李英愛研究

ネットの記事でイ・ヨンエさんに迫ります

韓国の映画

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 アカデミー賞女優シャーリーズ・セロンの制作・主演で映画「親切なクムジャさん」(2005)をリメイクしようという話がある(ヘラルド経済)。このブログでしつこくネタにしている映画であるが、自分はこの映画は買っていない。ゴミ映画とは言わないまでも、毛色の変わったスター映画としか思っていない。しつこくネタにしていてバチ当たりな話ではある。バチ当たりついでに久しぶりにネタにする。

 パク・チャヌク監督によれば、この映画は童話のようなものであって、場面毎に深い意味はないとのことであった。場面毎に映像を楽しむ映画だ、というような議論もある。しかし、クムジャの誘拐への関与がもやもやした描き方だったり、ジェニーが唐突に現れる印象を与える点は良しとしても、被害者の家族に惨殺される、残忍な犯罪者のペク先生の影が薄すぎるし、快調な前半と退屈で凡庸な後半の落差がありすぎる。そうした落差を楽しむというような捻くれた鑑賞法を想定しているわけではあるまい。また、映画に観客を参加させるために戦略的に利用してきた暴力描写を、この映画では極限まで抑えた、と監督は語っていたが、その点を差し引いても、この監督の過去の作品を知っている者には中途半端な印象しか与えない映画なのである。要するに、あざとくスター俳優を使って商業性と作品性の二兔を追ったものの、テーマがぼやけてしまったと自分は思っている。

 この映画はパク・チャヌク監督の復讐三部作の完結編で、復讐と贖罪がテーマだということになってはいるが、犯罪とそれを犯す人間を描いた点では「復讐は我がもの(復讐者に憐れみを)」(2002)のほうがそれなりに完成度は高い。「良い誘拐(カネだけ狙う誘拐)と悪い誘拐」、「良い犯罪(仕方なく犯す犯罪)と悪い犯罪」といった問題設定で、犯罪とそれを犯す者の立場(人権?)を見る者に考えさせるという意味では、「オールドボーイ」(2003)もそれなりの映画であった。しかし、「親切なクムジャさん」は、人が罪を犯し、それを人が裁き罰する、そういう倫理的な問題を、「見せる」話ではなく「読ませる」話のように思えた。特に後半はそうだ。この話を見せたかったら、わざわざ映画にしなくても、同一キャストでフォトエッセイのようなものでも作ったら充分にその役目を果たせたのではないか、と自分は思っている。読者はいくらでも深読みしてくれるだろう。これは、何度見ても深読み(深見)する前に退屈してしまった者の偽らざる感想だ。

 その「親切なクムジャさん」がハリウッドでリメイクされるという。[ヘラルド経済]は9日付けのボストングローブ(The Boston Globe)紙を引用し、シャーリーズ・セロン(またはセレン)による制作・出演の話を紹介している。ウィキペディア日本語版を見ると、シャーリーズ・セロンは1975年生まれの33歳で、南アフリカ出身の女優である。16歳からモデルとして活躍し、17歳の時に渡米。ニューヨークでダンサーを夢見て下積みで苦労した後に断念、仕切り直して女優を目指し、1996年に映画デビューを果たす。そして、「モンスター」(2004)でアカデミー主演女優賞や多くの賞に輝く。これまでに多様なジャンルの24本の映画に出演している。ハリウッドと言っても大作映画ばかりではない。有名映画人が、映画のため、自分のために制作する良質のインディ映画の伝統がある。まあ、カネの話は全く度外視出来ないだろうが、商業性とは縁のない良作が生み出されている。ジョン・カサベテス-ジーナ・ローランズのコンビによる「こわれゆく女」(1974)や「グロリア」(1980)がすぐに思い出されるし、サンダンス映画祭のロバート・レッドフォードがいる。シャーリーズ・セロンもそうした映画人の一人なのだろう。

 「親切なクムジャさん」の制作・配給元のCJエンタテインメントは、リメイク関係の契約をすでに終了していると10日に明らかにしたそうだ(ヘラルド経済)。ただし、権利関係等の詳細には触れられていない。以前、「『Shall weダンス?』アメリカを行く」というエッセイで、周防正行監督が「Shall weダンス?」(1998)を米国で公開した時の顛末を語っていた。あれをみると、版権にシビアな米国では映画を買う時に事後のあらゆる可能性を考慮して細かく契約する。リメイク権も輸入の段階で話がついていたのではないだろうか。

