序破急

真摯に芝居の話をしましょう。

無題

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光江の素早い処置で源蔵は一命をとりとめた。
この件以来ホタムイの村人達の光江への信頼はいやがうえにも高まっていくのであった22。
8月22日(水)
光江 「八月二十二日水曜日。・・・ん〜、現在の心境は複雑。ホタムイに通えば通う程、へき地医療の問題点がはっきりと見えてくる。禎子さんや源蔵さんの様に治療の為に町に行かなければならない疾患が発生した時の運搬体制なんてお粗末なものだ。これはどうしても行政でやって貰わなければならない事案だ。・・・だいたい診療所だというのに心電図置いてないなんて、こんな事じゃ満足な診断なんかできやしない。・・・ああ、わたしなんでこんなに熱くなってるんだろう。・・・三ヵ月の延長期間もあと1ヵ月半か・・・・父は何も言ってくれない。分かってる分かってるんだ・・・自分で決めなきゃ・・・でも・・・ああ・・・」
その頃小康状態とたもっている源蔵宅に、長老組の大槻の昇平と田所の禎子が源蔵に呼ばれて訪ねてくる。
源蔵の世話をする真由美のおなかは今にもはち切れそうなくらいの大きさになっていた。
源蔵は生まれ来る孫の為にもホタムイの将来を何とかしようと考えていた。
昇平 「ところで話ってのは?」
禎子 「わざわざ二人に召集掛けるなんて珍しいやね」
源蔵 「ああ、その事よ。若いのが地区担当の横川さん巻き込んで、ウニの養殖の始めようと動いてるのは知ってるべ」
昇平 「ああ、知ってる。奴らの言ってるのは何の裏付けもねえ夢物語だ。水産試験所の連中とも連絡を取ってるらしいが、金出すのは俺達だべさ。大体ウチの俊夫なんか漁師の癖に船酔いなんかしやがって頼りねえたらありゃしねえ、他の連中も似たようなもんだ」
禎子 「あんた、ウチの竜也は一人前だよ」
昇平 「・・・いやいや、だとしてもよ、他はもう駄目よ。そんな連中のいう事気にすることはねえ」
禎子 「それがどうしたのさ」
源蔵 「・・・奴らに任してみようと思うんだ」
昇平 「エッ!・・・でも前までは・・・」
源蔵 「今回の事で俺も考えたさ。医者が言ってた。今までの不摂生がドッと出たんだって、ちゃんと療養しないと長くないよってな」
昇平 「そんな事言うんだったら俺だって同じこった」
禎子 「ワチもそうだわ」
     三人思わず顔を見合わせ笑う。
源蔵 「ホラな、みんなガタガタだ。こんなのが先頭に立っているようじゃホタムイの先は見えてべ」
禎子 「まあ、そうだな」
昇平 「だけどよ・・・」
源蔵 「俺は洋平に全部渡そうと思ってる」
昇平 「ええ。源ちゃんまだ早いよ。まだまだだよ」
源蔵 「俺もそうだと思ってた。でも俺は忘れてたんだ、自分の若い頃の事をよ」昇平 「何の事よ」
源蔵 「昇平、憶えてるか。俺が親父から舵を任されたのは二十歳そこそこの頃だ。そうだったべや」
昇平 「ああ、そうだ。でもよ・・・」
源蔵 「俺もお前もまだまだ半人前もいいとこだった。今の若いのなんてまだましだ。そんな俺達が明日から二人で漁に出ろっていきなり言われてよ・・・」
昇平 「ああ・・・そうだったな。二人してあたふたしながら、漁場のポイントさがしてな。結局その日は何回網入れても漁がなかった。情けなくてな二人で泣いたっけ」
源蔵 「でもよ、何とかやって来たじゃねえか。そうだべ。結局何とかするのは傍じゃねえ、俺達自身だったべや。連中だってそうよ」
禎子 「そうだね。あぶなかっしいけど自分達で何とかしようとしてるもんな」
昇平 「だけどあぶなっかしいのはあぶなかしいべや」
源蔵 「だから、それを助けてやんのが俺達の役目なんだべや」
昇平 「まあ、そりゃあそうだが・・・
禎子 「そうだね、そんな歳になったのかね」
源蔵 「そんな歳になったんだべな」
昇平 「・・でもウチのは頼りねえからな」
老若のいざこざも元をただせばホタムイの将来を考えての事なのだ。
ああ、そんな歳になったんだべな・・・http://shibaiya.blog.ocn.ne.jp/jyohakyuu/images/2012/11/19/125.jpg

