李英愛研究

ネットの記事でイ・ヨンエさんに迫ります

韓国の映画

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キム・ギドク廃人説?

 とんでもない見出しであるが、たまたま目にした[スポーツ朝鮮]の記事によれば、『映画は映画だ』(2008年)で一躍株を上げたチャン・フン監督との間に確執が生じ、キム・ギドク監督が"廃人"になったといううわさが流れていたようだ。チャン・フン監督はキム・ギドク監督のお弟子さんである。

 あわてて検索をかけていくつかの記事を拾い出した。うわさの要点は、チャン・フン監督がキム・ギドク監督と共に映画を企画したが、途中でPDとともにキム・ギドクフィルムを出て行って映画を製作したとのことだった。しかも、その後、意気消沈したキム監督はカンウォンド(江原道)の別宅に廃人同然でこもっている、というというような話が記事になって出回っていたようだ。
 
 キム・ギドク監督は12月20日、キム・ギドクフィルムのチョン・ユンチャン プロデューサーを通じてカンウォンドから書いた手紙を通じて事情を明らかにした。

<うわさの真相>
 キム監督は、『映画は映画だ』が終わった昨年初め、あるメジャーの投資を受けることにして準備した映画に対して言及した。"(メジャー側は)メジャー会社の名前でメイン製作タイトルと製作持分を望んだし、それを異議なしで受け入れたのに、映画製作が中断される場合、二倍を弁償しろとの条項が契約書にあって、その条項だけを一倍に修正してくれとお願いするうちに監督とPDを連れて行って直接契約をしました。"・・・"私が判断する時、メジャーの無理な要求を受容できない私によって映画が中断されるのを恐れた彼らが私を離れるほかはなかったと考えます"と、述べた。キム監督は、"当時はとてもさびしくて残念だったが、今はみな理解します"とし、"今製作しているチョン・ジェホン監督の『豊山犬(プンサンゲ)』は製作費の一部をチャン・フン監督が支援したし、それで『豊山犬』の製作を始めることができたということをぜひ明らかにしたいです"と、述べた。」[スポーツ韓国]

 キム・ギドク フィルムが現在制作中の『豊山犬』は2011年公開予定である。この作品のチョン・ジェホン監督は『美しい(アルムダプタ)』(2007年)で話題を集めた人だし、ユン・ゲサンとキム・ギュリが主演ということで、期待できそうな映画である。そして、この映画こそ、メジャーと組んでチャン・フン監督らと作ろうとしていた映画なのだそうだ。普通に作れば約30億ウォン以上が必要な映画だが、小予算でスタートして利益が出ればすべてのスタッフがギャラを受け取るという条件でつくられているそうで、これは以前からやっているキム・ギドク フィルムの制作スタイルである。

 キム・ギドク監督からの手紙は[京郷新聞]に全文転載されていた。手紙では、『映画は映画だ』の成功にもかかわらず、その果実を受け取ることが出来ずに訴訟を起こしたなどという話も出てくる。カネが支配する映画ビジネスに対する反骨心に溢れた文面であるが、どちらかというとチャン・フン監督の名誉のために一筆書いた、という感じもする。下はその出だしである。

<近況など>
 「からだが良くなくて地方で静かに過ごしているところへおかしな記事が出てきたので、以下のように解明をします。
 内容の一部は合っていて、傷心もしたというのはその通りですが、すでにそのことは過ぎたことで、チャン・フン監督とは遠い昔に和解をしました。映画を中断して私が地方に一人で静かに暮らしているのは私自身の誤った人生についていろいろと思い巡らして過ごす時間であり、いまは誰も恨んだり嫌ったりしていません。
 そんなこともまた、人の人生のひとつの過程だと考えてみな理解し、過度に映画でだけ生活を送ってきてこれまで知らなかった私の本質を悟っていく今の私の状況に感謝しています。
 (これまでに撮った)15本を通じて、もしかしたら私がやりたい映画はすべてやったと考えて、今はそのまま遠い山を理由なしに見るように漠然とした時間を送って、自然を通じてまた勉強しています。
 私は現場に一度も行けなかったが、いま『豊山犬』という映画を撮っていて、その映画が私のもとを離れた彼らと準備した映画だったので、必ず完成したくて、チョン・ジェホン監督と新しいディレクターと献身的なスタッフらとノー・ギャラの俳優らが、難しいが最善を尽くして撮っています。
 メジャーらにお金のためだけで映画を作るのではないということを見せて、お金で作った映画と情熱で作った映画がどのように違うのか見せてあげたいです。
・・・(以下省略)」[京郷新聞]

