星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

星子恋の花紀行

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      みちのく・春の恋夏の別れ4

 ――なぜ、どうしてこの人が宙太さんと一緒の写真を……。
 星子、戸惑いながら写真を見つめた。
 写真にうつっている宙太の顔、今とそんなに変わりがない。でも、男の人のほうは、別人のように若くて明るく、目も生き生きとかがやいている。どうやら、数年前に撮った写真のようだ。
 ふと、男の人が大きく息を吐いて起き上がった。顔色も体の動きも、すっかりもとへ戻ったみたいだ。
星子、あわてて写真を財布に戻し、男の人に手渡した。
「ご、ごめんなさい……大丈夫ですか、お体のほう?」
 さっき飲んだ薬は、もしかしてニトロかも。そうすると、心臓病の可能性もある。でも、男の人、なにも答えない。
ま、いいか。一応、治ったみたいだし。
星子、あらためて頭を下げた。
「さっきは、有難うございました」
「いや……」
 低い声を呑み込むと、男の人、そのまま、広い背中を向けて歩きかけた。
「あ、ちょっとすいませんっ」
 一瞬ためらったけど、星子、声をかけた。
「わたし、流星子っていいます。宙太さんの知り合いっていうか……」
「……」
 男の人、立ち止まった。
「あ、あの、失礼ですけど、宙太さんとは……すいません、さっきの写真、見てしまって、わたし……ほんとに、すいません……」
 寒いけど、汗が顔に噴き出してくる。
「――」
 男の人、背中を向けたまま低い声でいった。
「以前、本庁、つまり警視庁で一緒でね、アメフト仲間だった。さっきの写真は、その頃写したものだ」
 そういうことですか。宙太さんと警視庁で一緒だってことは、この人も刑事さんか。
「あ、あのぅ、お名前は……」
 男の人、聞きとりにくい声でいった。
「……悠木だ……」
悠木さん、ですか。ちょっとコワモテだけど、カッコいい刑事さんじゃないですか。
「じゃ、もしかして、悠木さんも犯人を追いかけてるんですか?」
「ん?」
「その犯人、奥さんを殺して逃げているって……宙太さんから聞きました」
「美空君から?」
 悠木の顔が、一瞬こわばった。
「いつ?」
「今朝です。わたしが乗っていた新幹線の中で。犯人を追って下北へ行くところだって。マサルさんも、あ、三日月刑事さんも一緒でしたけど」
「……」
「連絡取り合ってるんじゃないんですか?」
「あ、いや……」
 悠木、曖昧にいった。
 もしかして、捜査の秘密ってやつかもね。下北方面の捜査は宙太さんやマサルさんにまかせて、悠木さんは遠野あたりを調べているのかも知れない。とにかく、これ以上、余計なことは聞かない方がよさそうだ。
「じゃ、わたし、これで……」
 ほんとは、もっと一緒にいたいけど、捜査の邪魔になる。
「悠木さんのこと、あとで宙太さんには電話しておきますから。きっと、びっくりするでしょうね」
 星子、肩をすくめると、一礼して歩き出そうとした。
 瞬間、悠木が星子の前に立ち塞がった。
「君、今からどこへ?」
「めがね橋を見てから三陸の恋し浜へいって、今日中に東京へ帰るつもりです。ほんとは、釜石から三陸鉄道に乗って、あちこちゆっくりと観光したかったんですけど……」
 観光より恋さがしでしょっ。
「でも、宙太さんから、今日中に東京へ帰れって……いやな予感がするからって……余計なことばっかりいうんです、宙太さんって」
 星子、ちょっと肩をすくめてみせた。
「……」
 悠木、黙って聞いていたが、ぽつりといった。
「付き合おうか」
「え?」
「さっきのワル共が、また、ちょっかい出してくるかもしれないしね」
「でも、お仕事が……」
「心配しなくていい」
 悠木、それ以上はいわずに歩き出した。
 ほんとに、いいのかな。そりゃ、悠木さんってカッコいいし、第一、すごく頼りになるし、ちょっと気難しそうで近寄りがたいところはあるけど、一緒に恋スポットを旅するのもいいかも。ううん、もしかすると、卯子酉サマのご利益で、早くもステキな恋に巡り合えたのかもね。それも、大人っぽい恋に……。
なんだか、身体の中が火照って、息苦しくなってくる。星子、胸に手を当てて深呼吸をした。
その時、ケータイの着信音が鳴りだした。ケータイを開くと、相手は宙太だった。
「ハロー、ハニィ!」
 相変わらず、のっけから調子のいい声だ。
「なによ、仕事中なんでしょっ」
 こっちも、相変わらずのつっぱり声で答える。
「君の声が聞きたくなっちゃってさ。一分一秒でも離れていると、さびしくって、さびしくって。もう、シニソー! 君もだろ?」
「フン!」
「ふふっ、本心と反対の態度を示す。それって、最高の愛の表現だってさ」
「ちょっと!」
「どう、早春のみちのく旅、楽しんでるかい?」
「もちろん」
「今、どこ?」
「遠野の卯子酉神社」
「ああ、恋の願掛けで近頃大人気だってね。君と僕の愛が永遠に続くように願掛けしたってわけか」
「んもぅ!」
 どこまでづうづうしいんだろ、コノオトコ。
「それより、宙太さん、わたし、あなたを知ってる人に会ったんだけど」
「僕を?」
「不良にからまれてるところを助けてくれたのよ。名前はね……」
 星子が悠木の名前をいおうとした瞬間だった。背後から悠木の手がサッと携帯電話を奪い取って、電源を切ってしまった。
「!……」

