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萌え! スィーツバトル(後編)
「はーい、おちまいでーす!」
「おじかんですよ!」
星丸と宙美が、可愛い手で鈴をチリリン、チリリンと振った。
でも、ラストスパートの宙太たちには聞こえないのか、もう、必死になってデコレーション・ケーキの仕上げに取り組んでいる。
「おらおらっ、もたもたすんな!」
「パウダー、パウダーシュガーはどうした!」
「キャラメルソース! 早く!」
「チョコだ!」
「アホか!」
「ブッコロス!」
とびかう怒声と罵声に、たちこめる甘ったるい匂いと香り。それこそ、スィーツの戦場だ。
「んもう、タイムアップよ! 違反チームはキスなし! いいわね!」
星子が大きな声で叫ぶと、
「そりゃないで!」
「カンニン!」
宙太達、大あわて。やっとのことで全員手を止めてテーブルの脇に立った。
ついに、完成っていうか、ぎりぎりのところで出来上がったデコレーションケーキが、それぞれのチームのテーブルの上に飾られ、スポットライトを浴びている。
宙太とゲンジロウチームの作品は、地中海の青い海に浮かんだクルーズ船のイメージで、フルーツを飾り立てたオシャレな仕上がりだ。砂糖菓子のかわいい動物キャラがたくさん乗っており、すごく楽しくなる。いかにも、遊び好きな宙太とゲンジロウが考えそうなスィーツだった。
右京と左京チームは、バッキンガムと時計台をバックに、星子をクイーンに星丸と宙美を王子と王女に見立てた冠型のデコレーションケーキで、見事なくらい気品と高級感がある出来栄えだ。
マサルとタケルチームのほうは、チョコとクリームを主体に、マンハッタンのジャズの夜をイメージしたようなデコレーションケーキで、金色や銀色、赤、黄等の楽器や音符が五線譜の上で踊っている。一口食べたら、踊り出しそうだった。
そして、春之介と小次郎チームといえば、ネオン街のセクシャルなお店の看板を想像させるパイを何枚も重ねたデコレーションケーキで、蜂蜜たっぷり、生キャラメルもたっぷり、食べたら、即、虫歯になりそうだった。
「では、今から審査を行います」
星子が、高らかに告げた。
「審査員の皆様、判定よろしく!」
すると、ゲスト席にいたリツ子やナンシー達が一斉に席を立って、テーブルのそばまでやってきた。そして、ボールペンとメモ帳片手に、出来上がった四個のデコレーションケーキの品定めを始めた。
「で、審査の基準はなんなの?」
気取った顔でリツ子が聞くと、
「きまってるでしょ」と、ナンシー。「スィーツは、愛情の代名詞。どんなに愛してくれてるか、あまーい、あまーい、ディープキスのような濃厚な甘さがバロメーターよ。んねっ、宙太さん?」
はち切れそうなバストに手を当てながら、宙太にパチッとウインクだ。
ムッときたリツ子が、
「違う! ノーブルでリッチで大和撫子のような控え目な情熱がこめられたスィーツこそ、バロメーターよっ。そうよね、宙太さまぁ!」
メガネ越しに、濡れた瞳で宙太に秋波を送った。
すると、亜利沙が、「ちょっと、宙太さんのために、スィーツ・コンテストを開いたわけじゃないのよ。苦み走ったいい男って言葉があるでしょ。そこが、基準値なの。そうよね、右京さぁん?」
と、甘えるように右京に唇をつきだした。
「マジ? 亜里沙って、そんなヒトだった?」
あきれ顔のナンシーだ。
その傍らで、もっとあきれた顔をしているのは、早乙女医師や早苗たちだ。
「ま、とにかく、審査をはじめないか」
早乙女がいうと、圭一や早苗たちも同調するように頷いた。そして、採点表を片手にテーブルに近づき、完成したデコレーションケーキの採点を始めた。
その光景を、宙太たちがちょっと緊張した面持ちで見つめている。
「ま、結果はわかってるけどさ」
小次郎が、小生意気な感じでいった。「もちろん、優勝は……」
「俺達だろ?」と、タケルがせせら笑った。
「違う、俺達だ」
「いんや」、俺らさ!
「違う違う、わてらや!」
たちまち、入り乱れて一触即発の雰囲気だ。その場は、宙太が「まぁまぁ、御一同」とたしなめて、なんとか収まった。
そして、「結果発表!」
集計された採点表に目をとおした星子が、「優勝は……」、一瞬、困ったように言葉を呑み込んだ。
「どうしたんだ、ハニィ?」
「星子ちゃん?」
宙太や春之介が声をかけると、星子、ぎこちなく微笑んだ。
「だって、同じ点数なんですもん」
「同じ?」
「点数?」
「ということは、優勝者はいないってことかい?」
「違う、違う、みんなが優勝ってことや! 目出度いで、ほんま!」
「星丸くん、キスを!」
「宙美チャン、キスしてぇ!」
春之介にゲンジロウ、タケル、左京、小次郎たちが一斉に殺到。星丸と宙美は、キャッキャッとはしゃぎながら、逃げ出した。それを見ていたナンシーやリツ子、亜里抄たち、それに早乙女や早苗たちも笑いながら手拍子を叩いた。
その光景を見つめながら、宙太が星子の耳元にそっといった。
「ありがとさん、ハニィ」
「え?」
「ほんとは、四組のうち、一つのチームが優勝したんだろ。あ、どのチームか聞かないけどさ」
宙太、軽くウインクした。
「ほんとは、みんな、分かってるんだ、と、思うぜ。んなっ」
「――」
「――」
右京とマサル、宙太を真似てぎこちなくウインクすると、春之介たちのほうへ向かった。
「いいやつばかりだな、有難いっていうか……幸せ者だよ、僕達って……」
「ほんとにね」
星子、目を潤ませながら頷いた。
そんな星子を、宙太はそっと抱き寄せた。
「僕、がんばるぜ、君をもっともっと幸せにするために……頑張るからね」
「宙太さん……」
宙太のぬくもりが伝わってくる。
――わたしも、がんばる、宙太さんや、星丸くんや宙美ちゃんのためにも、そして、ステキなみんなのためにも……。
そっと心に誓う星子の耳に、みんなのはしゃぐ声や笑い声が大きく広がっていった。
(おわり)
追記1 遅くなりましたが、なんとか出来上がりました。いやはや、とんだスィーツパーティになったようですが、なんとか無事に終わってなによりでした。
追記2 今夜、テレ朝で放映された「美空ひばりメモリアルコンサート」、ほんとに素晴らしかった。僕はひばりさんと同世代だし、もちろん、大のファンだし、胸が熱くなって、もう……なにもいえません。個人的には、「終わりなき旅」が一番好きです。とにかく、大感動でした。
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