 キム・ギドク監督は過去の制作ペースからすると自らメガホンを握らない期間が長くなっているなあ、などと、自分は暢気に構えていたが、「うき世になにか久しかるべき」、憂世の厄介事やなにやらで、"充電"期間に入っていたようだ。手紙の最後の最後は次のように結ばれている。

 「・・・私を記憶して私の映画を大切にされる方々に心より涙を差し上げます。人々がいまの私の身なりを見れば廃人というかも知れないが、心は気楽です。
 日付を書いて見たら今日が私の誕生日ですね。
12月20日 カンウォンドで キム・ギドク」[京郷新聞]

[スポーツ朝鮮](12月21日)[アフターストーリー]キム・ギドク監督 '廃人説'ハプニングの苦々しい断面
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2010/12/21/2010122101597.html
[スポーツ韓国](12月20日)キム・ギドク監督"チャン・フン監督とすでに和解…一方的な罵倒するな"
http://sports.hankooki.com/lpage/cinet/201012/sp2010122019120394410.htm
[京郷新聞](12月20日)キム・ギドク監督“身なりは廃人だが…かなり以前に和解した”
http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?artid=201012201607251&code=960401

韓国映画界雑話

1.最近、パク・チャヌク監督の「コウモリ」が違法ダウンロードされて話題になったが、[ノーカットニュース]によると、11月10日、ミョンドン(明洞)のロッテシネマで"グッド ダウンローダー サポーターズ デイ"なるイヴェントが開催された。

 映画関係者の違法ダウンロード対策への声は数年前から本格化している。以前、関係者団体が観覧料の値上げを訴えた時、違法ダウンローや不法コピー製品に対する対策も訴えていた。"グッド ダウンローダー キャンペーン"のマスコットはスマイルマークのクッション風キャラである。カタカナというか、横文字のみの名称から推すに、若年層対象の「啓蒙作戦」である。

 このキャンペーンは映画振興委員会と不法複製防止のための映画関係者協議会が主催し、グッド ダウンローダー キャンペーン本部と韓国映像産業協会が主管するもので、アン・ソンギ、パク・チュンフンが共同委員長を引き受け、パク・チャヌク監督、ボン・ジュノ監督、ソン・ガンホ、チャン・ドンゴン、チョン・ウソン、キム・テヒ、キム・ハヌル、イム・スジョンなど総勢21名のスターが率先して活動しているのだそうだ。

 当日は600人余りの観客を前に、ボン・ジュノ監督以外にも、ク・ヘソン、ウォンビン、イム・スジョン、アン・ソンギ、イ・ミンホ、パク・ポヨン、キム・スロ、チャン・ジン監督、パク・チャヌク監督、パク・グァンチュン監督など大韓民国を代表する10人の'スター サポーターズ'が集まった。この席は、「ポータル サイト ネイバーを通じて合法的なオンライン空間で創作物に対する適正な代価を払って映画を観覧すると誓約した‘グッド ダウンローダー’とスター サポーターズの出会いの席であった」(ノーカットニュース)とのこと。

 こういう総決起集会も、マスコミで報道される限りは一つの手なのであろうが、効果は疑わしい。例えばスターたちが持ち回りで全国の中学・高校なんかを訪問して啓蒙活動をするとか、映画館で映画を上映する前に啓蒙映像を見せるとかの方法もある。もうすでにそういう活動をしているのかどうかよく知らないが、罰則が甘く取締もなあなあの現状では何をやっても実効は乏しいだろう。アン・ソンギはユニセフなどの慈善活動からスクリーンクォーター死守闘争などの政治闘争、そしてこういう経済闘争まで、どこにでも出てくる。ご苦労様、である。

[ノーカットニュース](11月12日)'グッド ダウンローダー'ボン・ジュノ監督 "中国で不法DVD買ったことがある"と告白
'グッド ダウンローダー サポーターズ デイ'で"過去の罪を洗って新しく生まれかわる"と確約
http://www.cbs.co.kr/nocut/Show.asp?IDX=1313109

2.一方、[朝鮮日報]のアート関連ページによれば、きたる24日から30日まで、クァンフンドン(寛勲洞)にあるプッチョン(北村)美術館で"スクリーンクォーター基金用意展"なる展覧会が開かれる。映画関係者や文化人の作品を販売し、スクリーンクォーター保護の活動等に充てるという主旨である。