 リメイクの話が気になって[ボストングローブ]の記事(もちろん電子版)を見ると、これは良質の人物伝になっていて、この女優の近況が詳しく語られている。彼女が映画制作に参加するのに積極的であることも詳しく紹介されている。次回作はメキシコの監督の作品で、リメイクはそれ以降ということらしい。具体化なことは何も書かれていないのでまだ先の話だろう。まあ、自分が何をしたいかよく心得ている女優のようだから、口から出任せというわけでもなさそうだ。ちなみに、この記事でパク・チャヌク監督の「復讐三部作」は「暴力三部作(a mondo-violent trilogy)」と呼ばれている。

 「親切なクムジャさん」は主演女優がらみのネタや韓国固有のネタを前提にした見せ場が多い映画である。主演女優についてある程度学習した観客を想定している、と監督自身も語っていた。「徹底的に韓国的なものを描くのが世界に通用する早道だ」などと語られることもあるが、それは面白い作品の場合であって、中途半端な作品はどこまで行っても中途半端だ。焼き直しという意味でなく、正しい意味でこの作品を換骨奪胎するのは骨の折れる作業ではないかと思う。今のハリウッドがネタ切れになっているという話を目にすることもあるが、いくら海外の映画祭で好評だったといっても、あの脚本をそのまま使えるとは思えない。人物設定だけ使うような企画、という可能性もありうる。

 ともあれ、この映画をリメイクしようとは、物好き、いや、進取の気性に富んだ女優もいたものだ。ひょっとして、「オリエント急行殺人事件」(1974)へのオマージュか何かと捉えているのか。まあ、それはわからないが、自分は女性主人公の荒っぽい復讐物なら「修羅雪姫」(1973)や「キルビル」(2003)あたり、無茶苦茶な構成のファンタジーなら「ピストルオペラ」(2001)でも見るほうが気楽だ。


[ヘラルド経済](3月11日)‘親切なセロンさん’
http://www.heraldbiz.com/SITE/data/html_dir/2008/03/11/200803110193.asp
[ボストングローブ](3月9日) She's more than that
Beautiful, bold, and sometimes brash, 'Sleepwalking' star Charlize Theron knows where she wants to go
http://www.boston.com/ae/movies/articles/2008/03/08/shes_more_than_that/

映画「クロッシング」

 韓国映画には脱北者の問題を正面から描いた作品がほとんどなかった。数年前、「国境の南側」というメロ映画があったし、最近、中国の韓国系監督が脱北女性を主人公にした作品を撮ったという話はあったが、脱北者の問題を真正面から捉えた韓国映画作品は無かったと記憶する。非転向長期囚の話を感動的なドキュメンタリにしたり、映画の挿話にすることはあっても、現在の韓国映画界の主流を成す映画人に脱北者を真正面から描いた映画を作る気はないのだろうと思っていた。

 「人権映画」というようなジャンルが映画界の一部で評価され、「人権映画祭」と銘打たれた上映会まであるところにしては妙な話であるが、例えばスクリーンクォータ問題への映画関係者の取り組みを見れば、ある程度は察しが付くのである。ただし、これは、映画関係者に主体思想派またはNL系列の自民統(ジャミントン)の闘士が多いのではないかと言っているのではない。いわゆる運動圏あがりの386世代が多いと言われる映画関係者である。政治的な感覚が突出した人が多く、北朝鮮の体制に対する批判的な言説や作品は敵(保守勢力)を利することになるので敬遠する、というような暗黙の了解があるのではないかと邪推していた。非転向長期囚は孤高のパルチザンとして讃えても、脱北者はあくまでも日陰者扱いする、というわけだ。また、投資する側も、君子危うきに近寄らずを決め込む方が利口だ、という状況があるのではないかとも憶測していた。分断の悲劇を扱う作品はあまたあれど、脱北者はその分断の悲劇の範疇に入れるには扱いがデリケートすぎる、というわけだ。

 その韓国で、脱北者問題を真正面から扱ったといわれる映画「クロッシング」が完成し、今月の18日に制作発表会が開かれる。「韓国映画初の、脱北者の北朝鮮脱出の背景と過程を具体的に扱った作品」(デイリーNK)とのこと。いろいろな意味で勇気ある行動をした監督はキム・テギュン、主演はチャ・インピョである。昨年後半にクランクインしたらしいが、制作過程は極秘で、チャ・インピョ主演の事実が明かされたのも今年の一月末である。政権が変わったタイミングであり、最近、朝鮮日報が脱北者の特集記事を出したりしているので、別種の邪推をしたくなるが、企画は2005年に遡るそうで、しっかりした制作意図で作られているようだ。

