|
<興味深い数字>
[連合ニュース]その他によると、1月18日、映画振興委員会(以下、映振委)が「2006年韓国映画産業決算」を発表した。このブログの前の書き込みで平均制作コストを45億ウォン程度と一応考えたが、正確なところでは40.2億ウォンだった。この場合、全国観客数が最小130万人であれば損益分岐点を超えることができ、結局、昨年封切られた映画108本の中で損益分岐点を超えた映画は22本だったそうだ。また、昨年制作された映画で制作コスト10億ウォン以下の低予算映画を除いた83本の平均製作コストは51.1億ウォンで2005年の48.8億ウォンより4.7%(2.3億ウォン)増加した。このうちマーケティング費用が2.9億ウォン増えて(前年比18.7%増加)、マーケティング面での競争過多を示している。
その他の数字では、全国基準では全観客数が1億6,385万人位と推算され、そのうち韓国映画の観客は1億519万人で韓国映画シェアは64.2%に推定されるという。ソウル地域の韓国映画シェア60.3%は映振委がソウル地域統計を集計し始めた1999年以降初めて60%を突破した。また、国民1人あたりの映画観覧回数は約3.4回で、米国の5〜6回、オーストラリアの4〜5回に続いてスペイン、フランスなどの3〜4回と類似の水準だそうだ。韓国映画と米国映画のシェア合計は95%内外を維持している。2006年にはこの二つの国の映画がソウルでの観客全体の95.3%を占有したし、これは対前年比1.5%増加した数値だそうだ。特にヨーロッパ地域の映画の場合、上映本数が総数53本にもかかわらず観客シェアは1%を下回る極端な偏重現象が見られるという。
…国民1人あたりの映画観覧回数は意外な数字だった。日本はせいぜい1〜2回だと思うが、米国が一番多いというのは知らなかった。やはりハリウッドの存在する国である。韓国はもう少し多いような気がしていたが、韓国の相対的に安価な観覧料を考慮すると、出費ベースで比較すれば日本とそれほど大きな差がないかもしれない。ヨーロッパ映画の観客数は観客シェアを1%として1億6,385×0.01=163万8500人、これを下回るというのだから、一本あたり163万8500÷53=3万915人を下回る動員だったということだ。この数字は今ひとつピンと来ないし、ヨーロッパの大作というのが昨年あったかどうか定かでないが、「小さな映画」が多いような気がする。そして、いわく付きのキム・ギドク監督作品「時間」が3万人ちょっとの動員だったことを思い出した。
<韓国映画の危機?>
配給分野では伝統の強豪CJエンタテイメントとショーボックスが拮抗した。ソウル地域ではCJエンタテイメントが観客シェア23.3%を記録して20.1%のショーボックスに優位を見せたが、二つの配給社の全国観客数は優劣をつけるのが難しいほど拮抗していた。このような主要配給社間の角逐は映画市場の独寡占現象を一層深化させたそうだ。CJエンタテイメント・ショーボックス・シネマサービスなど配給3社の観客シェア合計は82%にもなった。これは公正取引法上の市場支配的事業者推定基準である3社合計75%をかるく超える数値だそうだ。また、2006年末基準の全国劇場数は306館、スクリーン数は1,847個と推算された。2005年末基準の1,648個に比べておよそ200個のスクリーンが去年一年で増えた。そのほとんどはいわゆるシネコンだろう。
…スクリーンクオータが縮小されてしまった。この制度が形骸化し、韓米FTAが米国=ハリウッド巨大配給資本の思惑通り締結されると、韓国の映画配給資本はたちどころに打ち負かされ、映画館ではほぼハリウッド映画しか上映できなくなる。多くの映画人は路頭に迷い、産業は衰退し、韓国文化の前衛である映画産業はその伝統に幕を下ろす。(民族)文化とその多様性を否定する韓米FTA=米国資本による徹底的侵略にたいして国を丸ごと投げ出すようなまねは(知的文化的選良の)映画人が前衛にいる限り決して許さない、ユネスコの文化多様性保護協約に明確に抵触する帝国主義的な独占資本の悪しきグローバル化から韓国の民衆を守るのが映画人の任務だ…というのが反FTA闘争を続ける映画人の描く悲痛なシナリオと不退転の決意である。
この闘争をフォローし始めた当初は、どうも話が理念的で不寛容・非妥協的すぎる、民主労働党や民主労総、文化連帯等の進歩派勢力の「客寄せ」が第一の任務なのだろうと理解した。一人デモをスター中心で派手にスタートさせたり、スターを集めて妙な「文化祭」を開いたり、全教組主催の特別授業でチェ・ミンシクが高校生相手に反FTAの講演をしたり、テレビ番組でユ・ジテが反FTAのレクチャーをしたり、スクリーンクオータ縮小反対のテレビCMにメガヒットを飛ばしたボン・ジュノ監督が出たり、あの手この手で「客寄せ」に余念がないように見えた。「客寄せ」というのはこちらの誤解かもしれないが、問題解決よりは理念対立を浮き彫りにするほうを選んでいるように見受けられた。これは、反体制左翼運動の一環である以上、徹底的に非妥協的にならざるを得ないのだろうと憶測した。ただし、映画人による反FTA闘争が映画ファンの支持を受けているのかそうでないのかはよくわからなくなった。
