星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

星子のショートホラー

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            7

「だ、ダメよっ、こっちへきては駄目!」
 星子、大声で叫んだ、つもり、でも、喉にからんで声にならない。玄関へ走った、つもりが、体が固まってしまってまったく動かなかった。
 双子わらし、不気味に笑いながら、ゆったりと浮かんでいる。二人とも、手をのばして、星丸と宙美が入ってきたら、すかさず飛びかかるつもりらしい。
<ああ、もう、サイアク。どうにも出来ないっ>
 星子の目に、涙が浮かんだ。可愛い我が子の星丸と宙美をみすみす見殺しにするなんて、そんなことになったら、生きていられない。
 ――こないで、お願いだから……きては駄目、お願い……。
 泣きながら祈っているうちに、リビングのドアのノブがガチャリと回った。
 双子わらしも、さっとドアの前に飛んだ。
 ああ、もう、おしまい。
 すっとドアが開いて、入ってきた瞬間、双子わらしが飛びかかった、と、思ったら、青白い光がパッとひらめき、双子わらしはキャッと悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
「?……」
 な、なんと、入ってきたのは宙太だった。
「宙太さんっ」
 星子が叫ぶと、その声が自分にもはっきりと聞こえた。体のほうもしばりが取れて、自由に動く。
「ハイ、ハニィ!」
 宙太、ニカッと微笑みながら星子に駆け寄り、抱きしめた。
「大丈夫かい?」
「ええ」
星子、ホッとしながら宙太を見上げた。「でも、どうしてここへ?……」
「春ちゃんに君のことは頼んでいたけど、やっぱり、気になってさ。座敷わらしの話、本当だったんだね。いやぁ、間にあって、よかった」
 そういうことでしたか。やっぱり、宙太さん。しっかり星子のことを気にかけてくれているんだ。
「それで、星丸くんと宙美ちゃんは?」
「玄関で待たせているから」
 よかった、それなら、安心だ。
星子、倒れている春之介のところへいって、「春ちゃん、しっかりして!」と、肩をゆすった。
 春之介、ふぅーっと息を吐いて目を開けた。
「あ、星子ちゃんっ……」
「大丈夫、春ちゃん?」
「ええ」と頷いた春之介、宙太に気づいて、
「宙太さん……きてくれたの!」
「よくお休みでしたね。可愛い寝顔だったぜ」
 宙太、ニヤリと笑った。
「んもぅ」
 春之介、口をとがらしたあとで、ハッと起き上った。
「双子わらしは!……」
「あちらで、お昼寝中さ」
そういいながら、宙太、顎をしゃくった。リビングの中空には、薄くなった光の渦の間に、双子わらしがぐったりとなった姿でただよっている。
「どうして、やっつけることが出来たの?」
「こいつの、おかげさ」
宙太、手にした金属製の細い棒を見せた。「スタンガン警棒なんだ」
「!……」
 宙太さんが、そんな特殊な警棒を持っていたとは。捜査一課では、危険な任務を担当してるし、当然かもね。
「でも、ほんとに、これがお化けチャンたちにも効くとはね。もしかして、超常現象と電磁波が関係あるのかもって、とっさに考えたわけでさ」
「さすがね、宙太さん」
 頷いたあとで、春之介、キッと双子わらしを睨みつけた。「ね、宙太さん、だったら、もっと電磁波を浴びせれば、こいつら、バラバラになって死んじゃう、あ、霊魂が死ぬわけないか、つまり、砕け散ってなくなっちゃうかもよ」