 いま思い出して調べたら、チェ・ジウ主演の「キスしましょうか First Kiss]」(1998)がキム・テギュン監督の作品だった。あの映画にはイ・ヨンエがカメオ出演して、確かチャン・ドンゴンと『ミョンドンの雨傘』の如きシーンを見せてくれた。ヒョンビンというタレントの映画初主演作、「百万長者の初恋」(2006)という作品も撮っているそうだ。こう言ってはなんだが、これまでのところ、脱北者とかそういう話とは結びつかない中堅監督ではないだろうか。だが、いわゆる有名監督が避けて通るテーマにあえて挑戦するからにはそれなりの思い入れがあるのだろう。キム・テギュン監督に期待したい。

 「クロッシング」の制作社はキャンプBというところで、ベンティッジホールディングスという会社が投資しているそうだ。前者は全く知らないが、後者はいま韓国で300万人以上を動員して話題のスリラー映画「追撃者」(ナ・ホンジン監督)に投資した会社である。[シネ21]のインタビューに後者のチョン・ウィソク代表が登場した記事があり、キム・テギュン監督とは懇意にしていると語っている。

 連続殺人事件を扱った「追撃者」は、ばりばりの新人監督の作品でハ・ジョンウも出ているし、是非とも見たいと思っている映画である。そして、「クロッシング」も安心して見られる映画のような気がする。


[デイリーNK](3月7日) 映画‘クロッシング’脱北者の痛みを扱う
http://www.dailynk.com/japanese/read.php?cataId=nk00100&num=1968
[朝鮮日報](3月7日)下の記事の日本語版。
http://www.chosunonline.com/article/20080307000036
[スポーツ朝鮮](3月6日) ’クロッシング’、4年余りの企画…ベール脱ぐ
http://sports.chosun.com/news/ntype2.htm?ut=1&name=/news/entertainment/200803/20080307/83g77129.htm
[マイデイリー](1月24日) チャ・インピョ、極秘裏に脱北者映画撮影
http://www.mydaily.co.kr/news/read.html?newsid=200801241728401128&ext=na
[シネ21](1997年11月28日) 投資家チョン・ウィソク氏のインタビュー記事。
http://www.cine21.com/Article/article_view.php?mm=005002002&article_id=49275

2006年韓国映画産業決算

  <興味深い数字>
  [連合ニュース]その他によると、1月18日、映画振興委員会(以下、映振委)が「2006年韓国映画産業決算」を発表した。このブログの前の書き込みで平均制作コストを45億ウォン程度と一応考えたが、正確なところでは40.2億ウォンだった。この場合、全国観客数が最小130万人であれば損益分岐点を超えることができ、結局、昨年封切られた映画108本の中で損益分岐点を超えた映画は22本だったそうだ。また、昨年制作された映画で制作コスト10億ウォン以下の低予算映画を除いた83本の平均製作コストは51.1億ウォンで2005年の48.8億ウォンより4.7%(2.3億ウォン)増加した。このうちマーケティング費用が2.9億ウォン増えて(前年比18.7%増加)、マーケティング面での競争過多を示している。

  その他の数字では、全国基準では全観客数が1億6,385万人位と推算され、そのうち韓国映画の観客は1億519万人で韓国映画シェアは64.2%に推定されるという。ソウル地域の韓国映画シェア60.3%は映振委がソウル地域統計を集計し始めた1999年以降初めて60%を突破した。また、国民1人あたりの映画観覧回数は約3.4回で、米国の5〜6回、オーストラリアの4〜5回に続いてスペイン、フランスなどの3〜4回と類似の水準だそうだ。韓国映画と米国映画のシェア合計は95%内外を維持している。2006年にはこの二つの国の映画がソウルでの観客全体の95.3%を占有したし、これは対前年比1.5%増加した数値だそうだ。特にヨーロッパ地域の映画の場合、上映本数が総数53本にもかかわらず観客シェアは1%を下回る極端な偏重現象が見られるという。

  …国民1人あたりの映画観覧回数は意外な数字だった。日本はせいぜい1〜2回だと思うが、米国が一番多いというのは知らなかった。やはりハリウッドの存在する国である。韓国はもう少し多いような気がしていたが、韓国の相対的に安価な観覧料を考慮すると、出費ベースで比較すれば日本とそれほど大きな差がないかもしれない。ヨーロッパ映画の観客数は観客シェアを1%として1億6,385×0.01=163万8500人、これを下回るというのだから、一本あたり163万8500÷53=3万915人を下回る動員だったということだ。この数字は今ひとつピンと来ないし、ヨーロッパの大作というのが昨年あったかどうか定かでないが、「小さな映画」が多いような気がする。そして、いわく付きのキム・ギドク監督作品「時間」が3万人ちょっとの動員だったことを思い出した。

