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. 【 正体不明の小型計器板 】 1. 機種不明の偵察席計器板 私の手元にコンパクトな「計器板一式」があります。 終戦直後に進駐軍の兵士が「お土産」として機体から取り外したものです。 通常、戦利品は計器単品を土産とする事がほとんどですが、この計器板はとてもコンパクトであり、米軍兵士の荷物の中に収まる大きさの為、オリジナルのまま米国に持ち帰られ、戦後60余年が経過し、祖国日本に里帰りしたものです。 まずは、この小さな計器板が取り付けられていた機体の特定から始めました。 外観的特徴をリストアップしますと。 1.高度計、速度計の組み合わせからして、偵察席の計器板と考えられる。 2.通常、偵察席の計器板は、高度計、速度計、時計の組み合わせが多く見られるが、 この計器板は時計が無く、その代わりに「計器盤燈」が取り付けられている。 3.「計器盤燈」からして夜間運用されていた機体と考えられる。 4.速度計は最高速が45ノット(海里)、時速833kmまで表示できる「三型改一」 が取り付けられており、高速タイプの機体と考えられる。 5.購入時の伝承から、進駐軍兵士が機体から取り外し、個人的お土産として米国に 持ち帰ったとの事であり、終戦時の残存機体数の多い機体の可能性がある。 日本陸海軍機のコクピットに関する資料(写真)はほとんど現存していません。 ましてや、偵察席の計器板となりますと探すのが極めて困難です。 当時のコクピット写真が最も多く掲載されている ROBERT.C MIKESH著「JAPANESE AIRCRAFT INTERIORS」から、この偵察席用計器板の使用されていた機体を推測してみる事にしました。 [機体の特定] 絶対的な情報不足の中で、素人の収集家による推測である事をご承知置き下さい。 基本的には消去法で、機体を絞り込みました。 消去法の条件は、偵察席に三連計器板が取り付けられていた機体です。 ※どの資料を見ても二連計器板は存在せず、もともと三連計器板であったものから航空時計が外され、二連計器板に設計変更されたものと考えられます。 1.水上偵察機 ・零式水上観測機は最大速度370kmからして対象外。 ・零式三座水上偵察機は最大速度367kmからして対象外。 2.晴嵐偵察席 ・最大速度474km(フロート投棄時560km) ・生産機数28機、終戦時の残存機数2機しかない。 ・計器板の形状が異なる。 3.九九艦爆、彗星艦爆 ・後部計器板の形状が異なる為、対象外。 4.九七艦攻、天山艦攻 ・九七艦攻の偵察席に三連計器らしきイラストあり。 ・天山艦攻に関しては写真が現存せず。 ・終戦時の残存機数 九七艦攻134機、天山187機。 ・最大速度 九七艦攻377km、天山482km。 ・可能性はあるが断定できない。 5.夜間戦闘機「月光」(二式陸偵) ・スミソニアン博物館に保存されている機体の、偵察席計器板とは形状が異なる。 ・「月光」は中島飛行機製で、夜間運用の証である「計器盤燈」が使用されている。 ・最大速度507km、終戦時の残存機数40機。 6.艦上偵察機彩雲 ・偵察席は、航空時計を含む三連計器板である。 ・夜間戦闘機「月光」と同じ中島飛行機製で、ほぼ同時期に製造されている。 ・艦上運用はされず、戦争末期は陸上からの夜間運用がされている。 ・最大速度610km、終戦時の残存機数173機。 ※消去方により機体を絞り込んだ結果、「月光」と「彩雲」が候補として残りました。 [計器盤燈] 夜間戦闘機「月光」に取り付けられているものと同じであり、大戦末期に夜間運用されていた機体に取り付けられている。 [月光偵察席計器板] 速度計と高度計が縦並びで、羅針儀が真横に配置されている。 夜間運用機の証とも言える「計器盤燈」が取り付けられている。 この配置は複数の実機写真から確認できる、従って月光もしくは二式陸偵の偵察席計器板が、縦並びから横並びの二連計器板に進化していったとは考えにくい。 [特殊攻撃機「晴嵐」計器板] 中央に航空時計、左右に速度計と高度計を配した三連計器。 28機しか生産されなかった事から、短期に二連計器に変化していったとは考えにくい。 これまでの限られた情報だけで正体不明の小型計器板を使用機体を絞り込む事は、極めて無理がありますが、あえて以下の根拠から機体を艦上偵察機「彩雲」と特定しました。 1.「計器盤燈」は夜間運用されていた機体であり、「彩雲」も夜間運用されていた。 2.「計器盤燈」は夜間戦闘機「月光」と同じものであり、彩雲は同じ中島飛行機の製造である。 3.速度計は二型改一が使用されており、高速型の機体と考えられる。 4.終戦時の残存機数が多く、進駐軍兵士のお土産となった可能性がある。 さらに検証をする為、「彩雲」に関して最も多くの情報が掲載されている、 文林堂世界の傑作機108「艦上偵察機 彩雲」で検証を進めました。 現存する「彩雲」偵察席を写した唯一の写真です。 「羅針儀」と三連の「小型計器板」が縦並びで配置されている事が分かります。 写真を良く見ると、速度計は最大表示可能速度30ノット(556km/H)の「速度計三型」が、高度計は10000mまで表示可能な「精密高度計2型改1」取り付けられている様です。 彩雲一一型偵察席の計器板イラストです。 航空時計を含む三連計器が取り付けられていますが、航空時計は離着陸時の振動による故障や、出撃時の時計合わせの都合で機体から外し、搭乗員が首に掛ける事が多かった様です。 これは、陸軍の空中勤務者も同様の事が言えます。 「彩雲偵察席計器板」の拡大写真です。 良く見ると、速度計と高度計の中間部に、後付けの手作りの様な部品が取り付けられています。 円形の部品であり、その下に漢字二文字の銘板が取り付けられています。 これは「照明」ではないかと考えました。 基本的に「航空羅針儀」には照明機能が付いています。 しかし、速度計や高度計には照明機能が付いておらず、計器の目盛板に塗られた蛍光塗料に頼っていましたが、夜間運用の増加により確認性が悪く、搭乗員からの要請に基づき、整備兵が夜間戦闘機「月光」に取り付けられていた「計器盤燈」を参考にして応急処置で照明を追加したものと推測します。 偵察席計器板は航空時計は不要であり、代わりに「計器盤燈」を追加して欲しい・・・。 との現場からの要求は、製造会社である中島飛行機に伝わり、同じ中島飛行機で製造されていた夜間戦闘機「月光」の「計器盤燈」を流用して、新たに二連式計器板ベースを設計して完成させたものが、この二連式計器板の正体ではないかと考えました。 現場からの要求が、時計を外してほしいだけであれば、計器板ベースの変更は無かったはずです、他の機体同様時計部分を穴開きのままで放置すれば良い事です。 しかし「月光」同様、夜間運用に必要な照明機能追加の要請であれば、製造部門はそれに応えなければなりません。 小型計器板ベースを良く見ると加工が左右対称になっていません、仕上げが雑です。 およそ工業製品とは言い難い仕上がりです。 これは、正規の図面には無いパネルを、急遽手作りで製造したものと推理します。 従って、この二連式計器板は昭和20年8月まで製造が続けられた彩雲一一型の末期仕様と考えます。 これらの検証から、この小型偵察席計器板を「彩雲」の偵察席計器板として判断し、別途所有していた「航空羅針儀二型改」と組み合わせて、「彩雲偵察席計器板」を復元する事としました。 .
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