星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

宙美の結婚

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               8

「ど、どういう意味だ、春ちゃん……」
 星丸、大きく息を吐いた。「まさか、僕と宙美が血がつながっていないと……そういいたいのか?」
「ええ、そうよ」
 春之介、真顔で頷いた。
「そ、そんな! ひどいぜ、春ちゃん!」
「いいから、聞いて。これはね、星子ちゃんや宙太さんから、固く口止めされてたことなんだけど、あなたと宙美ちゃんの幸せのためには、やっぱり、話しておかないと……」
「春ちゃん……」
「じつはね、もうかなり前のことだけど、星子ちゃんと宙太さんが結婚して、一年後に赤ちゃんが生まれて、それも、双子だったの、男の子と女の子のね……」
「じゃ、同じじゃないか。僕と宙美だろ」
「ええ、男の子はあなたよ。でも、女の子のほうは……生まれつき心臓が……緊急手術をしたけど、駄目だったの……」
「つまり、死んだってこと?」
「ええ……ほんとに、可愛い子だった……名前もつけたのに、宙実って……たった、一週間しか生きられなかったの……たった、一週間……」
 春之介の目から、涙があふれた。
「そのことで、星子ちゃん、ひどく落ち込んでね、おかしくなってしまって……宙太さんだって、男泣きしてたけど、星子ちゃんをほっておけないって、養子を貰うことにしたの。亡くなった赤ちゃんとそっくりの女の子を……その子が、宙美ちゃんよ。読み方は同じで、字が一つ違うだけ」
「!……」
「お陰で、星子ちゃんもすっかり元気になって、宙美ちゃんを自分が生んだ子のように、あなたと分け隔てなく育てたのよ。そのあとのことは、あなたもよく覚えているでしょ」
「……」
 なんだか、頭の中がぐるぐる回る感じで、朦朧としてくる。
「話すことは、これだけ。さ、早く宙美ちゃんのところへいって。あなたを待っているから。早くったら!」
「……うん、わかった!……」
 星丸、我に返ったように急いで服を着ると、古賀の部屋を飛び出した。
 ――双子の妹だとばかり思っていたのに、じつは、血のつながらない女の子だったなんて……。
 でも、そうなると、宙美を好きになっても構わない。恋しても構わない。そして、躊躇うことなく、宙美にキスしたり、そう、思いっきり、抱くこともできる。一つになれるんだ。一つに。
「宙美! 宙美―っ!」
 星丸、光と闇が交差する夜道を走った。
 宙美の名前を何度も呼びながら、走った。走り続けた。
 急に視界が明るくなったと思うと、その光の中に純白のウエディングドレス姿の宙美が立っている。笑みを浮かべた顔には、嬉し涙がいく筋も描かれていた。
「宙美!」
「お兄ちゃん!」
 星丸と宙美、どちらからともなく抱き合い、そのまま、崩れた。
「愛してるよ、宙美」
「あたしも。大好きよ、お兄ちゃん」
「お前と一つになりたい。いいかい?」
「ええ、きて。早く」
「宙美」
「お兄ちゃん」
 星丸、ウエディングドレスを開いた。そして、愛を一心にこめて、宙美の中へ……。
「い、痛いっ」
 宙美が、のけぞる。
「ごめん、もう少しだから」
 せめる。
「痛い! 痛いったら!」
「がまんして。いいかい、宙美!」
 弾けようとした、その瞬間だった。
 強い力で、ドンと肩を突かれて、転がった。
 とたんに、パッと視界が開けて、緑の木立と芝とチューリップの花畑が一面に広がった。
「んもぅ、お兄ちゃんたら! なに寝ぼけてるの!」
 宙美が、こわい顔で睨みながら、体を起こしたところだ。
「寝ぼける?」
「そうよ、昼寝してると思ったら、妙なこといいながら、あたしに抱きついてきて!」
「あ?」
 宙美、ウエデイングドレス姿ではない。原宿や渋谷あたりでよく見かける、カラフルなヤングカジュアルだ。
「おまえ、ウエディングドレス、どうした?」
「ウ、ウエディング?」
「なんだよ、そんな女子高生みたいな恰好してさ」
「なにがいけないのっ。あたし、女子高生よっ」
「ウソつけ……ん?」
 宙美の顔、たしかに女子高生の時と同じだった。