「うん、かも知れないな」
「だったら、こいつらが目を覚まさないうちに、すぐはじめて頂だい。さ、宙太さん!」
 春之介が宙太を促したところへ、
「ちょっと、まって!」
「待って、パパ!」
 星丸と宙美が、飛び込んできた。
「あっ」
 星子、あわてて二人の前に走った。いくら、双子わらしがぐったりしていても、星丸や宙美を見たら、襲いかかるかも知れない。
「戻って! 早く、出ていって!」と、必死になって二人をリビングから押し出そうとしたけど、
「平気、平気、ママ」
「大丈夫だから、ママ」
 星丸も宙美も、星子をなだめるようにいったあとで、双子わらしを見た。
「カワイイっ」
「ほんと、可愛いや、こいつら」
「ちょっと、なにいってるの!」
春之介、二人にいった。「この双子わらしはね、迷子になってこの家に住みついた挙句、あなたたちを殺して星子ちゃんを自分達のママにしようとしたのよ!」
「やるぅ」
「もてるんだ、ママって」
 星丸も宙美も、ニコニコと微笑んでいる。
「ちょ、ちょっと、あなた達!」
「なに、そのいいかた」
「おいおい」
 あきれ顔の星子や宙太、春之介に、
「だったらさ、スタンガンで消しちゃったら、余計、かわいそうだよ」
「そうよ、ママとはぐれて寂しいんでしょ。だったら、見つかるまでここに居させてあげれば」
「うん、賛成だな。座敷わらしが住む家には、幸せがくるっていうしさ」
「やったね、お兄ちゃん」
 星丸と宙美、にっこりと笑った。
「まいったね、もう」
 宙太と星子、顔を見合って苦笑した。
「確かに、それもありかな、ね、ママ」
「そうね」
「ちょっと、宙太さん、星子ちゃんっ」
「いいから、春ちゃん、こっちが恐がって追い出そうとするから、双子わらしも悪さをするんだよ。家族同様に仲良くしてやれば、きっと、民話に出てくる座敷わらしのようにいい子でいてくれるはずさ。な、星子ママ、そう思わないか」
「ええ、そうね、宙太パパのいうとおりだわ。家族になれば、いいのよね」
 星子と宙太、にっこりと微笑んだ。
 すると、星丸と宙美も、
「おもしろいね、座敷わらしと家族なんて」
「双子の兄妹が、もう一組増えるわけね。やったぁ」
 と、これまた、にっこり。
「んもぅ、あなた達ったら! どうかしてるわ! 付き合いきれない!」と、春之介、憤然と出ていこうとした。
 瞬間、その前に星丸と宙美が立ち塞がった。
「ダメダメ、付き合いなさい、春ちゃんも家族の一人なんだから」
「え?」
「そうさ、春ちゃんも、マサルさんも、ゲンジロウさんも、右京さんも、左京さんも、小次郎さんも、あ、ゴンベエも、みんな、家族でーす!」
「……星丸くん、宙美ちゃん……」
 春之介の目に、ウルルッ、涙が……。
「よして、そんな優しい言葉……春ちゃん、泣いちゃうから……」
「あ、久しぶり、そのセリフ。ね、宙太さん」
「うん、だよね」
 微笑む、星子と宙太。
 はい、目出度し、めでたし。双子わらしを加えた星子&宙太の家族は、今までにも増して、賑やかに、楽しく、幸せに暮らしましたとさ。
 これにて、一巻のおわり、でございます。
 といいたいところだけど、なんと、翌朝、星子たちが目覚めた時、双子わらしの姿はこの家から消えていた。そして、テーブルの上には、一枚の書置きが残されていた。
「ありがとう、ぼくらを家族にむかえてくれて。ほんとは、いつまでもいたいけど、やっぱり、ほんとのママをさがしにいきます。ぼくらがいなくても、この家は福のカミサマがいつも宿ってくれるはずです。では、お元気で。さようなら。
最後に、ひとこと。やっぱり、家族って、いいな」

