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新鋭艦上爆撃機「彗星」。
青春の回想 http://www.warbirds.jp/senri/
16-127、右舷後方に敵機!
電信員は機上で、暗号文の作成や基地との送受信を行います。 またこれと並行
して「実用信(訓練でなく実務の交信)」も担当します。《空襲警報発令、訓練中止、
帰投せよ》などを受信できないと大変なことになります。
当時マリアナ方面からのB29による空襲以外に、新たに占領した硫黄島の基地
から、P51戦闘機が少数機編隊で、たびたび空襲に来ていまし。だから、内地の
空といっても安全ではなかったのです。
ある日の午後、第1コースで知多半島上空に差しかかった時、
「右舷後方に敵機!」
と、見張員が叫びました。 振り向くと右後方から、低空を斜めに近づく2機編隊が
ありました。見張員は機銃に弾倉を付けて装填しています。確認する暇もなくアッ
という間に胴体の下に隠れてしまいました。太陽の反射光線で見えにくい状態で
したが、味方の彗星艦爆であると直感しました。
確かめようと左下を見るけれど、 なかなか抜け出してきません。P51のような気
もします。P51は大井航空隊で何度も銃撃を受けていました。 しかし、いつもは
下から見上げていたので、上から見下ろすのは初めてなので自信がありません。
陸軍にもあの型の戦闘機があるのですが、現物は見たことがありません。 疑心
暗鬼、尻がむずむずします。飛行機を傾けて下を覗くけれども発見できません。
「おーい! どこへ行った!」
「分かりませーん……」
「分からんで済むか! よーく見張れ!」
見張員も、機銃に装填するため目を離した隙に見失なっている様子です。撃って
こないところをみると、やはり味方機だったのでしょう。敵戦闘機であれば、練習機
の独り歩きは絶好の獲物です。見つかれば逃げられるものではありません。やはり、
最初の直感どおり「彗星」だったのでしょう。不安を抱いたまま、予定コースを飛行
して帰投しました。
ところが、帰ってみると飛行場の様子がおかしいのです。列線は撤収され飛行機
は掩体壕に入れられています。さらに《航空・短艇(飛行中の航空機は直ちに所属
基地に帰投せよ)》の旗旒信号が揚がっています。シマッター! 空襲警報だ!
「おい、電信員! 実用信は受けなかったのかっ?」
「実用信は受信しておりませーん」
着陸してそのまま、飛行場西側の掩体壕に乗り着けました。飛行機を整備員に渡し、
指揮官を探して、
「605号機、航法・通信訓練帰りました、人員機材異常なーし」
と、報告しました。
「なにっ、異常なしだと……、 敵機はどうしたんだー!」
「敵機発見の電報打ったんは、貴様の機だろ!」
どうも様子がおかしいのです。あとで分かったことですが、見張員の、
「右舷後方に敵機!」の叫び声に慌てた電信員は、確認もせず《敵機発見》の電報
を基地に発信したのです。そのことを私は知りませんでした。
基地ではこの電報により、《訓練中止全機直ちに帰投せよ》と、指令しました。 だが、
不幸にもわが機の電信員は、電信機を送信の状態にしたまま、次に打つべき電報の
起案にでも気を取られていたのか、この基地からの電報を受信できませんでした。
またなぜかそれ以後、 訓練用の交信も中断したままでした。電信機の故障ではあり
ません。訓練中の電信員は、他の配置と違って暗号書を引いたり電信機での送受信
が精一杯で、外を眺める余裕がありません。だから、機外の様子が分からないため
不安が募り気が転倒していたものと思われます。
《敵機発見》 を打電して1時間近くも音沙汰無しでは、 墜とされたと判断されても
仕方がありません。 それを、のこのこと帰って来たのですから叱られるのも当然で
す。敵機の確認を怠ったため、飛行訓練を中断させ、基地全体にも大変な迷惑をか
けて、誠に面目丸潰れでした。しかし、本物の敵機でなくて助かったわけですす。
☆今日の一言☆
恥の上塗り
[AOZORANOHATENI]
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