 この展覧会にはパク・チャヌク監督は自身が撮影した写真、ボン・ジュノ監督は造形作品(?)、イ・ジュンイク監督は絵画を出品する。ほかに、映画俳優アン・ソンギ、チャン・ドンゴン、シン・ミナ、イ・ナヨンなどは、オ・ヒョングン、チョ・ソンヒなどの写真作家が撮影した写真を出す。ユン・ソクファ、カン・スヨン、ハン・ソッキュ、イェ・ジウォン、チュ・ジンモも各々自分たちが所蔵する美術品を出す。

 これは、要するに美術品のバザーである。メインはスターのポートレート販売かもしれない。この展覧会にはシネ2000の代表が所蔵しているシム・ウナの山水画、というか、向こうの呼び方で東洋画が出品されるとのことで、一つの呼び物になっている。シム・ウナの絵の写真を添付した記事が数十も出ている。引退して久しいが、向こうのマスコミのこの元女優に対する憧憬は強い。

 今回の展示会はト・ジョンファン(文学)、アン・サンス(美術)、チェ・スンフン(演劇)、チョ・ソンニョン(建築)等各界の6名が共同代表を務める'文化多様性フォーラム'と、韓国映画制作家協会、映画関係者会議、韓国独立映画協会、女性映画関係者会、韓国映画監督組合、韓国映画美術監督組合など6ヶ映画団体らの連合会である‘韓国映画団体連帯会議’とスクリーンクォーター文化連帯が共同で主催した。

 スクリーンクォーターが縮小されて以降、派手な話を聞かなかったが、ユネスコがらみのいわゆる「文化多様性」の保護の一環として韓国映画を保護しろという闘争の基本線は変わっていないようだ。つまり、商業映画を「文化多様性」の構成要素と考える立場に変化はない、とみえる。

[アート(朝鮮日報)](11月19日)シム・ウナの東洋画、スクリーンクォーター基金用意のために販売
http://art.chosun.com/site/data/html_dir/2009/11/19/2009111901477.html

3.エル(ELLE)』韓国語版12月号で"Share Happiness"というスター俳優の画報(写真集)企画が進行された。おなかを空かした国内外の子どもたちを救い、才能ある女性たちの社会進出を手助けして、幸福を分かち合おうという主旨の慈善キャンペーンである。昨年に続いて2回目の今年は、93名のスターがモデルとして参加し、92の企業ブランドから募金が寄せられるのだそうだ。国連世界食糧計画(WFP)の広報大使を務めているチャン・ドンゴンが写真家として気の合う仲間を撮影したり、今年も話題は盛りだくさんである。

 世界食糧計画、韓国コンパッション(Compassion)、グッドネイバーズ(Good Neighbors)、アサン(牙山)病院、韓国カリタス(Caritas Corea)、社団法人アジア交流協会(Asia Exchange Association)、ラヴィングハンズ(Lovinghands)などの団体に全額が贈られる予定で、募金額の使用出処は今後記事で紹介される予定だ。コンパッション(Compassion International)は韓国戦争(朝鮮戦争)の孤児救済をきっかけに始まった国際子供養育団体だそうだ。グッドネイバーズは1991年に韓国人によって設立された社会福祉事業団体、カリタスはカトリック系の国際NGO団体、そしてラヴィングハンズはキリスト教社会福祉NGOである。アジア交流協会は国際協力NPO(?)のようだ。

 『エル』韓国語版の購読層などというのはよく知らないが、もっぱら若年層というより、どちらかというと30代から上の層が多いのではないかと憶測している。寄附の対象として挙げられているアサン病院といえば、いつだったか、イ・ヨンエが寄附をしたことがあった。

 今回の告知記事ではイ・ヨンエの同じポートレートを添付したものが20本以上出ている。髪を膨らまして肩を少しいからせた姿を横から捉えた上半身の写真である。眉をやや濃いめに描いているようにも見える。いわゆるレタッチ処理がキツいかなとも思えるが、雑誌として印刷されたものを見ないと何とも言えない。文字通りクールな美しさである。以前、「親切なクムジャさん」の公開時期のプロモーションで、イメージチェンジを狙ったと思われる写真が雑誌に出たが、あれと比べてもよりクールな印象で、「つめたい」感じとすれすれのところである。