                         (おわり)


追記1 難航しましたが、なんとか終わることが出来ました。お付き合い、有難うございました。

追記2 本日、スケジュール通り、web星子の七作目「夢ハネムーンはキングの罠」が発信されました。よろしくです。

            6

「ん、ママからメールが?」
 星丸、広げた医学書から目を上げて宙美を見た。
 昼休みの校庭は、バスケをしたり、ふざけっこをしたり、談笑する生徒達でいっぱいだ。
その片隅の木陰のベンチで星丸が医学書を読んでいるところへ、宙美が声をかけてきたのだった。
「だって、珍しいんだもん、学校にいる時にママがメール寄こすなんて」
 そういいながら、宙美は携帯電話を握り締めた。
珍しいのは、宙美も同じだ。いつもなら学校ではほとんど星丸に声もかけず視線も合わさないのに、わざわざ自分から会いにくるなんて珍しいことだ。
「で、なんだって、ママ?」
「うん、今日はゆっくりしてきていいって。時間を気にしないでって。日頃、あんなにうるさいママがよ」
 そう、いつもは門限にはうるさい星子だった。
「そりゃ、助かるよね、ほんとはアツコたちから学校の帰りに原宿にいこうって誘われてたし。でも、ちょっと気になっちゃって……」
「……」
「なによ、お兄ちゃん、黙っちゃって」
「あ、いや、僕も同じようなメールを貰ってるから」
「お兄ちゃんも?」
 星丸、自分の携帯電話を取り出して、宙美に見せた。メールの画面には、「今日は予備校も休みでしょ。たまには、息抜きに映画でも見てきたら。」と書かれている。
「へんなの、合格するまでは映画禁止っていってたのにね」と、宙美、首をすくめた。
 じつは、星丸、映画が大好きだ。でも、難関の国立医大に合格するまでは禁止よと星子ママにいわれている。ほんとは、星丸の偏差値なら遊んでいても合格間違いないのだが。
「で、見に行くわけ、映画?」
「そう思ったけどね……」
「気になる、でしょ?」
「うん」
「やっぱり、おかしいよ、お兄ちゃん、なんかヘンだよ」
「……」
 星丸と宙美、不安そうに顔を見合った。
 ――その頃……。
「ね、星子ちゃん、いいの?」と、春之介、星子に小声でいった。
「なにが?」
「だから、宙太さんにメール……やっぱり、知らせておいた方がいいんじゃないの?」
「うん、でもね、今、大きな事件を抱えてるし、家のことで心配させたくなのよ。それに、春ちゃんがいてくれるしね」
 星子、春之介の手をそっと握った。
「そうか、そういわれるとね」
 春之介、星子の手を握り返すと、「じゃ、そろそろ、除霊をはじめますか」
「お願い」
 星子、すがるようにいった。
 可愛い我が子、星丸と宙美を救い、我が家の平和を取り戻すためにも、一刻も早く、あの双子の迷子わらしをこの家から追い出さなくてはいけない。
 春之介、カーテンを降ろした暗い部屋の中央のテーブルの上に水晶玉を置いた。そして、その回りにトゲだらけの薔薇の太い蔓を何重にも這わせ、その間に太い絵ろうそくを何本も挿して灯をつけた。赤く燃え上がったローソクには、薄気味の悪いトカゲや蛇、サソリ、ゲジゲジ、ネズミ、蛾などが浮かび上がった。
 部屋の隅で見ているだけでも、気分が悪くなってくる。
 つづいて、春之介、香炉を取り出して、灰に火をつけた。すると、硫黄の匂いの混じった生臭くて刺激臭の強い煙りが部屋中に立ち込めていく。
 星子、吐き気がして部屋から出ようとした。すると、春之介が、無言のまま星子を制して、椅子へ戻れと促した。たしかに、迷子わらしは星子を自分の母親と思いこんでいる。誘い出すためには、星子がいる必要があった。