                             (つづく)



追記  日差しは弱いけど、蒸し暑くてうっとうしい日々が続きますね。何とか、乗り切らねばと、ハッパをかけてはいるのですがしんどいです。
 しんどいっていえば、星子と星子ママの書き分け、かなり大変です。だけど、それなりに楽しんでます。よろしければ、この先もお付き合い下さい。次回も恋紀行で一区切りつけてから、宙美&星丸編にとりかかる予定です。

追記2 ××さま。あなたのコメント、かなりプライベートな内容が多いので、万一を考えて非公開にさせて頂く場合もあります。どうかご了承ください。

    みちのく・春の恋歌夏の別れ3

「うううっ、寒いっ」
 遠野駅のホームに降り立った星子、ブルルッと身震いした。列車の暖房がきいていただけに、いっぺんに冷蔵庫の中に放り出された感じだ。
 遠野は、宮沢賢治の故郷・花巻から東へ約50キロ近く走ったあたり、三陸海岸の釜石までも約50キロ。北上高地の最高峰・早池峰山や美しく優美な山々に囲まれた盆地に広がる街だ。人口は約三万人の小さな城下町だけど、遠野物語や民話の語り部などで日本全国に知られた観光地だよね。
 遠野駅にも、エスペラント語で民話を意味するフォルクローロという名前がついている。その名前にふさわしいっていうか、ちょっとメルヘンチックな駅舎から外へ出ると、穏やかな早春の日差しに包まれた街並みがのどかに、そして、静かに広がっている。街中には雪はまったくないみたい。天気予報じゃ、今夜あたり雪になるらしいけどね。
 いいなぁ、まだ、春浅き三月十日、観光客も少ないし、のんびりしていきますか。
 なんて、いっていられないんだ。宙太さんには、今日中に東京へ帰るって約束しているしね。
 仕方ない、せっかく遠野まできたのに時間の都合もありまして、民話関係はカット。恋の大明神サマへ直行だ。ほんとは、正直いって民話にはあまり、そのぉ、つまり……ま、いいじゃん、若いんです、わたくし、星子。
 あ、カンケイないか。ゴメンチャイネ。
 ということで、星子、駅前で電動自転車をレンタル、ガイドブックの地図をポケットに颯爽とペダルを踏んだ。恋の大明神といわれる卯子酉神社(うねどりじんじゃ)まで大した距離じゃない。しっかり願懸けてステキなヒトを見つけなきゃ。
 ステキといえば、列車で出会ったあの黒いコートの男。気にはしていたけど、あれっきり見かけなかった。途中のどこかの駅で降りたのかな、それともまだ先まで乗っていくのかも知れない。
そういえば、星子を見た時、一瞬、男の表情がこわばった。星子を知っているのか、それとも、誰かに似ていたのか、気にはなるけど、確かめようもない。
 ひんやりとした冷たい雰囲気の漂う男だった。ちょっとこわいけど、惹かれるものがある。
もう一度、会ってもいいかな。氷のように冷たい唇で、焼けるような熱いキス、なんて……あり、かも……。
ちょ、ちょっと、バカいわないの!
星子、あわてて打ち消した。
ダメダメ、ああいうタイプの男はアブナイの。忘れること。
いいわね、わすれるのよっ。
そういい聞かせながら自転車で国道を西へ走ると、じきに人家がまばらになり、右手から川が迫ってきた。その先のこんもりとした森が愛宕山で、卯子酉神社はその森の中にあるらしい。
案内板に従って入っていくと、小さな赤い鳥居が幾つか立っていて、その奥に小さなお社がこれまた小さな祠と並んで建っている。
え? これが、あの恋のパワースポットで知られた神社ですかぁ?