  <韓国映画の危機?>
  配給分野では伝統の強豪CJエンタテイメントとショーボックスが拮抗した。ソウル地域ではCJエンタテイメントが観客シェア23.3%を記録して20.1%のショーボックスに優位を見せたが、二つの配給社の全国観客数は優劣をつけるのが難しいほど拮抗していた。このような主要配給社間の角逐は映画市場の独寡占現象を一層深化させたそうだ。CJエンタテイメント・ショーボックス・シネマサービスなど配給3社の観客シェア合計は82%にもなった。これは公正取引法上の市場支配的事業者推定基準である3社合計75%をかるく超える数値だそうだ。また、2006年末基準の全国劇場数は306館、スクリーン数は1,847個と推算された。2005年末基準の1,648個に比べておよそ200個のスクリーンが去年一年で増えた。そのほとんどはいわゆるシネコンだろう。

  …スクリーンクオータが縮小されてしまった。この制度が形骸化し、韓米FTAが米国=ハリウッド巨大配給資本の思惑通り締結されると、韓国の映画配給資本はたちどころに打ち負かされ、映画館ではほぼハリウッド映画しか上映できなくなる。多くの映画人は路頭に迷い、産業は衰退し、韓国文化の前衛である映画産業はその伝統に幕を下ろす。(民族)文化とその多様性を否定する韓米FTA=米国資本による徹底的侵略にたいして国を丸ごと投げ出すようなまねは(知的文化的選良の)映画人が前衛にいる限り決して許さない、ユネスコの文化多様性保護協約に明確に抵触する帝国主義的な独占資本の悪しきグローバル化から韓国の民衆を守るのが映画人の任務だ…というのが反FTA闘争を続ける映画人の描く悲痛なシナリオと不退転の決意である。

  この闘争をフォローし始めた当初は、どうも話が理念的で不寛容・非妥協的すぎる、民主労働党や民主労総、文化連帯等の進歩派勢力の「客寄せ」が第一の任務なのだろうと理解した。一人デモをスター中心で派手にスタートさせたり、スターを集めて妙な「文化祭」を開いたり、全教組主催の特別授業でチェ・ミンシクが高校生相手に反FTAの講演をしたり、テレビ番組でユ・ジテが反FTAのレクチャーをしたり、スクリーンクオータ縮小反対のテレビCMにメガヒットを飛ばしたボン・ジュノ監督が出たり、あの手この手で「客寄せ」に余念がないように見えた。「客寄せ」というのはこちらの誤解かもしれないが、問題解決よりは理念対立を浮き彫りにするほうを選んでいるように見受けられた。これは、反体制左翼運動の一環である以上、徹底的に非妥協的にならざるを得ないのだろうと憶測した。ただし、映画人による反FTA闘争が映画ファンの支持を受けているのかそうでないのかはよくわからなくなった。

  スクリーンクオータ縮小が米国とのFTA交渉開始のための人身御供のように扱われた点では映画人の怒りも理解できる。当初は、韓国映画人が一枚岩でコトにあたっているのだと思っていた。しかし、新人事で衣替えした映画監督協会が「右寄り」の活動を展開し始め、決して映画人が一枚岩でコトにあたっているわけでもないことがわかった。スクリーンクオータが縮小され、その後文化観光部が出してきた映画振興策の提案に対する態度に差異が見られ、映画人内部の理念対立を予想させるような展開になっているからだ。加えて、粗製濫造気味だった昨年の韓国国内での映画興行は、シネコンの浸透に呼応してメガヒット作と普通の映画との興行二極化が深刻であることが明らかになった。反FTA闘争における映画人内部の葛藤、粗製濫造、興行二極化等々に加えて、現場労組の団体交渉もある。問題は山積している。

  <映画が輸出産業?>
  一方、深刻なのは輸出状況である。自分は以前の書き込みで、2006年度分はまだ横ばい程度でしのげるだろうと楽観していたが、現実はかなり厳しかった。昨年、日本では邦画が洋画に匹敵する興行収入をあげたものの、韓国映画は顧みられなかった。昨年の韓国映画海外輸出規模は2451万ドルで2005年(7599万ドル)の3分の1にも達しなかった。輸出本数は208本で2005年(202編)と大きな差はなかった。しかし輸出単価が大幅に下落した。2005年に37万6千ドルだった一本あたり輸出価格が昨年は11万7千ドルで3分の1水準以下に落ちた。タイを除きすべての国で輸出額が減ったし、日本は対前年比82.2%もの減少率を記録した。日本への輸出額が減ると輸出額全体に影響する日本依存体質の弱点がものの見事に露呈してしまったのだ。

