『ワリィ(La Wally)』はルッカ出身のアルフレード・カタラーニ(1854-1893)が物故する前年、1892年1月20日に初演された第六番目のオペラで、彼が作曲した最後のオペラである。原作はヴィルヘルミーネ・フォン・ヒレェルン(Wilhelmine von Hillern)という女優にして小説家が書いた山岳ロマンで、あのルイージ・イッリカ(Luigi Illica)がリブレットにした。どちらかというと評判が今一つだったカタラーニのオペラ中、この作品は大成功をおさめたそうだ。
原作は"Die Geyer-Wally (Wally the vulture)"(Berlin 1875)で、日本語にすれば"ハゲタカ ワリィ"ということになり、ちょっと興醒めな題名である。この小説は読んだことがないので、リブレットが原作を忠実になぞっているのか、そうでもないのか、よくわからない。ただ、この原作者の別の作品は米国の独語学習者のテキストに使われて有名らしいので、読みやすい小説なのではないかと想像する。
手元にあるCDはワリィ役を十八番としたテバルディがタイトルロールを歌うモノーラルのライヴ録音(Istituto DIScografico italiano)である。有名な1968年の録音ではなく、録音状態ははっきり言っていまいちである。しかし、ジュリーニの指揮による録音はこれしか知らないので仕方ない。
CD添付の解説によれば、録音された公演はこのオペラの新演出で、1953年12月7日、ミラノの守護神である聖アンブロジオの日のイヴに前夜祭として企画された。当初、ヴィクトール・デ・サバタ(Victor de Sabata)がタクトを振る予定であったが、この年に心臓発作で倒れ、ローマのRAIで音楽監督をしていたジュリーニが代役を務めることになったのだそうだ。また、これはレナータ・スコットがミラノの劇場にデビューした演奏会とのこと。
(以下の地名や人名はドイツ語式の表記に徹したものではない。)
IDIS 6401/2
ALFREDO CATALANI 1854-1893
LA WALLY
出演:
レナータ・テバルディ − ワリィ
マリオ・デル・モナコ − ハーゲンバッハ
レナータ・スコット − ワルター
ジャンジャコモ・グェルフィ − ゲルナー
ジョルジオ・トッツィ − ストロミンガー
ヨランダ・ガルディーノ − エイフラ
メルキオーレ・ルイーゼ −歩行者
伴奏:
ミラノ・スカラ座オーケストラおよび合唱団
指揮:
カルロ・マリア・ジュリーニ
1953年12月7日 スカラ座でのライヴ録音
<あらすじ>
第一幕 チロルのホッホシュトーフ(Hochstoff)、1800年ごろ。
裕福な地主(農夫)のストロミンガーは自らの70歳の誕生日を射的大会で祝っており、ヴィンセンツォ・ゲルナーが優勝する。ツィター奏者のワルターはストロミンガーの娘のワリィについての唄を歌う。ワリィは人里離れた山々を愛好する娘である。隣村のゾルデンからやって来た若い狩人たちが狩りから戻ってくる。その中にジュゼッペ・ハーゲンバッハがいる。彼は一頭の熊を仕留めており、自分の手柄を誇らしげに自慢する。彼の亡き父親の仇敵であったストロミンガーは熊の仕留め手をあざ笑い、これが荒っぽい口喧嘩を引き起こす。そこへワリィが突然登場し、小競り合いをおさめる。彼女とハーゲンバッハはお互いに強くひかれ合うが、どちらもそのことをあえて言い出さない。彼らの密やかな愛を見逃さなかったゲルマーはそれを嫉妬し、ストロミンガーに自分が見たことを話す。農夫のストロミンガーは自分の娘をゲルマーの嫁にすることを決意するが、ワリィはゲルナーを拒み、父親に反抗する。ストロミンガーが娘を勘当すると、彼女は村を去って山岳地域に定住する。ワルターが彼女に付き従う。
第ニ幕 ゾルデン、一年後。
聖体の祝日の行列のために村人たちが集まっている。ゲルナーやハーゲンバッハ、それにワルターもそこにいる。父親の死後、この地方で一番の金持ち女になったワリィも不意に現れる。彼女はまだ男と接吻(キス)をしたことがないと艶っぽく語り、自分にうまく接吻できた男と結婚するつもりだと言いきる。村人たちがミサのために教会に入ると、ゲルナーがワリィに近づき、彼女に対する永遠の愛を告白する。そして、ハーゲンバッハは今はエイフラを愛していると告げる。かわいらしいエイフラはゾルデン出身の宿屋の主人である。ワリィはこの知らせに苛立ち、即座にエイフラに対して気に障るようなことを言う。ハーゲンバッハが飛びこんできてこの少女の味方になり、自分がワリィと接吻できるかどうかで農民たちと10ターレルの賭けをする。レントラーとワルツの音楽が響くなか、ワリィとハーゲンバッハはお互いの愛を宣言し、熱烈な接吻を交わす。ゾルデンの村人たちはこのカップルを祝福し、賭けに勝ったハーゲンバッハに拍手を送る。ワリィは騙されたと感じ、深く傷つく。"私は彼に死んで欲しい"と、彼女はゲルナーに語る。ゲルナーはいまなお完全に彼女の意のままである。
第三幕 ホッホシュトーフ、同じ日の晩。
ワルターはワリィに付き従って帰宅する。ゲルナーがホッホシュトーフに戻る途中、ハーゲンバッハもワリィの家に向かっていてワリィに許しを乞うつもりだと祭りの参加者の一人がゲルナーに語る。ゲルナーは橋の近くに身を潜める。戸外で嵐が吹き荒れると、ワリィは自らの殺人の願いを後悔し、ハーゲンバッハを許そうと決心する。しかし、ハーゲンバッハが橋に近づいた時、ゲルナーが彼に忍び寄って峡谷に突き落としてしまう。ゲルナーはそのあと、自分の策略がうまくいったことを誇らかにワリィに知らせる。しかしその時、峡谷から叫び声が聞こえる。ハーゲンバッハはまだ生きている! ワリィは彼を救うために村人たちを呼び集める。しかし、暗く不吉な峡谷を下降する勇気を持ち合わせているのは彼女だけである。彼女は気絶したハーゲンバッハをロープで結び、彼を峡谷からひっぱりあげる。それから彼女は彼をエイフラに任せ、この少女に自分の全財産をも与える。いまや村人たちによって英雄と称えられているワリィは、完全な孤独のうちに暮らすべく山岳地帯へと隠遁するのであった。
第四幕 12月のムルツォール・ピーク (the peak of the Murzoll)。
ワルターがクリスマスにワリィを村に連れ戻すべく山を登ってくる。しかしながら、ワリィはワルターを帰し、孤独のうちに雪の中で死ぬことを願う。長い間ワリィを探しつづけていたハーゲンバッハがそのとき突然登場する。二人は互いの愛をあらためて告白し、新たな生活を始めることを決意する。二人は山を下り始める。しかし嵐が起こり、ハーゲンバッハは霧の中で道に迷ってしまう。轟音と共に雪崩が山を滑り落ち、ハーゲンバッハを飲み込んでしまう。そしてワリィは渦巻く雪の中へ身を投じる。ハーゲンバッハを飲み込み、彼女をも飲み込む死の中へ。
(了)