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広いダイニングキッチンにて、八神はやてはため息をついていた。管理局の英雄の一人とも数えられる彼女も、持ち前の茶髪をかきながら食材を眺める姿は一般的な人と変わらない。そんな様子を少し離れたリビングから見ていたのは、はやての大切な家族の一人、八神シグナムであった。
「どうかされましたか?」
「ん?シグナム……なんでもないよ。ただちょっとヴィータがな……」
「ヴィータが、どうかしましたか?」
はやては困ったように眉をしかめる。
「ほら、最近のヴィータ、のろけ話全開!!って感じやないか。それで話を聞いてたら、なんや私には結局そういう『おのろけ』的なことは一切無いままここまで来てしもたなって思って」
「そ、それは……」
シグナムはいつも鋭く端正な顔に、珍しく慌てた様子で汗を浮かべる。
「主は、日夜多忙でいられましたからね」
「せやかて、私もまだプリプリ花の10代やで!……四捨五入したら20代やけど。
ともかく、皆が青春で過ごしてもおかしくなかった色恋沙汰を完全スルーなのは頂けなくない?」
「はあ、おっしゃる通りですが。しかしそれにしても急ですね」
「それは、今まではそんなの無くっても気にならなかったんやけど、
ヴィータに続いて、今度はシグナム、次にシャマルもー……って続いていったら、
あんまりにも主としての威厳もあったもんや無いんやん」
「私達はそんなこと気にしませんが」
「私が気にするんや〜」
いつも冷静に家族をまとめる大黒柱的な存在である、主からの珍しい子供のようなわがままな言葉に、何故だかシグナムは少し嬉しそうな笑みを浮かべてしまう。多分、主に素直に頼られるのは嬉しいのだろう。彼女は少し考えると、やがて指を立てて言った。
「……なら、こういうのはどうでしょうか」
「こういうの?」
「どうも、八神はやて言います♪19歳、現在は管理局でちょっとしたお仕事をやってます。よろしゅうな〜♪」
はやては、シグナム、シャーリーの三人でとある喫茶店に来ていた。それぞれ多少豪華めな外着に着替えており、普段も垣間見せる美しい姿に、より華やかさを際立たせている。そして、目の前には、
「ひゅー!!はやてちゃん可愛いね〜!」
「よろしくお願いします♪」
「どーも」
初対面の男性が三名、はやて達と向かい合う形で椅子に腰掛けていた。
(これは勤務外にシャーリーから誘われたのですが、どうやら男三人と合コンと言うものをやる予定だったらしく、人数が足りないそうでして。私は当然参加する予定は無かったのですが、主も含めて参加するのなら返事をしても良いものかと)
そう、これは合コン。合コンである。まさに「花の仕事で忙しい系10代女子」には、かかせない色恋イベントと言える、かもしれない。
初めてのシュチュエーションながら、はやては生来の良い性格と、賢く穏やかな性格、そして麗しい見た目を持って男性達からの評価は高いようであった。
「はやてちゃん、飲んでる〜!?」
「あはは、オレンジジュースいっぱい飲んでますー♪」
「はやてさん、ご家族がたくさんいらっしゃって、しかも皆さんをまとめてらっしゃるなんて素晴らしいですね」
「そ、そんな風に素直に褒められるとなんだか少し照れてしまいますー。
別に好きで皆と一緒にいるだけなんやから、あんまり褒めないでくださいー」
「はやて、美人、可愛い」
「もう、褒め殺しはやめてーな〜〜〜!!」
「あははははは!!!」
と言った具合に、みるみるうちに合コンの中心へと連なっていくはやて。ちなみに、地味にシグナムも、
「シグナムさん、飲んでる〜!?」
「少しだけ飲んでいますね」
「シグナムさん、剣士さんなんですか。珍しい職業ですね、凄いです」
「性格には騎士ですが、ありがとうございます」
「シグナム、美人、クール」
「そうでしょうか?……そうかもしれませんね」
と、そこそこ男性陣から人気を得ていたようである。
主催者のシャーリーは終始空気であった。ちなみに、彼女は眼鏡っ娘である。
「なんで〜〜〜!!?……って、まぁお二人と一緒ならこうなる気もしましたけど〜〜〜〜〜!!!」
「それじゃあね〜〜〜!!!」
「では、よろしければまた」
「ばいばい」
「三人とも、今日はありがとうございましたー♪」
「…………」
合コンは、つつがなく終了した。
そう、結局楽しく6人でワイワイと過ごし、何事も無く終了したのである。良くも悪くも、何事も無く。
「それじゃあ、私も帰り道こっちなんで。何か、色々と不遇だったような気もしますけど。ありがとうございました」
「シャーリーもほな、また明日な♪」
岐路に付く主はやてと騎士シグナム。二人っきりになってから、シグナムははやてに聞いた。