「お兄ちゃんだって、高校生の恰好じゃん。いい加減にしてよッ」
「は?」
 たしかに、星丸も高校の時のカジュアル・ファッションだ。
「ど、どなってるんだ……」
「どうもこうも、本物の高校生じゃないか。お前も宙美も」
「え?」
 振り向くと、宙太パパがバーベキューコンロで焼き肉やトウモロコシなんかを焼きながら、にこにこと星丸をみている。
脇には車が何台も停められ、テーブル、椅子等が置かれて、星子ママが皿に盛り付け中だ。近くでは、右京や左京、マサル、タケル、小次郎、ゲンジロウ、それに、春之介もドリンクを飲んだり、食べたりしていた。
 どうやら、みんな揃ってオートキャンプの真っ最中らしい。
「やぁね、星丸ったら」
 星子ママが、笑いながらいった。
「いい加減に、目を覚ましたら。お料理、なくなっちゃうわよ」
「そういうこと」
 マサルやゲンジロウたちも、どっと笑った。
「ここんとこ、受験勉強で徹夜が続いたから、アタマがおかしくなったんじゃないのか」
「天下の秀才なんだし、そんなに入れ込むことないのにな」
「小次郎、星丸くんの爪の垢でも飲め。ちっとは、りこうになるぜ」
「タケル、てめぇ!」
 小次郎とタケルがじゃれあい、星子ママや宙太パパ達もどっと笑った。
「……」
 茫然としている星丸に、宙美が、
「ね、お兄ちゃん、ほんとに大丈夫?」と、心配そうにいった。「一体、どんな夢を見てたの?」
「夢?」
「夢、だったんでしょ?」
「あ、うん……」
 ――そうか、あれはみんな、夢だったのか……。
それにしては、あまりにもショッキングでエロティックな、しかも、背徳的な夢の連続だった。あの痛み、快楽、屈辱、おぞましさ、それらは皆、夢だったというのか。
 古賀レジデントという先輩。河合好恵という看護師。殺された山田看護師。夢の中の登場人物なのか。
そして、春之介のいったこと、星丸と宙美が実の兄妹じゃないってこと。それも、夢の話なのか。
 あの夢の世界は、すべて、今から数年先、星丸が医大の修習生になったという設定だ。
 夢に、未来形はあるのか。現在か、過去だけじゃないのか。
 ああ、もう、わからないことだらけだ。
 ――でも、夢でいい。夢にしておこう。それでいいんだ……。
 僕は、ママやパパ、宙美、そして、みんなとオートキャンプにきて、昼寝して変な夢を見た、それだけのことだ。
 忘れろ、忘れよう。
 さぁ、喰うぞ、飲むぞ!
 サッパリした気分で立ちあがった時だった。
「やぁ、宙太君、星子さん! 君達もきていたのか!」
 よく通る声が聞こえて、ダンディな中年の紳士が近づいてきた。
「あ、佐々木先生!」
「どうも!」
 星子ママと宙太パパ、にこにこしながら出迎えた。
「誰だっけ、あの人」
 宙美、首をかしげたが、じきに、
「そうか、ママとパパの知り合いのお医者様よね」
「うん、来年、僕が受験する医大の教授さ」
 そういえば、夢の中にも佐々木教授のことが出てきたっけ。
 その佐々木教授に、宙太パパがいった。
「先生も、オートキャンプですか」
「うん、僕のゼミの教え子たちとね。おい、みんな、こっちへ来て挨拶しろ。こちら、警視庁幹部の美空さんと奥さんだ」
 佐々木教授が手招きすると、数人の学生たちが近づいて会釈した。
「そして、お子さんの星丸君と宙美さん」
 佐々木教授、星丸と宙美を紹介した。「星丸君は、来年、ウチの大学を受験するんだ。合格すれば、君らの後輩になるわけだ」
「そうですか! ウチの大学を……」
 そういいながら、男子学生の一人が星丸のそばへやってきた。
「がんばれよ! 待ってるからね!」
 その学生、星丸の手をしっかりと握りしめた。
「……」
 ――待てよ。ねっとりとして吸いつくような柔らかいこの感触、夢の中でオレの体をなぶった古賀レジデントの手にそっくりだ……。
 星丸、顔を上げながら相手を見た。
 色白のハーフっぽい美形顔が、爽やかに微笑んでいる。
「!……」
 間違いない、古賀だ。 
切れ長の双眸は、獲物を狙う野獣のように鋭く光っている。
――あれは、夢じゃない。僕の未来だ。将来、僕が体験することになる恐ろしい出来事を、先に見てしまったんだ。きっと、そうだ……。
 星丸、地の底へ引き込まれるような思いで立ち尽くしていた。
 

