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黒澤明「乱」

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2010年12月26日、フィルムセンター、「生誕百年 映画監督 黒澤明」にて。

1985年度作品
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、小国英雄、井手雅人
音楽:武満徹
出演:仲代達矢、隆大介、根津甚八、寺尾聰、原田美枝子、ピーター、油井昌由樹、井川比佐志、宮崎美子、野村武司、植木等、加藤武、田崎潤

シェイクスピアの『リア王』を毛利3兄弟の物語に大胆に翻案して描いた絢爛豪華な戦国絵巻。過酷な戦国時代を生き抜いてきた猛将、一文字秀虎(仲代達矢)。70歳を迎え、家督を3人の息子(寺尾聰、根津甚八、隆大介)に譲る決心をする。長男太郎(寺尾聰)は家督と一の城を、次郎(根津甚八)は二の城を、三郎(隆大介)は三の城をそれぞれ守り協力し合うように命じ、自分は三つの城の客人となって余生を過ごしたいと告げた。しかし、秀虎を待っていたのは息子たちの反逆と骨肉の争いだった。やがて、秀虎はショックのあまり発狂してしまう。(allcinema解説より)

辛口感想ですが、悪気はありませんから。黒澤監督ファンの方はご了承を。

主人公秀虎(仲代達矢)が、猪狩りののどかな風景の中、権力を長男に譲ったところから物語が始まる。
シェイクスピアの「リア王」をベースに日本の戦国時代へ置き換えたストーリー。
3兄弟の旗を赤、黄色、青に色分けして骨肉の戦いを、解説にあるように「絢爛豪華な戦国絵巻」にしたスケールの大きな時代劇。
映画「影武者」と同じように、迫力のある合戦は見ごたえ十分です。
ただ、それ以外の人間ドラマの部分があまりに予想通りの展開で、豪華で美しい合戦シーンと連鎖されていないから、映画のうねりに繋がらないのです。
一つのシーンは、見ごたえがあります。
ただ、そのシーンが繋がった時に、先ほどの映画的な「うねり」にならないのです。

それは、晩年の喜八監督(大好きな監督です)にも言えます。
狭い範囲でしか物事が見えない、つまり老化現象ではないかと。
正月からこんな辛口コメントですいません。
それは黒澤監督も気がついていないのでは。

ネタバレあります。
秀虎(仲代達矢)は、ずけずけ秀虎を批判する息子三男(隆大介)を毛嫌いし、国から追放した。
だが、次男も長男と当主争いを行い、長男から秀虎は追放され、気が狂う。
やがて、三男が息子の中で一番親を思っていたことが分かった瞬間に、三男は撃たれて死んだ。
その姿を見て、ショックで自分も死んでしまう。

「神も仏もないのか」と家来(ピーター)が嘆く。
「神も仏も恨んではいけない。すべては争いごとをする人の世が虚しい」みたいなことを別の家来(油井昌由樹)が言う。
この映画のテーマの一つを、あっさりと言葉で、言い表してしまった。
この映画の迫力ある映像で「争いの虚しさ」を見せようとしていたと自分は思っていたのに、いとも簡単に「ことば」で言ってしまうことの意味合いはいったい何だろうと疑問に思う。
黒澤監督らしいと言えばそれまでだが。
「影武者」と同じく、争うごとの虚しさを問うているが、この映画がさらに悪いのは、言葉で表現してしまっていること。
マクベスがベースにあることから舞台劇のようなセリフ回しも、大げさすぎて、気持ちが伝わってこない。

黒澤監督の投影は老いた主人公秀虎(仲代達矢)に。
権力を失い、ただの老人になった時の不安、孤独感、哀れさは、75歳の黒澤監督そのもの。
しかし、死んだとはいえ三男の親思いがわかっただけでも幸せものだ。
黒澤監督は、精神的に秀虎を救ったと言えるでしょう。
救いたかったかもしれないし、願いがそこに込められていたかもしれない。
観客が黒澤監督に期待していたのは「男の生きる、戦う」映画。
しかし、黒澤監督の興味は、別の「老い」という「死」に近づいたテーマにあった。
そのギャップは、悲しいかな、過去の男性的な作品を撮り続けた黒澤監督の悲劇と言えるでしょう。

長男の正妻である原田美枝子の役は強烈。
長男をそそのかし秀虎(仲代達矢)を追放し、長男が死ぬと、次男に色仕掛けで取り入り、次男の正妻を殺す命令を下す。
父親を殺した一文字家を滅亡させるための策略。
「蜘蛛巣城」の山田五十鈴を、さらにパワーアップさせた感じです。

特集「生誕百年 映画監督 黒澤明」のラスト上映作品ということで、野上照代さんの挨拶があった。
「75歳黒澤の渾身の映画です」と。
確かに75歳という年齢で、こんなド迫力のある映画が作れることに、ただただすごいと言うしかない。
そういう意味では、黒澤監督75歳ならではの映画といえるでしょう。

閉じる コメント(4)

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黒澤監督の作品は、「赤ひげ」までは、娯楽映画として、楽しめましたが、晩年の作品は、どうも苦手です(笑)。

「乱」は、原田美枝子が、抜擢されて、演技も鍛えられたと聞いていますので、目立ちました。ピーターは狂言回しの役で、かつての「虎の尾を踏む男たち」のエノケンのようでした。

2011/1/3(月) 午後 9:26 fpd

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fpdさん
そうですね、娯楽映画の要素は少ないですね。自分のために作り始めてから面白さがずれているのかもしれません。原田美枝子をもっと前面に押し出してもよかったかと思います。昔手塚治虫の漫画で恨みを晴らすため主君にバイ毒をうつし、殺すというすごい話があり、その話を思いだしました。

2011/1/4(火) 午前 0:45 シーラカンス

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『影武者』と全く同じで、観るべきものがない映画でした。
弛緩、パワーレス、、、偉大な芸術家にも晩年は必ずあるのですか、
黒澤は、長生きしてあまりにも無駄な映画をいくつか撮ってしまった、という印象です。
もちろん、『デルス』以前の作品の輝きは不滅ですが・・・

2011/1/5(水) 午後 5:38 [ 8 1/2 ]

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8 1/2さん
黒澤監督の思い描いているものは「老い」で、さらに老いても子が尊敬する父の姿を描きたかったのでは。そんなことに観客はあまり興味がないから、面白くないと思うのですが。ズレでしょうね。黒澤監督は満足しているのでは。

2011/1/5(水) 午後 11:25 シーラカンス


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