老兵の繰り言

「特攻隊」の生き残りが後世に語り継ぐ鎮魂の記録です。続いて、自衛隊草創期のうら話などを紹介致します。

7甲飛12期会

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           彗星をP51と見違えました。


甲飛12期会 http://www.warbirds.jp/senri/12-3/
      7-77、「右舷後方に敵機!」  
    

電信員は機上で、暗号文の作成や基地との送受信訓練を行います。 またこれと並行して「実
用信(訓練でなく実務の交信)」も担当します。 《空襲警報発令、訓練中止、帰投せよ》などを
受信できないと大変なことになります。

当時はマリアナ方面からのB29による空襲以外にも、 新たに占領した硫黄島の基地からも、
P51戦闘機が少数機編隊で、たびたび空襲に来ていました。だから、内地の空といっても安全
ではなかったのです。

ある日の午後、第一コースで知多半島上空に差しかかった時、
「右舷後方に敵機!」
と、 見張員が叫びました。 振り向くと右後方から、低空を斜めに近づく2機編隊がありました。
見張員は機銃に弾倉を付けて装填しています。 確認する暇もなくアッという間に胴体の下に
隠れてしまいました。 太陽の反射光線で見えにくい状態でしたが、味方の彗星艦爆であると
直感しました。

確かめようと左下を見るけれども、 なかなか抜け出してきません。 P51のような気もします。
P51は大井航空隊で何度も銃撃を受けていました。だが、いつもは下から見上げていたので、
上から見下ろすのは初めてで自信がありません。陸軍にもあの型の戦闘機があるはずですが、
実物を見たことはありません。疑心暗鬼、尻がむずむずします。飛行機を傾けて下を覗くけれ
ども発見できません。

「おーい! どこへ行った!」
「分かりませーん……」
「分からんで済むか! よーく見張れ!」

見張員も、機銃に装填するため目を離した隙に見失なっている様子です。撃ってこないところ
をみると、やはり味方機だったのでしょう。敵の戦闘機であれば、練習機の独り歩きは絶好の
獲物です。見つかれば逃げられるものではありません。やはり、最初の直感どおり彗星艦爆
だったのでしょう。不安を抱いたまま、予定コースを飛行して帰投しました。

ところが、帰ってみると飛行場の様子がおかしいのです。列線は撤収されて飛行機は掩体壕
に入れられています。おまけに《航空・短艇(飛行中の航空機は直ちに所属基地に帰投せよ)》
の旗旒信号が揚がっています。
シマッター! 空襲警報だ!
「おい、電信員! 実用信は受けなかったのかっ?」
「実用信は受信しておりませーん」

着陸してそのまま、飛行場西側の掩体壕に乗り着けました。飛行機を整備員に渡し、指揮官
を探して、
「六〇五号機、航法・通信訓練帰りました、人員機材異常なーし」
と、報告しました。
「なにっ、異常なしだと……、 敵機はどうしたんだー!」
「敵機発見の電報打ったんは、貴様の機だろ!」

どうも様子がおかしいのです。あとで分かったことですが、見張員の、
「右舷後方に敵機!」の叫び声に慌てた電信員は、確認もせず《敵機発見》の電報を基地に
発信したのです。そのことを私は知りませんでした。
 
基地ではこの電報により、《訓練中止、全機直ちに帰投せよ》と、指令しました。だが、不幸に
もわが機の電信員は、電信機を送信の状態にしたまま、次に打つべき電報の起案にでも気を
取られていたのか、この基地からの電報を受信できなかったのです。

またなぜかそれ以後、 訓練用の交信も中断したままでした。 電信機の故障ではありません。
訓練中の電信員は、他の配置と違って暗号書を引いたり電信機での送受信が精一杯で外を
眺める余裕がありません。だから、機外の様子が分からないため不安が募り気が転倒してい
たものと思われます。

《敵機発見》を打電して1時間近くも音沙汰無しでは、墜とされたと判断されても仕方がありま
せん。 それを、のこのこと帰って来たのだから叱られるのも当然です。敵機の確認を怠った
ため、飛行訓練を中断させ、基地全体にも大変な迷惑をかけ、誠に面目丸潰れでした。しかし、
本物の敵機でなくて助かったわけです。

