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「経験」の定義
(1)はじめに
「経験」の定義を「岩波、哲学小辞典」の「経験」の項に沿って解説したい。
先ず大雑把に表現すると「経験」の定義は6つに分けられる。
① 生活内容が拡大すること、つまり「新たな経験」。
② 「経験を積む」と表現される意味。
③ 体系化されていない断片的知識。
④ 感覚・知覚内容。
⑤ カントの言う経験。
⑥ 内界と外界の両者が相互作用して変化していく過程を人間の側から見たもの。
これらを一つ一つ説明しよう。
(2)新たな経験
例えば、初めてスマートフォンを購入して使ってみるというのは、生活内容の拡大であり、それは「新たな経験」である。スマートフォンを持っていれば、どこにいても誰ともすぐに電話ができるし、あるいは相手の都合を考えてLINEでコミュニケーションができる。そして、食事をするためにレストランを探したければ、すぐにネットで調べられる。初めて行く場所でもすぐに地図を調べられる。これは「スマートフォンを経験した」と表現できるだろう。
この「新たな経験」は意識の構造に変化を及ぼす。街を歩いているときに人に電話をしようとか、あるいはいつでも人から電話がかかってくるかもしれないと心構えを持つとか、知らないことがあったらネットで調べようとか、スマートフォンの購入以前には無かった意識構造が生じてくる。
同じく、電子レンジや炊飯器、洗濯機などの電化製品を初めて購入して使ってみることは「新たな経験」で、それは意識の構造が変化することである。
あるいは旅行での新鮮な体験も「新たな経験」で、旅行をすることによって人生観・世界観という意識構造が変化することもある。
(3)経験を積む
例えば、プロ野球で新人が初先発をして初勝利をおさめるというのは、良い経験を積むことである。努力して投手としての能力を高め、可能性を買われて、ペナントレースで先発投手として起用され、実績を積むというのは、現実の実践で能力を発揮できたということでは、本人の自身にもつながるし、起用する側としては、実践を経験し実力を発揮できたので信頼できる投手ということになり、さらに起用したくなる。
他には、例えば太平洋横断の航海の船長として経験を積むとか、パイロットとしての経験を積むとか、防衛大臣として経験を積むとかいうように、特定の能力を実際に行使してその能力を持っていると信頼性をあげることを「経験を積む」と表現される。
(4)断片的知識
断片的知識を経験というのは、意識内容を経験と思考に二分する考えからきている。
思考による知識というのは理論的体系的知識のことを言うのであり、体系的知識とは、先ず原理があり、そこから出発し、その原理を展開することにより、多様な知識を別々なものとしてでなく、統一的なものの異なる側面として扱う知識体系のことである。
この思考的知識に対して、経験的知識とは、原理に基づく知識体系を持たず、多様な経験をそれぞれバラバラな断片的知識として捉えることである。
したがって、経験的という場合は、理論的体系的知識を持たず、多様な経験をバラバラに捉える態度のことを言う。
(5)感覚・知覚内容
経験といった場合五感を通して認識した内容のことを言う。眼、耳、鼻、舌、触覚を通して外界の情報が入ってくる。これを経験というのである。それだけでなく、心の内部の認識も経験であり、これを内部経験という。
この場合「記憶」、「想像」、「思考」は経験ではないとされる。
しかし、五感だけでどうやって経験内容が構成されるかは疑問である。記憶や思考が働かないと、五感のインプットから経験内容の像が結ばないのではないかと考えられる。これを明確にしたのがカントである。
(6)カントの言う経験
カントの場合、「経験」とは「知覚によって対象を認識すること」を言い、そして知覚的認識とは時間・空間という「感性的直感」により「内容」を受け取り、「純粋悟性概念」という思考形式により、受け取った内容が分析・思惟され知識が構成されることを言う。このことは五感が刺激を受けただけでは経験は成立せず、五感の受け取った内容に思考が作用して初めて何を経験したかということが自覚されることを言っている。
簡単に言えば、知覚内容に思考の統一が作用したのを経験というということである。
(7)内界と外界の相互作用
人間は外界に働きかけ、外界を変化させるとともに、そのとき同時に自分も変化する。外界を一方的に変化させるのではなく、必ず反作用がある。ある場合は、意志に沿って順調に外界を思い通りに制御できるときもあれば、逆に外界の事態に翻弄させられることもある。
内界と外界の相互作用を経験というのである。それは認識と実践である。認識とは外界のあるがままを受け取ること、特に物理的認識を言う。実践とは外界を意志に沿って加工することである。
「岩波、哲学小辞典」
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