                              (おわり)



追記  ちょっと怖いエンディングになったと思うけど、いかがでした。どこまでが現実で、どこまでが悪夢なのか。ま、おまかせします。
 今回で一応、終わりです。ちょっと休んで、又、再会しますね。
 今夜は久しぶりの満天の星空です。いいことがあるといいけどね。オヤスミナサイ。
                    

                  7

「……」
 ――甘い薫りが……香水かな、すごくいい薫りだ……。
 星丸の朦朧とした意識が、次第にはっきりとしてきた。
 ――この香水の薫り、どこかで嗅いだような気がするけど、思いだせない。頭の中が石を詰められたように重いし、時々、針を差し込まれるように痛くなる。
 ――もう少し、寝ていたい、もうちょっとだけ……。
 いや、それどころじゃないぜ。ボクは、今、とんでもない目に!
「う、うわーっ」
 星丸、大声を上げながら飛び起きた。
 ん! 声が出る。それに、体も自由に動く。気を失うまでは、声も出ないし、石膏で固められたように指一本動かなかったのに。
 裸のままだが、毛布がかけられている。
 ベッドの隣りには、古賀の姿はない。赤いローソクの火も消えている。
 まさか、すべてが終わって、つまり、思いのままにいたぶり、弄び、凌辱のかぎりとやらをつくしたあと、満足しきってベッドを離れたのでは……。
 星丸、あわてて下半身へ手をすべらせた。
「……」 
 指先は乾いている。乱暴された形跡は、ない。それに、痛みもまったくなかった。
――どういうことだ、あの時、失神しながら、もう駄目かと思ったのに。古賀先輩、途中で気持ちが変わったのか……。
 星丸が首をかしげところへ、
「気がついた、星丸クン?」と、背後で声がした。
「!……」
 春之介の声だ。でも、まさかそんな、と、思いながら振り向くと、間違いない。春之介が微笑みながら立っている。金髪の髪と真っ赤なルージュ、全身真っ黒なレザースーツ、編上げの黒の長靴がぴたりときまっていた。
 年齢と共に、一段と妖艶さが増したその肢体から、妖しい薫りが漂ってくる。
 ――そうか、さっきの甘い薫りは春ちゃんのつけてる香水だったっけ……。
「危ないところだったわね」
 春之介、星丸の服や下着を差し出しながらいった。
「もうちょっとで、あいつの餌食になるところだったわ」
「じゃ、春ちゃんが?」
「ええ、間一髪、助けたってわけ」
「そうか! ありがと! ほんとに、有難う!」
 星丸、春之介の腕を掴んで涙ぐんだ。
「礼なんか、いいのよ。あたしの一番大事な仕事は、あなたと宙美ちゃんを守ること。昔も今も変わらないわ」
「春ちゃんっ」
 そう、春之介は星丸と宙美がまだ幼い頃から、星子ママや宙太パパに代わっていつも守ってくれてきた。
「でも、春ちゃん、どうしてここがわかったんだい?」
「きまってるじゃない、同類のカンってやつよ」
「同類?」
「つまり、古賀センセとあたしは同じ趣味だってこと」
「!……」
 そういえば、そうだ。春之介はその道のベテランだった。
「あたし、一目古賀センセを見た時から、ピーンときたの。このヒト、相当なもんだって。それもよ、星丸クンを見つめる時の目の輝きったら。こりゃ危ないなって、ずっと気をつけてたの。そうしたら、案の定、今夜オオカミさんに早変わりして牙をむいた……ってわけ」
 そうだったのか。
「で、古賀先輩は? 今、どこにいるんだ?」
「ここよ」
 そういうと、ベッドの下から、シーツでしっかりと全身を巻かれた古賀を引っ張りだした。口にはガムテープが張られ、目は怯えきっている。
「き、貴様ぁ!」
 屈辱と怒りが一気に込み上げ、とびかかろうとした。
「あ、ダメダメ」
 すかさず、春之介が星丸を制止した。
「お持ち帰りなんだから、このヒト、あたしのね」
「え? お持ち帰り?」
「そうよ、うちへつれていって、とことん、可愛がってあげるの。大先輩のラブ・テクニックをフルコースで使ってね。絞って絞って、ミイラになるまで、しっかり吸い取ってやるわ。そのあと、警察に送り届けてやる。うふふふっ」
 春之介、意味ありげに唇をすぼめながら、艶然と笑った。それこそ、夜叉のような顔だ。こんなに凄味のある春之介の顔を見るのは、初めてだった。
 古賀のほうは、恐怖で今にも泣きだしそうだ。
「さ、あとはあたしにまかせて、あなたは宙美ちゃんのところへ帰ってあげて。心配して待ってるから」
「でも、宙美もショックだろうな……」
 明日の結婚式は中止になるし、古賀は殺人の罪で逮捕だ。
「大丈夫よ。宙美ちゃんには、ステキな花婿さんがいるんだから」
「花婿? だ、誰のことだい!」
 聞き捨てならない、話だ。
「きまってるでしょ。それはね……」
 春之介、星丸を見据えた。
「あ・な・た・よ。星丸クン」
「え、えっ」
 星丸、ムッとなった。
「こんな時に、からかわないでくれよっ」
「からかってるんじゃないの、ほんとの話」
「でもね、僕と宙美は血のつながった双子の兄妹なんだぜ。結婚出来るわけがないだろう!」
「そう思う?」
「なにが?」
「血を分けたほんとの兄妹だと、本気で思ってるわけ?」
 春之介、瞬きもしないで、じっと星丸の目を覗き込んだ。