[スポーツ朝鮮](11月19日)イ・ヨンエ、結婚後初めての画報外出...いつも変わらぬ美貌
http://sports.chosun.com/news/ntype3.htm?ut=1&name=/news/entertainment/200911/20091120/9bt69159.htm

(参考)
 下は、花屋さんが実施したネットアンケートの記事。この記事にも上のポートレートが添付されているが、やや「あたたかい」感じに色調整されている。
[ナヌムニュース](11月21日)イ・ヨンエはほのかな香りが漂う気品女ですか? "YeS"!!
すなおで真っ直ぐなイメージ、消費者層選好度1位!
http://nanumnews.com/sub_read.html?uid=15272§ion=sc208

映画「選択」

 [時事通信]によると、脱北者であるチェ・ミョンミン(蔡明敏)監督の映画「選択」が完成した。この映画は教会などから資金援助を受けているそうだが、韓国映画史上初めて、企画から製作、シナリオをはじめとして、スタッフ、エキストラまで脱北者だけで制作された。上映時間は48分。制作会社は脱北者が作った会社で"ハナ(ひとつの) カルチャー"という。いま、韓国では1万6千人以上の脱北者が暮らしている。脱北者の韓国馴化を支援する「ハナ院」は開設10周年を迎えた。

 出演者はすべてアマチュア。演技未経験の人たちがキャスティングされた。キム・ミョンス撮影監督によれば、「(脱北者の話は韓国の映画でも扱われているが、いまひとつでした。) それで、一度純粋に北朝鮮の人たちがやってみれば北朝鮮のやり方がありのままに出てこないかと。もちろんただの1人も演技してみた方々がいないです。完全にアマチュアですね。初めにオーディションをしてみた時、少しは北朝鮮で経験のある人々の何人かに任せたが…これはもう完全に北朝鮮式すぎて…それに、これだと韓国の方々が見るにはとてもぎこちないようだし…それで、最初から演技するとは思わない人を使ってみよう、純粋に行ってみよう、そういうふうに始めたのです」[KBSWorldRadio]。

 映画は、主人公の国家安全保衛部予審指導員(調査官)が、脱北して北へ強制送還された恋人を脱出させる過程で、自身も北朝鮮体制の矛盾を悟って…という内容で、80人からのエキストラもすべて脱北者。車の衝突シーンなどもスタントマンは雇えず、出演者が体当たりで演じているとのこと。チェ監督は、「北朝鮮の治安機関・国家安全保衛部に7〜8年勤務。日本や中国との貿易に携わり、外貨獲得を担当していた」人だそうだ[時事通信]。

 キム・ミョンス撮影監督は恋人役を演じたようだ。「…私が北側にいる時もこれが夢だったんですよ。映画俳優、タレントのようなものが…、そういう北側で成し遂げられなかった夢を韓国にきて成し遂げられるから…大変で難しいと言われますが、大変でもそのような面で誇りができて…自負心のようなものが生まれて…本当にとても…良かったです…今は北側で暮らした環境を演技しているけれど、これからは韓国にきて私が今幸せに暮らしながら成し遂げられなかった夢を実現していきたいです…今後もずっと熱心にがんばります」[KBSWorldRadio]。

ハナ カルチャーのチョン・ミョンホ代表は、「…ハナ カルチャーの映画でなく脱北者全体の映画だと私は言いたいです。また、この映画を見て…脱北者たちに対して関心を持って下さって…海外で国籍がなくて苦労する、中国や第三国で苦労する脱北者の方々をこれまで以上に手助けして下さるなら幸いです」と語っている[KBSWorldRadio]]。

 なお、「選択」という名前の映画には2003年に公開された韓国映画がある。こちらの「選択 The Road Taken」(2003)はキム・ソンミョンという実在の非転向長期囚を描いたドラマであった。収監生活43年10ヶ月を耐え抜いた彼は、初めての南北首脳会談が開かれた2000年の9月2日に他の62人の非転向長期囚と共に北へ送還された。

 6月上旬、ソウルでは内外の独立映画を中心に上映する「第13回人権映画祭」というイヴェントがあった。一時は清渓広場での野外上映可否でソウル市側ともめた。今回の目玉は1月のヨンサン(龍山)事件を描いた記録映画だったようだ。韓国の人権活動家は北朝鮮以外の国々と韓国での人権状況を告発するのが常だから、脱北者の映画「選択」がもっと前に完成していても、こういう映画祭からは声がかからなかっただろう、自分はそう憶測している。

