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成瀬巳喜男監督

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2009年7月12日、神保町シアター「没後40年成瀬巳喜男の世界」にて。

1937年度作品。
脚本:成瀬巳喜男、田中千禾夫
出演:入江たか子、堤眞佐子、清川玉枝、佐伯秀男、北沢彪

楽器店員の河野廣子(入江)は、裕福な紳士・堀江新一(北沢彪)と見合い結婚をする。嫁ぎ先で気を使う廣子は、自分を女中のように扱う一家の冷たい態度に耐え続けていたが、義妹とその愛人の間を取り持ったことを、世間体を気にする新一から叱責されたことをきっかけに、自分の意思で夫と別れ自立する決意をする…。

入江たか子は、本当はいとこが好きだったのに、見合相手の男性と結婚をした。
その男が見るからに冷たく、思いやりがない。
入江たか子が、いとこと会っている時の表情と旦那と話す時の表情が全く違う。
いとこと会う時は、笑って楽しそうで本来の自然な表情をしている。
旦那の家では、女中のようにこき使われて、馬鹿にした言い方もされる。
それをずっと我慢していたが、あまりに世間体を気にする思いやりのない旦那に最後はブチ切れて、言いたいことを言ってしまう。

当時、言いたいことを言う女性が、どこまで受け入れられたかは不明。
入江たか子が自身のプロダクションで制作していることもあり、入江たか子の意志を表しているのかもしれない。
入江たか子が「廣子さ〜ん!」と次から次へと姑、舅、小舅から呼ばれるシーンを扉、襖を使って入江たか子を動きまわらせる。
今どこにいるのかよく分からない状態で、成瀬監督の手際の良さが素晴らしい。
「女人」という言葉もその時代ならではのもの。

「私も踊れるわ」と現代の女性を母親にアピールするために姪と踊るシーンで「ブルー・ムーン」のレコードが使われていた。
それ以外にも、2曲使われていたが、何の曲か分からない。
どなたかご存じなら教えてください。

成瀬巳喜男「めし」

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2009年7月9日、神保町シアター「没後40年成瀬巳喜男の世界」にて。

1951年度作品。
監修:川端康成
脚本:井手俊郎 , 田中澄江
出演:上原謙、原節子、島崎雪子、杉葉子、風見章子、杉村春子、花井蘭子、小林桂樹、大泉滉、
山村聰、浦辺粂子、中北千枝子

大恋愛の末に結ばれた岡本初之輔(上原謙)、三千代(原節子)の大阪在住の夫婦は結婚から5年を経て、倦怠期に突入していた。世間からは美男美女の幸福な家庭と見られているが、些細なことで衝突が続くようになっている。そんな中、初之輔の姪である里子(島崎雪子)が家出をして大阪へやってきた……

上原謙は食事の時も新聞を読んで、「めし」としか言わない。オヤジもそう言っていた。昔の時代。
上原謙はさして気にする風でもなく、原節子だけがカリカリしている。
私はいったい何をするために大阪まで来たんだろうかと。
さらに、姪の島崎雪子が家にやってきてから上原謙と原節子の夫婦はギクシャクしてくる。
わがままで自由奔放な島崎雪子が初之輔を呼び捨てにし、やたらと初之輔に慣れなれしい。
さらに島崎雪子が「しょぼいネクタイをしている」と言う瞬間の原節子の嫌な眼。
日常生活の些細な出来事が、徐徐に原節子にダメージを与えていく。
そんな積み重ねに耐え切れずに原節子は東京の実家に帰る。
仕事を見つけてこれから生きていこうと考える。
そんなこととは知らず上原謙は相変わらずのんびりで近所の2号さんやおばさんが面倒みてくれて、あたふたしている。
この対比も一本調子にならずに、余裕の趣のある仕上がりとなっている。
ラストは、結局もとの鞘に戻るがどこか吹っ切れたような原節子。
流れ的にはてっきり別れると思っていた。原節子は妻として生きていくことに吹っ切れたという。
旦那が妻を信頼しているからだろうか。そのことを感じたからだろうか。

それにしても私が観た成瀬巳喜男監督の作品は、いつも水準以上だ。
些細な出来事を積み重ねることでその人が感じる気持ちを表そうとする。
好不調の波が小さいプロの監督のなせる業か。

また白黒映画とはいえ、長屋のような住まいがセットとは驚きだ。
当時の映画技術の高さを物語っている。
スタッフの中で川端康成が監修となっているが、はたして何を監修していたんだろうか?疑問。

原節子のパーマが跳ね上がったような髪型がいかにも暑苦しい。
わざと生活に疲れた感じを出すためのものだろう。
杉村春子は成瀬監督では大人し目。
浦辺粂子はいつもながらのお母さん役。
この映画でもチンドン屋は登場。

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成瀬巳喜男「鰯雲」

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2009年7月6日、神保町シアター「没後40年成瀬巳喜男の世界」にて。

1958年度作品。
脚本: 橋本忍
出演:淡島千景、中村鴈治郎、新珠三千代、司葉子、木村功、小林桂樹、水野久美、加東大介、
杉村春子、清川虹子、飯田蝶子、大塚国夫、太刀川洋一、長岡輝子

最初見始めて淡島千景と木村功の不倫のドラマかと思ったら、そこから、戦後の農村の本家と分家、農村と都市、大人(親)と子供(若者)、戦前と戦後といったドラマへと展開していった。
色んな要素を含みながらそれぞれの人物に丁寧にスポットを当てていく。
群衆劇に登場する一人一人にそれなりのエピソードの持たせていく話は好きだ。