思わず、星子、キョトンとなった。でも、社の前には赤い布の無人スタンドがあって、一本百円で売っていた。この赤い布を境内の木の枝に結ぶと、恋の願いが結ばれるんだとか。それも、左手だけでね。
もちろん、その通りにしてみましたよ。百円玉を箱に入れて赤い布を一本買い、境内の外れの木の枝に、左手だけで結ぶ。かなり、大変だけどね。なんせ、不器用なもので。恋と同じで。ウフッ。
しっかりと結んだあと、「どうか、ステキな恋に巡り合えますように」って、手を合わせてとたん、
「いよっ、もう、カミサマが聞き届けてくれたじゃん」
 背後で男の声がした。
 振り向くと、派手なスキーウエアにサングラス、金髪の男の子が二人、ニタニタ笑いながらくわえタバコで立っている。チンピラっぽい感じの悪い連中だ。
「オレが、カミサマ御指定の恋人ってわけ」
「あ、オレオレ」
 二人のチンピラ、星子のそばに近づいた。
「早速、デートっていこうや」
「いこいこ、面白いことして遊ぼ」
 なんなのよ、こいつら。サイアク。
 星子、無視して歩き出した。すると、チンピラたちはさっと星子の両脇に回って、星子の腕を掴んだ。
「無視するわけ、恋人を」
「いいから、付き合えって、な」
「離して!」
 星子、払いのけようとした。でも、強い力で掴まれていて駄目だ。
「はい、まいりましょう」
二人のチンピラ、相変わらずニタニタ笑いながら、星子の腕を強引に引っ張ると、近くに停めた真っ黒なワンボックスカーへ引きずっていった。
 ワンボックスカーの窓には真っ黒なフィルムが張られていて、中はまったく見えない。女の子をひどい目にあわせる連中が、このタイプの車を使うって聞いたことがある。
 ヤバイ。
 こういう時のために、ゴン太を連れてきてるんだ。
「ゴン太、出番よッ」
 その声に、ゴン太、リュックからパッと飛び出して、相手に襲いかかった……ってわけには、いかないんだよね、これが。
 いつもなら、父親ゴンベエの血筋を引くドラ猫の暴れん坊なのに、今回は元気のない状態が続いている。
 で、リュックから顔を出したものの、チンピラの一人に「なんだ、こいつ」と襟首を掴まれ、放り投げられて立ち木に衝突、そのまま、目を回してアウト。
 んもぅ、役立たずが。
 仕方ない、こうなったら日頃鍛えた合気道の腕を見せてやる。
「トリャーッ」 
鋭い気合いで相手の足を……あ、急所はパス。わたくし、しとやかお嬢サマですので……お二人さんがひるんだところで、掴まれた両腕を払いのけ、サッと身構えた。
 意外と弱いじゃん、これなら勝てそう。
 そう思った時、いきなり、ワンボックスカーのスライドドアが開き、中から太い腕が現れて星子の首にからみついた。
 キャッ、もう一人いたんだ。
 星子、もがいたけど、後ろからじゃどうにも出来ない。その間に、チンピラ二人も体勢を立て直して再び星子の腕を掴み、
「暴れるんじゃねぇ!」
「ぶっ殺すぞ!」
わめきながら、星子をワンボックスカーの中へ引きずりこもうとした。
星子、必死に抵抗したけど、相手が三人もいたんじゃどうにもならない。
もう、駄目か。いつもなら、こういう時に宙太さんがあらわれて助けてくれるのに。
「宙太さーんっ」
 言葉にならない声で、そう叫んだ時だった。
「うわっ」
 星子を押し込もうとしていた二人のチンピラが、いきなり、背後から襟首を掴まれてのけぞり、地面に叩きつけられた。
「!……」
 もしかして、宙太さんが助けにきてくれたわけ?
 そう思って振り向いた星子、唖然となった。
 大きな影のように立っているのは、あの黒いコートの男の人だ。
「な、なんだ、てめぇ!」
 起き上ったチンピラ二人、もの凄い顔で睨みつけた。ワンボックスカーに乗っていた三人目のチンピラも飛び降りて、黒いコートの男の人を取り囲んだ。
