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成瀬巳喜男監督

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2009年4月20日、神保町シアター「昭和の原風景」にて。

1952年度作品。
脚本:水木洋子
出演:田中絹代、三島雅夫、片山明彦、香川京子、加東大介、中北千枝子、岡田英次、

「また神保町シアターの古い日本映画かよ!」と思う人がいるかもしれない。
そうです。またしても古い映画です。
神保町シアターの「昭和の原風景」特集の私のレビューは、あと「小原庄助さん」「とんかつ大将」で終わりですから、我慢してやって付き合ってください。

戦後の貧しい時代を生き抜く家族の話で、長男が病気で死に、父親も過労死し、母親が残されたクリーニング店を切り盛りしながら、子供を育て上げる話だが、まったく暗さを感じさせず、家族愛や隣人愛といった様々な愛を描いている。

悪い人はまったく出てこない。
貧しいクリーニング屋に悪い人間を登場させたら、もうどうしようもない。
そこまで昼メロドラマのようにはしていない。

最近どうも性格が悪くなっているようだ。
「浮雲」の脚本家である水木洋子がこの映画の脚本を書いていると思うと、こんな素直な映画であるはずがないと勘繰ってしまう。

ほんとうに、単純に子供から見た「おかあさん」の映画なんだろうか。
クリーニング店を手伝っていた大助(加東大介)が離れるシーンで、田中絹代のおかあさんの「女」を感じてしまった。そのちょっとした表情、動きでそう感じた。
たぶん、そんなことを感じてしまう自分はイヤなやつだと思う。
なぜ、もっとシンプルに映画を観れないんだろうかと考えてしまう。
しかし、そういう風に観てしまうと、この映画の怖さを感じてしまう。
「お母さんはほんとうに幸せなんでしょうか」というラストでの娘(香川京子)のナレーションもよけいにその思いを馳せてしまう。
「女」を捨てて、「母親」を選んだおかあさん(田中絹代)の子供と遊ぶ姿を見ながらそういう妄想に思いめぐらすと、なぜか涙が出てしまう。

成瀬監督は映画職人だと感心してしまう。
ストーリーだけ読むとあまりに悲しい話。
しかし、成瀬監督は、あえてその悲しいシーンを描かない。
長男(片山明彦)が肺炎?で自宅の布団で寝ているが、死ぬ予感がする。
すると、次のシーンでは妹(香川京子)が墓参りに行こうとしている。
夫(三島雅夫)が死ぬ直前の場面は写しても、死ぬシーンは写さない。
辛い話なので、よけいにユーモラスなシーンを撮って、悲しいシーンはあっさりと撮るようにしているかのようだ。
悲しい場面を悲しく見せるのは簡単だけど、あえて見せないことでより悲しみを刻んでいくその感性が、私がこの監督を気に入っているところだ。

人生にはいろんなことが起きるが、そんなことはすべて一瞬に流れていく。
悲しいことも、楽しいことも、すべて同じように流れている、そう思わなければ生きていけない。
映画でもさりげなくそう言っているようにも感じた。

香川京子の幼なじみでパン屋の息子岡田英次が、おもろいやつで、ピカソパンなんかを作って笑わせてくれる。
その父親の中村是好も飄々として同じようにおかしい。
そういったユーモラスな登場人物たちにこの映画は救われている。

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2009年4月19日、神保町シアター「昭和の原風景」にて。

1939年度作品。
脚本:成瀬巳喜男
出演:徳川夢声/大日方伝/椿澄枝/本間敦子/生方明

原作がプロレタリア作家の徳永直。
7人の子供と祖父母の貧しい家庭で、父も子供も働いているのに生活が楽にならない。
そんな長男がこのままの給料では結婚もできない、勉強して学校の先生になりたいと言う。
そのために、「5年間」くれという。
長男の給料がなくなると、一家は生きていけなくなる。
父は子供の気持ちを思い、叶えてやりたいが、かといって今後の生活も困窮することで悩む。
悩む中、学校の先生に相談し、家族会議が開かれる。
結局、何も決まらないまま、ラスト、子供たちがでんぐり返しをやって映画は終わってしまう。