  日本への輸出が激減したことに関して、[連合ニュース]は、「日本で封切られた韓国映画がぞくぞく興行に惨敗したところに、著作権に対する韓国と日本の認識及び取り引き慣行差で発生する葛藤まで重なって輸出が急減したと見られる」という映振委の資料を引用している。もう少し詳しい分析を知りたかったので[映画振興委員会]のサイトを見ると、<ニュース>のページに発表資料のサマリィらしき9項目の文章が出ていた。その第7番目に「韓国映画の海外輸出急減」という文章がある。曰く、「…日本で封切りした韓国映画がぞくぞく興行に失敗したことである程度予見されたことだ。日本市場に対して長期的な戦略をもって近付くことができず、韓流スターたちのチケットパワーに対する期待感とこれによる高価な輸出額、封切りスクリーン数及びマーケティングの規模と方式の合理性問題などが総合的に影響を及ぼしたと見られる。…」

  …日本への輸出における「葛藤」の詳しい説明を期待したのだが、無難な分析になっている。「葛藤」のほうは本資料を見ないとダメかもしれない。まあ、日本での韓国映画の凋落に関して、いわゆる著作権問題や商習慣の違いという問題はむしろ些細なことだと自分は思っている。退屈な内容と紋切り型の演技である。ひょっとして、「日本映画でまともなのはアニメだけで、人間が出てくる映画は韓国映画のほうに分がある」などという驕った予断が韓国映画界にあったのではないかと憶測してしまう。例えば、ごくごく限られた例であるが、韓国映画人の一人であると考えられるイ・ヨンエも、このブログを始めるきっかけになった一昨年のNHKのインタビュー番組で、日本の映画についてはアニメしか言及していなかった。ああ、そうなのか、そういうことなのかとずっと思っていた。

  彼女が出演映画のプロモーションに来日しなかった際も、おそらく日本の試写会での評判が相当悪かったのだろうと密かに憶測してはいたが、天下のNHKで出演ドラマが放映されているし、封切り間際には出演映画宣伝の特番も放送されるし、有名監督が作った作品だし、ベネチア映画祭でも話題になったし、なんとかなるという判断だったのではないか。だが、猛烈な宣伝キャンペーンを欠く日本ではなんともならなかった。その他の輸出先でも同様であった。一昨年の話ではあるが、比較的高額で輸出できたら後の興行は我関せず、などという「売り逃げ」感覚があるとも思えないので、やはり作品の「質」に対する過信がそこにあったのではないだろうか。この例を一般化することはもちろん出来ないし、観客動員数と作品の「質」は無関係だとも言えるが、彼女の出た映画は「小さな映画」ではなく普通のスター映画だった。観客動員も「質」のうちなのだ。

  ドラマの出演者の一時的な人気を「〜流」などと大げさに騒いで、それほど実体のない状況を演出した日韓の利害関係者やマスコミの責任はさしあたり置くとして、そもそも映画産業を輸出産業にするという話には無理があると思う。映画技術者養成機関に政府の助成金が与えられ、映画制作上の技術的支援が公的資金によって行われているといっても、映画輸出を資本と配給の力関係で捉えれば、リメイクばやりで万人向きとはいえハリウッドのビジネスモデルに対抗できるものは今のところ存在しない。そもそも、映画はビジネスになりにくいという予断と偏見を自分は持っている。儲かるビジネスにしなくてもいいと思うが、そうしたかったらまず作品の「質」だろう。映振委のサマリィを見ても韓国映画の「質」にかんする言及は見あたらない。「政策研究チーム」による市場分析なのでそういう話題は扱わないのだろう。だが、輸出はおろか、韓国の観客に対しても広告宣伝の絨毯爆撃が効かなくなる日が来るかもしれない。

[連合ニュース](1月18日)「韓国映画輸出額前年の3分の1に減少」
http://www.yonhapnews.co.kr/entertainment/2007/01/18/1102010000AKR20070118147000041.HTML
[映画振興委員会](1月18日)「映画振興委員会 2006年韓国映画産業決算発表」
http://www.kofic.or.kr/contents/board/index.aspx?Op=bv&MenuId=161&id=2405¬icenum=908¤tpage=0&rootid=2405