その中でも、やはり成瀬監督の年代に近い淡島千景と中村鴈治郎に思い入れが強いように思う。
淡島千景と木村功が一泊するシーンはすごかった。
泊まったあくる朝、淡島千景が窓を開けながらそそそと木村功にすり寄り「後悔しているでしょ?」と何度も繰り返す。
ぞくぞくっとした。
戦争で夫を亡くし、義理の母にイヤミを言われ、子供に愛情をそそぎ、農家を一人で守ってきた淡島千景が女に戻った瞬間だった。
その後淡島千景は若くなっていく。
このシーンだけでも成瀬監督のすごさを味わったような気がする。

中村鴈治郎もよかった。
若い頃は自分の父親の威厳に何も言えず、親になると子供たちは自分の言うことを聞かず好きなように生きている。そんな時代の狭間で生きていかないといけない男、時代に取り残されていく男を素朴なしゃべり口で語りかけてくれる。

全体を観て勝手に思ったことですが、テーマを持つ映画になるとよけいに成瀬巳喜男の個性が失われるような気がしてならないのは自分だけでしょうか。

あらすじ・・・
神奈川県・厚木の農村。戦争で夫を亡くした八重(淡島千景)は嫁ぎ先の農家に留まって働いていた。そこへ新聞記者・大川(木村功)が農村の現状を取材にやって来た。大川は妻子ある身だったが、二人は次第に親密になっていく。この二人の関係と、八重の実家での人間関係が、戦後の農村社会の変化や世代間の意識の変化などを背景に描かれる。成瀬巳喜男監督初のカラー・ワイドスクリーン作品

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成瀬巳喜男「歌行燈」

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2009年7月5日、神保町シアター「没後40年成瀬巳喜男の世界」にて。

1943年度作品。
脚本:久保田万太郎
出演:花柳章太郎、山田五十鈴、柳永二郎、大矢市次郎、伊志井寛、

謡の世界で将来を嘱望されていた恩地喜多八(花柳章太郎)は、父の源三郎(大矢市次郎)とおじ(伊志井寛)と共に巡業でやってきた松阪で、自分は謡の日本一と自負する宗山なる人物がいると聞く。喜多八は宗山のもとに乗り込んで懲らしめだが、宗山が屈辱のあまり自害したことで、喜多八は父から絶縁され、謡を禁止される。門付け(流し)になった彼は、芸妓になった宗山の娘、お袖(山田五十鈴)と出会う。
そして、芸を持たないお袖のために謡を教えてやる。

戦争末期、芸道もの映画。
芸道ものといっても、勘当されて流しで生活をするだけで特に修行に励むわけでもない。
生活に苦労する風でもない。
また、恋愛ものでもなくどこか中途半端な映画になってしまっている。
そう、緊張感がないのだ。
申し訳ないが、芸道ものの傑作「残菊物語」と比較してしまう。
花柳章太郎も主人公で同じ。
あまりの白塗りが若作りでわざとらしい。

成瀬はわかっていた。
戦争末期、普通の厳しい芸道ものにしたくなかったのだ。
だからあえて、のんびりした芸道ものの映画にした。
源三郎と叔父が、ネジベエさんヤジロベエさんと言い合う呑気な雰囲気。
また花柳章太郎のセリフの大袈裟なこと。
謡を女性が踊ることの不自然さ。
花柳章太郎が、山田五十鈴に林の中で教えるシーンは靄がかかって主人公はほんとは死んでいるのではと想像してしまう妖気あふれるシーンでした。

「没後40年成瀬巳喜男の世界」を観る予定なので、これからまた成瀬巳喜男監督の記事が多くなります。がまんして付き合ってください。

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2009年5月31日、シネマヴェーラ「シナリオライター小國英雄のすべて」にて。

1945年度作品。
脚本:小国英雄
出演:長谷川一夫、田中絹代、市川扇升、田中春男、河野秋武、葛城文子

徳川時代の京都。
的に射る矢の数を競う京都の三十三間堂の“通り矢”で、和佐大八郎(市川扇升)は星野勘左衛門に記録を破られ自害した父の名誉を回復するために日々訓練に励む。
そこに唐津官兵衛と名乗る謎の武士があらわれ色々と手助けをしてくれる。
その謎の武士は、実は仇敵・星野勘左衛門だった。
星野勘左衛門の弟は「通り矢」としての「家の名誉」を守るため和佐大八郎が新記録を出さないように邪魔をする。
その邪道な気持ちに憤慨して、星野勘左衛門は和佐大八郎を守ってやる。
試合の当日、和佐大八郎は、はたして新記録が出せるんでしょうか。

みかけの「家の名誉」VS武士道(正義)の構図はあきらかで、その中にかっこいいヒーロー星野勘左衛門(長谷川一夫)を取り入れた小國英雄脚本の娯楽作品となっている。

星野勘左衛門(長谷川一夫)は、ふらりとあらわれて最後もかっこよく立ち去る。
和佐大八郎の後見人である旅館の女将(田中絹代)にも「なんて立派な人なんでしょう」と言わしめる。
ラストの見せ場である「通り矢」を5千本(記録は8千本)から調子を崩し、的を外すと鐘の音(成功すると太鼓)がなり、音だけで的に当たっていないことが観客に分かる。単純だけどその辺りの演出はうまい。

また、成瀬監督がこういう絶対的なヒーローをメインにした娯楽作品を作ることもあるんだと感心した。というか、作れるけど、自分の好みではないということなんでしょう。
知っている限りではこういうヒーローものはないように思う。

とても小國英雄さんの脚本が色濃く出ている映画でした。
また「通り矢」という素材が珍しく、素直に面白かったです。
しかし、119メートル先の的に8,113本を射るってのはすごいですね〜。
実話らしいです。

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