「主、連絡先などの交換を一切されていなかったようですが」
「あーうん、そうやねー」
「個人的な感情を置き考えるなら……あの三人は別段不審な点もありませんでしたし、それなりに魅力のある男性だったような気もするのですが」
「うん、良い人達やったと思う。でも」
「?」
「うーん、ちょっとお話したら、なんと言うか……満足してしもたんかな」
「……満足?」
「そう」
はやてはそれだけ言うと、呆気にとられるシグナムを置いてずんずんと歩いていってしまう。
「あ、お待ちください主」
少し早足で、シグナムはその背中を追いかける。
「…………」
(まぁ、ほんまにええ人達ばっかりやったんやけど……)
はやては先に歩きながら困り顔で目を瞑る。
(そんな人達を見てたら……自分よりまずシグナムとか、シャマルとかに紹介したいって気持ちが出て来てしもたなんて、言えへんなぁ)
「私……もうすっかり花の10代どころか、大家族のお母さんみたいやな」
「はい?主、今何か……」
「なーんにも、言うてへんよ〜」
まだうら若い夜天の主は、小さな舌を口から覗かせ答えたのであった。
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というわけで、なのは物語807話でした。 間に6話ほどノーナンバーの話を入れていたので、
そろそろ平常運転再開です。って、元から更新減ってましたし、
別に毎日やるかは微妙な所ですが(汗)
はやてさんとシグナムさんがなんと合コンに行きました。
ええ、行っちゃったんですねぇ(驚愕)
結果は見ての通りですが、はやてさんは苦労人のようで楽しそうなのが凄い所です。
まだまだ若くて美人の、女の子なんですけどね♪
……ではでは、今日はこの辺で
ヴィータちゃんは私の嫁〜〜〜〜〜〜永遠に愛してるよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
って、痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!!!! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― |
『月夜になのは物語』
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詳細
コメント(2)
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少女は、倒れてから目覚めなくなった……とある男の傍に寄り添っていた。
部屋には彼と彼女だけ。ベッドで横たわる男はもう3日間も目覚めていない。
「……ったく、おめーのせいで今日も仕事に行けやしねーじゃねーか」
少女の呟きに答える者はいない。
「…………考えてみると、おめーともなげー付き合いだよな。あたしは、まぁ最初は変な奴だと思ったよ。変な格好で、いっつも付きまとってきて、本当に迷惑この上ない……ってそれは今もあんまり変わってねーかもしれねーけど」
少女は、ヴィータは、男から目を逸らして上を見上げる。
「……ほんと、たくさんおめーとの思い出が出来ちまったなー。その間に、いつの間にか変だ変だって思ってたおめーのことさ、別に変にも感じなくなっちまった」
むしろ、とヴィータは続ける。
「おめーがいねーと、なんか、調子狂うんだよな。うん、そうだ……おめーには負けたよ。何年も何年もしつこく引っ付いてきて、すっかりあたしはおめーを受け入れちまってた。口には出さなかったし、これからもぜってーに出さねーけど、多分それが本音だ」
言い終えてから、一息付き微笑む。そして、男の顔へと自分の顔を近づけていく。ほんのり顔を赤くしながら、彼女は目を瞑った。
「だから、とっとと目を覚ませよな。バカ」
「!!?なんだっ!?」
突如、輝きがその場を包み込んだ。まるで瞬くような僅かな時間それは続き、
そして、始まったのと同様に突如輝きは消える。
「今のって……って、何!?」
消えたのは、輝きだけではなかった。
「……嘘…………だろ。まさか………………」
ほんの数秒前まで眼前にあった男の姿は、気が付くとかき消えていた。慌ててヴィータはシーツを破けそうなほど強く握り締め、顔を上げる。首を必死に左右に向け辺りに『彼】を探すが、見つからない。
「くそっ!!」
ドタンと激しくドアを開き、廊下へと出る。彼女は焦燥した様子で辺りを全て伺う。上下左右、どこを見てみても……男の姿は無かった。ヴィータは、それを理解し、ゆっくりとかみ締めた後、目を大きく見開く。拳を鈍い音がするほど握り締め、衝動的に目の前の壁を殴りつけた。
ドバァンッ!!
