉だったの。それっきり、二度と星子ママと連絡は……」
 春之介の声、涙で途切れた。
「……そ、そんなことって……」
「ええ、考えられないわよね、常識じゃとても……ありえないことだもの、絶対にね。だけど、起きてしまったわけ、星子ママに……」
「でも、ちょっと待って」
 星子、ふと、顔を上げた。
「どうして、さっき、星子ママがここにいたわけ? 壁の外には出られないはずでしょ?」
「ええ、そこよね」
 春之介、考えたあとで、ふと、星子を見た。
「もしかして、あなたと会ったからかも……」
「わたしと?」
「つまりよ、自分とそっくりのあなたを見て、なにかの力が働いたのよ。それで光る壁から出てこれたんじゃないかしら。でも、あなたが気を失ったあと、再び壁の中へ吸い込まれたんじゃ……」
「!……」
「ね、星子ちゃん、あなたがこの部屋に入った時、なにか、変わったことはなかった?」
「変わったことって……そういえば、ドアのノブを掴んだ時、すごい静電気が……」
「静電気?」
「あとは、そうね、CDが止まったことぐらいかな……」
「そう、そのあたりになにかありそうだけど、良くわからない、あたし……」
 春之介、ため息をついたあとで、
「とにかく、宙太さんにもいわれてることだし、あなたは自分の家へ帰ったほうがいいわ。あとのことはケータイで連絡を取り合いましょ。いいわね?」
「ええ」
「じゃ、電話番号教えてくれる?」
 星子、ケータイの番号をいった。すると、春之介が、
「あらっ、その電話番号、星子ママと同じよっ」
「ウソ」
「ほら、ごらんなさいな」
 春之介がみせてくれた携帯電話の電話帳、電話番号もメールアドレスも星子のものとまったく同じだった。
「やだ、いくらそっくりさんだからって、そこまで似ているなんてね」
 思わず笑ったあとで、春之介、じきに真顔になった。
「でも、変ね。同じ番号ってことは絶対にあり得ないはずなんだけど……」
 たしかにね。いったい、どういうことなんだろ。
 でも、それはともかくとして、同じ電話番号だとなると、
「……もしかして、あの電話……」
「電話がどうかした?」
「ええ、今朝、わたしのケータイにね。相手は一言もいわないで、聞こえてきたのはピアノの音だけ」
「ピアノ?」
「たしか、クラシックみたいだったけど」
「誰の? 作曲は誰なの?」
「わかんない。わたし、クラシックは苦手だもん。だけど、とってもきれいな曲だったわ」
「……」
「ね、もしかして、右京さんって人が弾いてるんじゃ……ケータイの番号が同じなので、わたしのところへかかってきたのかも……ね、ありうるんじゃなない?」
「ちょっと、着信番号見せて」
「え? うん、いいけど……」
 星子、携帯電話を操作して、着信暗号を見せた。
 瞬間、春之介の顔がサッとわばった。
「やっぱり、右京さんって人? ね、春ちゃん?」
 春之介、それには答えずに、
「星子ちゃん、この番号からまた電話がかかってきても、絶対に出てはダメよっ」
「どうして?」
「あなたを、これ以上巻き込みたくないの」
「巻き込むって、どういうこと? もしかして、右京さんって、事件かなにかに……」
 星子の脳裏に、宙太とマサルの会話の一部が甦った。たしか、右京がどうとかどうとか、小声で話していた。
「ね、どうなの、春ちゃん?」
「いいから、いわれたとおりにして。わかった、星子ちゃん?」
「でも!」
「しつこいぜ、てめぇ!」
 いきなり、春之介、男口調になった。
「あいつにかかわるな! あいつは、人殺しっ……」
「えっ」
「あ、いや、なんでもねぇ! とにかく、いわれたとおりにしろって、いってんだよ!」
「……」
「聞こえねぇのか、おい! 殴られたいのかよ!」
「……」
 春之介の剣幕に、さすがの星子も黙るしかなかった。
 ――右京って人は、人殺し……春之介、たしかにそういった。くわしいことはわからないけど、人殺しなんだ。
 星子の背中を冷たいものが伝わっていく。
 星丸クンや宙美チャンのことも心配だけど、これ以上、立ち入らない方がいいかもね。それでなくても、あまりにも、不可解で奇妙なことだらけだし。
 出ていこう、そのほうがわたしのためなんだ。
「いこ、ゴンベエ」
 星子、ゴンベエを促した。一瞬、どこかで、星子ママが見つめているような気がして振り向いたけど、それらしい影はなかった。