                         (つづく)


追記  お騒がせしております。次回は、とんでもないエンディングが待っております。よろしくです!
 
 ほんとに、寒い一日でした。どうか、風邪などひかないようにね。
 

                6

<……う、ウソだろっ……>
 必死にもがく。でも、体はまったく動かない。
 柔らかくてねばっこい唇、熱い吐息。項へ、そして胸へ。そして……。
<……や、やめろっ……やめてくれっ……>
 声を振り絞ろうとしても、駄目だ。虚しく口が動くだけ。
<……うっ……>
 吸い込まれ、転がされる。
 反応しようとする。
<……駄目だっ……こらえろっ……こらえるんだ……>
 嬲られる。ゆっくりと、弄ばれる。
 うつ伏せにされ、背後からのしかかる影。
<……レイプされるっ……>
 恐怖で震える。
<……ありえないっ……> 
 屈辱で震える。
<……死にたいっ……>
 怒りで震える。
<……殺せ。殺してくれっ……>
 ――なぜ、こんな目に……なぜだっ……。
 口惜し涙がキラッ。
 キラッ。
 ――あの時……。
 そう、あの時、すんなり警察に届ければ良かった。でも、一瞬ためらうものがあった。尊敬する先輩の古賀。医師としても最高だし、人格も性格も最高だ。どうしても、殺人者という言葉と結びつかない。
古賀先輩に直接確かめよう。もし、河合好恵のいう通りなら、いさぎよく自首して貰おう。必ず、説得してみせる。
そう思ったのが間違いだった。