うっすら汚れていた白い壁を大きくへこませ、ヴィータはガックリと膝を付く。
「………………そんな……」
握り締めていた拳を震えながら開いていく。そして、彼女は自分の顔へと手を当てた。顔は何故か濡れていた。一体何故濡れているのか、ああ、そうか。彼女は理由に気づいて再び拳を握ぎり直す。手はやはり、震えたままであった。
「ま……ったく……。ふざ…けんなよ…………」
「ヴィータちゃん」
「ん?」
なのはの呼び声にヴィータは振り向く。
「大丈夫?もう1週間も夜遅くまでお仕事してるみたいだけど……」
「ああ」
ヴィータは口元に笑みを浮かべながら、しかし眉を僅かにしかめて言った。
「あいつのために三日も仕事を休んじまったからな。ちっとばかり挽回するために打ち込んでるってやつだ」
「……あの人は、結局」
「分かんねー。でも、多分そういうことだ」
目の前の書類を書き込みつつ、ヴィータは目を細める。
「シャマルも、診察してくれた時に似たようなことになるっつってたしな。あんな風に、輝いて消えるとは言って無かったけど、な」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫だって、別に仕事くれー……」
「そうじゃなくて、あの人が消えて……」
「分かんねー」
なのはの言葉に諦めたようにヴィータは書類から手を離すと、頭の上で手を組み座席の背もたれに身を預けるように倒れ掛かる。そして上を見上げた。
「……分かんねーだろ、そんなの。例えば、いきなりなのは、おめーが消えたってあたしはきっと自分が大丈夫なのかどうかなんて、きっと分かんねー。実感が分かねーんだ、あいつがいなくなったって言う」
「ヴィータちゃん……」
「…………もう一度、あいつに会えれば分かったのかも、な」
「ふんふんふん〜〜〜ふふふふ〜〜〜〜ん♪」
とある街角にて。
スーツ姿の男は一人のんびりと歩いていた。
「それにしても、良い物を入手出来ました。これを付ければ彼女も……ふふふ♪」
手にはとある物が握られており、男は躊躇いも無くそれを頭へと装着させる。それは、見た物からするとかなり目を引く……というか、完全に違和感を醸し出すものであったのだが、男はそれ付けると満足げに頷いた。
「素晴らしいフィット感です。これは素晴らしい」
事実、その男はそんな奇妙な形状の装着物も見事に付けこなしていた。彼は何しろ、人目を引くほど美しい顔立ちをしていたのである。如何におかしなものだろうと、その顔立ちのおかげであまり奇異には見られなかった。
それでも、やはり一般的に考えて、その装着物はおかしかったのだが。
「さて、じゃあ行きましょうか」
ガチャ
「ん?」
家の鍵が、開いていた。時刻は午後0時、もうすっかり辺りに人気は無い時間帯である。ヴィータはすぐに思った。
(泥棒か?)