学校の先生が登場しても、「私は何も言えない」と言うだけで、それなら最初から登場する必要もない。
成瀬の映画に家族会議をして決めるようなシーンがあること自体に違和感があり、
案の定、何とも中途半端な映画だった。

朝の食事のシーン。
働く男たちが最初で、その次が爺さん婆さんと子供、そして最後が母親と当時の生活ぶりをあらわした成瀬監督の描写はさすがと思わせる。

貧しい生活で、希望を持とうとして、どうにもならない話だけでは、どうも自分には合わないようだ。
当時、戦意昂揚に協力する必要があり、そのための苦肉の作品だという噂があるが。

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秀子の車掌さん
2009年4月19日、神保町シアター「昭和の原風景」にて。

1941年度作品。
監督:成瀬巳喜男
脚色:成瀬巳喜男
出演:高峰 秀子、藤原 鶏太(釜足)、夏川大二郎、勝見庸太郎、清川玉枝

戦争が始まろうとした1941年の映画とは思えないような何とも、ほのぼのとした映画。
たとえば、バス車掌のおこまさん(高峰 秀子)が、客が乗っているのに途中で自宅に寄って帰ってボロ靴から下駄に履き替え戻ってきたりと田舎ののんびりした感じが伝わってくる。
なにせ、高峰秀子が利発でかわいい。
当時17歳らしい。
タイトルに名前が入るほどの「アイドル映画」。

甲府のぼろバス会社に勤務するガイドのおこまさん(高峰秀子)は、伸び悩む客足を何とかしようと奮闘する。小説家の井川(夏川大二郎)に当地の名所旧跡を辿る文章を書いてもらい、名所案内をしようとはりきってバスに乗車するが……

「名所案内の文章を社長に検閲してもらわないと」という言葉がすんなり出てくるあたり、その時代背景をあらわしている。
また、この社長(勝見庸太郎)が曲者で、バスがあることで転覆したことでニセの保険請求しようとする。
その後、改心したのか、ぼろバスを綺麗に塗装し、花を飾ってもいいと言う。
おこまさんと運転手の園田(藤原 鶏太)は、気持よくバスに乗り込み、名所案内をする。
その頃、社長室では、密かにバスを売る話がまとまっていた。
バスの中では、おこまさんが名所案内を楽しそうにする姿があった。

最後は、ちょっと苦い。

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2009年3月1日、神保町シアター「東宝文芸映画の世界」にて。

1952年度作品。
原作:谷崎潤一郎
脚本:八住利雄
出演:小暮実千代、大谷友右衛門、山村聡、田崎潤、三好栄子、藤原釜足

夫の仇討をするためお国と家来の五平は旅に出る。
来る日も来る日も、ひたすら仇討の友之丞を探すが、仇討の相手友之丞はなかなか見つからない。
あせりと苛立ちがつのる。
しかし、仇討をしないと国に帰れない。
この封建時代の風習。
国元を離れて5年の歳月がたつ。

仇討に出かけた時、国元では盛大な見送りがあったが、今はそれすら忘れさられている。
五平はお国を慕い、仇討の相手が見つからなくてもこうして一緒にいられることで幸せだと言う。
そんな五平にお国も好意を持ち始め、主と家来をこえた男と女の関係となる。
2人が恋仲となってから、仇討をする目的が、夫や義母のためではなく、これからの2人のためへ、少しずれてくるあたりから面白くなってくる。

そんなおり、仇討の友之丞が2人の前に姿を表す。
2人は仇討を挑むが、友之丞は逃げ回り、お國が結婚する前に一度は自分に身をまかせた女だといって五平に殺される。
お国は、でまかせだと言い放つ。
五平はそのショックで、刀を持ったまま、さまよう。
そのあとを、お国がとぼとぼと歩いてついていく。
五平は仇討を果たして出世することより、お国が友之丞に体をまかせたことが許せないのだろう。
この2人は国に帰っても、うまくいくはずがないことをラストで暗示している。