「なんだい、大事な話って?」
 古賀、シャワーを浴びたばかりの爽やかな顔で微笑んだ。
 ベージュのガウンが、ハーフっぽい彫りの深い美顔によく似合う。いかにも高級そうなコロンの香りに、酔いそうになる。
 意気込んで古賀のマンションをたづねたものの、出鼻を挫かれた感じだった。
「宙美さんのことなら、大丈夫だよ。さっき、クルマでお宅まで送ってあげた時も、すっかりリラックスしていた。明日の結婚式、じゃがいも畑の散歩だとおもえばいいよねって。いざとなると、ピシッと度胸が据わるところは星子ママそっくりだ」
 古賀、目を細めるように微笑んだあと、ふと真顔になった。
「幸せにしてあげるから、宙美さんを。僕がそばにいる限り、きっとね。まかせておけよ。いいね?」
「……」
 古賀の暖かな視線には、患者の不安を和らげる麻酔のような効果がある。
 その視線に気持ちが萎えかけたが、何とか払いのけて、ケータイを付きつけた。
「見て欲しいものが、あるんです」
「ん?」
 古賀と山田の痴態の写メールを、次々と見せていく。
 一瞬、古賀の表情が凍りつき、血の気が失せた。
「説明して頂けますか」
「……誰が、こんなものを……」
「山田君の死因も、本当は他殺じゃないかって。どうなんですか? 先輩!」
「……」
 古賀、顔をそむけると、サイドボードの前へ行き、木彫りのケースからタバコを取り出して火をつけた。
「病院じゃ禁煙だけどね、佐々木教授からも厳しくいわれているし」
 そう、チームトップの佐々木教授は、医者の人格、生き方にもうるさい人だ。古賀はチームでも優等生で佐々木教授の信頼も厚かった。
「ま、自分でいうのも変だが、点数稼ぎってことかな。教授に睨まれたら、僕の将来もないしね」
 古賀、肩をすくめながら旨そうに紫煙を吐くと、ふいに星丸を見据えた。
「看護師の河合好恵だね」
「え?……」
「写メールを送ってきた相手さ。ついでに、僕のことでいろいろと君に告げ口をしたんだろうな」
「……」
「いいんだよ、答えなくても。ちゃんと、わかってるから。カノジョ、僕に以前からストーカーまがいのことをしていたんだが、今回、宙美さんと結婚すると知って、こんなろくでもない写真をでっち上げ、ぶち壊そうとしたのさ」
「でも……」
「カノジョ、君を愛してるからやったことだって、そういわなかったかい?」
「……」
 たしかに、そういわれた。
「やっぱりね。大人しい顔に似合わずとんだ悪女だよ。君のまっさらな性格を利用して、君を騙そうなんて。許せないな、まったく!」
「……」
 ほんとだろうか。ケータイから聞こえてきた河合好恵の声は、とても芝居しているとか、星丸をだまそうとしているようには思えなかった。
「そうか、すんなり納得は出来ないか。ま、無理もないな。君の本心ってヤツもあるだろうし」
「本心?」
「そう、正直いえば、君は宙美さんを結婚させたくない。いつまでも、一緒にいたい。もっと、はっきりいえば、宙美さんを自分の妻にしたい……だろ?」
「そんな!」
「いいのいいの、君ら兄妹は特別に仲が良かったしね。恋人気分になっても、おかしくはないさ」
「!……」
「おや、汗をかいてるぞ」
 星丸、あわてて顔の汗をぬぐった。
「じゃ、こうしよう。河合君をここへ呼んで、はっきりと聞いてみようじゃないか。それどうだ?」
「……あ、はい……」
 星丸、かすれた声で答えた。
 そう、それが一番いい。
「じゃ、僕がカノジョに電話するから、君はここで待っていてくれ。そうそう、喉が渇いたろう。僕も湯上りに一杯やりたいし、美味しいカクテルでも作ろうか」
「あ、いいです、そんな……」
「遠慮するなよ、兄弟の杯さ」
 古賀、にっこりと笑うと、カクテルコーナーに入って、なにやらカクテルを作りだした。
 正直のところ、緊張しっぱなしで喉もからからだ。河合看護師がくるまで、一休みするか。 
 そう思って、古賀の作ったカクテルに口をつけた。
 ――それが、失敗だった。
 グラスを干して間もなく、急に眠くなりソファに崩れた。そのあと、どれくらい時間が経っただろう。気がついた時には素っ裸の状態でベッドに寝かされていた。しかも、ベッドの回りには赤いローソクが何本も囲むように立てられ、妖しげな炎を上げている。そして、傍らには、なんということだ、全裸の古賀が彫像アポロンのように立っていた。
「!……」
 なんの真似だ! どういうことだ!
 大声で叫び、起き上ろうとしたが、声は全く出ないし、体もびくとも動かない。どうやら、カクテルに何か薬品が混入されていたらしい。
「美しい、なんて美しいんだ、君は」
 古賀、なんとも淫らな目で星丸の体を舐めるように見た。
「僕が手に入れた最高の恋人だよ」
「!……」
「今から、結婚式をはじめよう。僕と君のね」
「!……」
「そう、僕の本当の結婚相手は君さ。宙美君はあくまでカモフラージュのための花嫁だ。僕は女を愛したことも、抱いたこともない。女なんて、不潔で淫乱でおぞましい生き物だ。唾棄されるべき存在だよ!」
 古賀の目には、憎悪の炎のようなものが光った。
「僕が宙美君との結婚を決めたのは、二つの理由がある。一つは、佐々木教授に気に入られるためだ。宙美君を紹介してくれたのは、教授だからね」
 佐々木教授は、星子ママの友人だった。その縁で、宙美と古賀が知り合い、結婚へと進んだのだった。
「そして、第二の理由は君だ。僕は、はじめから君を狙っていた。かたちだけでも宙美君と結婚すれば君にもっと近づける。そうなれば、君を恋人にするチャンスも増える。そう思っていたが、なんと、君のほうから僕の胸に飛び込んできたってわけだ。嬉しいよ、感謝するよ。さぁ、今から結婚式をはじめよう」
 古賀、ラジカセのリモコンを操作した。すると、ラジカセから、ワグナーの結婚行進曲が甘美な旋律をかなではじめた。
「愛しているよ、君を、永遠に」
 そうつぶやきながら、古賀の裸身がベッドに滑り込み、星丸の裸身をやさしく抱きしめた。
「今から、僕と君は一つになる。一つになり、激しく燃え上がるんだ」
 音楽に合わせて、細くて白いしなやかな指先が、星丸の体をゆっくりと滑り、唇がそっと這う。
 古賀の声が、やさしく囁く。
「僕が、君に無上の快楽を教えてあげる。女と交わる歓びよりも、はるかに高い歓びをね。君は、すすり泣き、声を上げ、もだえ、のたうち、そして、あまりの快楽に気を失い、さらに、夢の世界を漂いながら何度ものぼりつめる。高く高く天界の果てまで。ああ、いとしい人、僕の、いのち……」
 愛撫する。
 舐める。
 噛む。
 咥える。
 吸う。
 這う。
 ……。
<……負けては、駄目だ……負けるな……>
 必死に、こらえる。
 でも、もう、限界だ。
<……オレは、死ぬ……死ぬしかない……>
 涙が、あふれる。
<……宙美……宙美!……>