ゆっくりとそのままドアを開き、音を立てずに彼女は家の中へと入る。泥棒に入られたことなど今まで無かったが、彼女は突然の荒事には慣れているのである。足音を立てずにゆっくり、ゆっくりと、真っ暗な家の中を進んでいく。
(……一階には誰もいねーな。んじゃ、二階か?もしかして、鍵をかけ忘れただけか?……いや、確かに鍵はかけたのを確認した筈だ)
彼女は迷いつつも念のためと、階段をひっそりと上っていく。すると、
「!!」
あろうことか、ヴィータの寝室の扉から光が漏れ出しているではないか。
(野郎、下着泥棒とか変態の類か……!ぜってーとっちめてやる!!)
そっと、まるで敵アジトに潜入したかのように全力で無音での前進を敢行するヴィータ。すぐに扉の前まで何よりも静かに到着した彼女は拳を構える。例え中にどんな奴がいても、すぐに対処出来るように、だ。
(3……2……1……!)
心を決めて、彼女は扉を勢いよく開いた。
「お帰り♪」
「あ?」
そこには、真顔で正座をし、部屋に殴り込んだヴィータを真正面から見つめる男がいた。まるで彼女が現れることが分かっていたかのように、極めて普通に彼はヴィータを挨拶で出迎えた。
「………………」
拳を振り上げた姿勢のまま数秒ヴィータは固まった。
「…………誰だ?」
「いやだな〜私だよ、私♪」
しげしげとヴィータは男を見つめ直す。
「………………………誰だ?」
「って、ええ!?そこは、二人の愛の力とかで分かって欲しいんだけど〜」
「…………」
ヴィータは目を丸くし、拳をゆっくりと下ろしていく。やがて、口元に大きな笑みを浮かべ、呟いた。
「なんだ、戻ってきてたのか」
「うん」
「なんでそんなに様変わりしてんだよ」
「色々あって」
「なんで、こんなとこでジッと待ってたんだよ」
「早く会いたかったけど、会社にいって行き違いになりたくなかったし、
ここには必ず戻ってくると思って」
「…………まぁ、とりあえず」
「うん」
男は、サースィ・ケフカは両手を広げた。
「……って、もしかして私、これから殴られる?」
「あっっったりめーだァ!!!」
ボガンッ!!とヴィータの力強い拳がサースィの顎に入る。
「うおぉっ!!!?」
そして、
ガシッ
「!」
ヴィータは思い切り彼の体へと抱きつく。
「あたしを心配させた分と、あたしのとこにちゃんと帰ってきた分だ……」
「…………心配かけてごめん。……ありがとう」
「………ああ」
「なんでおめー、そんなウサ耳付けてんだ?」
「え?ヴィータちゃん喜んでくれないの?」
「いや、確かにあたしはウサギ好きだけどさ。そんだけのために付けてんのか?」
「……いやね、私もウサギ好きなんだ。実はね」
「へえ」
「でも、ヴィータちゃんとは違って私はウサギかっこいいと思ってるんだ。なんでかは上手く言えないけど、ね。だからそれが理由」
「かっこいいと思うから付けてる、か」
「それに、これヘッドホンと一緒になってて色々な機能が付いてるんだよ?
