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「航法通信訓練帰リマシタ!」
甲飛12期会 http://www.warbirds.jp/senri/12-3/
7-76、意趣返し
操縦員は訓練中、航法の間違いに気づいても、知らぬ顔をして飛行します。 航法担当者が
自ら気づいて修正するのを待っているのです。着陸してから、地上の教官が航法図板を点検
します。白図に記入した予定コースと、偏流を測定して修正した航跡図を検討して、その適否
を判定して必要な指導を行ないます。
私は甲飛13期生に対しては、後輩という意識もあり、
「おーい、針路の修正が逆じゃないのか?」
「風は右から吹いてるはずだぞー、偏流を計り直せ!」
などと、機上でそのつど注意します。だから、大きな誤りを起こすことはありません。ところが、
学生出身の予備士官に対しては、上級者だからそのような、僣越な注意などは致しません。
ただ指示されたとおりに飛ぶだけです。
恐らく他の操縦員もそうであったと思います。 そのため、着陸して教官から叱責されている
のは、ほとんど彼ら予備士官連中でした。搭乗員は士官も下士官兵も機上で行う作業は同じ
です。だから、士官が上手で下士官兵が下手とは限りません。
ある日、夕食も終わりデッキで雑談していました。 すると、われわれが訓練を担当している
予備士官が数名やってきて、操縦員に整列をかけました。 そして、いろいろと文句を並べた
うえ、操縦員全員を殴りました。
彼らにすれば、いくら飛行時間が少なく経験が浅くても、れっきとした偵察士官です。それに
対して、 下士官の操縦員が機上で間違いに気づいていながら、知らぬ顔をして協力しない
から、地上の教官に叱責される結果となる。 下士官の分際で生意気だ、というのが彼らの
言い分です。
さーあ大変です。飛行兵に志願するほどの者だから、みんな向こう意気が強いのです。殴ら
れて率直に言うことをきく者より、反発する者が多いのです。 日ごろから階級をかさに着て、
本来なら自分たちが準備すべき落下傘など、下士官操縦員にやらせる者もいました。だから、
日ごろの鬱憤が爆発しました。
「何だ奴ら! 偏流も満足に計れんくせに、一人前の士官面しやがって……」
「本来なら一升瓶でも下げてきて、願いまーすと挨拶するのが筋だ! 奴ら礼儀も知らん!」
「格好だけは一人前だが、腕前は練公(練習生)以下だ、 あれでも士官かよ……」
「自分の腕前は棚に上げて、俺たちに当たるとはもってのほかだ……」
「飛行時間が2〜30時間じやー、まだまだヨチヨチ歩きのヒヨッ子同然だ! ヒヨッ子の
くせに空を飛ぶとは、生意気だ!」
「よーし見とれ、明日は只では済まさんから!」
こんな調子では飛行作業が順調に行われるはずがありません。阿曽兵曹などは、飛行前の
打ち合わせの時から、
「今日は晴れていますが、上空は気流が悪そうですよー」
などと気流が悪いことを前もって予告しています。 ちょっとした操縦のテクニックで、悪気流
を演出するのは簡単です。 これを繰り返すと顔面蒼白となり、「ゲエー、ゲエー」と戻し始め
ます。
それだけでは済みません、
「偏流を測定するー、針路30度ヨーソロー」
と、声がかかると、
「針路30度ヨーソロー」
と、復唱しながら、飛行機をちょっと右に傾けて方向舵で左に応舵をします。 すると、右から
の横風を受けているのに、飛行機は右の方に流されるような芸当だってできます。これでは、
正確な偏流測定など不可能です。結果は支離滅裂な航跡図ができあがり、以前にも増して、
教官からお目玉を頂戴することになります。
また、飛行中にACレバー(燃料混合比調節レバー)を少しずつ出していくと、燃料はだんだん
薄くなります。 一定の限度を越えると、《パン! パン! パパン!》と、異常爆発を起こして、
エンジンが停止します。しかし、プロペラは空転しています。ACレバーを元に戻すと、《プルン
プルン》と、エンジンがかかります。これを2〜3回繰り返します。
「おい! 操縦員大丈夫かっ?」
「ちょっと、エンジンの調子がおかしいですねー」
「おい、引き返せ! 早く引き返せっ!」
ところで、エンジンはどこも悪くはないのだから、引き返したのでは操縦員が困ります。
「何とか飛べるでしょう……、しかし、悪い燃料を使っいますから、いつ止まるか分かり
ませんよ……」
などと言って、「80丙」の燃料のせいにしてそのまま飛びます。現実に《海上不時着、殉職》
の実例があるので、後席の連中は着陸するまで生きた心地がしません。
予備学生出身の士官は、兵学校出身者と違い自分たちの立場を理解して、一般に穏やかな
人格者が大部分でした。だから、われわれを殴ったのは一部の者にしか過ぎません。しかし、
こうなると一蓮托生です。殴られたお返しはなかなか厳しいのです。
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