成瀬監督の時代劇はめずらしいらしい。
武士の妻であるがゆえ、仇討を果たすまで国に帰れないことをお国は嘆く。
2人にとって、仇討を果たしたことがほんとに幸せだったのだろうか。
仇討というしきたりに人生を翻弄されるお国と五平が、なんとも、もの悲しい映画だった。

小暮美千代は、ふてぶてしいイメージがあったが、この映画ではとても美しかった。
大谷友右衛門という俳優さんは、7代目らしく、今は四代目中村雀右衛門らしい。
歌舞伎界最高峰の役者で女方の大御所で88歳とのこと。
すごい方のようだ。歌舞伎の知識が皆無なので正直よくわからない。
そういえば市川崑監督の「天晴れ一番手柄 青春銭形平次」で銭形平次をやってた。
友之丞役の山村聡は、めずらしく情けない役だったので、イメージと違い楽しませてもらいました。

成瀬巳喜男「旅役者」

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1940年度作品
2009年3月1日、神保町シアター「東宝文芸映画の世界」にて。

脚本:成瀬巳喜男
音楽:早坂文雄
出演:藤原鶏太(釜足)、柳谷寛、清川荘司、清川虹子、中村是好、山根寿子、高勢實乘

戦前の成瀬映画を観たことがなかったんで、こんな、ほのぼのとした映画も作っていたのかと感心した。自分が知っている成瀬映画は男と女、家族のドロドロとした粘着系の印象が強い。
その点、今回の映画は、あっけらかんした映画。
脚本も成瀬自身が書いている。昔は脚本も自分で書いていたんだ。

「後ろ脚6年、前脚10年」(逆だったかも)
馬の脚のベテラン俳優である藤原釜足が修行の年数を説く。
藤原釜足の苦虫をつぶしたような言い回しは、職人気質の役どころぴったり。
また相棒の後ろ足役の柳谷寛が、これまたおトボケで、藤原釜足と名コンビです。
中村是好もいやみな役を好演。
ウィキペディアで調べると中村菊五郎役の高勢實乘が、吉本新喜劇の高勢ぎんのお父さんということにびっくり。
藤原釜足も名前を鶏太に変えている。
なぜだろうと調べてみた。
ある人のブログによると、社会が戦争ムードへと突き進む中、内務省から「大化の改新を起こした功労者の名を芸名にするとは何事か」と叱責されて変えた名前なのだという。
戦後は元の釜足に戻している。

映画は、ほのぼのとした、悪く言えばかばかしい映画。

藤原釜足は馬の前脚にプロ意識を持っていた。
しかし、本物の馬が芝居に使われることになり、藤原釜足は馬の世話係に降格させられた。
前脚と後ろ脚が馬の着ぐるみ姿で、本物の馬を追っかけるラストシーン。
「馬に馬の役ができてたまるか!」という一言。
これは、重みのあるセリフ。職人芸が言わせるセリフか。

それにしても、なんとばかばかしい、あほらしい絞まりのない終わり方だろう。
思わず笑ってしまった。
成瀬監督のラストシーンで笑ったのは初めてでは。
貴重な経験でした。

あらすじ・・・
成瀬自身が脚色した「芸道もの」の一作。塩原多助と愛馬の別れの場を呼び物にしている旅回り一座が田舎村にやってきた。その馬役を務めるのは“日本一の馬の脚”を自認する田原俵太(藤原)。しかし、村の世話役をかってでた床屋(中村)に酒の勢いで馬の頭を壊されてしまい、本物の馬を使うことに。俵太は馬の飼育係になってしまうが・・・。笑いの中に哀愁を込めた抒情的な作品に仕上がっている。

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