星子、仕方なくソファに座りなおした。
すると、春之介、真っ黒いマントをすっぽりとかぶり、真っ黒な手袋をはめると、水晶玉に差し出して、なにやら呪文を唱え出した。
いつもの明るくて楽しくてやさしくて、ちょっぴりピントのずれた春ちゃんとは思えない、妖気に包まれた異様な姿だ。星子、茫然と見つめた。
どれくらい時間がたっただろう、水晶玉の中心部に青白い火花がチカチカときらめきはじめ、やがて水晶玉全体が強い光りを放ちながら回り出した。すると、立ち込めた煙が渦を巻き、部屋の中を大きく回転しはじめた。
その渦の中から、子供のうめき声とも泣き声ともつかない気味の悪い声が聞こえてきて、渦巻く煙の中に半透明に光る子供が二人、浮かび上がった。
双子の迷子わらしだ。
苦しそうにもがきながら、何か叫んでいる。
「……ママ……」
「……ママ、助けて……」
そう、二人が呼んでいるのはママの名前だ。星子のほうに顔を向け、手を差し出して、「ママ、助けて!」、「ママ!」と、泣き叫んでいる。
 星子、見ているうちにつらくなってきた。
「春ちゃん、もう、やめて……かわいそうよ、お願いだから……ね、春ちゃんぅ」
 でも、春之介はやめようとしなかった。
「星子ちゃん、二人の目を見ては駄目。どんなに泣かれても、絶対に駄目よ。いいわね!」
「春ちゃん……」
 そう、ここでへんに同情なんかしてはいけない。もしかしたら、双子わらしの悪だくみかもしれない。きっと、そうだ。
星子、いわれたとおりに目をそむけた。
 でも、双子わらしの苦しそうな泣き声は、さらに高まっていく。
「ママ、助けて! 苦しいよっ」
「お願い、ママ、助けて!」
「ママ! 僕たちを見て!」
「ママ! こっちを見て、おねがい!」
「ママ!」
「ママ!」
 二人の声に、星子、今にも頭がおかしくなりそうだ。耳を押さえ、うずくまり、なんとか耐え続けた。
 そのうち、双子わらしの声はしわがれた老人の声に変わり、切り裂かれるような悲鳴とうめき声をあげていく。
 星子が恐る恐る目をやると、双子わらしは目がつり上がった恐ろしい形相になり、ヒヒヒッ、ケケケッとざらつくような笑い声を上げ始めた。
「ふっ、俺たちを追い出せると思ってるのかい」
「そんな除霊がきくもんか。こっちは、からかってやっただけさ」
「そーら!」
 双子わらしがパッと両手を差し出すと、水晶玉はガシャッと砕け飛んだ。そして、春之介の体はふっとんで壁に叩きつけられ、そのまま、崩れ倒れた。
「は、春ちゃんっ」
 星子、茫然と立ちすくんだ。
 すると、その前に双子わらしがスーッと舞い降りてきた。
「ママ、どうして僕たちを追い出そうとしたんだい?」
「そんなに邪魔なわけ、あたしたちが?」
 双子わらし、恐ろしい目で星子を睨みつけた。でも、その目にはどことなく涙のようなものが光っている。
「……あ……」
 星子、必死に気持ちを話そうとした。でも、口は動かないし、体も金縛り状態になっている。
「だったら、僕たちが入れ替われるだけさ。星丸と宙美を呪い殺して、僕たちが代わりの子供になればいいわけだ」
「そういうことね」
 双子わらし、不気味に微笑んだ。
 ――ああ、やっぱり、春ちゃんの心配した通りだった。星丸くんと宙美ちゃんに遅く帰るようにメールしておいてよかった。ほんとに、良かった……。
 あとは、なんとかわたしの手で双子わらしを追い出そう。それしかない。
 星子、そう心に決めた瞬間だった。
「ママ、ただいま!」
「ママ、帰ったけど」
 玄関から、星丸と宙美の声が聞こえてきた。
「!……」
 