                       (第二部・おわり)



追記  今回で第二部を終わります。次回から第三部になります。いろいろと複雑かつミステリアスかつSFチックなお話になりそうで、今からアタマが痛いです。ま、頑張ってみますけどね。


 サクランボ様、残念ながらコバルトの星子シリーズ、絶版になっているようです。念のため、コバルト文庫に問い合わせてはいかがでしょうか。

               8

「!……」
 ドアノブを掴んだ瞬間だった。バチッと静電気が、同時にまばゆい閃光のようなものが飛んだ。
「キャッ」
 星子、自分は人一倍静電気が起きやすい体だ、と、思っている。それにしても、強烈な静電気だった。
 まったく、もう。
目をこすりながら室内を見回す。ぼやけた視界がようやくはっきりしてきた。曇り空のせいか、レースのカーテンをとおして入る日差しは弱く、どことなく薄暗い。今さっき聞こえていたラブバラードも途切れて、ひっそりとしていた。
星子ママ、どこ?
どこにいるの、星子ママ?
見回した星子の視界に、隅っこの暗がりに立つ人影が、次第にはっきりとしてきて、
「あっ」
 わたし? わたしが、いる?
違う、星子ママだ。
 星子ママがいる!
 こっちを見て立っている!
 ショックで、それこそ、心臓が壊れそうなくらい。
「……星子ママ……」
 そう呼んでいいのかどうか、でも、星子、かすれ声で呼んだ。
 星子ママ、答えない。ただ、じっと星子を見つめている。
 悲しそうな目、そう、寂しげで、とても、悲しそうな目だ。
 どうして? どうして、そんな目で見つめるの?
 あなたを待っているのに。宙太さんも、星丸クンや宙美チャンも。逢いたい、逢いたいって、あなたを待っていたのよ。
 やっと、帰ってきてくれたのね。やっとね。
 ありがと、星子ママ。ありがと!
 そして、お帰り。
 お帰りなさい、星子ママ。
 今、宙太さんを呼んでくるから。星丸クンや宙美チャンも急いで連れてくるから。
 いいわね、ここから動いてはダメ。もう、どこにもいかないで。
 お願いよっ。
星子、声にならない声で懸命に話しかけた。でも、急に息苦しくなって、目の前が真っ白に……。
どうしたんだろ、どうなってるわけ?
星子、必死になって体を支えようとした。でも、意識が遠くなって、そのまま、体が床に吸い込まれるように崩れた。
 ――どれくらいたったか……。
「星子さんっ」
「……星子ちゃん……」
 遠くで、誰かが呼んでいる。
「星子ちゃんっ、星子ちゃんたら!」
「しっかりするんだ、星子さん!」
 体を強くゆすられて、星子、やっと目を開いた。
 宙太が、心配そうにのぞきこんでいる。その隣りには春之介がいた。
「宙太さん、春ちゃん……」
「ゴンベエが鳴いてるんできてみたんだ。大丈夫かい?」
「ええ……」
 星子、体を起こした。まだ、頭の中はボーッとしている。。