スクリーンクオータ縮小が米国とのFTA交渉開始のための人身御供のように扱われた点では映画人の怒りも理解できる。当初は、韓国映画人が一枚岩でコトにあたっているのだと思っていた。しかし、新人事で衣替えした映画監督協会が「右寄り」の活動を展開し始め、決して映画人が一枚岩でコトにあたっているわけでもないことがわかった。スクリーンクオータが縮小され、その後文化観光部が出してきた映画振興策の提案に対する態度に差異が見られ、映画人内部の理念対立を予想させるような展開になっているからだ。加えて、粗製濫造気味だった昨年の韓国国内での映画興行は、シネコンの浸透に呼応してメガヒット作と普通の映画との興行二極化が深刻であることが明らかになった。反FTA闘争における映画人内部の葛藤、粗製濫造、興行二極化等々に加えて、現場労組の団体交渉もある。問題は山積している。
<映画が輸出産業?>
一方、深刻なのは輸出状況である。自分は以前の書き込みで、2006年度分はまだ横ばい程度でしのげるだろうと楽観していたが、現実はかなり厳しかった。昨年、日本では邦画が洋画に匹敵する興行収入をあげたものの、韓国映画は顧みられなかった。昨年の韓国映画海外輸出規模は2451万ドルで2005年(7599万ドル)の3分の1にも達しなかった。輸出本数は208本で2005年(202編)と大きな差はなかった。しかし輸出単価が大幅に下落した。2005年に37万6千ドルだった一本あたり輸出価格が昨年は11万7千ドルで3分の1水準以下に落ちた。タイを除きすべての国で輸出額が減ったし、日本は対前年比82.2%もの減少率を記録した。日本への輸出額が減ると輸出額全体に影響する日本依存体質の弱点がものの見事に露呈してしまったのだ。
日本への輸出が激減したことに関して、[連合ニュース]は、「日本で封切られた韓国映画がぞくぞく興行に惨敗したところに、著作権に対する韓国と日本の認識及び取り引き慣行差で発生する葛藤まで重なって輸出が急減したと見られる」という映振委の資料を引用している。もう少し詳しい分析を知りたかったので[映画振興委員会]のサイトを見ると、<ニュース>のページに発表資料のサマリィらしき9項目の文章が出ていた。その第7番目に「韓国映画の海外輸出急減」という文章がある。曰く、「…日本で封切りした韓国映画がぞくぞく興行に失敗したことである程度予見されたことだ。日本市場に対して長期的な戦略をもって近付くことができず、韓流スターたちのチケットパワーに対する期待感とこれによる高価な輸出額、封切りスクリーン数及びマーケティングの規模と方式の合理性問題などが総合的に影響を及ぼしたと見られる。…」
…日本への輸出における「葛藤」の詳しい説明を期待したのだが、無難な分析になっている。「葛藤」のほうは本資料を見ないとダメかもしれない。まあ、日本での韓国映画の凋落に関して、いわゆる著作権問題や商習慣の違いという問題はむしろ些細なことだと自分は思っている。退屈な内容と紋切り型の演技である。ひょっとして、「日本映画でまともなのはアニメだけで、人間が出てくる映画は韓国映画のほうに分がある」などという驕った予断が韓国映画界にあったのではないかと憶測してしまう。例えば、ごくごく限られた例であるが、韓国映画人の一人であると考えられるイ・ヨンエも、このブログを始めるきっかけになった一昨年のNHKのインタビュー番組で、日本の映画についてはアニメしか言及していなかった。ああ、そうなのか、そういうことなのかとずっと思っていた。
彼女が出演映画のプロモーションに来日しなかった際も、おそらく日本の試写会での評判が相当悪かったのだろうと密かに憶測してはいたが、天下のNHKで出演ドラマが放映されているし、封切り間際には出演映画宣伝の特番も放送されるし、有名監督が作った作品だし、ベネチア映画祭でも話題になったし、なんとかなるという判断だったのではないか。だが、猛烈な宣伝キャンペーンを欠く日本ではなんともならなかった。その他の輸出先でも同様であった。一昨年の話ではあるが、比較的高額で輸出できたら後の興行は我関せず、などという「売り逃げ」感覚があるとも思えないので、やはり作品の「質」に対する過信がそこにあったのではないだろうか。この例を一般化することはもちろん出来ないし、観客動員数と作品の「質」は無関係だとも言えるが、彼女の出た映画は「小さな映画」ではなく普通のスター映画だった。観客動員も「質」のうちなのだ。
ドラマの出演者の一時的な人気を「〜流」などと大げさに騒いで、それほど実体のない状況を演出した日韓の利害関係者やマスコミの責任はさしあたり置くとして、そもそも映画産業を輸出産業にするという話には無理があると思う。映画技術者養成機関に政府の助成金が与えられ、映画制作上の技術的支援が公的資金によって行われているといっても、映画輸出を資本と配給の力関係で捉えれば、リメイクばやりで万人向きとはいえハリウッドのビジネスモデルに対抗できるものは今のところ存在しない。そもそも、映画はビジネスになりにくいという予断と偏見を自分は持っている。儲かるビジネスにしなくてもいいと思うが、そうしたかったらまず作品の「質」だろう。映振委のサマリィを見ても韓国映画の「質」にかんする言及は見あたらない。「政策研究チーム」による市場分析なのでそういう話題は扱わないのだろう。だが、輸出はおろか、韓国の観客に対しても広告宣伝の絨毯爆撃が効かなくなる日が来るかもしれない。
[連合ニュース](1月18日)「韓国映画輸出額前年の3分の1に減少」
http://www.yonhapnews.co.kr/entertainment/2007/01/18/1102010000AKR20070118147000041.HTML
[映画振興委員会](1月18日)「映画振興委員会 2006年韓国映画産業決算発表」
http://www.kofic.or.kr/contents/board/index.aspx?Op=bv&MenuId=161&id=2405¬icenum=908¤tpage=0&rootid=2405
|