[時事通信](7月12日)北の人権、映画で訴え=脱北者が初メガホン−韓国
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009071200067
[KBSWorldRadio](6月4日)[Interview]セトミン(脱北者)らが作った映画"選択"
http://world.kbs.co.kr/korean/news/special/nkorea_nuclear/now_02_detail.htm?No=440
[朝鮮日報 記者ブログ](5月13日)脱北者らが作る最初の人権映画“選択”
http://blog.chosun.com/blog.log.view.screen?blogId=560&logId=3935370

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 6月16日、映画人が久しぶりに「宣言」を出した。進歩派で最近はやりの「時局宣言」である。10日の6月民衆抗争記念日の前後、大学教授、文化人、宗教関係者、教師らの「時局宣言」が次々に出されている。例えば、“政府は独裁権力へ回帰する不法政治を中断して民主主義と南北共生の平和体制を復元しなさい”などというアジテーションで、現在の政治状況を「民主主義が後退している」と規定する[東亜日報]。映画関係者からは225人の署名が集まっている。

 ところが、映画人の「時局宣言」なるもの(附録1)を読んでもピンとこないのである。どうも、「民主主義が後退しているので大統領は謝罪せよ」ということらしいが、文章が極めて観念的かつ抽象的で、実際に何を言いたいのかよく分からない。国家保安法の廃止要求だろうか。もしかしたら、軍事独裁(開発独裁)の頃にはやったと言われる遠回しの隠語かなんかが散りばめられているのかと疑ったが、自分の語学力では確かめようもない。それに、いまの韓国ではそんな回りくどいことをしなくても、何でも言いたい放題である。なにしろ、ソウルのど真ん中、観光コースにもなっている徳寿宮大漢門の横には「第2の民衆抗争で殺人魔 リ・ミョンバク(李明博)を追い出そう」と黒地に白で書かれた横断幕が何日もかかっていた。行政当局がそれを撤去するため、目立たないように明け方に動くという昨今なのである。ちなみに、この文言は今月6日に自殺した祖国統一汎民族連合初代議長、カン・ヒナム牧師のマスコミ向けの遺書の一節である。大統領の名前は北朝鮮式の表記法で「リ・ミョンバク」になっている。

 わからないなあと思っていたら、もう少しわかりやすい宣言が19日に出てきた。こちらは「韓芸総事態を憂慮する映画監督100人宣言」(100人宣言)なるもの(附録2)で、あの『春の日は過ぎゆく』のホ・ジノ監督も参加している。「時局宣言」には参加していなかったので、俄然、気になる。また、『追撃者』のナ・ホンジン監督や『映画は映画だ』のチャン・フン監督の名前も見える。どうやら、'ディレクターズカット アワード'で有名な「韓国映画監督ネットワーク」の監督が若手中心に網羅されているようだ。その他の名前を見ても、これらの監督以外は自分にとっては今のところ、まあ、どうでもいい名前ばかりである。自分にとってかけがえのないイム・グォンテク監督やイ・チャンドン監督、キム・ギドク監督の名前は見つからなかった。

 韓国芸術総合学校(韓芸総)に所轄官庁である文化体育観光部の監査が入り、ひと月前の5月18日に12項目の注意・改善・懲戒の要請が出された。ファン・ジウ総長はカネの管理や学事管理の杜撰さゆえに懲戒の対象になり、すぐに辞任した。こうした一連の動きを「韓芸総事態」と呼んでいるようだ。「100人宣言」は文化体育観光部の処遇に真っ向から反対する宣言である。反対する論拠は「その動機と過程が怪しい」からなのだそうだ。「相当部分ニューライトの人々の議論(議題)に基づいたと見られる論理がとても不十分で時代錯誤的」だという話である。芸術に党派的な組み分けなどちゃんちゃらオカシイと軽くいなしつつ、党派的な組み分け論理に基づいて批判しているようにも見える。「ニューライトの人々の議論」に関する具体的説明は一切無く、その議論に基づいたと見られる「論理」に関する具体的批判もあまり無いのである。

 「100人宣言」にはやや生硬な芸術論も出てくる。そして、今回の事態における韓芸総側の人々をダビデの星(名札)をつけたユダヤ人に、文化体育観光部側の人々を腕章をつけたナチの親衛隊になぞらえ、こう続ける。「今韓国でも腕章をつけた人々が、憎い奴ならば誰にでも名札を付けています。その人々に話します。腕章と名札の政治を芸術と学問の領域にまで持ち込まないで下さい。芸術と学問は政権の戦利品ではありません。韓国映画に、バランスのとれた教育を受けた人材を供給して下さい。新しい時代の美学で武装した若い芸術家を送って下さい」。・・・辞任したファン総長のようなやり方でないと新しい美学が見つけられないというわけか。