 すると、黒いコートの男の人、ドスのきいた低い声でぼそっといった。
「消えな」
「なに!」
「お前ら、ここの景色には似合わないんだよ」
 抑揚のない声だ。
「ふざけんな!」
「てめぇ!」
 カッとなったチンピラ達、居丈高に詰め寄った。でも、相手の顔を見て、一瞬ひるんだ。美形だけど、なんとも暗く鋭い表情、そして、頬の刃物傷とくれば、只者じゃないくらいわかる。
チンピラ達の顔に緊張が走り、それが恐怖に変わった。その恐怖を払いのけるように、三人は一斉に殴りかかった。
 すると、黒いコートの男の人、軽く体をひねってかわすと、素早いパンチを叩きこんだ。
「うわっ」
 一瞬のうちに、チンピラ達は吹っ飛んだ。それでも、起き上った一人がサバイバルナイフを掴み、悲鳴のような声を上げて切りかかった。
 その鋭い切っ先をかわした黒いコートの男の人、相手の腕を抱え込んでサバイバルナイフを奪うと、サッと投げた。
 バシッと音がして、サバイバルナイフはワンボックスカーのボディに深々と突き刺さった。
「ヒ、ヒェーッ」
 三人のチンピラ達、悲鳴を上げると、腰が抜けたようによろけながらワンボックスカーに乗り込み、猛然とダッシュさせた。
 ――す、すっごーい……。
 星子の目、まんまる。お口もポカンと開いたまんま。
 サバイバルナイフがいくら鋭いからって、車のボディを貫くなんて考えられない。それだけでも、この男の人の凄さと恐ろしさがわかる。
星子、なんとか気持ちを落ち着かせると、
「あ、有難うございました……」
 ちょっと震える声で、礼をいった。
「いや……」
 男の人、無愛想な顔で答えると、長身を翻すように歩きかけた。
 瞬間、男の人、急にうめき声をあげて左の胸を押さえ、その場にうずくまった。
「どうしたんですか!」
 星子が声をかけても、男の人、苦しそうにうめくだけだ。その顔には脂汗が噴き出し、顔色は見る見る真っ青になっていく。
 ……どうしよう、どうしたら……。
 助けを呼びたくても、あたりには誰もいない。そうだ、救急車を呼ぼう。
 星子、ケータイを取り出すと、119番にかけようとした。そのとたん、男の人の手が星子のケータイをひったくって投げ捨てた。
「あっ」
 星子、急いで拾うと、キッと睨みつけた。
「なにするんですか! 救急車を呼ばないと……」
「余計なことを……するな……」
 男の人、うめきながらいった。
「でも!……」
「俺に……構うんじゃない……」
 苦しそうにあえぎながら、コートの胸元に手を突っ込み、分厚い財布を取り出した。そのあと、チャックを開けようとしたが、手が思うように動かない。
「チャックを開けるんですか?」
 星子が聞くと、男の人はうなずいた。
「……中に薬が……」
「お薬が?」
 星子、財布を受け取るとチャックを開けた。中には、カプセルの錠剤がいくつか入っている。
「……は、早く……」
 男の人の容体、かなり悪そうだ。
急いでカプセルを渡すと、男の人はそのカプセルを口に入れて噛み砕いた。
すると、今にも途切れそうだった息遣いが次第に落ち着き、顔色も良くなってきた。
……良かった、どうやら、治ってきたみたい……。
星子、ホッとしながら、財布のチャックを閉めようとした。その瞬間、一枚の写真がこぼれ落ちそうになった。
その写真に何気なく目をやると、アメフトのユニフォームを着た若い男が二人、肩を組み笑いながら写っている。どうやら一人は黒いコートの男の人で、もう一人は……。
「!……」
 人違いかなと思ったけど、間違いない。隣りに映っている若者は、宙太だった。

