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レジのドジ 1
郊外を走る幹線ぞいの軽喫茶店。
教育委員長の皐月(67)と委員の浅見(65)が全国学力テストの取り扱いについて意見交換中。
その他の懸案も協議して委員会での話し合いを深めようとの狙い。
この店は、食事時間をずらすと、広いので隣の人とも離れて席がとれ、二人の愛用のお店。
かれこれ2時間ちかく話し合い、浅見は、「この3案のうち、1,2案が適当とおもうけど、どちらがいいか日曜日までに連絡します」と皐月に言った。
皐月は、「お願いするよ」と言ってうなずいた。
そして、葬儀に参列予定の時間もせまり、皐月は立ち上がった。
二人はレジに向かった。
皐月が、「紅茶代」と言って、1000円札をだす。
レジの娘は、「ありがとうございます」と、応対するが決済をできないでいる。
皐月と浅見は、立ったまま娘の様子を見る。
娘の胸のネームカードに、氏名と研修中という字が大きく書いてある。
やや細身な整ったスタイル、切れ長な眉と憂いを含んだような柔らかな目尻、ひと眼で心優しい人とおもわせる娘。
浅見は、自分が飲んだコーヒー代を先に払った方が娘にはやりやすいのかな?と思い、1000円札をだし、コーヒー代と言って置く。
すると、娘は思いきったように口を開く、「校長先生」
びっくりする浅見、うなずく。
朝日に輝く露に濡れたような双眸の娘を見る。
娘は呼応するように、「卒業証書をいただきました」
浅井は彼女との接点をさぐるために、「担任の先生は?」
娘は、「松山先生です」
「ああそれじゃ、私の退職するときの卒業式」と浅見。
娘は、うなずく。
それから娘は安心したかのように勘定をすすめた。
食い入るように話しかけてくれた娘。
彼女の眼はもっと何かを語りたいように浅見には思えた。
彼女とどんなことがあったのだろう?
美しく成長した娘の姿からは思いだせない浅見。
他の客がレジに並んだので、浅見は心残りのように、「また来ますね」と言って分れた。
皐月と浅見は外に出た。
皐月は、「覚えていて言葉をかけてくれるなんて、なんて幸せなこと。それで彼女は勘定ができなくていたんだね」とほほ笑む。
同じ元校長同士の二人、浅見はちょっぴり優越感におぼれながら、「どんな接点があったのでしょうかね」と、皐月を見ずに言った。
車に乗り込んでからも浅見は、彼女に不義理なことをしたかのような思いにとらわれた。
もっと 話を聞いてあげることができたなら、と後悔にも似た気持ちだった。
幸せでいてくれたらいいが?と思わずにはいられなかった。
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