7-76、意趣返し

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            「航法通信訓練帰リマシタ!」


甲飛12期会 http://www.warbirds.jp/senri/12-3/
       7-76、意趣返し  
    
操縦員は訓練中、航法の間違いに気づいても、知らぬ顔をして飛行します。 航法担当者が
自ら気づいて修正するのを待っているのです。着陸してから、地上の教官が航法図板を点検
します。白図に記入した予定コースと、偏流を測定して修正した航跡図を検討して、その適否
を判定して必要な指導を行ないます。
 
私は甲飛13期生に対しては、後輩という意識もあり、
「おーい、針路の修正が逆じゃないのか?」
「風は右から吹いてるはずだぞー、偏流を計り直せ!」
などと、機上でそのつど注意します。だから、大きな誤りを起こすことはありません。ところが、
学生出身の予備士官に対しては、上級者だからそのような、僣越な注意などは致しません。
ただ指示されたとおりに飛ぶだけです。
 
恐らく他の操縦員もそうであったと思います。 そのため、着陸して教官から叱責されている
のは、ほとんど彼ら予備士官連中でした。搭乗員は士官も下士官兵も機上で行う作業は同じ
です。だから、士官が上手で下士官兵が下手とは限りません。

ある日、夕食も終わりデッキで雑談していました。 すると、われわれが訓練を担当している
予備士官が数名やってきて、操縦員に整列をかけました。 そして、いろいろと文句を並べた
うえ、操縦員全員を殴りました。

彼らにすれば、いくら飛行時間が少なく経験が浅くても、れっきとした偵察士官です。それに
対して、 下士官の操縦員が機上で間違いに気づいていながら、知らぬ顔をして協力しない
から、地上の教官に叱責される結果となる。 下士官の分際で生意気だ、というのが彼らの
言い分です。

さーあ大変です。飛行兵に志願するほどの者だから、みんな向こう意気が強いのです。殴ら
れて率直に言うことをきく者より、反発する者が多いのです。 日ごろから階級をかさに着て、
本来なら自分たちが準備すべき落下傘など、下士官操縦員にやらせる者もいました。だから、
日ごろの鬱憤が爆発しました。

「何だ奴ら! 偏流も満足に計れんくせに、一人前の士官面しやがって……」
「本来なら一升瓶でも下げてきて、願いまーすと挨拶するのが筋だ! 奴ら礼儀も知らん!」
「格好だけは一人前だが、腕前は練公(練習生)以下だ、 あれでも士官かよ……」
「自分の腕前は棚に上げて、俺たちに当たるとはもってのほかだ……」
「飛行時間が2〜30時間じやー、まだまだヨチヨチ歩きのヒヨッ子同然だ! ヒヨッ子の
くせに空を飛ぶとは、生意気だ!」
「よーし見とれ、明日は只では済まさんから!」

こんな調子では飛行作業が順調に行われるはずがありません。阿曽兵曹などは、飛行前の
打ち合わせの時から、
「今日は晴れていますが、上空は気流が悪そうですよー」
などと気流が悪いことを前もって予告しています。 ちょっとした操縦のテクニックで、悪気流
を演出するのは簡単です。 これを繰り返すと顔面蒼白となり、「ゲエー、ゲエー」と戻し始め
ます。

それだけでは済みません、
「偏流を測定するー、針路30度ヨーソロー」
と、声がかかると、
「針路30度ヨーソロー」
と、復唱しながら、飛行機をちょっと右に傾けて方向舵で左に応舵をします。 すると、右から
の横風を受けているのに、飛行機は右の方に流されるような芸当だってできます。これでは、
正確な偏流測定など不可能です。結果は支離滅裂な航跡図ができあがり、以前にも増して、
教官からお目玉を頂戴することになります。
 
また、飛行中にACレバー(燃料混合比調節レバー)を少しずつ出していくと、燃料はだんだん
薄くなります。 一定の限度を越えると、《パン! パン! パパン!》と、異常爆発を起こして、
エンジンが停止します。しかし、プロペラは空転しています。ACレバーを元に戻すと、《プルン 
プルン》と、エンジンがかかります。これを2〜3回繰り返します。

「おい! 操縦員大丈夫かっ?」
「ちょっと、エンジンの調子がおかしいですねー」
「おい、引き返せ! 早く引き返せっ!」
ところで、エンジンはどこも悪くはないのだから、引き返したのでは操縦員が困ります。

