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3.江原道旌善郡にあるアリラン食堂は、キムチチゲ、豆腐チゲ、チョングッチャン(清麹醤)、タットリタン、猪肉(=豚肉)の辛炒め専門の店で、味噌チゲはもちろん、イカと豚三枚肉の炒め物などもある。「アリラン」を探して旌善郡界隈のページを調べている時、たまたまこの食堂のページを見た。
上の「チョングッチャン」は味噌の一種を指すことばで、これだけでチョングッチャンチゲを指すようだ。納豆汁の親戚みたいな料理である。ただ、「タットリタン」がわからない。「タッ(鶏)」の「タン(湯)」で、鶏のスープなのだろうと思うが、あいだの「トリ」がわからない。いろいろ検索すると「タットリ」で「鶏」らしい。ひょっとすると、「トリ」は日本語の「鶏または鳥」のことで、いわゆる畳語の変種なのかもしれない。無理矢理書けば「鶏鳥湯(とりとりスープ)」。
向こうの辞書を見ると、「チゲ」は「肉・魚・野菜・豆腐などの材料に味噌や唐辛子など薬味を加えて煮た鍋物」、「タン」は「汁物」である。タットリタンはスープらしいが、タットリチムというのもある。「チム」は「鳥・魚・肉・野菜などをいろいろの薬味と一緒にじっくり煮つめたもの」だそうで、辛いシチューのような料理かもしれない。
自分は韓国料理に関してはほとんど何も知らない。数年前に韓国に行った時も、ろくなものを食べなかった。もっぱらジャジャンミョン(ジャージャー麺)か、町のおかず屋のようなところでジャガイモのマッタン(大学芋風で甘いおやつ)みたいなものを買って食べた。地下鉄の駅を出たところにあるパン屋で安い惣菜パンを見つけて食べたりした。トッポッギも、目抜き通りの屋台ではなく、観光コースから離れた横町に入って安い店をさがした。晴れがましい食事は、チキンカツ定食ぐらいだった。
大阪府の鶴橋にあるアリラン食堂のメニューには、テールスープ、メウンタン、ふぐ汁、ビビムバ、あわびお粥、トック、特製チジミ、たちうおチム等々、一品料理や各種焼肉なども豊富で、何でもある。自分は鶴橋はおろか、大阪駅に下車したこともないが、応援している球団の関係から親しみを持っている地域である。
上の「テールスープ」は向こうで「コリコムタン」と呼ばれるものなのだろうか。これはかなりうまそうだ。スープ自体もそうだが、出汁が出切ったあとでもゼラチン質のところはうまい。焼肉部のメニューには「プルコギ」があって安心する。平たい方形の肉を焼いて薬味と一緒にサンチュ(包菜)で包んで食べる、というやり方は、それほど昔から続いているわけではないと思う。自分が初めて食べた「焼き肉」は、薄切りの肉をタレに漬け込んで味を染みこませてから焼くプルゴギだった。今でもめったに食べられないが、焼き肉といえばジンギスカン用の調理器具で焼いたプルゴギを思い出す。
米国のアリラン食堂をネットで探すと、例えばハワイにはArirang House Korean Restaurantというのがあったが、メニューは出ていなかった。ここは日本人観光客が多いせいか、日本式の餃子の店やラーメン屋もある。他の韓国系のレストランをみると"Yakiniku"と表示している例がいくつかあった。なんで"Bulgogi"と言わないのだろう。ファストフード店に行ったら「プルコギホットドッグ」みたいな品がありそうなご時世である。「プルゴギ」で焼き肉一般を代表させてもいいように思うのだが、これだと最近の「方形肉の焼き肉」というスタイルを表さないということなのかもしれない。それとも、自分が勘違いしていて、「ヤキニク」と「プルコギ」は別の範疇なのかもしれない。
米国本土で探すと、例えばサンディエゴにはLA Galbi Arirang House Restaurantというのがある。「LAカルビ」はいわゆる「骨付きカルビ」の呼称で、韓国でもっぱら使われているのだろうと思っていたが、向こうでも店の名前になっている。「カルビ」は「カルビビョ(骨)」の略で、「あばら(肋)」または「肋骨」であるが、単にカルビで、主に牛の「バラ肉(あばら肉)」を指す。LA(ロサンゼルス)には米国最大のコリアンタウンがある。自分は、ロサンゼルスあたりの在米韓国人がお土産に持ち帰ったり節日に贈り物にしたことからこの名前が付いたのだろうと勝手に想像していた。骨と垂直に肉を切ることから、"Lateral Axis"の頭文字をとったなどという話もあるが、そんな難しい言葉を肉の部位には使わないだろう。飛行機の世界では「左右軸」になってしまい、いわゆるピッチング、機首の縦揺れの話になる。これはガセ臭い。この名前の由来について定説はないようだ。
"Arirang Restaurant"という検索語でGoogle検索すると、米国だけでなく世界中のアリラン食堂が見つかる。たぶん、"Arirang"は"Korean"と同義語なのだ。
カナダのモントリオールにあるアリラン食堂の紹介記事をたまたま読んだ。[MIRROR]という雑誌の'Bibim bap bang'という4年半前の記事によると、「民謡を表す"アリラン"という言葉は、教育ビデオからウエッブサーバーの保守ソフトまで、製品のブランド名として世界中で見いだされる。レストランももちろんこの言葉を借用し、香港やパース、ロンドン、ストックホルム、サンディエゴ、ボストン、ニューヨークといった所の飲食店がこの名前を掲げている」とのこと。
この紹介記事によれば、ここのアリラン食堂は気楽に注文出来て値段も納得できるもので、ビビンバッに入っていたシイタケ(shitake mushrooms)、それにキムチ(kimchi)が特に美味しかったそうだ。トッポッギ(the teok-bok-gi/$5.25)から始めてビビンバッ(the beef bibim bap/under $8)を食べ、食後にオミジャ茶(a five-grain tea/$1.50)という食事である。この店は酒を出さない。金属製のお箸はやはり使いにくいらしく、トッポッギの餅やビビンバッの目玉焼きの卵を食べるのに筆者は苦労したようである。
この食堂で出しているキムチは"The version I thoroughly enjoyed was made up of fermented shredded cabbage and spiked with red pepper powder."となっている。キャベツではなく白菜だと思うのだが、あるいはこういう「キャベツキムチ」なるものがあるのかもしれない。当時のカナダドルのレートを1ドル85円ぐらいとして、合計で15ドル弱であるから1275円弱。これに税金がついたとしても、それほど高価な食事ではない。ただ、店内には韓国の民謡などが流れていたわけではなく、米国のスタンダードナンバーを想起させるような曲だったそうだ。そういうものだろう。
[montreal MIRROR](2005年3月 第20巻 38号) Bibim bap bang
Arirang dishes up delicious, healthy andaffordable Korean cuisine
http://www.montrealmirror.com/2005/031705/resto.html
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