ジェノサイドを考える

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善も悪もわたしたちの内にある。すべてのジェノサイドが一部の権力者だけで成り立ったのではなく、名も知れぬ隣に棲むひとびとがいて成立したように。善とともに悪もなすことができるにんげん。だれもがその危うさのバランスの上に生きている。
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ジェノサイドの丘

『ジェノサイドの丘』を読む。
1994年4月6日からわずか約100日間にルワンダで80万人〜100万人の人々が虐殺された。
多数派のフツ族によるツチ族と穏健派フツ族の虐殺は、昨日までの同僚や隣人たちによる殺戮でした。
教師が生徒を殺し、聖職者の多くも殺すことを選択した。
国連を含めて国際社会は介入に躊躇し彼らを見殺しにした。
そして日本では報道すらもほとんどされなかった。

僕が初めてこの事実に触れたのは曽野綾子さんの現地レポートを読んだから。
以来、いくつかの書籍を読んできました。
今では『ホテル・ルワンダ』『ルワンダの涙』といった映画でこの事実を知る人も多いかもしれません。

究極的に殺さないことを選択するには、殺されるしかないという事実。
フツ族とツチ族の少女たちが通う学校を襲った男たちは少女たちに部族ごとに分かれることを要求する。
しかし少女たちはそれを拒み、全員が殺されることとなる。
彼女たちの勇気に私たちは学ばなければならない。

イメージ 1

1960年代半ばにインドネシアで行われた大量虐殺の加害者たちを描いたドキュメンタリー映画。
その被害者は50万とも100万とも200万とも云われている。
1965年の軍事クーデター後、周到に用意された権力者たちの思惑にそって、共産主義者を抹殺すべく、多くの民間人自身が隣人たちを殺していった。
被害者は共産主義者だけでなく、様々な人々に及んだという。

そして加害者たちは罰せられるどころか、国の英雄として扱われている。
逆に被害者たちの家族はただ沈黙をしている。
なぜなら、今でも加害者たちは隣に住み、あるいは政治的な力を持っていたり、暴力をふるっている集団だから。

監督は被害者たちの映画は国の妨害によって描くことができず、やむなく加害者たちを取材していくなかで、彼らの虐殺の再演を描いていくこととなる。
喜々としてその再演をしていく男たち。
まるで映画スター気取りで過去の再演をしていく。
ときに加害者を演じ、そして被害者を演じ。
やがて殺戮者の反応に変化が生まれていく。アクト・オブ・キリングによって。

この映画をきっかけに、現代史から抹殺されている事実がようやく少し明らかになろうとしている。
背景にあるのは東西冷戦のはざまの中で、反共で結託した欧米と日本。
私たちの国も間接的にその殺戮に参加していたとも云える。
悪への無関心という罪を私たちも間違いなく負っている。

悪はあまりにも凡庸に私たちの身近に存在する。
いまを生きるひとが観るべき映画です。

サウルの息子

2015年のハンガリー映画。
カンヌでグランプリ(審査員特別賞)となり、米アカデミー外国語映画賞となった作品。

アウシュビッツで生き残る為に、同じユダヤ人たちの殺害の引率や死体処理をしているサウル。
感情や思考に封をしなければできない作業を日々やり続けていく。
シャワー室という名のガス室への引率、後に残された衣服や持ち物の処分、その中から金目のものを取り出す作業。
殺されゆく人々の叫びやうめきにも感情を閉ざし、その死体を引きずりながら片づけていく。
汚れた床を洗い、死体を焼くための運搬や大量に出た死者の灰の始末。

そこで見たかろうじて生き残った少年。瀕死の少年は医師の手で殺される。
サウルは少年を自分の息子と呼び、その少年だけは埋葬したいと狂気じみた奔走を始める。

カメラの焦点はサウルの姿を中心に合わせられており、焦点のぼけた背景でホロコーストの狂気が丹念に描かれる。
人間が人間でなく、物体として扱われる世界。
それは、殺される側だけではなく、殺す側も同様に。
サウルは埋葬のために、ラビを探し求めるが、彼にとってのラビは個人でもなければ人間でもない。単なる記号的な象徴として扱っていく。
死んだ少年もラビも個人としての名前は失われ、ホロコーストの1日半を描いたこの映画の一つの装置となる。
そして物語は物語の意味を失い、私たち観るものはこのドキュメンタリーの証人となる。