                          (つづく)


追記1  お目ざわりだったでしょう。あと一回ほどで終わる予定です。ご容赦下さい。


追記2  星子の「聖地巡礼」、やっぱり、スタートは長崎ですよね。その昔、第一話をアニメ化した時も、星子と長崎の街の風景が良く似合っていましたっけ。今度は、平戸とか五島列島のほうにも足をのばしてみたいです。星子にぴったりの風景がたくさん見つかるんじゃないのかな。
 そうそう、星子「聖地巡礼」には、ぜひ、京都も。そして、札幌もぜひ。あららっ、どんどん増えていく。 
 

             5

「さぁ、飲んで、星子ちゃん」
 春之介、カップに注いだコーヒーを星子の口元へ持っていった。
「……おいしい……」
 程良い熱さのブラックコーヒーが、星子の体じゅうに染み透っていく。おかげで、気持ちが落ち着いて頭の中もすっきりしてきた。
「今朝早く、宙太さんから電話があってね、あなたの様子を見に来てくれないかって」
「そう……」
 やっぱり、マイダーリン宙太さんだ。相手にされないと思っていたら、しっかり心配してくれていたわけね。
「つらかったでしょ、宙太さんや星丸クン、宙美ちゃんたちに分かって貰えなくて」と、春之介、いたわるように星子を見つめた。
「……ええ……」
「でも、あなたの幻覚とか錯覚じゃないから。たしかに、この家にはおかしなものが住みついてるわ」
「わかる、春ちゃん?」
「ええ、玄関を入った時から感じたの、妖気みたいなものをね」
 春之介には、普通の人にはないテレパシーを感じる能力がある。「とにかく、あなたが体験したことを話してみて」
「ええ」
 星子、頷くと、昨日からこの家で起きた気味の悪い出来事を詳しく話して聞かせた。
「そう、男の子と女の子が……そういうことだったの……」
 春之介、声をひそませると、あたりへ目を配った。「今はおとなしくしているけど、どこかでじっとあたし達の様子をうかがってるはずよ」
「えっ」
 星子、ゾッとしてカップを取り落としそうになった。
「あ、ダメダメ、こわがっては。きっと、相手はそれが狙いかも、つまり、あなたを恐がらせることがね」
「わたしを? どうして?」
 星子、頬をこわばらせた。「恨んでるわけ、わたしを?」
「ううん、違うみたい」と、春之介。
「じゃ、嫌がらせ? それとも、からかってるとか?」
「そうとは思えないわ」
「じゃ、なによっ」
 だんだん、腹が立ってくる。
「もしかすると、あなたに甘えてるのかもね」
「甘えてる?」
 星子、憮然となった。「あれだけ、人をおどかしておいて、それはないわよっ」
  そうよ、だとしたら、許せないっ。
「まぁまぁ、そう怒らないで」
 春之介、なだめるように星子の手を握った。「迷子のわらしかも知れないから、堪忍してあげて」
「迷子の、わらし?」
 きょとんとなった星子に、春之介、頷いて見せた。「座敷わらしって聞いたことあるでしょ。東北の民話に登場する子供の精霊で、座敷わらしが住む家は栄えるっていわれてるの。その座敷わらしの仲間が、道に迷ってこの家に住みついたんじゃないかしら」
「迷うって、どこへいくつもりだったわけ?」
「きっと、母親のところよ」
「母親?」
「ええ、星子ちゃんによく似ている人、あ、亡霊かな」
 春之介、星子を見据えた。
「わたしに似てる亡霊? よ、よしてよっ」
「でも、他に考えられないわ。迷子わらしがここに居ついた理由も、あなたにしか見えない理由も、あ、もう一つ、あるわね」
「もう一つ?」
「迷子わらしは双子の兄と妹ってこと」
「えっ、じゃ、つまり……」
「そう、星丸くんと宙美ちゃんと同じカップルってわけ。これで、理由がすべて揃ったじゃない」
「!……」
 もう、茫然もいいとこ。
「だけど、そうなると、恐いことになりそうね」
 ふと、春之介の表情が曇った。
「え? なぁに、恐いことって?」
 星子が気になって尋ねると、春之介、星子の耳元に囁いた。
「迷子わらしは、あなたを自分たちの母親に……」
「そんな、まさか!」
「いいえ、いたずらをして甘えてるのがその証拠よ。ああんたを自分たちの母親にするつもりなのよ」
「でも、わたしは星丸や宙美の母親よっ」
「だから、恐いことになるかも知れないのよ」
「恐いこと?」
「ええ、星丸くんと宙美ちゃんは、迷子わらしにとって邪魔な存在だし……」
「だから?」
「う、うん……」
 春之介、口ごもった。
「はっきりいって、春ちゃんっ」
「……」
 春之介、ちょっとためらったあとで、口を開いた。
「星丸くんと宙美ちゃんが危ないってこと、つまり、殺されるかも……」
「!……」


