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九六式艦上爆撃機。
戦没者追悼 http://www.warbirds.jp/senri/10kaiko/06nakano/index.html
10-45、中野先生 戦中日記
五月十三日
命発せられ本日出撃と。残る者松下さんと当村さんのみ。森本さん原田さんは台南へ飛行
機をとりに行って未だ帰らず。 石原さんは森本さんの代わりとの事。編隊が決まっている
ので予備の中からうめて行くわけ。
本日はドカッと多勢の出撃。 何とあわたゞしいことか。 九日は急であった為、心落着かず
アッと思ったのだけど、 今日は少し人にも馴れてきた所ゆえ。 石原さんの顔をみてたら、
不覚にも泣けてしまった。あの特長のある敬礼。すきやきの約束遂に無となる哉。
福元さん長岡先生に、「先生、そんな顔しないでよ」とおっしゃる。 「さあ最後に一曲」
とオルガンを弾いてた福元さん。相変わらずバックを下げてニコニコ顔。
何時もは騒ぐ柴田さんも流石に今日は上がってる感じ。
「操縦者は偵察員の言う通りになるんだよ」と、その真似をしたり敬礼の真似をしたりして
笑わせて下さる。
児島さんは右側の机で黙々と手紙を書いておられたが、 「先生、之を御願いします」と、
台北宛の二通とそれから母上宛の一通、遺書を託される。
持田さんは、「さあいよいよだ!」と板書して又例の通り教員の真似。佐藤さんと二人して
現金八十四円幾らかを、「先生の考えで、何か有効に使って下さい」と託される。
石原さんは遺書二通、遺髪。(髪という字をたずねられて私の机の上で書かれ、此の中か
ら先生の分もとってねと)遺髪と短刀を何年先きでもよいから、沖縄作戦が落着き確実に
届くとわかってから確実に届けてほしいと託される。
責任重大だ。今までは何時死んでもよいと思った私だったが、之では死ねないし、どんな
に辛くとも生きていなくてはならぬ。あゝ代われるものなら!
私が男に生まれたらよかったという気持ち、此の時節に此の運動神経を有効に使えぬ残念
さを話した時、その気持ちは認めると皆さんで言って下さったのに。
「それから下駄 (お姉さんへのお土産のつもりであったろうに) とアルバム先生に上げる
から永久に持ってゝね」とおっしゃる。特攻隊編成の大きい写真が二枚あったので(一枚は
柴田さんの分)一枚は長岡先生に。
九日の黒岩さん達の時はアッという間だったので、何も書残して戴けずに残念だったのに
こりて、今日は幸い一郎(実弟)が遺して征ったハンカチに寄書きをして戴く。
三、四人集ってる時、松下さんがうつ伏してたら石原さんが、「泣いたりするなよ、後から
すぐ来られるからね、すぐ来いよね」「うん」と言ってる。
はじめ松下さんも今日征く筈だったのが残された由。
集ってゝも取り立てゝ話すこともないけれども、皆して「宜蘭で先生みたいな人に会えると
思わなかった。宜蘭ってつまらない所だったけど」と言って下さる。
児島さん、はちまきを持って来られて、 「何か書いて下さい」とおっしゃるので、 片端に
「御成功を祈る中野ユキヱ」片端に「必殺必中」と書く。
石原さんも持って来られたので、真中の日の丸の両側に必殺と書いたら「必中も入れて」
と言われるので、片端に「必中」と入れ、片端に「頑張れ」と書きはじめると「何を書くの?」
と不思議がられるのでその下に「一ちゃん」と書くと「ユキヱ姉さん」と書いてとせがまれ、
小さく「ユキヱ姉」と書く。 (私の実弟一郎を、一ちゃんと愛称していたのと、石原さんの
名前も一郎で、お家で皆さん一ちゃんと呼んでおられた由)
「ウワー之でドンピシャリ、有難とうございました。必ずやりますよ」と大よろこび。
柴田さん、だまって机の上に毛糸の腹巻を置いて行かれる。昼食をとる気になれず。
部屋に誰もいない時、石原さんがツカツカと入って来られ机の右側に立たれ、「ねえ先生、
僕の事、本当の弟の様に思うね」っておっしゃる。「うん」とうなずくのがやっとなり。
口を開けば涙がこぼれて泣けてきそう。返事もせず悪かったかもしれないけど、石原さん
には私の気持ちはわかって戴けたと思う。
そりや誰彼の差はないけれども石原さんには「一ちゃん」と呼びかけたい様な身近なもの
を感じたのは何故だろうか?。
総員整列五分前! 一人々々「先生、御世話様になりました」と御挨拶あり。何とも言葉
もなく頭を下げるのみ。
「長生きして下さいよ」と持田さんと福元さん。あゝ何をか言わん!
春秋に富むべき人達からこの言葉を受けるとは。
空母轟沈! 空母轟沈! と誰も彼も笑って征く!
九日と同じくトラックに便乗。今日は何も文句を言われず。トラックへ同乗したのは松下
さんから「先生!」って言われた故。石原さんに手を引張って貰って乗る。
玉井司令くそくらへ!
石原さん児島さんから落雁をいたゞく。石原さんからいなりずし。飛行場でも実に賑やか
なこと。福元さんが大きな人形を腰につけているのが目につく。携帯食料とサイダーを受
取る時、玉井司令の真似をしながら皆さんがこられるのでおかしくなるけど笑いにならず。
「ガーベラ」がしおれたって心配してた石原さん。
出撃時刻は九日と同じ。二人乗っているは一番機のみ、前席操縦員、後席偵察員。
第一陣(九六式)
一番機、阿部中尉 福元さん 二番機、持田さん 三番機、森さん
第二陣(九六式)
一番機、元木中尉 柴田さん 二番機、石原さん 三番機、駒場さん
第三陣(九九式)
一番機、佐藤さん 渡辺さん 二番機、児島さん
第一陣の持田さん、福元さんが、「先生、征ってきますよ」とあっさりたゝれる。
いよいよ第二陣。「先生、御世話様になりましたー」ってじっと私の目に見入ってた石原
さん! 一寸首をかしげた忘れられない敬礼。
私は涙をこぼさなかったけれども眼は真赤だったことだろう。何か一言言いたいけれども
遂に言葉にならず礼をしたのみ。
遠去かりゆく、トラックの上でサイダー瓶を振ってた石原さん! 一番機の上で、サーッ
と敬礼された柴田さん。真直ぐ前を向いたまゝ操縦桿を握ってた石原さん。
飛行場上空で一周して翼を振った。 二枚翼か! いくら速力の遅い九六でも、だんだん
遠去かりゆく機影を見送り、こみ上げてくる涙を堪える術もなし。
一、無念の歯がみ堪えつつ 待ちに待ちたる決戦ぞ
今こそ敵を屠らんと 奮い立ちたる若桜
二、この一戦に勝たざれば 祖国の行方如何ならむ
撃滅せよと命うけし 神風特別攻撃隊
三、送るも征くも今生の 別れと知れどほほ笑みて
爆音高く基地を蹴る あゝ神鷲の肉弾行
四、大義の血潮雲染めて 必死必中体あたり
敵艦などて逃すべき みよや不滅の大戦果
五、凱歌は高く轟けど 今は還らぬ益荒男よ
千尋の海に沈みつつ 尚も御国の護り神
六、熱涙伝う頬あげて 勲を偲ぶ国の民
永久に遺さじその名こそ 神風特別攻撃隊
神風特別攻撃隊
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