                         (つづく)



追記 うはっ、どうしてこういう展開になるんだ! 星丸や宙美に悪いじゃないか! ハンセイしろ!
 って、ま、こういうハードっぽい話だからこそ、星丸や宙美が勤まるのかも知れない。兄妹関係ながら兄妹以上の想いの二人。そこに、僕も予期しなかった世界があるのかな。
 ロマンチックな星子シリ−ズとはかなり離れてしまったけど、もうしばらく、楽しんでみます。スンマセン、見逃して下さい。

             5

「……」
 星丸、ケータイの画面から視線をそむけた。とてもじじゃないが、まともには見られない写真だ。
 尊敬する古賀先輩が、しかも、可愛い妹の宙美のダンナさまになってくれる人だ。その古賀さんが、男ナースの山田とボーイズラブを……信じられない、古賀先輩に限って、絶対にあり得ない、絶対に!
 人違いか、それとも、細工されたものじゃないのか。そうであって欲しい。
 でも、河合好恵が送ってくれた写メールは一枚だけじゃなかった。他にも、夕暮れの海岸で古賀先輩と山田が抱き合っている写真とか、キスしている写真など何枚もあった。
「古賀先生が付き合っていたのは、山田さんだけじゃないんです」
 河合好恵の声が、ケータイから聞こえてきた。
「他にも、何人も……ゲーバーの男の子とか、製薬会社の営業の人とか、医大の学生さんとか……」
「……」
「でも、その中で山田さんが一番、古賀先生のことを……でも、その先生が結婚するとわかって、先生と大喧嘩に……山田さん、泣きながらこういってました。絶対に、結婚させない、みんなに僕達のことをばらしてやるって……その日の夜遅くです、山田さんが死んだのは……」
「……」
「きっと、古賀先生が口封じのために山田さんを……きっと、そうです!」
「……」
「そんな恐ろしい人が、妹さんの御主人になるなんて……あたし……」
「や、やめろ!」
 星丸、声を震わせながらいった。
「もう、たくさんだ! 聞きたくない! 僕には、信じられない!君の話もこの写真も、みんな、出鱈目だ。きっと、そうだ!」
「先生っ」
「それより、君、自分が何をいってるのか、なにをやっているのか、わかっているのか! 人をそしり、おとしめようなんて、人間として最低のことじゃないか。そうだろう!」
「……」
「おい、君! 聞いてるのか! 河合君!」
「……愛してますっ……」
「なに?」
 ケータイから、河合好恵のすすり泣く声が聞こえた。
「あたし、美空先生のこと、ずっと以前から……大好きでした。死にたいくらい……」
「君っ」
 思いもかけない告白に、星丸、茫然となった。
「あたしを嫌ってもいい、無視しても構いません……どうせ、先生には不釣り合いな女ですから……でも、先生のことを想う気持ちに嘘は絶対に……ほんとです、信じて下さい……だから、先生の妹さんが不幸になるのを、みすみす黙っていられなくなって、古賀先生のことを調べていたんです……それだけですから!」
「君……」
「ごめんなさい、もう、二度とこんなことしません、許して下さい……許して……」
 そういって、好恵の電話は切れた。
「……」
 急に息苦しくなって、星丸、窓の前に走った。
 窓を一杯に明け放って夜風に当たっているうちに、やっと五感が戻ってきた感じだ。
 ――河合好恵のいっていたことも、送られてきた写メールも、すべて本当だ。間違いない……。
 そうなると、結論は一つしかない。
 宙美を、結婚させてはいけない! 人殺しなんかと、絶対に結婚させるわけにはいかない!
 星丸、キッと顔を上げた。
 ――でも、どうやって? 宙美はあんなに古賀を愛している。それに、パパやママだって、いや、みんながこの結婚を祝福してくれているんだ。
 どうする? どうしたらいいんだ?
 どうしたら!

