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[連合ニュース]は、いわゆる中道の報道機関で、事件や災害等の出来事を偏りなく忠実かつ網羅的に、しかも迅速に報道することを旨としていると思っていた。なにしろあのキム・ギドク監督がメールを送って自分の胸の内を伝えたメディアだ。それに、今年ベルリンに行ったイ・ヨンエの現地インタビューで一番読み応えがあったのもこのメディアの記事だった。ネットにつなぐとまずこのサイトを覗くのが半ば習慣になっている。
それが、ここにきて疑問に思えることがある。まず、現在韓国で話題になっている386スパイ疑惑事件の扱いだ。韓国語版は問題ない。「386スパイ疑惑」などという刺激的な表現は使っていないものの、連日記事を配信し、<時事評論>で取り上げてもいる。しかし、その日本語版にはこれに関する記事が抜け落ちている。民主労働党の訪北団関連の記事で若干ふれている程度である。[朝鮮日報]、[中央日報]、[東亜日報]の三大紙の扱いに比べると明らかにおさえていることがわかる。これが中道たる所以なのだろうか。
日本語版でスパイ容疑の話をおさえている理由はわからないでもない。現在進行中で、野党第三党(9議席)の政党を巻き込んだ大規模なスパイ事件に発展する可能性もあるし、疑いが晴らされて国情院と検察の勇み足だったという結末もありうる。もう少し事実関係がはっきりするまで様子を見ているのかもしれない。国内のスパイ事件を根掘り葉掘り報じることが日韓の親善友好に資するとも思えない、との判断であろう。
次に、韓国語版に10月30日(18:31)送稿の『北朝鮮、飢餓で北朝鮮脱出難民危機』という記事がある。ロンドン特派員からの記事で、'Independent'という英国のインターネット新聞の記事を翻案した内容である。翻案だから元記事のポイントを外していなければよいのだが、これには大いに首をかしげた。
元記事は、"Fear of famine is creating North Korea refugee crisis"というもので30日付である。朝鮮半島(韓半島)の核危機とそれによって北朝鮮の人民が被る災厄に関して、国際危機グループ(The International Crisis Group:ICG)という団体の専門家の発言とこの団体の報告書"Perilous Journeys: The Plight of North Koreans in China and Beyond"が引用されている。
[連合ニュース](10月30日)『北朝鮮、飢餓で北朝鮮脱出難民危機』
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20061030/021200000020061030183134K2.html
[Independent](10月30日)"Fear of famine is creating North Korea refugee crisis"
http://news.independent.co.uk/world/asia/article1940791.ece
[連合ニュース]の記事は、上の'Independent'の記事を引用して、飢餓の恐怖から脱北者が増え、中国国内に多数が潜伏しているとし、こうした状況を改善するためには中国政府が努力するしかなく、北朝鮮人権問題に対して最大の声を出すアメリカとヨーロッパ連合会員国たちもこの問題を認識してもうちょっと多くの脱北者たちが再定着することができるように受け入れなければならない、というICGの報告を孫引きして終わっている。元記事をうまく縮めた、韓国にとってはまるで他人事のような記事である。そして、ちょっと気になる記述があった。
[連合ニュース]の記事に、
「北朝鮮に飢餓が近付いており、今年の夏の洪水で農作物収獲が打撃を受け、来る冬は特に寒い冬になるとICGは予想している、とこの新聞は伝えた。」
というくだりがある。元記事は、
"The International Crisis Group says famine is approaching in the North. This winter is expected to be a cold one and summer floods destroyed a portion of the country's harvest."
となっていて、ほぼ直訳したことがわかる。問題はその後の記述である。すぐ続けて、
「国際援助食糧の減少と自然災害が重なって、来る冬北朝鮮は数百万名が飢餓で死んだ1990年代中盤のように何らの食糧を求めることができない状態に至ることもありうる。このような困境を避けるために北朝鮮住民数千名が命をかけて脱北者の隊列に加わっている。」
とある。元記事は、
"This natural disaster combined with less aid because of the nuclear crisis and Pyongyang's refusal to allow charities to monitor distribution, could mean no food this winter, as it did in the mid-1990s when millions died of hunger. Thousands of North Koreans are risking their lives trying to escape their country's hardships."
となっていて、"the nuclear crisis"と"Pyongyang's refusal to allow charities to monitor distribution"が「less aid」の理由としてあげられている。そして、これらの理由が偏向した特別の立場を表しているとも思えない。例えば、これが韓国の対北包容政策を批判しているなどとひねくれて考えることは出来ない。ごく一般的な国際常識だと思う。しかし、[連合ニュース]の翻案ではいきなり「国際援助食糧の減少」である。
韓国語版を読んだ多くの人は"the nuclear crisis"のために「国際援助食糧の減少」が起きているのだろうと漠然と理解するかもしれない。しかし、モニタリングの方はどうだろう。支援物資に対するモニタリングが不透明であるという話は今に始まったことではない。韓国政府の支援などはその使途が闇の中なのではないかと思わせる心許なさだ。せっかくの支援が人民の側ではなく支配者や軍隊にだけ渡るのは、支援する側の誰も望んでいないのだ。この点に関して、韓国の読者はどう思っているのだろう。先軍政治だから人民すなわち軍隊だ、などという詭弁は通用しない。…今まで、韓国の、特に進歩派言論の記事を読んでいていつも気になっていたことがこの記事にも小さく現れている。モニタリングの問題に触れずに支援の問題を扱おうという姿勢である。そういう記事ばかり読んでいたら、モニタリングの欠如が支援を減らしているなどという発想は生じにくいのではないか。
やはり、支援のモニタリングへの言及を抹消した翻案の仕方には首をかしげざるを得ない。自分は物好きで元記事をあたってみたが、上の記事を読む人が皆そうするとは思えない。事実、自分は今までこのたぐいの記事が出てきても、ああ、そうなのか、と読み飛ばしていた。「民族共助」にモニタリングなどという水臭いことは不要か、またはそれほど神経を使う必要のないことだというのなら、それはそれで仕方ない。同民族同士の話である。北朝鮮の支配者に誤ったシグナルを送ることになっても何をか言わんや、である。ただし、そういう誤ったシグナルで周りが迷惑することは理解しなければならない。北朝鮮の下層の人民にとっては迷惑以上の問題だと思う。また、中国も含めて、韓国以外の国々からの物的支援(食料・物資・現金)を同民族同士の感覚で捉えてもらっては困る。ましてや、「人道的支援」というときの「人道」の意味を「民族共助」のフィルターを通して見てもらってはますます困る。使い途もわからず無闇に支援することは人の道に沿ったことではないと自分は考える。
…いつのまにか、こういう場所で書いても仕方ない話になってきた。しかし、この話は中道本流と信じてきた[連合ニュース]への素朴な疑問である。そして、韓国の進歩派言論一般に対して日頃疑問に思っていたことでもある。まさか、「南北交流」報道の機会のために、北の対外連絡部が読んでも機嫌を損ねないように書くことが習い性になっている、というわけでもないだろう。どうなんだろう。
閑話休題、・・・
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