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2010年6月18日、新文芸坐「巨匠・溝口健二−受難を生きる悲劇の女たち−」にて。 1953年度作品。 原作:川口松太郎 脚本:依田義賢 出演:木暮実千代、若尾文子、河津清三郎、進藤英太郎、浪花千栄子、菅井一郎、田中春男、伊達三郎、毛利菊枝 溝口の得意とする花街を舞台とした作品で、前作「雨月物語」で脚本を担当した川口松太郎が原作を、依田義賢が脚本を担当している。祇園ではちょっと名の知れた勝気な芸者・美代春(木暮実千代)は、舞妓志願に来た少女・栄子(若尾文子)の熱心な頼みに負け舞妓に仕込むことを決心。1年間栄子は芸事に励み、いよいよ舞妓として売り出す日がくる。栄子は現代っ子らしい振舞いが評判となり、楠田(河津清三郎)という男に目をつけられるが……。溝口に大抜擢された若尾文子、ベテラン・浪花千栄子、進藤英太郎の演技が光る珠玉の作品。とりわけ、祇園になじみの且那・楠田に迫られて、大騒ぎしたあげくに男の唇を噛み切るという大胆な行為に及ぶ、芸妓の卵・若尾文子の奔放ぶりに目を見張らされる。(eiga.com解説より) 併映がお上品な「楊貴妃」だったせいもあるが、この映画、いかにも溝口健二らしい、お得意の花街の世界を描いた、ねっちょり系の映画でした。 よかったです。 同じ花街を描いた映画でも、チクチク系のあっさりした成瀬監督とは大違いです。 あくまでも個人的な感想ですが、一人の女を描くなら田中絹代が主人公でいいのかもしれない。 でも、主人公が女でない場合や集団の映画の場合は、田中絹代が脇役か出ていない方がいいように思う。 「雨月物語」、「近松物語」、「山椒太夫」、そしてこの映画しかり。 もしこの映画の主演をしていたら、個性が強すぎて、集団のバランスを崩していたような気がする。 あくまでも、個人的な感想ですが。 美代春(木暮実千代)は、自分に正直な女。 好きではない男とは付き合えない。 栄子(若尾文子)は、新しい時代の若者。 栄子も好きでない男とはキスもできない。 2人は性格が似ている。 だから、美代春は、親のように栄子の面倒を見てやる。 最後、自分自身を裏切った形になった美代春は、昔の時代の女。 そして栄子も新しい時代の女のように見えて、実は昔ならではの女だった。 (もしかしてまだ若いからだけかも) 結局、溝口健二監督は、新しい女を描けずに終わった。 いや、新しい女を描こうとは思っていないのかもしれない。 溝口監督の中の理想の女を映画で描こうとしているだけ。 栄子が花街を歩く路地裏の風景の長回しが、その荒々しい風俗描写の中で、わずかに情緒的な一面を見せる。 豪華な俳優陣が、水を得たように暴れまくっている。 浪花千栄子は花街の主(ぬし)。 ある男が美代春が好きで、仲を取り持ってくれと浪花千栄子に頼むが、美代春は拒む。 美代春は栄子の舞妓にするためのお金を浪花千栄子に借りていた。 その時の一言「そういうことができるのは、お金がある人がいうセリフや」とズバリ。 そして、美代春も栄子も仕事ができないように、各店に圧力をかける。 怖いですね〜。 何かで読んだが、普通の洋服で足袋を履いて水撒きをしている変な格好があった。 その役は、そんなことをしそうだと自分で考えたらしい。 栄子の義理の父親(進藤英太郎)は、昔は羽振りがよかったが、半身付随になって、落ちぶれている。 半身付随のため、ちょっとロレツが回らないしゃべり方が素晴らしい。 お金に困って、このままでは首を括るしかないと美代春に哀願する。 そのくせ、栄子も人気物になって稼いでいることを仄めかすいやらしさ。 「楊貴妃」であっさりした上品な官吏の役とは大違いだったので、思わず笑ってしまった。 田中春男は、冒頭、美代春に振られてすごすご帰っていった。 美代春が干されていたのを知った上で、家まで押し掛け、「何ぼでもお金は貸したるで」「お前に振られたおかげで仕事に精を出すことができて感謝しているわ」と嫌味たらしく豪語して帰っていく。 木暮実千代は、スマートで美しかったです。 今まで年増のちょっと嫌らしいイメージがあったが、この映画では、人の苦労も分かり人情にも厚く芯がしっかりしたいい人でした。 それでも、何といってもこの映画は若尾文子でしょう。 伸び伸びとして純粋でストレートで若々しい演技、そしてなにより可愛いです。 こういった俳優陣の名演技も含めて、溝口監督は花街という特殊な世界を見事に描ききっていました。
味わい深い、いい映画でした。 |