 映画人の「時局宣言」はいまひとつ意味不明であったが、「100人宣言」の方は明快である。文化体育観光部長官や次官、さらには権力側の人々への攻撃である。この「事態」に関して、自転車で通勤するユ・インチョン文化体育観光部長官が登場する動画がネットに出回っている。MBCがでっち…、いや、制作した報道番組の一部である。いつだったか、全教組が反FTAの特別授業を行い、そこに俳優のチェ・ミンシクが講師として出向いたという話があった。あの時は映画人が全教組の助っ人として保守言論に噛みついていたが、今回は助っ人なのか先鋒なのかよくわからない。処分の対象者には文化連帯と掛け持ちの教授や、あのジン・ジュングォン教授なんかも含まれている。これ、民主主義や美学の問題というより、ドンブリの中身の問題ではないかと思う。

[東亜日報](6月10日)教授vs教授…団体vs団体…時局宣言vs反論宣言
http://www.donga.com/fbin/output?n=200906100134&top20=1
[東亜日報](6月9日)[社説]誰が民主主義を脅かすのか
http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2009060922758
[朝鮮日報](5月22日)ファン・ジウ総長、教授12人に勝手にインセンティブ支給
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2009/05/21/2009052101965.html
[朝鮮日報](5月20日)文化部、ジン・ジュングォンの韓芸総講義料1700万ウォンあまりを回収することに
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2009/05/20/2009052000541.html
[朝鮮日報](5月19日)[今日の世の中]文化部、ファン・ジウ韓芸総総長に重い懲戒要請
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2009/05/19/2009051900033.html

(訂正 6月20日)大漢門横の横断幕に関する誤記を訂正
「元々の遺書では「イ・ミョンバク」ではなく、北朝鮮式の表記法で「リ・ミョンバク」になっている。ここを訪れる観光客のために表記を変えたのだろうか。よくわからない。」
→「大統領の名前は北朝鮮式の表記法で「リ・ミョンバク」になっている。」


(附録1)映画人の「時局宣言」の一部
「・・・映画は人生を語ります。
人間らしい人。人間らしく生きる世の中。皆が同等にお互いを配慮して愛しながら生きる。
だが今日私たちは人を上下で分けて押さえ付けて苦しめる世の中に慣れていきつつあります。
そのように左右で分けて傷つけて憎悪する世の中に生きています。
そのように切迫した生存まで徹底的に疎外させて、偽善と欺瞞で国民を蹂躙する時代です。
原則と所信はむなしい理想であるだけで私たち皆共に積み重ねた大切な民主主義があたかも使い古した履物が捨てられるように捨てられています。
より一層耐えるのが難しいのは私たちがこういう現実に押しつぶされるように願う権力の意図で(あり)、これに順応していく私たちの生活です。
そのような人生の中での映画は無意味で無価値です。
それでも私たちはまた生きてみようと思います。
国民を治めるという権力の傲慢な姿勢があまりにもおぞましいが、私たちも幇助と無関心の疑惑から自由にならないから責任を分けてこの土地の主人として当然の権利として反省の機会を与えようと思います。
恥じることができて責任を負うことができる覚醒と刷新の機会を与えようと思います。
私たちはイ・ミョンバク大統領の謙虚で真実の謝罪を要求します。
私たちは表現の自由、集会・結社の自由、言論の自由を深刻に侵害している反民主主義的な行為らを直ちに中断することを要求します。・・・」

[プレシアン](6月17日)映画関係者225人、時局宣言参加
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=4&articleid=2009061716554261326&newssetid=1352


