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2009年5月8日、新文芸坐「名匠小津安二郎 銀幕の芸術」にて。 1936年度作品。 原案:ゼームス槇 脚本:池田忠雄、荒田正男 出演:飯田蝶子、日守新一、笠智衆、坪内典子、突貫小僧、吉川満子 この映画は良かった。 冒頭、息子の小学校の先生(笠智衆)が、家庭訪問にきた。 先生は「自分は東京に行ってもっと勉強する、こんな田舎に居てはだめになる」と語気を強めて語り、「息子さんも頭がいいんだから、上の学校へ行かせてやってくれ。これからは学問ができないと出世もできない」と言う。 夫を亡くしていた母親(飯田蝶子)は、最初あまりその気ではなかった。 家庭が貧しかったためだ。 母親は考えた末に、土地も家も売り、息子を東京の学校にやる。 母親にとって、一人息子は生きがいのような存在になっていた。 何十年かの時がたち、母親は息子に会いに東京に出かけていく。 見る物すべてが、大都市の風景。 しかし、息子の家は長屋。隣の工場の機械音が絶え間なく聞こえていた。 息子はしがない夜学の先生になっていた。 それに、結婚もして、子供も生まれていた。 母親にはまったく知らされていなかった。 母親は、息子が偉くなっていないことにちょっととまどい気味だった。 翌日、母親の知っている人を訪ねた。 とんかつ屋だった。 向学心に燃えて田舎を出て行った血気盛んな笠智衆が、全くその面影もなく、しょぼくれたとんかつ屋のオヤジになっていた。 「世の中はどうもうまくいきませんなあ」 ゴミ処理工場の2本の煙突から煙が出ている。 その工場に眺める母親と息子の後姿を映し出す。 それぞれの思いを特に言うこともなく、眺めている。 息子の生活は精一杯で、母親のために同僚からお金を借りていた。 息子は自分が成功していないことで母親がショックを受けていることを察して「自分も一生懸命やったけど、これ以上無理なんです。」と言う。 母親は「お前を学校にやるために土地も売って工場の片隅に住んでいる。出世している人もいるじゃないか。お前は根性が足りない」と叱る。 小津監督の映画で、こんなにお互いに感情を吐き出すシーンは見たことがない。 あることで、母親は息子がいいことをしたと褒める。お前は立派だと。 母親が東京を去ったあと、息子は妻に「もう一回、死に物狂いで勉強するよ」と言う。 母親は田舎に帰って仕事仲間に、息子が立派になったことを言うとあんたは幸せものだねと言われる。 母親は外に出た時に、しょんぼりと泣くような場面で映画は終わる。 母親、息子それぞれの思いが強く映画に表れていて、今まで見た静かなセリフの小津作品からすると、ちょっとびっくりした。 それに隣の工場から聞こえる機械の不快音も観客を不安定にさせる。これも小津作品では珍しいのでは。 田舎の向上心に燃えた笠智衆ととんかつ屋の笠智衆の落差に笑ってしまった。 自分的にはダメ笠智衆に愛着を感じてしまう。 また同じ日に観た「父ありき」の立派な親子よりも、素直に感情を吐露してしまう飯田蝶子と日守新一親子の方がより親しみを感じた。
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「東京物語」と同じく田舎で必死に育て上げた息子の体たらくを描く作品ですね。
ご指摘の通りで、その情けさの叱咤するのは小津作品では珍しいし、作品を不安定にしていますね、なので、それに懲りて?「東京物語」みたいな父親が構築されたのではないでしょうか。
2009/5/24(日) 午前 0:34 [ ひろちゃん2001 ]
ひろちゃん2001さん
なるほど、小津作品を構築するための試行錯誤段階の映画なんですね。でもこの不安定さ、自分は好きなんですけどね〜。
2009/5/24(日) 午前 0:47
「父ありき」の“美しい”父子の関係とはかなり異なっていますね。
はっきりと感情を吐露する場面が含まれ、また笠智衆がトンカツ屋に。
少しタッチの違う小津作品、興味が湧きました。
2009/5/25(月) 午後 11:30
alfmomさん
笠智衆のあまりの落差に思わず笑ってしまいました。とんかつ屋のおやじは、笠智衆の味が出ててとてもよかったです。ぜひご覧あれ。
2009/5/26(火) 午後 9:42
ここのところ小津のサイレントばかりを見ていたからでしょうか、感情の起伏の激しいという印象はそれほど持ちませんでした。トーキーとしての初作品という点で、音に関しては強めの演出だったですね。TBお返ししておきますね。
2009/12/12(土) 午前 7:35
ヒッチさん
戦後の父親と娘の静かな映画のイメージがあったんで、普通に以外でした。トーキーお初だったんですね。音へのこだわりの結果ですね。
2009/12/12(土) 午後 9:49
笠智衆さんも若かったですね。
「負け犬」への共感とエールを贈る映画だと思いました。
双六のセリフが、未来を感じさせました。
TBさせてください。
2013/5/29(水) 午前 7:43
ギャラさん
珍しい映画をご覧になったんですね。戦後の敢えて言わない映画作りから観ると珍しいギクシャクした印象です。こういう小津映画もあったのかと思いましたね。
2013/5/29(水) 午後 10:22
この記事を読ませていたのは、もう4年以上も前のことなのですね…
私はこの記事に書かれていた、とんかつ屋のおやじになってしまった「若い笠さん」を
ずっと見たいと思っていました。
漸く叶ったのですが、この記事をそんなに前に読んでいたとは思いませんでした。
shirakansuさんも書かれていますが、感情がはっきり台詞の中に表れています。
とても簡潔で、的確なレヴューです!
映画の展開を、再び、ゆっくりと辿りながら、読ませていただきました。
2014/2/20(木) 午前 11:50
Alfmom さん
年月が経つのは早いものですね。歳とともに時間が限られていることを実感しています。笠さんの生きざまが、人生だなと思いますね。そんなにうまくはいかないものです。
2014/2/21(金) 午後 11:24