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セクハラ防止、なお途上 義務化の改正法施行1年
2008.05.22 東京朝刊 27頁 生活1 写図有 (全2,140字)
職場のセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)について、
企業に防止措置を義務づける改正男女雇用機会均等法が施行されて1年がすぎた。
だが紛争は後を絶たず、防止措置は支えにならないとの声も出てきた。
「性暴力禁止法」をつくって対応するよう求めるネットワークも、31日に発足する。
問題点を検証した。(編集委員・竹信三恵子)
●相談窓口知らされず
NTT東日本の支社で研修インストラクターとして働いていた派遣社員の女性(40)は
04年、派遣先の上司から「愛している」とのメールを受け取り、当惑した。
宴会の帰りのタクシーの中で手にキスをされ、カラオケのとき肩に手を回された。
派遣先の機嫌を損なえば失業すると悩んだ。
思いあまって同僚に相談。同僚が上司に抗議すると、上司の無視が始まった。
上司の前に出ると体がこわばり、眠れなくなった。
強迫性障害と診断された。
派遣元の上司に相談すると、
「オレだって肩に手を回すぐらいする」。
派遣先にはセクハラ相談のフリーダイヤルもあったが、女性には十分に知らされていなかった、という。
06年に派遣会社を辞め、女性ユニオンに入って交渉を始めたが、会社はセクハラではないと主張した。
昨年、慰謝料を求め提訴。裁判でも上司は「冗談だった」とセクハラの意図を否定した。
NTT側は「裁判中なのでコメントを控える」とするが、02年度から相談窓口を設け、
啓発研修もしてきたという。
昨年春施行の改正均等法で義務づけられたセクハラ防止措置=キーワード=を先取りした形だったが、
女性は
「当時は研修は正社員だけ。
窓口などの防止措置があっても知らされず、事実を確認しても『冗談』ですむなら法律は有名無実」
と怒る。
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大阪府門真市が本社の中堅部品メーカーの元社員(26)は06年、ホテルへの同行を上司に強要され、
抗議すると退職勧奨された。
社長に訴えると
「加害者の妻に手紙を書け」
と不倫扱いされ、
「会社を訴えるなら上司の側に立つ」
と返事が来た。
個人加入の労組を通じ交渉を始めた。
社長は
「会社が知らないところで行われたものはセクハラではなくプライベートだ」
と否認。
人事部が相談窓口とされていたが、加害上司はこの部の管理職だった。
昨年、和解が成立。
会社側は
「紛争内容は明らかにしないことが和解条件なのでコメントできない」
と話す。
●対応不備、行政機関にも
政策を推進する側の公的機関でも不備は目立つ。
北海道鹿追町の臨時職員だった女性(58)は05年、上司に抱きつかれ、
抗議すると手紙を届けられた。
避けると嫌みを言われるようになった。
翌年、町長に相談したが、防止措置義務ができた昨年度になっても配置換えなどの対応はなかった。
町長は
「男女の問題。セクハラではない」。
警察や労働局でも対応を断られ、町を相手取って損害賠償を求める訴訟を起こした。
同町は
「セクハラの担当を総務課と決めてはいたが、中央の通知を知らなかったこともあり、
防止規定などは昨年6月に作った」
という。
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防衛省でも07年、東日本の航空自衛隊基地の20代女性自衛官が、損害賠償を求め国を提訴した。
訴状などによると、06年、夜勤中の先輩自衛官に深夜呼び出され、逆らえず出向いたところ暴行され、
抵抗してけがをした。
上司に訴えたが逆にいじめや退職強要にあったという。
原告代理人の佐藤博文弁護士は
「相談窓口はあったが、担当者はセクハラの知識のない年配の男性。
上下の規律が至上命令の組織で先輩に逆らえず、暴行を訴えた側が規律を乱したとされた」
と話す。
防衛省は
「裁判中なのでコメントは控えたい」
としつつ、
「セクハラに注意するよう訓令や通達を何度も出してきた。
アンケートも昨年行い実態把握に努めている」
という。
●対処しない企業、損する仕組みを
労働ジャーナリストの金子雅臣さんは
「改正均等法の防止措置義務は会社任せなため、窓口などつくっても社内でかばい合い、
セクハラを公正に認定して対策をとることができない例が多い」
という。
セクハラに罰則を設け、企業が敗訴しても低額の損害賠償で済む現状を変え、
きちんと対処しないと企業が損をする仕組みをつくることが必要、
と主張する。
そうすれば、外部の女性支援の専門家とも連携せざるをえなくなるという。
女性への暴力に詳しい角田由紀子弁護士は
「刑法をはじめ日本の法体系は明治時代のまま。
女性の性を財産とは見ても、性的に安心して暮らせる社会を目指す発想がない。
だからセクハラが軽く扱われる」
と話す。
角田さんやセクハラ、レイプ問題に取り組む女性たちは、性的に侵害されない権利へ向けた
「性暴力禁止法」の制定を求めるネットワークを立ち上げる。
31日、東京都内で発足パーティーを開く。
申し込みはwda−t@ezweb.ne.jp
◆キーワード
<男女雇用機会均等法によるセクハラ防止措置義務>
07年度の法改正で、「セクハラ防止に配慮する義務」が「セクハラの防止措置をとる義務」
へと強化された。
内容は
(1)セクハラがあってはならないという方針をはっきりさせる
(2)相談窓口を定める
(3)相談の申し出があったら事実関係を確認する
(4)確認したら適切な措置をとる、
など。
朝日新聞社
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