                         (つづく)


追記  本日も、かなり寒かったですね。星子ホラーのほうも、ゾーッとなるような恐い、でも、ちょっと悲しいお話にしたいのですが……。

 
 

            4

――なんとも寝覚めの悪い朝なんだよね……。
 元健康優良児の星子、ほとんど毎日、バタンキュウ、寝床に入ったらすぐ爆睡状態。たとえ、どんなにハードな恋に悩んでいても、だった。
 ところが、今回だけはダメ。まるで眠れない。ベッドの中で宙太にしがみついていても、明かりをつけていても、テレビをつけっぱなしにしていても、やっぱりダメ。
部屋のどこかから、あの半透明の不気味な二人の子供の影が、吊り上がった真っ白に光る眼でこっちを見ているんじゃないか、そう思うと震えが止まらないし、恐怖で胃がおかしくなる。
 あ、もちろん、宙太さんにはいいましたよ。「ほら、そこにいる! 子供が二人、そこにいる!」って。
 でも、「え? どこに? いないよ、そんなもの」と、宙太、けげんそうに首をかしげた。
「なにいってんの! ほら、そこだったら! ケタケタ、フフフッて男の子と女の子が笑ってるじゃない!」
 星子がいくら必死に叫んでも、宙太にはわからない。そのうち、騒ぎを聞いて心配になったのか、二階から星丸と宙美が降りてきた。
「ね、あなた達には見えるわよね! そうでしょ?」と、星子。
 懸命に二人に訴えたけど、これもダメ。やっぱり、見えないみたい。二つの影もいつの間にか消えてしまい、家に中にはいつもの穏やかな静けさが戻った。
「やだ、ママったら。ホラー映画の見過ぎよね」
「この家に他の人間が住んでるわけがないさ」
「疲れてるんじゃないのかな。今度、休みが取れたら、気晴らしに温泉にでも行こうか」
「うん、それがいいね。でも、その前に一度、病院で見て貰ったら」
「ママ、明日の朝ごはん、あたしが支度するから、のんびり朝寝でもして」
 等など、宙太も星丸も宙美も、やさしく星子をいたわってくれた。家族って、ほんと有難い、なんて感涙にむせんでる余裕はないんです。
 でもって、結局、一睡も出来ずに夜が明けて、いつものように朝御飯の支度をはじめた。「あたしがやる」っていった宙美も、起きてこないしね。ま、そんなところだろうとは思っていたけど。
ああ、いつまたあの子供達の影があらわれるか、不気味な笑い声が聞こえるかわからない。そう思っただけで、気持ちがおかしくなってくる。
 朝ごはんの時も、「ね、宙太さん、星丸くん、宙美ちゃん、誰でもいいから、お願い、今日はママと一緒にいて。お願い」って、頼み込もうか、と思った。
 情けなや。あのカットビ少女の星子サン、意地と度胸とパワーで押しまくってきた星子姐がこの姿とは。
 しっかりせい、星子! ぬしは、この家を預かる主婦だろうが。一国一城の姫君様なんじゃ。オバケか、ユウレイか、ボルダーガイストか知らんが、ここから追い出さんか。わかったかいな!
だいいち、相手はたかが子供の亡霊じゃないの。こっちには、ゴンベエという頼りになるボディガードもいることだしね。
