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推薦状も無駄でした。
自衛隊うら話
5-139、防衛大学校推薦状
毎年3月になると、防衛大学校卒業生の任官拒否が話題になります。これは以前からの問題で
した。 そして、この解決に特効薬は見当りません。 また卒業の際だけでなく、入学試験とその
合格発表にも問題を抱えていました。
予科練の同期生で、息子を防衛大学校に入校させたいと言ってきた者がいました。
「一次試験は実力だから、俺の力は及ばないが、一次に合格すれば方法があるから頑張れ」
と、激励しました。
その方法とは推薦状を提出することです。 推薦状といっても裏口入学をお願いするのではあり
ません。 防衛大学校は一般の大学に比較して試験期日が早いのです。そのため、入学する
意志もないのに単に腕試しに受験する者がいます。これらの判別は困難です。
だから合格発表に際して、この入校辞退者を見越して多目に合格させるしか方法がありません。
ところが、それでも入校定員に過不足が生じます。二次試験に際し、現職幹部自衛官が推薦状
を提出することは、『この者が合格した場合は責任を持つて入校させます』という誓約書みたい
なものです。
彼の息子は、一次試験に見事合格しました。連絡を受けたのでさっそく推薦状を提出しました。
いよいよ合格発表が近づきました。一刻も早く合格を知らせてやりたいと思い、空幕の知人に
電話を入れて調べてもらいました。ところが合格者名簿をみたが、彼の名前は載っていないと
の返事です。
そんな馬鹿な! 俺が推薦状を付けているのだ。これでは友達に合わせる顔がない。
今度は、落ちた理由を調べてくれと頼みました。そこまでは無理ですよ……。と渋るのを無理
に頼み込みました。
「どうも、特調(身元調査)に問題があった模様です……」
との回答を得ました。うーん、これは俺の責任ではない、息子が学校で何か問題でも起こして
いたのでしょう。
さっそく電話を入れて残念ながらと、不合格とその理由を伝えました。
「思い当たる事があるので……、今度会った時話すから……」
と、なぜか慌てている様子です。裏に何かあるのでしょう。
次に会った際に聞いた話によれば、問題を起こしていたのは息子ではなく彼本人でした。復員
して就職した会社で、派手に労働運動をやったらしいのです。彼とてもご多分に漏れず《特攻く
ずれ》です。言動に少々行き過ぎがあったとしても不思議ではありません。これがブラックリスト
にでも載っていたのかも知れません。
「この件は、息子には絶対内緒にしてくれ……」
と、真剣に頼まれました。親の因果が子に報いるとは、このことでしょう。
その翌年、今度は実姉の次男が防衛大学校を受けたいと言ってきました。そして、今度も一次
試験に合格しました。こちらは親戚のことで内情は承知しています。だから特調などに引っ掛か
る心配はありません。さて、推薦状を書く段になって考えました。できることなら今度こそ確実に
合格させてやりたい。それには推薦状を自分で書くより、もっと大物に頼んだ方が効果があるだ
ろうと判断してその手続きをとりました。
お陰で見事に合格して、合格通知や入校案内が送られてきました。ところが入校直前になって、
「長崎大学にも合格したから、そちらの方に行きたい……」
と、言いだしました。
「もーう、勝手にせーい! 」
それ以降二度と再び、防衛大学校の推薦状を書くことはありませんでした。
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