2006年の韓国映画市場

  <1人デモ>
  スクリーンクオータ原状回復闘争はどうなったのだろうと、久しぶりに[韓国映画人会議]を覗いてみたら、青瓦台前の1人示威(1人デモ)は依然として続いている。去年、1月26日にスクリーンクオータ縮小方針が発表されてからもうすぐ一年である。あれ以来、韓国の映画人たちは一貫して縮小反対闘争を継続してきた。1人デモは去年2月4日にソウル光化門教保文庫ビルの前で始まった。また、3月6日から7月31日まで146日間、光化門前の開かれた市民広場にテントを張り、リレー座り込みも行った。

  その後、8月1日から1人デモは青瓦台前に場所を移し、年を越して続いている。青瓦台前1人デモが156日目になる1月3日(水)、ここには映画俳優兼監督で「オーロラ姫」を作ったパン・ウンジン監督がたまたま立っていた。国会議事堂前での1人デモなら民主労働党の十八番で、過去にも別件で女優のムン・ソリなど民主労働党員の有名映画人が1人デモをしている。国会議事堂前ではないが、青瓦台前は映画人対策委や映画人会議の面々にしてみれば、いわばホームグラウンドのようなものだろう。最近はデモ参加者がいまひとつ地味になったとはいえ、スクリーンクオータが原状回復される日までこのデモは続くのだそうだ。

[韓国映画人会議](1月8日)1人デモの現状報告。
http://www.kafai.or.kr/asapro/board/show.htm?bn=screenquota&fmlid=116&pkid=209

  <2006年の韓国映画市場>
  [マイデイリー]や[ハンギョレ]に、2006年度韓国映画市場の収支決算を論じた記事がある。前者は映画振興委員会が2005年に国会の文化観光委員会に提出した国政監査資料その他を引用し、後者はアイエムピクチャーズが出した2006年韓国映画市場分析資料を引用している。そして、両記事に共通するのは暗い見通しだ。昨年、韓国国内で封切られた韓国映画は108本で、このうち黒字を記録した映画は20本程度で、観客動員数全体は前年比増加したが、一本あたりの観客動員数は減っている。

  何かの記事で、韓国映画では70万人の観客動員が成功の目安だ、という話を読んだ。だが、映画の損益分岐点は一概には論じられない。2005年の映画振興委員会資料によれば、同年の韓国映画平均製作コストは純制作費29億9000万ウォン、マーケティング費用10億ウォンで総額39億9000万ウォンだったそうだ。映画作成諸掛:宣伝費が3:1なのだが、これは百億ウォン規模の大作からいわゆる「小さな映画」まで含んだ数字である。紛らわしいのを承知で「普通の映画」という言葉を使うなら、これが標準的な韓国映画一本の制作コストと考えられる。

  2006年度の数字はまだ出ていないが、[ハンギョレ]には40億ウォン台中盤という予想が出ている。韓国の映画観覧料は公称7000ウォンで劇場と投資配給社の韓国映画劇場収入配分は5:5だから、簡単な計算で収支とんとんの観客動員数が出てくる。しかし、映画はDVD化や放送局への売却等の2次版権(付加版権)、海外への輸出等でもう少し稼ぐ。ただし、輸出額に関して、日本に何十億ウォンで売れたとかマスコミが騒ぐのは例外的な高値を呼んだときだけで、このあたりの詳細はよくわからない。

  また、入場料の割引も考慮しなければならない。映画をよく見に行く韓国の人々は何らかの割引サーヴィスの会員になっているのが普通だし、早朝割引とか非会員でも割引の恩恵をうけられる機会が多い。さらに、企業が人気映画の入場券を景品にしたりする。こうした大口の顧客に対して額面通りで販売しているとは考えにくい。結局、額面通り払っている人は少数派ではないかと思う。すると、割引合戦による利ザヤの減少をどこがどう負担しているかという難しい問題も入ってくる。こうしてネットの記事等から正確な数字をつかむことはきわめて難しい。従って、投資社(者)、配給社、製作社(者)がどれくらい収入を得るのかは、[マイデイリー]がそうしたように不正確を承知で公称金額の劇場収入だけに限って考えるのがさしあたり安全である。

  そこで、一本あたりの制作コストを平均40億〜50億、かりに45億ウォンとして、45億÷3500=約128万6千人となる。繰り返すが、自分の記憶に間違いなければ、以前見た業界の消息筋の話では70万人動員が成否の目安ということであった。これでは話半分に近い。そもそも、70万人動員だと70万×3500=24億5千万ウォンとなる。付加版権とかの収入で説明するには隔たりが大きすぎる気がする。調査に応じた映画制作社が見栄を張って多めに申告した…なんてバカな話ではないだろうし…。昨今の出演者のギャラの高騰傾向や宣伝費用のことを勘案すると、いくら平均でも20億台というのは少ないような気がする。この乖離の謎は継続して調べることにしよう。