「どうしたんだい? 気分でも悪くなったわけ?」
「ううん、そうじゃなくって、わたし……あ、あっ……」
 急に意識がはっきりしてきて、星子、叫んだ。
「せ、星子ママ!」
「ん?」
「星子ママがどうしたの?」
「い、いるのよ! 帰ってきたの!」
「なんだって?」
「ウ、ウソーッ」
 宙太と春之介、唖然となった。
「ほんとよ! ほら、そこに!」
 星子、指差した。
「あ?」
 いない。
星子、あわてて部屋の中を見回したけど、星子ママの姿はどこにも見当たらなかった。
「いないじゃないの」
「そ、そんな……たしかに、そこにいたのよ。なんか、悲しそうな顔で、ジッとわたしを……」
「悲しそうな顔で?」
「ええ! わたし、お帰りなさいっていいながら近づこうと……そうしたら、急に目の前が真っ白になって……」
「……」
 まだ、茫然と立ち尽くしている宙太を、春之介、チラッと横目で見ると、ふいに、ククッと笑った。
「やぁね、星子ちゃんたら、しっかりしてよ」
「え?」
「ただの錯覚、自分の姿を星子ママと間違えただけよ」
 そういいながら、春之介、壁に掛けられた姿見の鏡をはずして、星子の姿を映した。
「ほら、見てごらんなさいな。やっぱり、あなたの錯覚だったら」
「そ、そんな!」
 せ、懸命に首を振った。
「そんなことない! あれは、星子ママよ! ぜったい、そうよ! CDもかかってたし!」
「CD?」
「ほら、これ!」
 星子、ラジカセのそばに置かれたCDを手に取ると、ラジカセのスイッチを押した。すると、ラブバラードが流れ出した。
「ん、これ、ハニィが大好きな曲だ!」
「でしょ! 星子ママ、この部屋でCD聞いてたのよ!」
「あ、それ違う」
 春之介、きっぱりといった。
「わたしがね、さっき、かけてたの」
「春ちゃんが?」
「ええ、星子ママが懐かしくて、つい……以前、二人でよく聞いたことがあるのよ」
「そうか」
「これで、星子ちゃんの錯覚、思い違いってことがはっきりしたでしょ」
「で、でも……」
「さ、宙太さん、早く出かけないと。マサルさんが待ってるんでしょ?」
「ああ、そうだった。じゃ、あと、よろしく」
 宙太、部屋を出ようとして、星子にいった。
「星子さん、もう、心配いらないから。あとは春ちゃんにまかせて、いいね、わかったね?」
「宙太さん……」
「ありがと」
 宙太、星子の肩をやさしく叩くと飛び出していった。
「……」
 ――ほんとに、わたしの錯覚……ほんとに?……。
 星子、茫然とした顔で姿見に映る自分を見つめた。
 すると、隣りに春之介の姿が映った。
「……ごめんなさい……」
「え?」
「あたし、CDなんかかけてないの。あなたの錯覚だといったのは、ウソよ」
「ウソ?」
「宙太さんをね、悲しませたくないから、あんなこといったの。あなたが見たのは、たしかに……星子ママよ……」
「えっ」