超便利グッズだよ?」
「そ、そうか。……にしても、見違えたな本当に。そんな理由で付けてるウサ耳もあんまし違和感とか感じねーし」
「そうでしょう?そうなりたいって頑張ったからね、多分」
「頑張ったらなれるのか?」
「分からないけども」
「適当に答えんな!」
「ごめんごめんって」
「ふん!」
「……まぁ、見た目が変わったのは私もこれから色々変わっていくっていう覚悟が多分決まったってことなんだと思うよ」
「……そういや、見た目だけじゃなくて変な笑い方とかもしてねーな」
「色々変わっていくんだよ、色々と」
「そうか。まー……いいや」
「うん?」
「今はおめーが帰ってきたことだけで、良しとしといてやるよ」
「そっか……じゃあ私も、ヴィータちゃんの所に帰ってこれたことだけで、
よしとしておこうかな」
「そういやまだ言ってなかったな」
「……うん」
「おかえり」
「ただいま」
月の煌く夜の下、
少女と男は共にある。
新たな変化の予感を感じながらも、
月光の赴くまま、
二人は今、
再び出会ったのであった。
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「変?どこが?」
「全部だよ全部!!見た目もピエロみてーってか、わけわかんねー格好だし、
後、性格も変だ。絶対、変」
「なんで?」
「だって、あたしのことを可愛い可愛いって毎日飽きもしないで繰り返し言ってさ、どこ行くにもついて来ようとするし、怒ってものすげー殴ってもむしろ喜んでる感じになるし……」
「ホッホッホ……まぁ確かに『変態』という括りでみるなら変ですけども」
「やっぱ変なんだな」
「でも、好きな人に寄り添おうとする人なんてみんな変なものなんじゃないかな?
「え?」
「好きな人は可愛いってずっと思ってるし、伝えたい。どこに行くのか気になるし、私も一緒に行きたい。怒ってたって好きなんだから受け入れちゃう。……そんなものなんじゃないかな?」
「…………」
「そう、つまり恋愛中の男は皆『変態』なんだよ!」
「……って、かっこわりー宣言だなー。一瞬何か深いこと言ってるのかと思って気を張っちまったじゃねーかよ」
ゴチンッ
「うぇぶっ!!そんな思い切り殴らなくても!」
「ふん」
「……ヴィータちゃんは……私がそんな風にヴィータちゃんにあれこれしたいと思うのって迷惑に思う、かな?嫌だったりする?」
「まーこんな気持ち悪い格好の奴に付きまとわれんのは、ちょっとな……」
「う……真実だけども、ストレートに嫌そうにされると普通にへこむなぁ」
「でも、まぁ」
「?」
「好きだなんだって素直に言われんのは、そんなに悪い気はしねー……かもな」
「すっかり、私達も一緒に暮らして何年も経つねぇ。私はひじょーに嬉しいです」
「急になんだよ?」
「いや〜昔はヴィータちゃんも一緒に出かけると嫌そうな顔で顔面を殴って来たけど、きょうびすっかりそういうことも無くなった無くなった」
「殴られてーってことか?」
「いや、あの……たまーになら?今日以外の!!」
「ちっ」
「危なかった……。危うく素敵な夜景デートが救急車に持ってかれる所だった」
「そんなに強く殴んねーよ。つーか、これから帰りに買い物も行くんだからな。荷物持ちがいなくなったら面倒だ」
「ふーむ、確かにヴィータちゃんのためなら荷物は幾らでも持つけどもね」
「……しっかし、綺麗だな」
「おお、絶景絶景」
「……なんであたしを見て言ってんだ。夜景のことだよ、夜景の」
「ああ、夜景かー」
「…………昔から、おめーはずっとそんなんだったよな。目の前には色々なもんが広がってるのに、いつもあたしばっか見て可愛いとか素敵とか」
「目の前にあるものより、目の前のヴィータちゃんの方が大切だからねぇ」
「ふーん。あたしは、それも悪い気はしねーけどさ」
「しねーけど、何?」
「いや、たまには違う景色から見る方が面白いんじゃねーかなって、さ」
違う、景色……
「なんで、おめーっていつも道化化粧してんだ?」
「え」
「服とかはたまに変えてるけど、その化粧は毎日必ずしてるよな。なんか願掛けでもしてんのか?」
「うーん、してる……かも」
「へぇ」
「でも、してない……かも」
「いや、どっちだよ」
「だって、別に深く考えてるわけじゃないし、ただ……毎日変わり無くそうしてるだけっていうか」
「そういうのって癖ってやつだっけな」
「そうそれ」
「……自分で言っといてなんだけどちげーんじゃねーのか」
「ほら、ヴィータちゃんも毎日自分の髪型を三つ網にしてるでしょ?