  一方、深刻な問題が指摘されている。韓国映画は前年比封切り本数は24.1%、観客動員数は15.8%増加した。しかし、一本あたりの観客動員数は27万5319人で、2005年に比べて6.7%減少した。2000年以降、2002年の22万3千名の次に低調な成績で、2004年を頂点として2年連続減少したのだそうだ。韓国映画の大量観客動員傾向は、いわゆるマルチプレックス(シネコン)の急速な展開と軌を一にしている。がーっと集める器が出来て、がーっと宣伝する媒体が定着して、がーっと集まったのである。しかし、観客はトータルで増えたものの、次々に封切られる作品がまんべんなく客を集められたわけではないのだ。

  それはそうだろう。自分の無責任な断定にそれほど説得力はないかもしれないが、韓国映画は総じて作品の質が今ひとつだと思う。メロ映画、組織暴力団映画、南北分断もの、中途半端なコメディ、等々、定型化された企画が多く、いわゆる多様性に欠けると思っている。企画が凡庸ならどんなにがんばって作っても傑出した内容の作品は出来にくい。映画輸出の問題を捨象して考えても、昨年の108本の制作本数と一本あたりの観客動員数の減少は粗製濫造の結果なのだと思う。

  これと裏腹の問題が興行の両極化である。昨年封切りした「怪物」、「王の男」「いかさま師」「闘師父一体」は韓国映画歴代興行1、2、7、9位を占めた。この4本が動員した観客はソウルだけで1053万名、全国では3821万名に達する。この4本を除いた104本のソウルでの観客は平均18万4600人である。大作中心の興行両極化現象が深刻な様相を見せているのだ。大作は多額の制作コストを回収するために多くのスクリーンを押さえてしまう。がーっと集めないと話にならないのだ。「韓半島」や「怪物」で凄まじい数のスクリーンを押さえたことは記憶に新しい。そして、上映スクリーン数の怪物ぶりが話題になり、「独立映画を救え」などという妙な権威主義的提案が<映画ムラ>から出てきたりして、多様な映画を見るための環境作りの議論が盛んに行われたのも記憶に新しい。しかし、この問題は上から決める話ではなく、あくまでも韓国の観客が決めることであろう。映画上映の機会均等とかいって制度的にいじりすぎ、悪平等に堕すれば、ますます退屈な映画が増えることは間違いない。

  最後に、年度後半に至ってスクリーンクオータが実際に縮小されて、その影響はどうだったかといえば、実に皮肉な数字が[ハンギョレ]に出ている。スクリーンクオータ縮小以後も2006年の韓国映画マーケットシェアは歴代最高の60.6%を記録した。そして、外国映画の上映本数はむしろ減少したのである。外国映画直配社は前年比10.3%減少した70本を封切りし、観客動員数は0.7%上昇するにとどまった。ただし、一本あたり観客動員数は20万3400人を記録して2005年より12.2%上昇している。観客動員数と封切り本数は急増したものの、一本あたり観客動員数が持続的に減少傾向にある韓国映画とは対照的な様相である。いくら上映枠がわずかながら増えたにしても、輸入配給業者も愚かではない。作品を選んで上映し、収益性を増したのだ。

  スクリーンクオータ縮小問題はもっぱら韓国映画人のメンツにかかわる問題で、この制度の実際的影響力はしれたものだ、などと上の数字から即断することはもちろんできない。しかし今後、観客動員における韓国映画内部の両極化現象がスクリーンクオータ問題以上に深刻化する気配は濃厚である。

[ハンギョレ](1月11日)2006年韓国映画市場の分析記事。
http://hanimovie.cine21.com/Articles/article_view.php?mm=009001000&article_id=10238
[マイデイリー](1月2日)「2006年 封切り作は107本・金儲けした映画はたった20本」
http://news.media.daum.net/entertain/movie/200701/02/mydaily/v15247573.html

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  <映画「息」>
  キム・ギドク監督の新作「息」の撮影が始まったようだ。この映画は、夫に裏切られた女と死刑囚との愛話ということだった。[連合ニュース]によると、昨年の映画「時間」に出演したハ・ジョンウのプロダクション、サイダースHQは、"チャン・チェンが死刑囚役を、ハ・ジョンウが妻を裏切る夫の役をそれぞれ引き受けて5日に撮影を始めた。女主人公には 「海岸線(コースト・ガード)」や「春夏秋冬そして春」に出演したパク・ジアがキャスティングされた"と明らかにした。