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なるほど、新しい女を描けずに昔の溝口にとって理想の女を描いているというのはシーラカンスさんらしい分析ですね。確かにねっちょり系の映画でした。
2010/7/2(金) 午前 6:08
力作が続いた合間のちょっと力を抜いた風俗映画ですが、これがこの監督の本領と思います。「楊貴妃」よりは数段こちらを私は買っています。浪花千栄子の変な姿での水撒きのシーンはとても印象に残っていますね。夜叉みたいな凄味も感じました。キスされて相手の舌をかみちぎるといったエピソードも面白いです。
2010/7/2(金) 午前 7:43 [ SL-Mania ]
ヒッチさん
溝口健二らしいねっちょり系の映画でした(笑)。木暮実千代、若尾文子、進藤英太郎、浪花千栄子、よかったです。
2010/7/2(金) 午後 10:05
SL-Maniaさん
なかなかこの映画はよかったです。私も同感です。「楊貴妃」より断然よかったです。浪花千栄子と進藤英太郎は持ち味を十分発揮していました。それにも増して若尾文子の若さはこの映画の最大の魅力でした。
2010/7/2(金) 午後 10:09
「一人の女を描くなら田中絹代が主人公」は同感です。
花街や女性を描かせたら、断然ミゾグチですね、黒澤や小津はこの点では適わないと思います。
若い女優さん(この映画では若尾文子)を使うのが上手ですね。
登場人物では、控え目な役柄の木暮実千代が特に印象深かったです。
古い記事ですが、TBします。
2010/7/6(火) 午後 8:43 [ 8 1/2 ]
81/2さん
ここだけの話、個人的には田中絹代はあんまり好きではありません(笑)。狭い範囲でも極めると「巨匠」と呼ばれるのでしょうね。溝口監督がその後も若尾文子を使って映画を撮っていたら「新しい女」の面白い映画ができたような気がします。とても残念です。
2010/7/6(火) 午後 11:11
木暮と若尾が挨拶廻りする街の移動撮影が印象にのこっていますね。
ロケかセットかわかりませんが。
この二人のやり取りを混じりながら移動撮影だったような。
2010/7/9(金) 午後 3:30 [ koukou ]
koukouさん
移動撮影でしたか。まったく気にならなかったです。さすがですね。セットかもしれませんね。この映画はなにせ花街の雰囲気がよく出ていていいですね。気に入ってます。
2010/7/9(金) 午後 11:13
時代が変わったので、やはり古い義理人情とも言えますが、
人間のけじめの付け方やあり方の苦悩は現代に通じていますね。
完璧なストーリー構成は、溝口監督ならではと思いました。
若尾文子の初々しさは素晴らしいです。
TBさせてください。
2013/3/8(金) 午前 9:19
ギャラさん
なんというか、花街の人たちの人生模様といった、感情的にならずにただあるがままを描き、観るだけで楽しい映画です。若尾文子は、ほんと初々しいですね。
2013/3/9(土) 午後 1:21
本当に素晴らしい監督さんです。
「雨月物語」、「祇園の姉妹」、「山椒太夫」。どれも女優がほんとうに美しかったです。
>半身付随のため、ちょっとロレツが回らないしゃべり方…初めは新藤栄太郎とは分かりませんでした。見事な演技でした。
「溝口監督は花街という特殊な世界を見事に描ききっていました」…同感です。溝口作品は、見る度にファン度が高くなって行きます。
2016/2/10(水) 午後 6:27
> alf's momさん
個人的には田中絹代が主役でない溝口映画は女優が美しいかな笑。
溝口作品はほんとレベルが高い映画が多いです。久しぶりにまた観たいです。それにしても昔の記事はいっぱい書いていたんだな〜。
2016/2/11(木) 午後 10:16
美代春も栄子も、二人とも基本的人権を理解する人間、主張する人間だった.
が.....
栄子は母親の同僚の美代春に、義理人情で縋って芸者になった.そして、美代春もまた栄子を一人前の芸者にするために、芸者置屋の女将に義理人情で縋ってお金を借りたのだった.
その結果が.....
義理人情で縋って他人からお金を借りること、それは自ら基本的人権を捨て去る行為である.
芸者の世界が、基本的人権が守られない世界ならば、なくさなければならない.
2016/4/12(火) 午前 5:03 [ bego ]
> begoさん
難しいですね。
2016/4/21(木) 午後 10:51