                            (つづく)



追記  恋紀行三作目を送ります。よろしくです。いよいよ、今日から八月、夏本番……っていいたいけど、涼しい一日でした。かえって風邪気味になったりして。気をつけねば。
 そうそう、八月といえば宙太クンの誕生日があるんでしたね。月末だっていうけど、今から楽しみだっていってましたよ。プレゼントはもちろん××とか。やれやれ、知らないっと。
 
 

      みちのく・春の恋夏の別れ2

「うはーっ、なんなのこれって」
 星子、肩をすくめながら、溜息をついた。だって、あまりにも差があり過ぎる。
え? ミスユニバースと星子サマをくらべたら当然だぁ?
 ウンウン、なんてこのぉ、そういう話じゃないの! わたしのいいたいのは、同じ新花巻駅なのに、新幹線と石巻線の駅の景色のあまりにも違うってこと。
 新幹線の新花巻駅は、すっごくステキでオシャレ、壁画とかステンドグラスのような天井とか、お祭りの飾りとか、観光案内所とか、旅気分を盛り上げてくれる。そこからいったん外へ出て着いたところが東北新幹線の高架下でクロスしている釜石線の新花巻駅。
ホームは狭いし、レールも単線だし、すぐわきをトラックが轟音を立てて突っ走るし、冷たい北風に吹きっさらしだし、なんだか、ものすごくローカルな雰囲気だ。
 えっ、これが銀河ドリームラインってロマンチックなネーミングで知られた釜石線なの。
 思わず、「う、うっそーっ」
 っていいたくなったけど、ん、駅の名前には宮沢賢治「銀河鉄道の夜」にちなんで「ステラード」っていう名前がつけられている。エスペラント語で「星座」っていう意味だって。
そして、待合室には遠野の河童の出没予想のボードが……晴れの日は3パーセント、雨で7パーセント、曇りで12パーセント?
 河童っていえば、これから星子が向かう遠野の民話に登場するよね。それに、線路わきには釜石の観光案内の看板が立っている。時間があれば、釜石まで足を延ばして乗る予定の観光船「はまゆり」も描かれてる。
 ま、いいか。
 それなりに納得したところへ、11時53分発の快速「はまゆり3号」があらわれた。盛岡始発の釜石行きで、遠野には12時47分に着く。
 観光船も快速列車も「はまゆり」ですか。「はまゆり」って、たしか、夏の海岸に咲くオレンジ色の花だよね。ちなみに、「はまゆり」は釜石市のシンボルの花だとか。
 やっと観光気分に戻った星子、列車に乗り込んだ。車内はそれなりに混んでいて、観光客らしい乗客もかなり多い。じきに動き出したところで、早速、新幹線の新花巻駅で買ったお弁当をパクつくことにする。
「賢治弁当」とか「注文の多い料理店弁当」とか、宮沢賢治にちなんだおもしろいネーミングのお弁当があるけど、星子、懐事情もあって460円の五目飯にした。人気弁当ですぐ売り切れるそうだ。
 ラッキー! 味も、ラッキー!
「ゴンベエ、あんたもお腹すいたろ。一緒に食べよ」
 いつもなら、そういわれなくても食らいつくのに、今日に限って見向きもしない。というか、リュックの中で怯えたように体をちじめている。
「どうしたのさ、そんな顔しちゃって。ははぁ、さては宙太さんや春ちゃんのいったことが気になってるわけ?」
 ――ここ数日、東北一帯で地震が続いているし、いやな予感がする。旅は中止して……と、宙太からも春之介からもいわれていたっけ。
「大丈夫、地震なまずなんか、わたしがぶっとばしちゃうから。それに、今日中に東京へ帰るって宙太さんにもいってるしね。わかった?」
 でも、ゴンベエ、小声でフニャァと鳴いただけだった。
 しゃない、恋のパワースポットを速足で巡って帰りますか。