  いよいよ撮影が始まったということは、一気呵成に撮り上げるのだろう。「春夏秋冬そして春」のような映画でなければ、遅くとも今月中に撮り終えるのは間違いない。この映画は、今月24日に開幕する第36回ロッテルダム国際映画祭の'映画プロジェクトマーケットインシネマート'なる催しに招請されている。この催しは映画の先物市場みたいなものだろう。ひょっとするとラッシュ段階の映像が公開される可能性もあるのではないだろうか。なにしろ「早撮り」のキム・ギドク監督である。

  主演のチャン・チェンは台湾の人気スターである。残念ながら手元には出演作は一本しかない。おそらくこの役者の映画デビュー作と思われる映画「クーリンチェー少年殺人事件」(1991)のLDである。実はお正月に、久しぶりにエドワード・ヤン監督のこの作品を見た。なにしろLD4面目一杯、4時間もある。それなりの覚悟が必要である。昔、最初に見た時にはおびただしい出演者の数に圧倒され、主要な登場人物以外にどんな人々が出ていたのか自信が持てないほどだった。

  今回あらためて見てみて、1960年代の台湾の青春群像を描くこの映画が、言葉の真正な意味で叙事詩であり、一つの時代の哀切な証言であり、おそらく台湾映画にとって記念碑的な作品であろうことが了解できた。思春期の少年の夢と希望と孤独と絶望を情感豊かに描きながら、徹底的に描き尽くされる人間関係の綾織り模様から当時の街と人間たちの姿が鮮やかに浮かび上がり、その映像の美しさは間然とするところなく全編を貫いている。良質の小説を読んだ後のような感慨に浸った。

  …キム・ギドク監督の新作では、夫に裏切られる女のキャスティングに興味があったが、パク・ジアなら望むところだ。本来が舞台俳優で、演劇の方では名の通った女優である。「海岸線」での凄まじい女や「春夏秋冬そして春」で涙を流す母親もよかったが、自分は「空き家(うつせみ)」での彼女もいいなあと思った。なにか議論する余地もないほどのちょい役であるが、あの緑濃い韓式住宅の場面は大好きだ。なぜあの場面がいいのか自分でもよくわからない。パク・ジアがいたからかもしれない。

[連合ニュース](1月8日)台湾スター チャン・チェン、ハ・ジョンウとキム・ギドクの新作に主演
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=16&articleid=2007010809061129401&newssetid=491
[スターニュース](1月8日)第36回ロッテルダム国際映画祭への韓国映画の参加状況を伝える記事。
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=4&articleid=20070108140134946b6&newssetid=1352

  <その他>
  書き込みのついでにイ・ヨンエのハルビン情報を追加しておくと、1月6日午前に朝鮮族芸術館の安重根記念館を訪問した後、午後3時過ぎには帰国便に乗り、ご両親と共に機上の人となった。座席は来るときと同じくビジネスクラスであった。小寒のこの日はソウルでも雪が積もり、その後は厳しい寒さが続いている。年の初めに大役を終えた。後はオンドル床に横になってミカンや甘いものでも食べながらシナリオの吟味でもするのだろうか。いや、普通にソファでくつろいででもいいし、ダイニングテーブルででもいいが、早く新作を決めていただきたいのだ。

  なお、余計なことを少し書くと、今回のハルビン行での中国言論の扱いは、こと写真記事に関しては朝鮮族の学校への寄付の様子が中心であった。イ・ヨンエが滞在していたホテルの部屋の写真は何枚も出ているが、安重根記念館訪問等、安重根関連の写真は見あたらなかった。余計な憶測を書くと、ハルビン市側としては、ハルビンと安重根を必要以上に連関させることを好まないのではないだろうか。中韓の経済・文化交流はもちろん大事だが、日本ともこれまで良好な関係を維持してきたし、昨今の日中友好ムード復活の流れもある。未来志向の中日交流にとって、安重根はやっかいな存在だろう。

[新晩報](1月8日)1月6日の旅程を伝える記事。安重根記念館訪問はカットされている。
http://ent.sina.com.cn/x/2007-01-08/00201400842.html
[黒竜江日報](1月8日)「李英愛のハルビンの“閨房”を探る」という記事。イ・ヨンエの「神秘のベール」はみんな気になるところであろう。
http://heilongjiang.northeast.cn/system/2007/01/07/050662652.shtml
[連合ニュース](1月7日)動画記事。安重根記念館訪問の様子。
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview3.htm?linkid=197&articleid=2007010716170642375&newssetid=96


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