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藤原伊織「ダナエ」

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2010.6.4

世界的な評価を得た画家・宇佐美の個展で、財界の大物である義父を描いた肖像画が、切り裂かれ硫酸をかけられるという事件が起きた。犯人はどうやら少女で、「これは予行演習だ」と告げる。宇佐美の妻は、娘を前夫のもとに残していた。彼女が犯人なのか――。著者の代表作といえる傑作中篇など全3篇収録。 (本の解説より)

表題の「ダナエ」は、エルミタージュ美術館にあるレンブラントの「ダナエ」が1985年に硫酸がかけられ2ヶ所にナイフの傷を受けた事件とギリシャ神話をモチーフに書かれた小説。

ギリシャ神話とは(ウィキペデアより)
アルゴスの王・アクリシオスの娘。「いつの日か孫に殺される」と神託を受け、恐れたアクリシオスは誰の目にも触れないようにダナエを青銅の塔に閉じ込めるが、ゼウスは黄金の雨に姿を変え塔に入り込みダナエと関係を持ち、ペルセウスを産む。
ある日、ペルセウスの存在を知ったアクリシオスは自分の未来を恐れ、2人を箱舟に閉じ込め海に流してしまう。長い期間、海上を漂流した後、クレタ島の北にあるセリポス島に流れ着き、漁師のディクテュスに助け出される。

表題作以外に「まぼろしの虹」「水母(くらげ)」の短編。
3編とも郷愁というか過去を引きずっているというか、前向きではない。
以前に読んだ藤原伊織の数作の小説では、過去を引きづっていても、何とか自分を取り戻そうともがいていた。
その姿に共感や感動をしたのだけれど。

「水母(くらげ)」だけは、中年の気概を少しは感じましたが。
「まぼろしの虹」では、主人公の姉が放ったサッカーのシュートの鮮やかな躍動感に眩しく羨ましく描かれています。
この小説たちの主人公は、あきらめに似た過去に浸ることに満足してしまっていることに、どうも違うなって思いました。
それは、藤原伊織が病気だったことにも影響しているのかもしれません。
未来を書けないことの悲しさと辛さがよけいに伝わってきます。

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