 ところで、その恋のパワースポットだけど、星子としては、遠野の卯子酉(うねどり)神社がメインだ。そのあと、若いカップルに人気のめがね橋を見てから再び釜石線に乗って釜石まで。そこで、三陸鉄道の南リアス線に乗り換えて、恋し浜駅へ行く。この駅は駅名がステキだし、恋人達にすごく人気があるんだって。
 え? 遠野といえば遠野物語が代表する民話で有名な所だ。もっと歴史や文化たっぷりの旅をしたらどうだって?
 ザンネン、今回の旅の目的はあくまで恋のパワースポットをめぐって、恋愛力を強くするためなの。パワーがないと、ステキな恋も掴めない。
 恋こそわが人生、がんばるぞーっ!
 ということで、快速「はまゆり3号」は一路、東へ。花巻の平野を突っ切り、穏やかな山のうねりがゆったりと近づき、のどかな山里が暖房で曇りがちな車窓に広がる。お天気はいいし雪もほとんど見られない。まさに、みちのくの早春といった風景だよね。
 今朝東京を出てきたっていうのに、旅情っていうか、もう何日も旅をしているんだなって気持ちがじわっと湧いてくる。
 こんな時、宙太さんが隣りにいてくれたら、おもしろおかしく旅案内してくれるだろうな。つい、邪険にしちゃうけど、ほんとはカレ、わたしにとっては大事な人なんだ。こうやって離れてみると、どこか恋しいって思いが……もしかして、宙太さん、わたしのことを心配してこの列車に……。
「ほんと、世話の焼ける姫君だぜ」
 ふいに、宙太の声が……ん、いつの間にか、向かいの席に座ってるじゃないですか。
「ちゅ、宙太さんっ……なんなの、いったい?」
「きまってるだろ、君を東京へ連れて帰るわけ」
「そんなぁ、日帰りで帰るっていってるじゃん。ほっといてよっ」
 やっぱり、つっぱる。
「そうはいかないぜ。力づくでも連れて帰るってきめたから」
「勝手いわないでよ! 宙太さんには大事な仕事があるでしょ!」
そうよ、妻殺しの容疑者を追いかけて下北へいくはずなのに。
「そんなものはマサルのヤツにまかせておけばいいさ。僕にとっては、仕事よりハニィのほうがずっと大事なんだ。君は俺の命ぜよ! さぁ、一緒に降りるんだ!」
 宙太、ぐいと星子の手を掴んだ。
「痛い! 離してよ!」
 もがいたけど、宙太は強い力で星子の腕を引っ張る。
「やめて! やめてったら!」
 思いっきり払いのけたとたん、手がなにかに当たってカチャンと物が落ちる音がした。
 とたんに、ハッと目が覚めた星子、腕を掴んでいるはずの宙太の姿は見当たらない。
「夢、かぁ……」
お腹がいっぱいになって、つい、ウトウトしてしまったらしい。
やれやれ、ホッとするやら、ちょっとさびしいやら……でも、ちょっと、待って、確か、手に何か当たって物音がしたような……。
通路へ目をやると、黒いフードをかぶった男が座席の下に手を伸ばし、缶コーヒーを拾い上げたところだ。
もしかして、わたしが寝ぼけて払いのけた手が、この人にぶつかったんじゃ。それで、缶コーヒーを落としたんだ。
男の人、じきに体を起こして立ち上がった。
「す、すいません、ごめんなさいっ……」
 星子、あわてて腰を浮かすと頭を下げた。
「いいんだよ」
 押し殺したような低い声で答えながら、男は立ち上がった。背が高くて、体つきもがっしりしている。
「でも、わたし……」
「いいっていってるんだ」
 男は、缶コーヒーを黒いコートのポケットに押し込み体を翻した。その瞬間、フードの下から男の顔が覗いた。 
 年齢は三十前後か、サングラスをかけた彫りの深い顔立ちで、唇は薄く、青白い頬には古い刃物傷のようなものが斜めに走っている。車内は暖房がきいているけど、男の周りには氷のような冷気が漂っている、そんな雰囲気の男だ。
 ――こ、こわっ……で、でも、いい男……。
 思わず立ちすくんだ星子を、男はサングラス越しに一瞥した。
「……」
 瞬間、男の青白い顔に赤い生気のような色が走り、唇がかすかに開いた。だが、じきに顔をそむけると、足早に立ち去った。
「……」
 見送る星子の体に、サーッと鳥肌が走った。