そんな感じだよ〜多分」
「ああ、ま、あたしの場合はやてが喜んでくれたし、あたし自身……結構気にいっちまってんだよな〜。あ、おめーもその道化メイク気に入ってんのか!」
「え?あーうん、ホッホッホ……」
「ってわけでも、ねーのかよ。たまには素顔になってみたらどうだ?」
「素顔、ねぇ」
考えてみると、ヴィータちゃんは私のことをよく分かっていた。
私が決して口に出さなかった悩みもヴィータちゃんは気が付いてるようだったし、
遠まわしに心配、してくれていた。
私がヴィータちゃんを見ていたのと同じくらい、
ヴィータちゃんも私を見ていたから?
そういえば、今、ヴィータちゃんはどうしてるんだろうか。
私は多分、急にいなくなった?
いや、もしかしたら倒れて意識を失ってるのかもしれない。
心配、してるだろうな。
すっごくすっごく心配してるかな。
会いたいな。
会って、可愛いねって頭を撫でたい。
それに、ぎゅっと抱きしめたいし、
彼女のちょっと膨れた顔を見て、笑いたい。
そんな私を見て、微笑む彼女を見ていたい。
それから手を繋いで一緒に歩きたい。
途中で多分、ヴィータちゃんは私に「変」だって言う。
私はそう言って貰えてなんだか嬉しくなる。
彼女を前に「変」でいられないなんて嫌だ。
彼女を前に「平静」でなんていたくない。
ずっとドキドキ、ドキドキってしてて、
ヴィータちゃんもそんなドキドキに気が付いてて、
だからヴィータちゃんも多分ドキドキしてて、
もうちょっとだけ、互いに近づいて歩く。
笑顔で私は彼女を見て、
彼女はニカッて笑って応える。
そこにいなくちゃいけないのは、
道化の私ってわけじゃない。
そういう時だってあったさ。
でも、そうじゃない。
私だ。
道化の私じゃなく、私がいなくちゃいけないんだ。
だから…………
もしも、それが叶うのなら。
愛しきあなたに、届け。
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これは走馬燈ってものなのか……?
わからない、でも、確かにそうあれはこの世界で初めてヴィータちゃんを見つけて、
それから……
「ったく、いつまでも付いてくんなって!ストーカーで警察に叩きこむぞ!」
「ホッホッホ!どうぞどうぞ!私は逃げますよ!光の速さで!!」
「どういうことだよ!?つーか、もう…結局家の前まで付いてきちまった……」
「良いじゃないですか、私もヴィータちゃんがどんな人達と暮らしてるのか凄く興味ありますし」
「おい、あのな!!」
「は、はい」
「おめーはあたしのこと良く知ってるみたいなこと言うけどな、あたしはおめーのことなんざ全く知らねーんだ!!あんま気安く『ヴィータちゃん』とか呼ぶんじゃねー!!」
「う……な、ならなんて呼べば……」
「呼ぶな!!……どうしても呼ぶんならヴィータ『さん』だ。あたしは子供じゃねー。そんな歳じゃねーんだ」
「多分、私も似たようなものだと……」
「うるせ〜!!」
「ふ〜ん、あなたはうちのヴィータの友達、もとい……彼氏さんになりたいんか」
「はい!!」
「だー!!!だからおめーとは初めて会ったばっかりなんだし、そんな要求通らねーんだって!!」
「ちょいヴィータ落ち着きって」
「だってはやて、こいつなんか無茶苦茶言ってないっ?」
「言ってると思うで?けど、うーん」
「…………」
「どうかな、とりあえずヴィータがいたらちょい話も進まないと思うし、
少し二人で散歩でもせーへんか?」
「はやて、良いの?こんな奴と」
「とりあえず、見た目ほど悪い人でも無さそうやしなー」
「な、中々辛口ですねぇ」
「……というわけで、私は過去の世界からヴィータちゃんを追ってこの世界にやって来たのです」