果たして人間性の喪失は回復されるのだろうか?
殺された人々は損なわれ、名も記憶も家族もすべて奪われ、死してからも踏みにじられる。
そこに回復も復活もない。
しかし、サウルが最後に見せるほほえみは、それでも残る人間の希望をあらわしている。

世界はいま、不寛容な時代を迎えている。
経済の停滞が政治への関心を高め、自らの欲求のみを求める我々によって、不寛容さが政治の基盤になりつつある。
他者の否定は競争に打ち勝つ力となる反面、テロリズムやジェノサイドを生む。
いま、観るべき映画です。


カティンの森

ポーランドのアンジェイ・ワイダ監督2007年作。
第二次世界大戦において、ソ連による数千人以上ものポーランド軍将校の捕虜虐殺事件「カティンの森事件」を描く。

父親を事件で殺されたワイダ監督が、殺された男たちとその家族を通して描く不条理なまでに残酷な事実。
ソ連の占領下において、その犯罪はナチスドイツの仕業と喧伝される。
その嘘を嘘と云えない人々は、二重に損なわれ、嘘を嘘と云う勇気ある人々は抹殺されていく。

彼らは何故、殺されなければならなかったのか。
その答えは宙に浮いたまま、つきつけられる現実。

人間はどこまで非道になれるのか、その限界はないかのようにジェノサイドの歴史は続く。
アメリカ、ウクライナ、ドイツ、東欧、ソ連、カンボジア、ルワンダ、ボスニア・・・そして今、この瞬間にも殺され続ける人々がいて、殺し続ける人々がいる。

インターネットで繰り返し再生される虐殺の映像。
八つ裂き刑や様々な残虐刑に熱狂した民衆の姿は、今ではパソコンの画面の前にある。

不寛容さは、人をどこまで残虐にさせるのだろうか?
ヘイトスピーチが声高に叫ばれ、日本人強制収容所を現代によみがえらさせるかのような大統領候補の反イスラム発言がニュースとなる。
もちろん、日本人も例外なくその歴史の当事者である。

せめてもの救いは、人間の歴史の中で、そんな現代であっても過去よりはましになっているという事実。
殺人は明らかに減り、戦争犯罪も罰せられる可能性が高まっている。
明らかに人類は進歩している。
時に生まれる暴力の衝動に、私たち自身が囚われないように望む内は。
以前紹介したアラン・レネ監督の映画『夜と霧』とは別内容の本です。
強制収容所で3年以上にも渡って地獄以上の地獄を味わった精神科医のフランクル。
心理学者としての目で強制収容所の人々を観察し、人生の捉え方を180度変えることを人々に伝えた人でもあります。
 
 
 
 
今から28年も前に本を購入したもののなかなか読むきっかけがつかずにいました。
そんな中、3月にNHKでやっていた「100分de名著」に『夜と霧』が取り上げられた回を偶然見て、次の言葉を知りました。
 
『人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなく、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである』
そして、どんなに絶望的な状況の中においても
『わたしを待っているひとが、わたしを待っている何かが存在する』という言葉。
 
 
フランクルの文章自体は130ページほどの短い本です。
みすず書房の本では数十ページに渡る強制収容所に関する解説や恐ろしい写真を含めた資料で厚くなってはいますが、フランクルの文章はとてもわかりやすく冷静でかつ、人間の高貴さにあふれています。
是非、お読みいただけると幸いです。
 
 
文章の中、圧倒的な暴力と自由の剥奪や死の恐怖の苦しみにおいても、決して人間から奪えないものの存在が書かれます。
からだの自由は奪われても、決してこころの自由までは完全に奪うことはできないのだと。
そして、愛さえも人間から決して強制的に奪えないのだと。
たとえ目の前に愛するひとの存在が見えなくても、その生死さえもわからなくても、愛するという思いは決して消えてなくならないのだと。
 
 
8月にNHKで番組の再放送もされます。
よろしければ是非。
 

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