                         (つづく)


追記  昨日は少々ナーバス気味だったかな。申し訳ない。でも、これからも時々おかしくなるかもね。よろしくです。って、そんないいかたないけどね。すいません。
とりあえず、8回目を送ります。


追記2  高齢者ホームを見に行った知り合いから電話がありました。金次第の終末期、なんとも虚しく、悲しい。キャンピングカーで日本一周して、ゴールインのあと、用意した練炭火鉢で……もちろん、息子娘夫婦には遺言状は書いておくが……そんなエンディングがずっと人間らしいんじゃないのか、と。
 僕はキャンピングカーなんてもてる身分じゃないし、せめて、愛車のプリウスで。あ、死出の旅路もエコですかぁ。笑えないですよね。
 ま、冗談はともかく、この先の人生を考えると、まったく……いや、もう、よしましょう。
 老将ドンキホーテ、荒野に散る。愛する人の面影と共に。
 といきたいですね。
 すぐ、カッコつける! 

                7
 
「えっ、右京君が!」
 宙太の声は上ずり、顔もサッとこわばった。
 ――右京さんって人、どうしたんだろ、なにかあったのかな……。
 宙太の反応をみると、ただ事じゃなさそうだ。でも、立ち入って聞くわけにはいかない。
「わかった、すぐいくから」
宙太が緊張した顔でいうと、マサル、ナナハンのエンジンをかけて、星子を無視したまま猛然とダッシュさせた。その爆音が、星子への怒りだけじゃなくて、心に秘めた想いをぶつけるようにも聞こえる。
「星子さん、ごめん」
宙太、申し訳なさそうにいった。
「ちょっと急用が出来ちゃってさ。今から、出かけなきゃならないんだ」
「そう、遅くなりそう?」
「うん、帰りがいつになるか……」
「……」
「あ、もちろん、君はキリのいいところで帰っていいんだ。明日は、君、学校があるわけだしね」
「え、ええ……でも、星丸クンと宙美チャンは……」
「大丈夫、春ちゃんがいてくれるから」
「パーティは、どうするわけ?」
「ま、中止するしかないな。僕もマサル君も今日中に戻ってこれるかどうかわからないしさ。宙美も星丸もがっかりするだろうけど、あとでちゃんと話せば分かってくれるよ。いままでもこういうことは度々あったしね、二人とも、パパの仕事にはそれなりに理解してくれてるんだ」
 宙太、ちょっとさびしそうに笑うと、ふと、真顔になって星子を見つめた。
「君には、ほんとに迷惑かけたね。おかげで、助かったっていうか、久しぶりに我が家のあったかさを思い出したよ。ほんとうに、有難う」
「そんな……」
 マジメな顔でいわれると、かえって困ってしまう。
「でも、わたしがいなくなったら、星丸くんと宙美ちゃん……」
「うん、ちょっと心配だけどね。でも、君のいったことを信じて、二人にはしっかりといって聞かせるから」
「わたしのいったこと?」
「ほら、星子ママは、この二日の間に、きっと、帰ってくるって……そういっただろ、君……」
「ええ、そんな気がして……」
「今は、どう? 変わらないかい?」
「ええ」
 星子、ぎこちなく微笑んだ。ほんとは、あまり自信がなかった。
「じゃ、そういうことで……春ちゃんには、君のこと、ちゃんと話しておくから。わかってくれるといいけどね。なんせ、思い込みが激しいからさ、カレ、あ、カノジョ」
 宙太、苦笑したあとで、ふと、星子を見つめた。
 じきに、その目に涙のようなものが光り、宙太、あわててぬぐった。
「いけねっ、いや、急に思い出しちゃってさ。君にキスしたこと……」
「あ……」
 星子、顔をパッと赤らめた。
「あの時は……正直いうとね、君が本物かどうか試すためじゃなかった……」
「え?」
「どうにも気持ちがね……逢いたかった、恋しかったんだ、死ぬほど恋しかったんだぜ!……そんな気持ちで心臓がこわれそうになってさ……ほんと、ごめん。申し訳ないっ」
「……」
「でも、キスの味は違ってた。いや、ほんとは同じかも……ただ、なんていうかな、青いリンゴと熟したリンゴの違いっていうか、僕がはじめて君に長崎で会った時、もし、キスしてたらこんな味だったのかな、って……」
「……」
「だから、君がただのそっくりさんとは思えなくってさ。まるで、時間が戻っただけのような……」
 宙太、まじまじと星子を見詰めたが、