「何とか飛べるでしょう……、しかし、悪い燃料を使っいますから、いつ止まるか分かり
ませんよ……」
などと言って、「80丙」の燃料のせいにしてそのまま飛びます。現実に《海上不時着、殉職》
の実例があるので、後席の連中は着陸するまで生きた心地がしません。

予備学生出身の士官は、兵学校出身者と違い自分たちの立場を理解して、一般に穏やかな
人格者が大部分でした。だから、われわれを殴ったのは一部の者にしか過ぎません。しかし、
こうなると一蓮托生です。殴られたお返しはなかなか厳しいのです。

7-75、航法・通信訓練

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            航法計算盤。通称オタマジャクシ。


甲飛12期会 http://www.warbirds.jp/senri/12-3/
       7-75、航法・通信訓練  
    

目印のない洋上飛行を主な任務とする海軍の飛行機は、いかなる場合も推測航法が原則です。
推測航法とは、風向と風速を測定して、自分の飛行機が予定コースに対して、 何度の方向に
何ノット流されているかを算定し、その流された分量を修正しながら、 目的地に到達する方法
です。

飛行機は空中に浮かんで、 風に流されながら飛んでいます。 だから、 機首の方向(軸線)と
実際の飛行方向 (航跡) には差異があります。 この風に流される角度を偏流角と呼びます
(風向と同一方向に飛行する場合は偏流角○度となります)。 この偏流角を異なった2方位で
測定して作図すれば、風向と風速が算出できます。この演算を簡素化したのが航法計算盤です。

この計算手順などは、地上でも練習することができます。 だから、地上で充分に演練してから
機上訓練を行います。 ところが、実際に飛行しながら実施すると思わぬ間違いが起こります。
それは、空中では思考能力が激減するからです。

訓練飛行の場合は、離陸して上昇しながら出発点に向かいます。予定高度に達すると、
「高度1500メートル水平飛行、偏流を測定しまーす、針路30度ヨーソロー」
と、航法担当者から声がかかります。操縦員は、
「高度1500、針路30度ヨーソロー」
と復唱し、針路30度高度1500メートルで水平飛行を行います。航法担当者は偏流を測定し、
「ミギー変針、120度ヨーソロー」
と、次のコースを指示してきます。

2度目の偏流測定を、予定飛行コースと同じ方向になるように計画すれば無駄が省けるのです。
右に90度変針して120度で再び偏流を測定します。偏流測定には偏流測定儀か爆撃照準器
が使用されます。

「偏流測定オワーリ、偏流プラス5度、針路ヲ修正シマース、修正針路115度、ヨーソロー」
と、航法担当者から指示があります。 この意味は、計器の示度では120度で飛んでいても、
風のため5度右に流されているため、 実際の航跡は125度になっています。 そのため、
航跡を120度にするには、計器示度を115度に修正して飛ぶ必要があるということです。

針路を変えて2方向で偏流を測定すれば、これを合成して、風向と風速が算出できます。一方向
だけの測定では、そのコースで流されている角度は分かりますが、気速(計器速度)と実速
(対地速度)の差が算定できません。風向と風速をもとにして実速を算出すれば、目的地まで
の所要時間や到着時刻が計算できるのです。

航法図板(白図)に引かれた予定コースに、解析したデーターを記入しながら、飛行機を目的地
に誘導するのが航法であり、航法担当者の主要な任務です。

また変針する前後には必ず偏流を測定して、風向風速を算出し再確認します。コースの途中でも
余裕があれば随時偏流を測定します。風向や風速は常に変化しているからです。訓練飛行の場合
には操縦員は航法担当者の指示どおりに飛びながら、チャートを見て崎の突端や灯台などの著名
目標の方位や距離を確認して、航法誤差がどれほどあるか見当を付けています。

上達すれば、時刻どおりに目的地の真上に到着することができるようになります。中には目標を
外れ、海の上に帰ってくる者もいます。
「おーい、ここに降りるつもりか? 水上機ではないぞー」
と、からかうことになるのです。
 
一般に偏流のプラスとマイナスの勘違いや、針路修正の加減算の間違いが多いのです。地上での
練習と違い、空中では思考力が低下するので、地上では考えられない錯覚を起こすのです。昼間
の訓練飛行では、操縦員がチャートを見ながら自分の位置を確認しているので、航法に誤差が出
ても直接事故につながることはありません。ところが、夜間洋上での航法誤差は命取りです。