    
                (つづく)



追記  なんだろう、昨日今日の涼しさっていうか寒いくらいだ。でも、猛暑疲れには大助かり。このまま、夏が終わってくれればいいけど、そうはいかないみたいです。お互い、体調には気をつけましょう。
 とりあえず、みちのく編第二回目を掲載します。大震災前日の遠野、そして、当日の遠野から三陸へ。いつもの星子タッチを取り入れながら、どう書いていくか。一つの挑戦です。もちろん、テーマはあくまでラブロマンで、ドキュメントではなくて、フィクションです。そのことを御理解いただいて、よろしくお付き合い下さい。



      

春の恋夏の別れ・1

「フユシラズには、二つの花言葉があるんだってね」
 あの人のやわらかな声が、今もわたしの耳の奥に残っている。
 ……フユシラズ……。
 早春の北国に咲く、カレンデュラとも呼ばれるキンセンカの仲間の黄色い可愛い花。そのフユシラズがきっかけで、わたしはあの人と知り合った。
「二つの花言葉の一つは、乙女の美しい姿……」
 あの人、わたしを穏やかな目で見つめながらいった。
「じゃ、わたしにはカンケイないかな」
 わたしが、ちょっと肩をすくめてみせると、
「そんなことはないよ、星子さん。君のイメージにぴったりさ」
 あの人、やさしく微笑みながらいったっけ。
「やだ、くすぐったい」
 笑って見せたけど、ほんとはうれしい。
「で、もう一つの花言葉は?」
「あ、うん……」
「ね、なんなの?」
 しつこくせまると、あの人、
「内緒ナイショ」
 ちょっとおどけながら、口にチャックをするしぐさをして見せた。なんか、ぎこちなくてサマになってないけど、いい感じ。
 これが宙太さんだったら、さぞかし、キザっぽくあざやかにきめているよね。おっと、邪魔ジャマ、ムードがこわれちゃう。
 で、わたしが、
「どうして?」
 って、たずねると、
「つまり、その……二度と聞きたくない言葉ってことかな……」
「聞きたくない?」
「うん……」
「二度と?」
「……」
 ふと、あの人の目が潤んだ。その目を見せまいと、顔を横に向けた。
 なんか、わけありって感じ。
 それ以上聞いては悪いと思って、わたし、さりげなく話題を変えたっけ。
 フユシラズのもう一つの花言葉は、ケータイの検索で調べればすぐわかることだ。でも、あの人の心の秘密に立ち入るようで、調べる気持ちにはなれなかった。
 そのもう一つの花言葉の意味を、じきに、わたしが身をもって知ることになるなんて……。
 すべては、わたしが三月のある日、期末テストのあとの休みを利用して、みちのく路へ旅立った時にはじまった。
                  ○
「よっ、ハニィ!」
 北へ向かう東北新幹線「やまびこ」のデッキで、ふいに聞こえてきた声。
 まさか、と、振り向けば、ああ、やっぱり。
 宙太のたれ目のヒョーキン顔が、きざっぽくポーズを決めたつもりでウインクしている。
 茶革のショートコートにエルメスのショルダーバッグを肩にかけ、それなりにオシャレがきまっていた。
「いやぁ、まさに絵になるねぇ」
 宙太、ウインクした目を細めた。
「ステキな恋を求めて、早春のみちのくの旅へと出かける美しき乙女ここにありってな立ち姿だぜ」
「ふん!」
 星子、うるさそうに宙太を見た。
「やめてよ、そのいいかた。ジンマシンができるから!」
「ご心配なく。その時は、僕チャンがかいかいしてあげるから」
 そういいながら肩に触れようとした手を、星子、パッと払いのけて、
「ちょっとっ」
 かなり本気で睨んだ。
「わたしに構わないでっ」
「でもさ、姫を守るのはナイトの務めだし」
「なにがナイトよっ。ただのおせっかい。早く消えて!」
「いわれなくても、今回はお構い出来ないようで」
「はん?」
「じつはさ、ボクチャン、お仕事でこの列車に乗ったわけ」
「仕事で?」
「そうしたら、偶然、君もこの列車に乗っていた。やっぱり、魅かれあう者同士、カミサマはちゃんとお膳立てしてくれてるんだね、シシシッ」
「いい加減にして! なにが偶然よ!」
「ウソだと思うんなら、証拠を」
 宙太がデッキの奥へ向かって指を鳴らすと、人影がゆっくりと……マサルだ。濃紺のダウンジャケットを着て、背中にはリュックを背負っている。
「マサルさんっ」
「どうも」
 マサル、無愛想な顔で会釈した。星子には関心がないっていう表情だ。でも、星子は気づいていないが、伏し目がちの目には熱っぽい光りがこもっていた。
「ハニィ、これで納得したかな?」
「まぁね」
 認めざるを得ない。
「で、どういう事件?」
 星子がきくと、
「そら、きた」
 宙太、にやりと笑った。
「好奇心いっぱいの星子さんだ。そうくると思ったぜ」
「いいから、早く教えて」
「残念でした。捜査上の秘密でございます」