「…………なんや、話が壮大すぎてあんまり実感は湧いてないんやけど、とりあえずなんとなくそちらさんの状況は分かったわ」
「分かってしまいましたか」
「なんとな〜く、やで?」
「それでも会って数十分の人間がこんな滅茶苦茶な話をしてきて、それでも『分かった』と言われるとは想定外でしたねぇ」
「せやけど、それはそれや」
「え?」
「ヴィータはまず第一にうちのかけがえの無い大切な家族の一員や、
あなたが例えどれだけ長い年月をかけてこの世界にやってきたのだとしても、
ヴィータ自身があなたを拒否するならうちも全力でヴィータを守る」
「…………なるほど」
「で、あなた的にはどうなん?」
「?」
「昔がどうあれ、今のヴィータに嫌われたらあなたのこれまでの努力は全て無かったことになる。それなら、せめてこれ以上嫌われないようにヴィータにもう近づかないでこのまま離れていくのも一つの手やないかとも思うで。ほらよく言うやん、ってああなたのいた世界でも言うか分からへんけど、『思い出は綺麗なままが良い』って」
「…………」
「それとも、もしかしたら嫌われて、二度と顔を合わせられない関係になるかもしれないリスクを背負って、一からヴィータとの関係を作っていきたいと思うんか?言っておくけどうちのヴィータは簡単やないで。意地っ張りやし、すぐ睨むし、嘘も嫌いや。可愛いって言われるのは苦手やし、馴れ馴れしい人も苦手や」
「挑みましょう」
「へ?」
「私の人生を賭けて、なんて背負わせるつもりは無いですが、ただ……それが必要ならそれくらいしたって良い。僅かにでもその可能性があるのなら、私はそこに賭けてみたいです。例え、その先に永遠に彼女の愛を失う可能性があったとしても」
「……なんや、思ってたよりロマンチストなんやね」
「転生した先に変わらぬ愛を信じて追いかけてきた時点で気づいて欲しかったですねぇ、ホッホッホ」
「それなら、うちから言うことはひとまずもう何も無いよ。そうやもう遅いし、せっかくやからあなたもうちで晩御飯でも食べていかへんか?」
「良いんですか?」
「うちかて、いつかはヴィータにも他の家族にもまっとうな人と結婚して欲しいと思わなくも無いんよ。まー、あなたがそのまっとうな人になれるかはこれからの頑張り次第ってとこやけど」
「そうですかー。まぁ、なら遠慮なく晩御飯は頂いてしまいましょうかね」
「うん。あ、そうそう」
「はい?」
「あなたがどんな経緯でこの世界に来たか、あなたがどれだけヴィータのことを好きかどうかは教えて貰ったけど、『あなたが過去どんなことをしてきた人なのか』はまだ教えて貰って無かったよね」
「それは……」
「いや違う違う。それが聞きたいってことや無いんや」
「?」
「ただ、あなたがどんなことをして来た人なのかは全く知らないし、もしかしたらたくさん酷いことをしてきて、ちょい反省してるような人なんかもしれない。
それでも、『ヴィータのことを好きになってくれてありがとう』」
私は結局、ヴィータちゃんと今は共に暮らすまでになった。
そうか、怯えていたのは過去のことなんかじゃない。
『賭け』に勝って、勝ち取った『ヴィータちゃんとの暮らし』
それを失うのが怖い。怖いんだ。
かつての世界から『ヴィータちゃんと恋をし、次の世界まで追ってきた私』
それこそが道化姿の今の私。
もしも私が、かつての私を背負ってることで消えかけているのだとしても、
かつての私を手放してしまったら、私はそれでもヴィータちゃんに振り向いてもらえるくらいヴィータちゃんを愛していられるのか。
次元を超えてヴィータちゃんを追いかけられるくらい、
彼女を愛し続けていられるのか、
怖いんだ。自分が消えてしまうことなんかよりもずっとずっと。
ずっとずっとずっと。
「おめーって本当に変な奴だよな」
ヴィータちゃん?