(附録2)映画監督の「100人宣言」の一部
「・・・2009年5月、文化部は韓芸総に対する大々的標的監査を通じて、芸術と科学技術を融合する通渉教育中止、理論科の縮小および廃止、叙事創作科廃止、ファン・ジウ総長と一部教授らに対する重い懲戒など12件の注意・改善・懲戒処分を通知しました。韓芸総を実技中心の英才教育のために設立された学校と規定したのです。これに反発して、ファン・ジウ総長が辞任したし、学生たちは非常対策委員会を発足させました。
税金が投入された学校には監査がありえて変化を企てることもできます。でもその動機と過程が怪しいのです。相当部分ニューライトの人々の議論(議題)に基づいたと見られる論理がとても不十分で時代錯誤的です。おそらく芸術で理論と実技は別個ではありません。 実践によって理論が派生してその理論等の往来が実際の作業を培うというやり方です。さらに各媒体のフォーマットと流通が自由自在に越境する現在のメディア環境で学制間、媒体間、ジャンル間の対話と融複合すなわち通渉は逆らうことができない大勢なのに、これに対する教育の必要をさっさと否定する根拠が気になります。賞を与えて奨励しているのに、他の学校にも薦められなくて、これはどういう時代逆行ですか? ひょっとして文化部は、私たちの若い芸術家らがこの光速で変化する時代に合う新しい美学を探せないまま旧態然とした作家に転落することを願いますか?・・・」
「・・・芸術は基本的に特定の時代の秩序に疑問を提起して、その感覚を揺さぶって喜怒哀楽を再分配することが存在の義務で理由です。そのような社会的な想像力と自律的感覚は左(派)や右(派)といった一方の徳性ではない芸術と創作本来の価値です。その根本的な価値を追求するこれら(の人々)に古い理念の定規を突きつけて、断罪して処刑するふるまいは、あたかもバウハウスの芸術家らに共産主義者のレッテルを貼って独裁の基盤を固めた過去のドイツのナチを思い出させます。ダビデの星を服に付けて、ユダヤ人らを分離した姿を思い出します。今韓国でも腕章をつけた人々が、憎い奴ならば誰にでも名札を付けています。その人々に話します。腕章と名札の政治を芸術と学問の領域にまで持ち込まないで下さい。芸術と学問は政権の戦利品ではありません。韓国映画に、バランスのとれた教育を受けた人材を供給して下さい。新しい時代の美学で武装した若い芸術家を送って下さい。・・・」

[映画人会議](6月19日)韓芸総事態を憂慮する映画監督100人宣言
http://www.kafai.or.kr/asapro/board/show.htm?bn=news&pkid=445&fmlid=337

「IT強国」?

 新作映画を韓国で世界最初に封切りする例が増えている。昨年、「トランスフォーマー」や「ナショナルトレジャー:秘密の花園」がそうだったし、今年も、MGM映画「パソロジー(Pathology)」やアメリカンコミックを映画化したSF映画「アイアンマン」、真田広之やピ(Rain)が出演して話題のウォシャウスキー兄弟の映画「スピードレーサー」、C.S.ルイスの原作によるファンタジー映画「ナルニア国物語(年代記)2」など、これから目白押しである。

 いわゆる先行市場はアジアなら日本市場だったはずだ。韓国の市場特性が予測に役立つのかもしれないが、昨年来、観客動員総数も減り始めて不況の風が吹いているし、意外な話だ。そのワケは、以下のとおりである。

 [ニュースエン]によると、韓国の市場特性とか気の利いた理由ではなく、不法ダウンロード対策が本当のところらしい。こういう先行封切りはテストベッド(Test Bed)と言うのだそうで、本当の理由は、「韓国が映画不法ダウンロードが一番活性化されているIT強国だからだ。アメリカでわずか1週間前に先行して封切られた外国映画が国内ダウンロードサイトなど、いわゆる'闇のルート'を通じてネチズンの間で不法流通しているのが韓国の現実だ。韓国語字幕まで加えられて堂々とダウンロードされている」、とのこと。

 韓国にはせっかちな人が多いのかも知れない。それほどの罪の意識もなく、日常化しているのだろう。向こうの食堂によくある「無料のおかず」なんかと同じ感覚でやっているのかもしれない。まさか「ハリウッド打倒、新自由主義撲滅」なんていう連中がやっているわけでもあるまい。韓国映画、日本映画、ハリウッド映画、何でもありで、映画だけでなく、ドラマ、テレビ番組からゲームまで見境なしにやっちゃうのだ。何でも「一番」が大好きな韓国のマスコミであるが、さすがにこれはいただけないようだ。この話が本当なら、ものすごく恥ずかしいことである。向こうのマスコミでよく出てくる「国民の自尊心」をひどく傷つけることなのだ。