「んもぅ」
「でも、ま、いずれ嗅ぎつけることだし、ちょっぴり予告編を。じつは、コロシのホシを追ってるわけでして、ハイ」
「えっ」
 殺人事件とくれば、興味しんしんだ。
「三日前、世田谷のマンションで新婚間もない奥さんが殺されてね……」
「あ、その事件、テレビのニュースで見たわ。なんでも、被害者の夫が行方不明になってるって……そうか、その夫が怪しいのね?」
「さすが、スルドイ」
「それで、その夫を探しにいくところなんだ、宙太さんとマサルさん。で、今どこにいるわけ? 岩手? 青森? わたしも、一緒にいく! きっと、役に立つから! ゴンベエも、ほら、こんなに張り切ってるわよ!」
 そういいながら、背中のリュックをポンと叩いた。でも、肝心のゴンベエは迷惑顔だけどね。
「ちょ、ちょっと、ハニィ……」
 星子に詰め寄られてたじたじの宙太を見て、マサルが間に割って入った。
「待ってくれ、星子さん、事情があるんだ」
「え?」
「じつはな、容疑者、つまりガイシャの夫には……」
 マサル、声を落とした。
「自殺の恐れがあってさ……」
「ジ、ジサツ?」
「昨夜遅く、友人のケータイにそんな内容のメールが入っているんだ。メールを送った場所は、青森県の下北半島らしい」
「そう……」
「だから、こっちも出来るだけ目立たないように行動したいんだよ。そこんとこ、わかってくれないか」
「そ、そういうこと。ハニィが一緒じゃ賑やか過ぎちゃうしさ」
 宙太も、ここぞとばかりにいった。
「そもそも、今回の君の旅にはちゃんとした目的があるはずだろ。なんでも、遠野の恋の願掛け神社にいくとか。すごく、御利益があるらしいじゃないか」
「どうして知ってるの?」
「春ちゃんから聞いたんだ。ほんとは、いって欲しくないって。いやな予感がするって」
「……」
 たしかに、春之介にはそういわれていた。水晶玉占いによると、星子の身に恐ろしいことが起きるんだそうだ。でも、当たるも八卦、当たらないのも八卦。せっかくの試験休みだし、チャンスを無駄にしたくない。そこで、春之介の制止を振り切って出かけたってわけだった。
「ほんとは、僕も星子さんには東京へ引き返して欲しいよ。だって、ここんとこ、東北地方は地震が多いだろ」
 宙太のいうとおりだった。星子が旅立つ前日の三月九日昼近く、つまり、昨日のお昼のことだけど、宮城県で震度5弱のかなり大きな地震があって、そのあとも余震が何回も続いていた。
 地震が苦手の星子だし、なんだか気味が悪かったけど、恋旅の誘惑のほうが勝ったわけでして、ハイ。 
「大丈夫、恋の願掛けしたら、すぐ東京へ帰るから。今日の夜には我が家に戻ってるはずよ」
「そうか、きっとだぜ。ハニィにもしものことでもあったら、ボクチャン、生きていられないしさ。よろしく!」
 どさくさにまぎれ、宙太、星子をハグした。ほんとに、油断も隙もありゃしない。
「んもぅ!」
 星子が睨んだ時、車内放送がもうじき新花巻駅に到着すると告げた。
 遠野へいくには新花巻で石巻線に乗り換える。
 間もなく、「あまびこ53号」は、新花巻駅のホームへと滑り込んだ。
「じゃ、宙太さん、マサルさん、しっかり頑張ってね!」
 ホームに降り立った星子、列車に向かって軽く手を振ると、いざ、石巻線のホームへ。
さっきの探偵モードはどこへやら、いつもの恋さがしモード全開だ。
「恋の願掛け、うまくいくといな、ね、ゴンベエ?」
 ゴンベエに声をかけたけど、なんだか、ゴンベエの様子がおかしい。落ち着きがなく、あたりを見回している。
「どうしたのよ、ゴンベエ、どこかにステキなメス猫ちゃんでもいるわけ? だったら、あんたもしっかり恋の願掛けしないとね」
 星子、ご機嫌な顔で微笑んだ。でも、ゴンベエのほうはリュックの中へもぐりこんだ。まるで、なにかに怯えているように見える。
「ヘンなゴンベエ」
 こんなゴンベエを見るのは、はじめてだ。星子、おかしいなと思いながらも、あまり気にせずに歩きだした。


                      (つづく) 



追記1 かなり遅れましたが、恋の花紀行シリーズ、なんとかはじめてみました。あの大震災を物語の背景に持ってくるという試み、はたして星子シリーズで出来るのかどうか、かなり不安ではありますが、頑張ってみます。もちろん、星子ファミリーシリーズのほうも続けますので、よろしく!


追記2 星子ファン誌『JOKER』の最新号を送って頂きました。今回も力作がそろっています。なんと、大学生宙太の就活の姿も!
ゆうきさんのブログに是非アクセスしてみて下さい。

追記3 フアンのみ公開のため、ご迷惑かけています。当面、小説だけは公開してみようと思います。

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