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「『ケフカであること』を、やめない?」
「そうだ。『ケフカ』、それは大きな罪を背負った存在だ。人一人の生涯では到底償いきれないほどの罰を背負っている、そんな存在。だが、お前はその名前を背負い、かつての姿のまま生きている」
「それは……姿を変えたからと言って罪を償ったことになるわけでもないですし」
「だが、その姿でいることはお前がかつて不幸を与えたものに対する侮蔑でしかないとは考えられないか?かつて自分達を死ぬほど苦しめた相手が、今はのうのうと幸せを享受している、と」
「確かにそう思われても仕方ないかもしれませんが、やはりそんなことで姿を変えることに意味があるとは私は思いません。してしまった罪は背負いきれなかったとしても、引きずりながらでも背負っていきます」
「無理だ」
「無理でも、です」
「……何故そう頑なに捉える。その姿のままでお前に何の利点がある?」
「私は、この姿に馴染んでいます……」
「……破壊者の姿に馴染んでいる、か」
セフィロスは私の言葉を聞くと、嘆息を漏らして首を振る。
「やはりお前は逃げているんだ、『変化』からな。かつての自分を手放した先に何があるのか恐くて進めなくなっている。そして、だからこそお前は消えかかっている」
「どういう……」
「時間だ……」
「え?」
ハッと周りを見ると、周囲を覆う宮殿がグラグラと音を立てて崩れ初めていることに気が付いた振動は最初は小さく、しかしやがて激しいものへと段々と変化していく。
「これは……!」
「残念だ、古いよしみだけに出来ることならばここで救ってやりたかったが……お前の心を覆う柵は、どうやら想像以上に根が深かったらしい」
「セフィロス……!!」
「俺と共に、お前も消え行くようだな……」
セフィロスの体が、下からまるで砂のように消えていっているのが目に入った。長身で何者も寄せ付けない強さを持った、英雄の身体が消えていく。
そして、私も……
「くっ……ううう……!!」
足が、まるで溶けてしまったかのように感覚を失っていく。恐い。恐い。夢とかでこんな夢を見たことがある。大切な失ってはいけないものが失われていくような、それでいてどこか現実離れしているような気持ち。けど、夢とは違って今の私は意識がはっきりしている。
だから恐いんだ、今にもこれは夢だと叫び、狂ってしまいそうなほどに。
「くそっ、くそっ……」
足が無いのだ、当然その場から動けない。そして、そうこうもがいているうちに手、下半身、上半身とみるみるうちに砂のように、存在を消却されていく。
恐さに唇がガクガク震えた。失うのだ、今ここで、私は全てを。
今まで色々やってきて、色々な人と出会って、セフィロス様に憧れて、色々な戦いを乗り越えてきて、色々な経験をして、奏さんとも出会って、
ヴィータちゃんと恋をして。
全部全部無くなってしまう。これからだと思ってたのに、いつかはそんな日が来るとしても、それは遥か彼方の遠い日のことで、まだまだこれから、やりたいことがたくさんあって、なのに……
セフィロスの姿は既に消えてしまっていた。
そして、砂化はついに顔まで届いていく。
「わた……し……は………………」
「なんだ、おめーは?すげー変な格好してんだな」
「私はケフ……いや、サースィ:ケフカ。あ、サースィってのは英語で生意気とかそんな感じの意味らしいですよ」
「へー。で、その生意気さんがなんか用か?」
「実は私、あなたに一目惚れしてしまいまして!!」
「へ?」
「是非是非、お友達からで良いので、お付き合い頂けないかと……」
「ちょ、ちょっと待てって!あたし、おめーみてーな変な格好の奴見たことねーんだけど、一目惚れっていつどこでだよ?つーか、お・付・き・合・い、だぁーーーー!?」
「遅っ……。ホッホッホ、一目惚れは一目惚れですよ。それもなんと、前世から?」
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