                        (つづく)


追記 いやはや、もう、なんともおぞましいことに。続きを書くのが、恐ろしいです。 
 

              4

「……明日の結婚式をやめさせろって、そんな……」
 星丸、ケータイを握り締めたまま、一瞬、立ちすくんだ。
「り、理由は……一体、どういうことなんだ!」
「……」
 星丸の激しい口調におびえたのか、看護師の河合好恵の声は途切れた。
「もしもし、ごめん、大きな声を出したりして。あやまる」
 星丸、なんとか気持ちを押さえた。
「とにかく、わけをいってくれないか? な、河合君」
「……ええ……すいません、急にこんなこと……」
 好恵の声も、少し落ち着きを取り戻した感じだ。
「あのぅ、先月亡くなった山田さんのことですけど……」
 山田は、外科病棟の新人男性ナースだった。歳は星丸より二つ年下で、顔立ちも体格も小柄で女の子のように華奢だったし、患者からは女性ナースと間違えられることがよくあった。
 でも、仕事はまじめだし、性格もいいし、みんなに可愛がられていた。ところが、ほぼ一月前、夜勤の無理がたたって過労死してしてしまった。
「ほんと、気の毒だったよな。で、その山田君のことでなにか?」
「……違うんです……」
「違うって?」
「山田さん、過労死なんかじゃ……もしかすると、薬とかで殺されたかも……」
「な、なんだって?」
 星丸、憮然となった。
「でも、あの時は、古賀先生が駆けつけて、ちゃんと山田君を診たあと、死亡宣告をしたんだぜ。先生の判断に間違いはないさ」
「……」
「悪いけど、電話を切るよ。今、忙しいから」
 星丸が通話を切ろうとした瞬間、
「でも、あたし、見たんです!」
 叫ぶような声が、ケータイから流れた。
「古賀先生と山田さんが喧嘩しているところを……」
「喧嘩? 山田君が叱られていたんじゃないのか」
「違います、ほんとに喧嘩していたんです。それも、別れるとか、嫌いになったとか、秘密をばらすとか……そんな理由で……」
「お、おいっ」
 星丸、カッとなった。
「バカいうな! そんな会話が成立するわけないだろ! 古賀先生と山田君は、男同士だぞ! 分かれるとか、好きとか……」
「でも、恋人関係なら、おかしくないです」
「こ、恋人関係?」
 星丸のケータイを握る手が、怒りで震えた。
「君! 何の恨みがあって、そんなひどいことをいうんだ。聞かなかったことにするから、素直に謝りたまえ! 早く!」
 謝るどころか、もっと、恐ろしい声が聞こえてきた。
「あたし、写真を撮ってるんです。以前、古賀先生と山田さんが一緒にラブホテルに入るところを……」
「な、なにっ?」
「今から、送ります」
 じきに、メールで写真が数枚送られてきた。
 バカバカしい、どうせいやがらせだろう、宙美と古賀の結婚を妬んでのことかも知れない。そう思いながら写真を見た。一瞬、星丸の顔から血の気が引いた。
 写真には、ラブホテルの駐車場に停めた車から古賀と山田が降り立ち、抱き合うように玄関へ向かう姿が何枚も写っている。
「!……」
 星丸、頭の中が真っ白になって、崩れるように座った。


                      (つづく)



追記  なんか、予想もしない方向へ話が転がっていくようです。だ、誰か、止めてくれ! 




 

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