 日本なら、わざわざそんなことをしなくても、見たい映画に接近する安価なとっかかりがいくつもある。日本の映画観覧料は、割引を利かしても決して安いとは言えないが、少し待てば安価に楽しむ方法はある。しかし、例えば韓国で日本のような規模のレンタル屋のチェーン網は見かけなかったし、レンタル屋の品揃えもいまいちだったと記憶する。韓国映画の旧作のDVDでさえ、例えばイ・ヨンエの「インシャラー」(1997)は日本でしか発売されていない。たとえそれがチャングムファンを当て込んだ色物企画だとしても、選択肢は増えるのである。

 手軽に映画に接近出来るとっかかりが映画館かパソコンぐらいしかないという選択肢の少なさ、あるいは、パソコンによる安直な視聴が選択肢を狭めてしまったこと、これが今の無法状態をさらに助長しているのだと思う。「無料のおかず」に金なんか払えるか、そういう思い違いである。自分も、何でもありの状況が当たり前という環境しか知らなかったら、同じ行動をしないとは言い切れない。上の記事で、わざわざ「IT強国」という言葉を使ったのは皮肉だろう。ブロードバンドが普及していることは「IT強国」の必要条件に過ぎない。こういう習慣または「文化」は、結局は自分たちの首を絞めることになる。プログラムその他によるセキュリティ管理を徹底して、技術的に解決出来る問題かどうかも疑わしい。理想論でもなんでもなく、真の「IT強国」とはそういうこととは無縁のところだろう。

 韓国でも、将来的に有料ダウンロードによる映画視聴が主流になるだろう、なんていう脳天気な話がある。だが、映画の「上がり」の大半はいまだに劇場収入である。「付加版権」ないし「二次版権」の方は、テレビ局の放映権料以外は無いも同然の状況だ。なんでもありの見た者勝ち、不法ダウンロードと違法コピーの天国である。レンタル屋を利用する「文化」など育っていないし、合法的なDVD販売は商売にならない(Film2.0)。2000年代に入って顕在化した不法ダウンロードと違法コピーの問題は、韓国の映画産業を蝕む大きな災厄だ。スクリーンクォータ死守の政治闘争なんかに血道を上げているうちに、こっちの方がよほど大きな問題になってしまった。ハリウッドの独占資本に滅ぼされる前に、内部から腐って滅んでしまうかもしれないという話だ。

 遅ればせながら、昨年の暮れに業界団体が『韓国映画産業の未来のための提案』という声明を出した。映像投資者協会、映画制作家協会、映画監督ネットワーク、映画産業労働組合など六団体が労使合同の形で出したこの声明は、「違法コピー/不法ダウンロードをやめましょう」、「映画観覧料を物価スライド制で値上げさせて下さい」(映画人会議)、そういう話で、国民大衆の良識に訴えるものだった。前者はともかく、後者に関して業界人以外の賛成意見は少ないようだ。また、最近、映画・演劇・ドラマ・ミュージカル・ゲームなどの文化産業の関連10団体が集まって、「韓国文化産業団体連合」という組織を立ち上げた。新政権への支援要請と違法コピー撲滅を重要課題としている(ニュースワイア)。

 不法ダウンロードや違法コピーの問題以外にも問題は山積みである。今年に入って昨年比観客数が25%も減って、気がついたら映画の製作コストは日本よりも高く、スター俳優の受け取るギャラは日本の2倍という、歪んだバブル体質が出来上がっていた(中央日報)。これでは投資家は引いてしまう。観客が減って、劇場側も経営効率化に涙ぐましい努力をしている(韓国経済)。

[ニュースエン](3月27日) 外国映画世界最初韓国封切り'本当'の理由、不法ダウンロードのため
http://www.newsen.co.kr/news_view.php?uid=200803262143401003
[ニュースワイア](3月25日) 韓国文化産業団体連合 出帆
http://media.daum.net/press/view.html?cateid=1065&newsid=20080325120211703&cp=newswire
[韓国経済](3月5日) 劇場業界構造調整の風
http://news.media.daum.net/entertain/movie/200803/05/hankyung/v20229742.html
[中央日報](1月9日)[時事評論] 危機の韓国映画 誰の責任か
http://news.joins.com/article/3006081.html?ctg=20

[Film2.0](2007年12月19日) 付加版権市場、大戦争が始まった
http://www.film2.co.kr/feature/feature_final.asp?mkey=5014

[映画人会議](2007年12月17日) 韓国映画産業の未来のための提案
http://www.kafai.or.kr/asapro/board/show.htm?bn=news&fmlid=287&pkid=393

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