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           航法・通信訓練中の白菊。


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         7-74、「80丙」の燃料で  
    
ここでは、 機上作業練習機としての 「白菊」 が本来の任務に使用されることになりました。
操縦員は通称「馬車曳き」と呼ばれ、後席に航法・通信・見張り兼機銃操作の攻撃員を乗せ
て飛行訓練を実施します。

訓練はあらかじめ指定されたコースを、航法担当者の航法に従って飛行します。通信担当者
は飛行中、機上と基地の間で交信訓練を実施します。攻撃員は見張りと旋回機銃の操作が
その役目です。

操縦員は一見楽な勤務のようにみえますが、 ちょっとの油断もできない緊張の連続でした。
その理由は航空燃料に、「80丙」を使用していたからであす。80はオクタン価を示し、丙とは
アルコールを意味する符諜です。 精製したアルコールを燃料にして飛行していたのです。
これは当時の航空燃料として最低の品質でした。 だから、馬力が出ないうえ、シリンダーの
温度が冷え過ぎると、エンジンが止まる恐れがありました。

飛行訓練を開始して間もないある日、最終の帰投コースを飛んでいると、前方を飛行していた
白菊が急に高度を下げ始めました。 よく見るとプロペラが空転しています。エンジンが停止し
た様子です。飛行場まで滑空するにはとても無理な距離です。

私は増速して高度を下げながら後を追いました。近づいて見ると、横井兵曹が操縦しています。
いろいろ操作を行っている様子ですが、エンジンは回復しません。不時着目前です。
「おい電信員! 不時着機の位置を確認して基地に電報を打て!」
と、叫びました。

「ただ今不時着機からの発信を傍受していまーす……」
不時着機の電信員は必死になってキーを叩いているのでしょう。 うまく着水できたと思ったの
ですが、飛行機は転覆してしまいました。白子の沖合で知多半島との中間ぐらいの海上です。

上空を旋回しながら見ていると、黒いものが5個浮かんできました。全員が脱出できたのです。
だが、乗員4名のはずです。 更に注意して見ると泳いでいるのは3名です。あとの2つは車輪
が浮いているのでした。着水の衝撃で脚が折れたものと思います。

訓練を打ち切り、直ちに飛行場に帰って地上指揮官に状況を報告しました。後で分かったこと
ですが、殉職したのは電信員でした。恐らく最後まで不時着の状況を送信し続け、着水の衝撃
に対応する暇がなかったのでしょう。エンジンが停止した原因は明確ではありませんが、恐らく
粗悪な「80丙」と関係があったものと思われました。

ここでの飛行訓練は、後席に同乗して訓練を受ける予備士官や練習生は、1回ごとに交替しま
すが、  操縦員に交替はありません。 午前も午後もぶっ続けの搭乗で、 緊張の連続でした。
だが、「特攻待機」を解かれ、死から解放された気分は爽快で、肉体的な苦労などは問題では
ありませんでした。短期間でしたが、私の搭乗員生活の中で最も充実した時期でした。

7-73、田中部隊

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           田中部隊の仲間。


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       7-73、田中部隊  
    
われわれが「特攻隊」を編成して訓練を開始してから、 既に3ヵ月が経過し、 沖縄の戦闘
もついに終局を迎えました。 6月25日、 同期生の春木茂1飛曹(菊水第3白菊隊)が参加
した「菊水10号作戦」 を最後として、 「白菊」による特攻作戦は中止されました。 これに
伴なって、われわれの「特攻待機」が解かれました。

そして、金近上飛曹以下第13分隊に所属していた下士官操縦員が、三重県の鈴鹿基地で
臨時に編成された「田中部隊」へ派遣されました。 これは、 相次ぐ「体当たり攻撃」などで、
大量の搭乗員を消耗した海軍が、急速錬成によって搭乗員を補充する必要に迫られ、この
訓練を担当するために臨時に編成された部隊です。    

燃料不足などのため飛行訓練を中断していた、予備学生や予備生徒それに甲飛13期生が
その訓練の対象でした。そして、通常の偵察員教育が航法、通信、射撃、爆撃などをすべて
習得させるのと違い、彼らに対しては、即成でその一部門のみ習得させて、実施部隊へ送り
出す方法がとられました。

そのため、航法担当者は航法のみの訓練を実施し通信はやりません。同様に通信担当者は
通信訓練のみに専念しました。また、攻撃員は見張りと機銃操作が専門です。

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