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毎日この上空を飛んでいました。
甲飛12期会 http://www.warbirds.jp/senri/12-3/
7-78、「名古屋見物ですか?」
その日は、午前中に甲飛13期生の訓練を行って、 午後は予備士官の訓練を実施しました。
各配置の3名を同乗させ、4回目の航法・通信訓練に出発しました。航法担当の河本少尉は、
針路20度で最初の偏流測定を行いました。次は、 110度に変針すると予想しながら飛んで
いましたが、なかなか変針の指示がありません。何をしているのかと後席を覗くと、航法図板
の予定コースに何か計算しながら、盛んに作図しています。
思い当たるふしがあります。恐らく直前に同じコースを飛んだ同僚から、本日の風向や風速
それに偏流角などをメモして渡されたに違いありません。最初に測定した偏流角が、渡され
たメモと一致していたので、してやったりと全コースの航跡を作図している様子です。
通信の担当は、基地と交信の真っ最中で外を眺める余裕などありません。 肝心の見張員
配置も、 ただ漫然と風景を楽しんでいる様子です。 さーて、 いつ気が付くかと思いながら、
そのまま飛ぶことにしました。四日市の高い煙突を左側に見ながら直進します。名古屋港の
防波堤が見えてきました。入り口に相当広くて平らな埋め立て地がありました。いざという時、
不時着場所として充分使えそうです。
市内が望見されます。度重なる空襲で、焼け野原となっていました。工場の焼け跡に煙突だ
けが何本も立っているのが印象的でした。こちらも物珍しく眺めていましたが、ふと思い直し
て伝声管をとり、河本少尉に声をかけました。
「河本少尉、今日は名古屋見物ですか?」
「なにっ! おおっ、これはどうなってんだ!」
「変針の指示がないので、今回から、コースを変更したのかと思って、20度のまま飛んで
おりまーす」
と、惚けてみましたが相当に語気が荒くなっています。すぐに右旋回して南下を始めました。
三河湾にある河和航空隊(水上機基地)を上空から眺めながら、
「河本少尉、帰投時刻は何時にすれば宜しいですか?」
「1620だっ!」
「了解しました……」
航法図板上には、既に全行程の航跡図ができあがって、帰投時刻まで計算できてたのです。
道草を食い過ぎて、正規のコースを飛行する時間はありません。知多半島南端から右旋回し
て飛行場に向かいました。
「河本少尉、予定コースを飛んだことにしてくださーい」
本来なら、これは彼の方から頼むべきです。階級が邪魔をしているのです。こちらが下から
でれば万事が円満に解決します。もしばれたとしても、叱られるのは航法担当と見張員配置
で、操縦員に責任はありません。 エンジンを吹かし気味にして、時間を調整しながら帰投し、
予定時刻ちょうどに着陸しました。列線に帰るころには、河本少尉のご機嫌も直っていました。
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