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むかしの歌 2009年4月11日、神保町シアター「昭和の原風景」にて。 1939年度作品。 監督:石田民三 原作・脚本:森本薫 出演:花井蘭子、藤尾純、山根寿子、進藤英太郎、高堂黒天(国典)、沢井三郎、伊藤智子 この映画はすごい。 こんな素晴らしい映画が、今まであまり陽の目を浴びていないことに対して、残念でしようがない。 大阪の船問屋兵庫屋のいとはんとして何不自由なく育った澪だが、妾の子であるという事実が彼女の心に暗い影を落としていた。ある時、ふとした機会から、篠という娘を家に引き取った澪は、篠の母が自分の生母であると知りショックを受ける。そして兵庫屋が株で失敗し倒産、澪は芸者となり、人力車上の人となった・・・。 澪(花井蘭子)は気の強いいとはんで、悲しいことやいやなことがあっても、表情がまったく変わらない。気丈なため人前では決して弱い部分を見せない。 その分、その辛さがよけいに観る者に伝わってくる。 また、花井蘭子のいい名付けの藤尾純が、人のいい大阪の若旦那で、花井蘭子の厳しいつっこみに対して、大阪弁独特の笑いで返すしゃべりをしているのがいい。 だから、この映画が素晴らしいのは、悲劇的ではあるが、どこか笑いのシーンもあり、それがさらに深い悲しみへと誘うところにある。 原作・脚本の森本薫という人は、大阪の東淀川区生まれ(私と同郷)とのことで、大阪弁の使い方がとてもうまい。 本業は劇作家で34歳で肺結核で亡くなっている。 杉村春子のために書いた「女の一生」はあまりにも有名。 さらに、画面の構図もすごい。斜めの構図というか前方右に人が配置されながら後方左に人が通り過ぎる。一歩間違えばわざとらしく見えるところを、登場人物の感情の揺れ動く気持ちを映像表現を駆使しているところがすごい。 ちなみに助監督が市川崑、石田民三監督の影響を受けているのかもしれない。 ラスト、兵庫屋が株で失敗したため、遊郭へ身売りすることになり、玄関口で待っていた生母と目が合う。お互い目線を合したまま、何も言わず、花井蘭子は人力車に乗る。 そして、花井蘭子は端唄を歌う。わずかな灯の明かりが花井蘭子を照らす、無表情。また暗くなる。 端唄が流れながら、その光と影が交互に訪れ、やがて映画が終わる。 すばらしい映画の終わり方だった。 なんといっても、花井蘭子がすばらしいの一言。 藤尾純、山根寿子、進藤英太郎は言うに及ばず、髪結の沢井三郎がいい味を出している。 ニュープリントのため、戦前の映画とは思えなかったことにも感謝。 もっと、この映画を映画館で上映する機会を与えて、たくさんの人がこの映画を観ることを願います。
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シーラカンスさんの深い感動が伝わってきます。こういういい物に触れられる「環境」の中で暮らせるって素晴らしいですね。
写真からも戦前の雰囲気が伝わってきます。出合える可能性は非常に低いでしょうが、覚えておきたいと思います。
2009/4/14(火) 午前 0:26
alfmomさん
この映画、ほんとうに素晴らしい映画でした。
もっと、高い評価をされてもいい映画だと思います。
機会があれば、ぜひ、お薦めです。
2009/4/15(水) 午前 0:49
石田民三作品はフィルムセンターで見た「花つみ日記」に続いて2本目ですが、どちらも大阪の風物に対する限りない愛惜が映像に凝縮されていて感嘆しました。ご指摘の役者もさることながら個人的には西南の役に馳せ参じる士族を演じた高堂黒天(国典)の演技に、後の黒澤作品で演じたご老体役とは一味違った抑制された殺気が感じられ、とても新鮮でした。
2009/4/17(金) 午前 0:16 [ ちょび安 ]
ちょび安さん
東京いると石田民三作品を観る機会がまだあるかもしれません。
楽しみです。高堂黒天(国典)は老人のイメージがあって、馳せ参じるために走る姿は、とても元気で若々しかったです。
2009/4/18(土) 午後 1:20