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<AFI映画祭>
最近、韓国映画界の情報に「ハリウッド」という言葉が数多く見られるようになった。ハリウッド映画を輸入する話ではない。ハリウッドで映画を作ったり、韓国映画を売り込もうという話だ。[連合ニュース](10月30日)に「'怪物'など韓国映画3本、AFI映画祭の招請」という記事がある。AFIとは「米国映画協会(American Film Institute) http://www.afi.com 」である。ことし20回目を迎える映画祭、'AFI FEST 2006'は11月1日から12日までハリウッドのアークライト劇場で開催され、全147本の長・短編作品が紹介されている。そういえば、第35回AFI特別功労賞を俳優アル・パチーノが受賞するという話をどこかで読んだことがある。
この映画祭のアシアンニュークラッシック部門(8本)でキム・ギドク監督の「時間」とキム・テヨン監督の「家族の誕生」が招請され、ダークホライズン部門(6本)でポン・ジュンホ監督の「怪物」が上映された。ダークホライズン部門にはジャンルの壁をこえて社会政治的問題を探求する映画が集まるそうだ。配給社がリサーチしたうえでこういう「売り方」にしたのだろう。反米的な政治色の強い映画でも日本と違って固定客が存在するのかもしれない。この映画祭は、北米最大映画市場である第27回アメリカンフィルムマーケット(サンタモニカで11月1日から8日まで)と連携して開催されているのだそうだ。
[連合ニュース](11月4日)第27回アメリカンフィルムマーケットの記事。
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20061104/040700000020061104102753K5.html
[連合ニュース](10月30日)「'怪物'など韓国映画3本、AFI映画祭の招請」
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=16&articleid=2006103011014834301&newssetid=491
<キム・ギドク監督の新作>
その第27回アメリカンフィルムマーケットでキム・ギドク監督の新作が紹介された。米国の雑誌「ヴァラエティ」(29日付)を引用した[スポーツカン(京郷新聞)](10月29日)の記事に、キム・ギドク監督の「息(Breath)」という14番目の映画のプロジェクトがここで公開されるという話が出ている。そして、11月4日になって、この新作の話題がネットでいくつか報じられた。
キム・ギドク監督はてっきり故郷の山林かなんかで荒行でもしているのだろうと思っていた。今年の夏にいろいろあったからだ。冬に向かう枯れ木の間をランニングして…などと妄想していた。それが、まさかこんなに早く次回作の話が出てくるとは思っていなかった。10月21日に、映画「時間」が第42回シカゴ国際映画祭の「ブラック賞」を受賞した、という記事を見てから、ネットで記事を調べていなかった。やはりこの監督は油断できない人だ。…米国のフィルムマーケットでプロジェクトを初公開したのだ。今後自分の映画を韓国国内では封切りしないと語っていたことが思い出される。
映画雑誌「スクリーンデイリー」(4日付)を引用した記事によれば、その新作「息」は、夫が浮気する現場を見てしまった女性と死を待つ死刑囚との愛話で、台湾のスター、チャン・チェンが死刑囚を演じるそうだ。その他のキャスティングも中国や韓国の俳優を対象に現在進められており、来年の初めにクランクインする予定だという。…これ、台湾の資本なのかな。ギャラの方は大丈夫なんだろうかと、余計なことがまた気になる。
映画「息」は最小のせりふのみを用いて独特のビジュアルを見せる計画だそうで、大いに期待が持てる。映画「空き家(うつせみ)」のような感じになるのだろうか。だとしたらいいなと思う。最新作の映画「時間」はこの監督のベスト5に入りそうな秀作であったが、自分にはやや重く、やるせない映画であった。まあ、あれこれ詮索してもつまらないので、己を空しくしつつ映画が完成するまでこまめに情報をチェックしていくとしよう。
[朝鮮日報](日本語版 11月5日)映画「息」の話。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/05/20061105000025.html
[マイデイリー](11月4日)映画「息」の話。
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=16&articleid=2006110411123373394&newssetid=83
[スポーツカン(京郷新聞)](10月29日)映画「息」の話。
http://kr.news.yahoo.com/service/news/shellview.htm?linkid=4&articleid=20061029221011968d5&newssetid=1352
<ハリウッドの方へ>
一方、[東亜日報](11月4日)に「時来たれり…われらは今'ハリウッド'に行く」という記事がある。韓国映画界の「ハリウッド志向」を多角的に紹介した記事である。ネットで目にする韓国の映画雑誌の記事には、映画紹介の提灯記事か奥歯に物の挟まったような歯切れの悪い話が多い。映画評論家でなく文学者や演劇人の話の方が面白い。むしろ一般紙やネット誌のほうに自分にとって有益な記事が多い。チェ・ジヨン記者によるこの記事もそうである。
