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「だ、ダメよっ、こっちへきては駄目!」
星子、大声で叫んだ、つもり、でも、喉にからんで声にならない。玄関へ走った、つもりが、体が固まってしまってまったく動かなかった。
双子わらし、不気味に笑いながら、ゆったりと浮かんでいる。二人とも、手をのばして、星丸と宙美が入ってきたら、すかさず飛びかかるつもりらしい。
<ああ、もう、サイアク。どうにも出来ないっ>
星子の目に、涙が浮かんだ。可愛い我が子の星丸と宙美をみすみす見殺しにするなんて、そんなことになったら、生きていられない。
――こないで、お願いだから……きては駄目、お願い……。
泣きながら祈っているうちに、リビングのドアのノブがガチャリと回った。
双子わらしも、さっとドアの前に飛んだ。
ああ、もう、おしまい。
すっとドアが開いて、入ってきた瞬間、双子わらしが飛びかかった、と、思ったら、青白い光がパッとひらめき、双子わらしはキャッと悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
「?……」
な、なんと、入ってきたのは宙太だった。
「宙太さんっ」
星子が叫ぶと、その声が自分にもはっきりと聞こえた。体のほうもしばりが取れて、自由に動く。
「ハイ、ハニィ!」
宙太、ニカッと微笑みながら星子に駆け寄り、抱きしめた。
「大丈夫かい?」
「ええ」
星子、ホッとしながら宙太を見上げた。「でも、どうしてここへ?……」
「春ちゃんに君のことは頼んでいたけど、やっぱり、気になってさ。座敷わらしの話、本当だったんだね。いやぁ、間にあって、よかった」
そういうことでしたか。やっぱり、宙太さん。しっかり星子のことを気にかけてくれているんだ。
「それで、星丸くんと宙美ちゃんは?」
「玄関で待たせているから」
よかった、それなら、安心だ。
星子、倒れている春之介のところへいって、「春ちゃん、しっかりして!」と、肩をゆすった。
春之介、ふぅーっと息を吐いて目を開けた。
「あ、星子ちゃんっ……」
「大丈夫、春ちゃん?」
「ええ」と頷いた春之介、宙太に気づいて、
「宙太さん……きてくれたの!」
「よくお休みでしたね。可愛い寝顔だったぜ」
宙太、ニヤリと笑った。
「んもぅ」
春之介、口をとがらしたあとで、ハッと起き上った。
「双子わらしは!……」
「あちらで、お昼寝中さ」
そういいながら、宙太、顎をしゃくった。リビングの中空には、薄くなった光の渦の間に、双子わらしがぐったりとなった姿でただよっている。
「どうして、やっつけることが出来たの?」
「こいつの、おかげさ」
宙太、手にした金属製の細い棒を見せた。「スタンガン警棒なんだ」
「!……」
宙太さんが、そんな特殊な警棒を持っていたとは。捜査一課では、危険な任務を担当してるし、当然かもね。
「でも、ほんとに、これがお化けチャンたちにも効くとはね。もしかして、超常現象と電磁波が関係あるのかもって、とっさに考えたわけでさ」
「さすがね、宙太さん」
頷いたあとで、春之介、キッと双子わらしを睨みつけた。「ね、宙太さん、だったら、もっと電磁波を浴びせれば、こいつら、バラバラになって死んじゃう、あ、霊魂が死ぬわけないか、つまり、砕け散ってなくなっちゃうかもよ」
「うん、かも知れないな」
「だったら、こいつらが目を覚まさないうちに、すぐはじめて頂だい。さ、宙太さん!」
春之介が宙太を促したところへ、
「ちょっと、まって!」
「待って、パパ!」
星丸と宙美が、飛び込んできた。
「あっ」
星子、あわてて二人の前に走った。いくら、双子わらしがぐったりしていても、星丸や宙美を見たら、襲いかかるかも知れない。
「戻って! 早く、出ていって!」と、必死になって二人をリビングから押し出そうとしたけど、
「平気、平気、ママ」
「大丈夫だから、ママ」
星丸も宙美も、星子をなだめるようにいったあとで、双子わらしを見た。
「カワイイっ」
「ほんと、可愛いや、こいつら」
「ちょっと、なにいってるの!」
春之介、二人にいった。「この双子わらしはね、迷子になってこの家に住みついた挙句、あなたたちを殺して星子ちゃんを自分達のママにしようとしたのよ!」
「やるぅ」
「もてるんだ、ママって」
星丸も宙美も、ニコニコと微笑んでいる。
「ちょ、ちょっと、あなた達!」
「なに、そのいいかた」
「おいおい」
あきれ顔の星子や宙太、春之介に、
「だったらさ、スタンガンで消しちゃったら、余計、かわいそうだよ」
「そうよ、ママとはぐれて寂しいんでしょ。だったら、見つかるまでここに居させてあげれば」
「うん、賛成だな。座敷わらしが住む家には、幸せがくるっていうしさ」
「やったね、お兄ちゃん」
星丸と宙美、にっこりと笑った。
「まいったね、もう」
宙太と星子、顔を見合って苦笑した。
「確かに、それもありかな、ね、ママ」
「そうね」
「ちょっと、宙太さん、星子ちゃんっ」
「いいから、春ちゃん、こっちが恐がって追い出そうとするから、双子わらしも悪さをするんだよ。家族同様に仲良くしてやれば、きっと、民話に出てくる座敷わらしのようにいい子でいてくれるはずさ。な、星子ママ、そう思わないか」
「ええ、そうね、宙太パパのいうとおりだわ。家族になれば、いいのよね」
星子と宙太、にっこりと微笑んだ。
すると、星丸と宙美も、
「おもしろいね、座敷わらしと家族なんて」
「双子の兄妹が、もう一組増えるわけね。やったぁ」
と、これまた、にっこり。
「んもぅ、あなた達ったら! どうかしてるわ! 付き合いきれない!」と、春之介、憤然と出ていこうとした。
瞬間、その前に星丸と宙美が立ち塞がった。
「ダメダメ、付き合いなさい、春ちゃんも家族の一人なんだから」
「え?」
「そうさ、春ちゃんも、マサルさんも、ゲンジロウさんも、右京さんも、左京さんも、小次郎さんも、あ、ゴンベエも、みんな、家族でーす!」
「……星丸くん、宙美ちゃん……」
春之介の目に、ウルルッ、涙が……。
「よして、そんな優しい言葉……春ちゃん、泣いちゃうから……」
「あ、久しぶり、そのセリフ。ね、宙太さん」
「うん、だよね」
微笑む、星子と宙太。
はい、目出度し、めでたし。双子わらしを加えた星子&宙太の家族は、今までにも増して、賑やかに、楽しく、幸せに暮らしましたとさ。
これにて、一巻のおわり、でございます。
といいたいところだけど、なんと、翌朝、星子たちが目覚めた時、双子わらしの姿はこの家から消えていた。そして、テーブルの上には、一枚の書置きが残されていた。
「ありがとう、ぼくらを家族にむかえてくれて。ほんとは、いつまでもいたいけど、やっぱり、ほんとのママをさがしにいきます。ぼくらがいなくても、この家は福のカミサマがいつも宿ってくれるはずです。では、お元気で。さようなら。
最後に、ひとこと。やっぱり、家族って、いいな」
(おわり)
追記1 難航しましたが、なんとか終わることが出来ました。お付き合い、有難うございました。
追記2 本日、スケジュール通り、web星子の七作目「夢ハネムーンはキングの罠」が発信されました。よろしくです。
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