 そうしっかりと自分にいい聞かせると、どうにか気持ちも落ち着いてきた。
ということで、星子、
「いってらっしゃい、星丸くん」。「ママ、もう大丈夫よ、宙美ちゃん」。「愛してるわ、ダーリン」と、いつものように、双子ちゃんと宙太パパを送り出して、
「いざ、決戦モードじゃ!」
 エイエイオゥ,と、気合いを入れた時だ。
 二階で、フギャァ、ギャギャッ、と、ゴンベエの切り裂くような鳴き声が聞こえた。
 なんだろ? どうした、ゴンベエ?
 星子が気になって覗いたところへ、階段から何かがごろごろと転げ落ちてきた。一瞬、サッカーボールかと思ったけど、どてんと床に叩きつけられたのは、なんと、ゴンベエじゃないですか。
 それも、なんとも無残な姿……頭はトラ刈り、髭を切られ、目の回りには黒く墨が。ボディは真っ赤な色で塗りたぐられ、尻尾には洗濯ばさみがたくさん挟まれている。
「ゴ、ゴンベエ!」
 星子、あわてて抱き上げた。
「可哀想に、なんてひどいことを……」
 ゴンベエ、ぐったりして、見るからに哀れな姿だ。
「だ、誰がこんな……ね、ゴンベエ、誰にやられたの?」
 星子がゴンベエに聞いていると、頭上でキキキッ、ケケケッと笑い声がした。ハッと見上げると……、
い、いる!
半透明の男の子と女の子が……二階の薄暗い階段の手すりにまたがって、白く光る不気味な目でにやにや笑っている。
 星子、ゾーッとなったが、なんとか気合いを入れて、睨みつけた。
「あ、あんた達ね、ゴンベエをこんな目にあわせたのは! そうなのね!」
 すると、男の子と女の子がゆっくりと口を開いた。
「ああ、そうさ。だから、どうした」
「こんどは、あんたの番だよ」
 なんとも不気味な二人の声、それも子供の声じゃなくて、しわがれた老人の声だ。
 じきに、半透明の影は次第にはっきりとなって、マネキン人形のように可愛い顔の男の子と女の子の姿がボーっと暗がりに浮かび上がった。
二人とも、幼稚園のような紺色の制服を着て、赤いベレー帽をちょこんとかぶっている。
 でも、白い目はらんらんと異様に光り、真っ赤に開いた口の中には鋭い犬歯が二本づつギラッ、ギラッと光っていた。
その顔で、二人は低く笑いだした。
「フフフッ」
「ヒヒヒッ」
 その笑い声も、しわがれた老人の薄気味悪い声だ。
「!……」
 星子の背筋を、氷のように冷たいものが走り、汗が全身から噴き出した。
<……こ、殺される!……>
 一瞬、星子の体が翻った。それこそ無我夢中で玄関へ走った。
 殺される、わたし! 殺される!
 でも、途中で足がもつれて体がつんのめり、泳いだところを前方からガシッと押さえられた。
「キャッ」
 殺される! 助けて!
 叫んだつもりが、声にならない。
 もう、ダメ。星子、頭の中が真っ白状態で気を失いかけた。
その瞬間、「しっかりして、星子ちゃん!」と、叫ぶ声が……もしかして、その声は、春ちゃん?
 星子が目を見開くと、たしかに、春之介の顔があった。
「春ちゃんっ……」