まず、上に出てきたアメリカンフィルムマーケットで、「ディー・ウォー(D-WAR)」(ショウボックス配給)という映画の完成版が公開された話が出てくる。これはシム・ヒョンレ監督が5年前から製作していた映画で、今年の釜山映画祭で予告編が公開されたそうだ。秘宝を抱いて生まれた朝鮮時代のある女性がアメリカで生まれ変わり、悪い妖怪たちが彼女を探し出してロサンゼルスの都心で大血闘が起るという内容だそうだ。CGはすべて韓国のスタッフによる制作だが、俳優とその他のスタッフはすべて米国人で、「100%英語の台詞」なのだそうだ。
以前このブログでも触れたLJフィルムのイ・スンゼ代表による「ジュリア・プロジェクト」の苦労話もこの記事に出ている。現在は主演のキャスティングの最中で、撮影は来年の8月からだそうだ。また、MKピクチャーズのカン・ジェギュ監督がハリウッドで英語のみの台詞による近未来SFブロックバスター(製作コスト1000億ウォン台)を準備しているという話が出ている。その他、CJエンタテイメントが米国進出の「テスト商品」として投資製作する映画や、ナウフィルムが米国の会社と共同製作した映画(映画「時間」のハ・ジョンウが出演)の話も出てくる。そして、ハリウッド進出を現実的に狙えそうな俳優として、チョン・ジヒョン、チョン・ウソン、イム・スジョンの三名が言及されている。
[韓国日報](11月6日)「米"韓国映画が群がって来る"と連日特筆大書」-LAタイムズの記事を紹介した記事。
http://sports.hankooki.com/lpage/cinet/200611/sp2006110612302558470.htm
[東亜日報](11月4日)「時来たれり…われらは今'ハリウッド'に行く」
http://www.donga.com/fbin/output?n=200611040022&top20=1
<アメリカンドリーム?>
上の[東亜日報]の記事に興味深い表があった。わずか2年分であるが、韓国映画の海外諸地域への輸出状況を示す数字である。一見して、アジアでしか商売が成り立っていないことがわかる。韓国の工業製品はこれほどではないにしても、やはりアジアがお得意様だったはずだ。映画の方はアジア以外の多くの地域で輸出額が減少している。2004年から2005年にかけてのブームで、次々と日本に高額で売れたことが主たる要因だろう。日本市場での人気が冷え込むと輸出額に直結する構造になっている。中華圏にももちろん売れているのだろうが、輸出額の大半が日本市場での実績であると考えられるからだ。
「その他」がどこかよくわからないが、金額的にはここと北米およびヨーロッパでの落ち込みが少なくない。作品の質が全般的に落ちているのかもしれない。あるいは、「コリアンエクストリーム」の物珍しさで最初は観客を集めたが、すぐに飽きられてしまった、ということか。…どうなのだろう。例えば韓国のテレビドラマの人気に便乗したり、例えば分断の悲劇や組織暴力団等の韓国固有の話題を盛り込んだりしても、欧米のお客さんはあまり見てくれないということだろうか。今年の釜山映画祭のアシアンフィルムマーケットでは韓国映画が日本に1本も売れなかった。韓国での話題作やヒット作は一応日本で次々に公開されているから、さしあたり2006年のアジアへの輸出額は2005年とそれほど大きく変わらないだろうが、先の見通しは暗い。
アジア地域といっても、巨大な市場のインドは特異な映画大国で輸出先にならない。中華圏を見ても、同じく巨大な中国本土の市場には厳しい国外映画制限があり、共同製作にしてもおおごとになってしまう。香港映画界は巻き返しを図ってかつての栄光を取り戻そうとしている最中だし、台湾は我が道を行っている。…結局、ここ数年、韓国にとってくみしやすかったのは比較的大きな日本の市場なのだ。そこへ一過性のブームが来て、去ったか、あるいは現在去りつつある最中だ。そこで、映画輸出の日本依存体質から脱却するためにも、何かしなければならない。台詞が英語のみの映画の構想は、今の韓国でちょっとしたはやりのようだ。映画のグローバル化はまず台詞から、ということか。…米国で字幕付きの映画は即芸術映画と見られてしまうらしい。一般うけしないのだ。やはりハリウッドで夢を見なければ、というわけだ。
韓国と日本でもっと密接に映画作りをしてくれるといいなと自分は思っている。日本映画はアニメだけではない。日本を映画輸出の市場として見るだけでなく、ともに映画を作って楽しむ仲間として見てくれればよいのだ。その理由はきわめて単純である。韓服と和服のどちらを着ても違和感のないのはこの二つの国の役者だと自分は思っている。中国俳優が芸者さんの役を見事に演じているのは、また別の話である。
付表:2004、2005年韓国映画地域別輸出現況(輸出額の単位:ドル)-(見にくくてすみません)
2004年 2005年
地 域 輸出額 シェア 輸出額 シェア
アジア 45,327,500 77.8% 66,143,686 87.0%
北米 2,900,000 5.0% 2,014,500 2.7%
南米 141,500 0.2% 235,600 0.3%
ヨーロッパ 8,245,250 14.1% 7,315,970 9.6%
オセアニア 152,850 0.3% 147,830 0.2%
アフリカ 0 0.0% 35,320 0.0%
その他 1,517,500 2.6% 101,674 0.1%
計 58,284,600 75,994,580
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