旧ただ若き日を惜しめ

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本田宗一郎著の「私の出が語る」に、どうしても紹介したい箇所がある。


それは生涯の友人であった山崎夘一との後年のエピソードである。
卯一とは高等小学校時代に二人で誓い合った「いつか金儲けして、サバの煮つけを食べよう」
と言う約束を果たす為に、60年振りに二俣の町を訪れてサバの煮つけを捜したりもした。

「私の手が語る」の中で宗一郎は夘一とのもう一つのエピソードを紹介している。
あまりに面白い内容なので、かいつまんで紹介しておこう。



本田宗一郎著 「私の手が語る」P233   山崎君との約束

仲のよい友達というものは、おたがいの気持ちが手にとるようにわかるだけに、
時どきやるゴルフでは、ふしぎに対向意識がつよくなる。
ある時、夘一から「豊橋のほうで、ゴロフをやるかが、一緒に行かないか」と声がかかった。
当時、ゴルフ狂であった私は二つ返事で同行を約束した。
当日は朝6時の新幹線で東京を発ち、新横浜から山崎君と車内で落ち合うことになった。

さて、その前夜。私は夕食をすませると、翌日のコンディションをベストにして山崎君を唖然とさせる程
こっぴどくやっつけてやろうと考えて床についた。
ところがなかなか寝付かれない。

眠れぬままに時計をみると、もう11時だ、これはいかんと思って睡眠剤を服用したがなかなか効かない。
ついに12時から3時半頃まで、三度にわたって薬を飲んでしまった。
朝5時に家内にゆり起こされたときは意識がもうろうとして、おもわず床に倒れて正体がない。
「これではゴルフは行けるわけがありませんから、やめてください」、
「いや、これは男の約束だから死んだのなら仕様がないが、これぐらいのことで破るわけにはいかない」

家内は経験上、私の性格を知っているからそれ以上は止めない。
それならと言うので東京駅までついてきてくれた。

早朝の東京駅の階段を、バックをもった家内の肩につかまり、重病人よろしくホームへたどりつく。
さぞ珍妙な光景だったことだろう。

山崎くんには連絡が入っていたとみえて、いろいろ心配してくれた。
豊橋へ着くとすぐ病院につれて行かれ、睡眠剤をさます注射を打ってもらい何とかコースに出たが、ナイスショットは一発も出ず、山崎君にやられてしまったが約束を果たした満足感は残った。
山崎君もうれしかったと見えて、ゴルフは早めに切り上げて、豊橋でうまい夕飯をごちそうしてくれた。



と言った内容である。
宗一郎の性格と、妻さちとの夫婦関係、山崎夘一との友情が濃縮されたエピソードである。


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