                     (つづく)


追記1  いよいよ、春之介、おっと、春がやってまいりました。春風に乗って大空高く舞い上がろう! という気持ちはあるのですが、お天気と同じでうまく離陸できないでいます。ショートホラーのほうは、小出しみたいですいません。近頃、また目の調子が良くなくて、パソコンに長く向き合うことが苦痛になりまして。ま、そういうわけで、ぼちぼちやらせて貰います。


追記2  本日、web星子第6話「魔女特急はQの罠」が発信されました。以後、スケジュール通り、「デジよみ」より第一と第三木曜日に一話ずつ発信されます。他社のほうは、主に第三木曜日に発信されるはずです。今後とも、よろしく御贔屓の程を。

                 3

「ハーイ、マイスィートハニィ」
 宙太、ワイングラスを片手に星子に頬を寄せた。「今夜の君は、とても素敵だよ。蜂蜜をたっぷりとまぶしたホットケーキのようだ」
「あら、この前はホワイトクリームがたっぷりのイチゴケーキじゃなかったっけ」
「うん、君のチャームポイントは、夜な夜な変わるんだ」
「カメレオンってわけ」
「そう、愛のカメレオン」
「なんか、ヘン」
 星子と宙太、にっこり。
 毎晩ってわけじゃないけど、お二人さんのナイトタイムはこんなふうに甘―い雰囲気で始まる。
 宙太、近頃大きな事件をいくつも抱えてすごく忙しい。なんせ、今じゃ特捜班のリーダーだし。でも、家庭には仕事の疲れとかトラブルは持ち込まない。我が家では、あったかくて、やさしくて、愛がたっぷりの良きダーリン、良きパパだ。
 で、今夜も遅い帰宅にもかかわらず、ホットシャワーを浴びたあとで、二人だけのワインパーティ。星丸くんも宙美ちゃんも、気を効かせて、というか、夜は自分の時間ということで、別世界の住人になっちゃってる。
「でも、ほんとに大丈夫かい?」
 宙太、ふと、真顔で星子を見つめた。
「え? なにが?」
「ほら、今夜帰ってきた時、出迎えてくれた君の顔色がイマイチだったよね。さっき、星丸や宙美に聞いたら、今日のママってちょっとヘンだって。なんか、あったわけ?」
「あ、うん……」
 話そうと思ったけど、自分の気のせいかもしれないし、宙太も仕事で疲れてるだろうし。「ちょっと、風邪っぽかっただけ。もう、大丈夫」
「ほんとに?」
 まだ心配顔の宙太に、星子、パッと抱きついた。
「んね?」
「よっしゃ!」
 宙太、ワイングラスを置くと、星子をひょいと抱き上げてベッドへ。
「さぁ、スゥーツタイムのはじまりだぜ!」
 そういいながら、ベッドにかけてあった蒲団をめくって体をすべり込ませたとたん、
「イタタッ」
 宙太、星子を脇に降ろすと、尻をさすった。
「どうしたの、宙太さん?」
「どうもこうも、ほら!」
 宙太にいわれてベッドを見た星子、アッと息をのんだ。
 ベッドの上には、な、なんと、サボテンの小さな鉢がずらりと並べてある。星子が庭のテラスで育てている、サボテン達だ。
「ど、どうして、こんなところに……」と、茫然となった星子に、宙太、
「聞きたいのは、僕のほうさ。こんなことして、どういうつもりなわけ?」
「し、知らない、わたし、やってないから……」
「でもさ……」
 そのとたん、急に目覚し時計がリリリッと鳴りだした。
「な、なんだよっ、こんな時間に」と、宙太が急いでスイッチを止めたけど、続けてラジカセから大音量で音楽が流れ出した。それも、昔、星子が大好きだったジャニーズ系の歌だ。
「うわっ」と、宙太、耳を押さえた。
 星子が、大あわてでラジカセの電源を切った時だ。
 ――ウフフッ、キャハハッ……。
 背後で、低い男の子と女の子の笑い声が聞こえた。
 ハッと振り向くと、ソファの背後の壁にぼんやりと半透明のような小さな影が二つ、ゆらゆらと映っている。
「!……」
 一瞬、星子、かたまった。
 どうやら、その二つの半透明の影は子供のようだ。顔のあたりには白っぽく光る眼が、それも不気味に吊り上がっている。
 星子、急に頭の中が真っ白になってよろけた。

                     (つづく)


追記  今日は、明け方からの雪で、現在、なんと十五センチも積っている。ほんとに、久しぶりの大雪だ。最近は滅多に積らないので、なんだか気持ちがそわそわしてしまう。
 星子のショートホラー、もうしばらく続きますので、よろしく。 
 

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