「いや、ありえないよな、そんなこと。絶対に、ありえない。君はキミ。ハニィはハニィだ」
 宙太、自分にしっかりといい聞かせると、
「昔の僕だったら、ハイ、ここでお別れのキス! なんて、調子良くいうところだけど、今はやめとくよ」
宙太、悲しそうな笑顔を見せた。
「宙太さん……」
「じゃ、僕、出かける前に春ちゃんに事情を話しておくから。君は今のうちに支度して出たいったほうがいいな。星丸と宙美が保育園から戻ってくると、君も出ずらいだろうしさ」
「……」
「んじゃ、これでお別れだ。せめて、かるくハグだけでも、と、思ったけど、ええぃ、未練がましいぜよ、おぬし!」
 宙太、軽くウインクすると、「さよなら、ハニィ!」といって、パッと背中を見せながら戻っていった。
「……」
 宙太の後ろ姿、とっても寂しそうだ。なんだか知らないけど、泣けてきちゃう。
 いいヒトだよね、宙太さんって。好きになりそう。でも、人様のご主人です。好きになってはいけない人なのです。
 喝!
 それに、くらべて、さっきのそっくり宙太はなによ。やたら調子が良くて、にやけているだけのサイテイ男だわ。もう、二度と会いたくない。と思うけど、なぜか、あいつの顔がくっきりと焼きついている。
 その顔をゴシゴシと消しながら、星子、荷物を取りに宙太のマンションへ戻った。
 リビングのほうから、春之介の「えっ、星子ちゃんが? そんな!」と、かん高い声が聞こえてくる。きっと、宙太から事情を聞いてショックを受けているのだろう。
 ごめんね、春ちゃん、あなたとはもう一度、ゆっくり会いたかった。
 ベッドルームへいって、リュックを背負う。昨夜はいつの間にか隣りに星丸くんが寝ていて、宙美ちゃんに「おにいちゃん、ずるい!」って、いわれてたっけ。すごくかわいい双子ちゃん。わたしがいなくなったら、双子チャンがどんなに悲しい思いをするか。もう、胸がいっぱい、今にも張り裂けそう。でも、ダメ。宙太さんのいう通りにしなくては。
 それこそ、心を鬼にしてベッドルームから出ようとした星子、
「あ、忘れてた、ゴンベエ」
 道理で、リュックが軽いわけよね。でも、どこにいるんだろ、ゴンベエ。
 星子、低い声でゴンベエの名前を呼びながら廊下へ出た。
 すると、奥のほうからフニャーゴとゴンベエの鳴き声が聞こえる。
あんなところにいたのか、と目をこらすと、星子ママの部屋の前にゴンベエがうずくまっている。
「ゴンベエ、帰るよ」
 星子が声をかけても、ゴンベエ、気がつかないのか、ドアの前でゴロゴロとのどを鳴らしている。
「どうしたよ、お部屋の中に可愛いメス猫ちゃんでもいるわけ?」
 そういいながら近寄った時、ふと、低く音楽が部屋のドア越しに聞こえてきた。
 ん! わたしの大好きなシンガーのラブソングじゃないの。しみじみと愛を歌い上げるステキなバラードだよね。そういえば、今朝、星子ママの部屋に入った時、机の上のCDラックにその曲があったっけ。
でも、誰が聞いているんだろう。今、この家にいるのは、わたしと宙太さん、それに、春ちゃんだけなのに。
 待って、わたしの好きな曲が同じってことは、もしかして……そうよ、星子ママかもよ!
 星子ママが、聞いているんだ。だから、ゴンベエもゴロゴロとのどを鳴らしてたのね。
 よかった! わたしが思った通り、星子ママ、帰ってきてくれたんだ。
 ああ、宙太さんや双子チャン達がどんなに喜ぶか。
 おかえり、星子ママ。みんな、お待ちかねよッ。
 おかえりなさい! 
 そう心の中で叫びながら、星子、ドアをパッと開けた。
「!……」
 
                     (つづく)
 
 
追記  星子の大好きなラブバラード、どんな曲かな。一人で聞いてると、泣けてくるような曲だと思うけどね。
 かなり冷え込んできましたね。お互い、風邪には気をつけましょう。もっとも、僕の場合は心の風邪のほうが心配でして。あ、もちろん、フトコロのほうもです。
 キリギリスにはつらい冬が近くなってきました。

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星子&宙太yyy
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