李英愛研究

ネットの記事でイ・ヨンエさんに迫ります

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ミリャン(密陽)

 自分にとって忘れがたい映画は、忘れがたいワンシーンによって決まることが多い。木を見ても森が見えていない場合がほとんどだろうから、その作品の本筋とあまり関係ないような場面であることも多い。

 お正月に『ミリャン シークレット・サンシャイン』を見なおしたのだが、この作品に忘れがたい場面があったか思い出せなかった。前に見たときはもっぱらチョン・ドヨンの演技に注目した。しかし、記憶に残るシーンがなかった。今回見なおして、例えば教会で叫ぶシーンなどは、いわば主演女優の見せ場であり、見事としか言いようがない。

 今回はソン・ガンホ中心に見た。そして、さりげないがとても印象に残る場面があった。自暴自棄の果てに行きつけるところまで行ったチョン・ドヨンが、病院の救急治療室のようなところで点滴を受けている。彼女は横臥し、目を閉じている。そっと背後から近づいたソン・ガンホはゆっくりと彼女の髪の匂いをかぐ。手を触れているかもしれないし、そうではないかもしれない。そのとき彼女は亡き夫のくせだった狸寝入りをしていた…、と、それだけのシーンである。

 このシーンを見たとき、すぐに思い出したのは『八月のクリスマス』のガラスごしの指の愛撫である。『春夏秋冬、そして春』で、なき子を偲ぶ母親が顔を覆ったスカーフごしに流す涙も、なぜか思い出した。チョン・ドヨンは涙を流したわけではない。そして、ラストシーンでは、これもなぜか『俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)』の農場の原っぱだったかでのボニーとクライドのラヴシーンを思い出した。たしか、紙袋か干草が風に舞いながら飛ばされるシーンである。

 ソン・ガンホは四十に手が届く平凡なチョンガーを好演している。この人が発する"シィバル"には実に雰囲気があって大好きである。自分にはキョンサンド(慶尚道)訛りなどは聞き分けられるはずもなく、あれはきっと慶尚道訛りの"シィバル"なんだろうなと想像するしかなかった。チョン・ドヨンが近所の商店街のおばさんたちとおやつか軽い食事みたいなものを食べながら談笑する場面でも、香ばしい訛りが横溢しているはずなのだが、そっちの方は全くわからなかった。よく見ると、おばさんたちはマンドゥー(ギョーザ)なんかをパクついている。

 家業が終わった店内で大音声でカラオケに興じたり、床に就いて、テレビを付けっぱなしで寝付くような気の良いこの男はポリスの『Every Breath You Take(見つめていたい)』を地で行くような片思いをする。女の側からそれをからかうようなせりふもさりげなく映画の背景音で出てきたと思う。ポリスの曲をダシに使ってしまったが、いわゆるストーカー気質とは違う。実家の母親から度々電話がかかってきて、ご飯は済んだのか、嫁さんはどうなっているのかと繰言を聞かされるこの男は、あくまでも正々堂々と片思いに励むのである。そして、この人物が出てくることによって、打ちのめされ "病んだ" チョン・ドヨンの姿がくっきりとあらわれ、病院を退院する時に男が差し入れた水色のワンピースと生成りの上着を着た女は仏頂面の女学生のようにしか見えず、野暮ったい上着をそれでも女は手放さず、そして、ふたりを見ている自分は救われるのだった。

 "ミリャンシ(密陽市)"は海沿いの街だとばかり思っていたのだが、地図を見ると内陸にある。ウィキペディア韓国語版には13世紀末からの来歴が紹介されている。1390年に"ブ(部?)"に昇格し、李氏朝鮮時代末に"グン(郡)"に改編され、日本統治時代を通じて膨張し、今日ある形に近い密陽市になったのは1989年だそうだ。そして、1995年に密陽市一円と密陽郡一円を管轄する"道農複合形態"の密陽市が設置された。国家記録院というお役所のページを検索したところ、"道農複合形態"の市とは、中央行政機関の長および道知事がこの形態の市に対して都市地域と農漁村地域の均衡開発または遅れた地域の効率的開発のために開発計画を樹立したり財政上特別な支援ができる、そういうところだそうだ。

 2009年の数字で、密陽市の人口は110458名(45479世帯)。2004年からKTXの高速列車が停車するようになったとの事である。日本の島根県安来市や滋賀県近江八幡市、岡山県瀬戸内市と姉妹都市なのだそうだ。

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