たまたま往診に来ていた光江が挨拶に立ち寄る。
光江 「・・・じゃ、源蔵さんあたしは帰りますけど、先ほども言った様に、あたしは町の病院に入院することをお勧めします。今回は狭心症という事で済みましたけどね。心筋梗塞にも気を付けなればいけないし、検査の結果糖尿も高血圧の症状もかなり進んでいます。だからしばらく入院して病気と向き合う生活ペースを手に入れた方がいいと思います」
源蔵 「いや、俺は今のままでいい。大丈夫だ」
光江 「・・いいえ、決して大丈夫じゃありませんよ。その気になったらいつでも言ってください、すぐに手続しますから」
源蔵 「わかった。ご苦労さんでした」
美由紀の心配をよそに意固地な源蔵であった。
続く
撮影者 鏡田伸幸
光江の素早い処置で源蔵は一命をとりとめた。
この件以来ホタムイの村人達の光江への信頼はいやがうえにも高まっていくのであった22。
8月22日(水)
光江 「八月二十二日水曜日。・・・ん〜、現在の心境は複雑。ホタムイに通えば通う程、へき地医療の問題点がはっきりと見えてくる。禎子さんや源蔵さんの様に治療の為に町に行かなければならない疾患が発生した時の運搬体制なんてお粗末なものだ。これはどうしても行政でやって貰わなければならない事案だ。・・・だいたい診療所だというのに心電図置いてないなんて、こんな事じゃ満足な診断なんかできやしない。・・・ああ、わたしなんでこんなに熱くなってるんだろう。・・・三ヵ月の延長期間もあと1ヵ月半か・・・・父は何も言ってくれない。分かってる分かってるんだ・・・自分で決めなきゃ・・・でも・・・ああ・・・」
その頃小康状態とたもっている源蔵宅に、長老組の大槻の昇平と田所の禎子が源蔵に呼ばれて訪ねてくる。
源蔵の世話をする真由美のおなかは今にもはち切れそうなくらいの大きさになっていた。
源蔵は生まれ来る孫の為にもホタムイの将来を何とかしようと考えていた。
昇平 「ところで話ってのは?」
禎子 「わざわざ二人に召集掛けるなんて珍しいやね」
源蔵 「ああ、その事よ。若いのが地区担当の横川さん巻き込んで、ウニの養殖の始めようと動いてるのは知ってるべ」
昇平 「ああ、知ってる。奴らの言ってるのは何の裏付けもねえ夢物語だ。水産試験所の連中とも連絡を取ってるらしいが、金出すのは俺達だべさ。大体ウチの俊夫なんか漁師の癖に船酔いなんかしやがって頼りねえたらありゃしねえ、他の連中も似たようなもんだ」
禎子 「あんた、ウチの竜也は一人前だよ」
昇平 「・・・いやいや、だとしてもよ、他はもう駄目よ。そんな連中のいう事気にすることはねえ」
禎子 「それがどうしたのさ」
源蔵 「・・・奴らに任してみようと思うんだ」
昇平 「エッ!・・・でも前までは・・・」
源蔵 「今回の事で俺も考えたさ。医者が言ってた。今までの不摂生がドッと出たんだって、ちゃんと療養しないと長くないよってな」
昇平 「そんな事言うんだったら俺だって同じこった」
禎子 「ワチもそうだわ」
     三人思わず顔を見合わせ笑う。
源蔵 「ホラな、みんなガタガタだ。こんなのが先頭に立っているようじゃホタムイの先は見えてべ」
禎子 「まあ、そうだな」
昇平 「だけどよ・・・」
源蔵 「俺は洋平に全部渡そうと思ってる」
昇平 「ええ。源ちゃんまだ早いよ。まだまだだよ」
源蔵 「俺もそうだと思ってた。でも俺は忘れてたんだ、自分の若い頃の事をよ」昇平 「何の事よ」
源蔵 「昇平、憶えてるか。俺が親父から舵を任されたのは二十歳そこそこの頃だ。そうだったべや」
昇平 「ああ、そうだ。でもよ・・・」
源蔵 「俺もお前もまだまだ半人前もいいとこだった。今の若いのなんてまだましだ。そんな俺達が明日から二人で漁に出ろっていきなり言われてよ・・・」
昇平 「ああ・・・そうだったな。二人してあたふたしながら、漁場のポイントさがしてな。結局その日は何回網入れても漁がなかった。情けなくてな二人で泣いたっけ」
源蔵 「でもよ、何とかやって来たじゃねえか。そうだべ。結局何とかするのは傍じゃねえ、俺達自身だったべや。連中だってそうよ」
禎子 「そうだね。あぶなかっしいけど自分達で何とかしようとしてるもんな」
昇平 「だけどあぶなっかしいのはあぶなかしいべや」
源蔵 「だから、それを助けてやんのが俺達の役目なんだべや」
昇平 「まあ、そりゃあそうだが・・・
禎子 「そうだね、そんな歳になったのかね」
源蔵 「そんな歳になったんだべな」
昇平 「・・でもウチのは頼りねえからな」
老若のいざこざも元をただせばホタムイの将来を考えての事なのだ。
ああ、そんな歳になったんだべな・・・http://shibaiya.blog.ocn.ne.jp/jyohakyuu/images/2012/11/19/125.jpg

たまたま往診に来ていた光江が挨拶に立ち寄る。
光江 「・・・じゃ、源蔵さんあたしは帰りますけど、先ほども言った様に、あたしは町の病院に入院することをお勧めします。今回は狭心症という事で済みましたけどね。心筋梗塞にも気を付けなればいけないし、検査の結果糖尿も高血圧の症状もかなり進んでいます。だからしばらく入院して病気と向き合う生活ペースを手に入れた方がいいと思います」
源蔵 「いや、俺は今のままでいい。大丈夫だ」
光江 「・・いいえ、決して大丈夫じゃありませんよ。その気になったらいつでも言ってください、すぐに手続しますから」
源蔵 「わかった。ご苦労さんでした」
美由紀の心配をよそに意固地な源蔵であった。
続く
撮影者 鏡田伸幸
6月13日(水)
光江 「613日、水曜日。ホタムイに通いだして(指折り数える)・・10、11。もう11回目になる。二か月だ。早いな・・。ようやくホタムイの人達の顔と名前が一致し始めた。禎子さんの尿路結石の件以来、あたしは父と同じぐらいの名医との評判が立っているらしい。多分禎子さんが吹聴しまくっているのだろうが悪い気はしない。約束の三ヵ月まで後一か月か。あたしも態度を決めなくては・・・」
医者として光江を認めた竜也達若者は進んで手伝うようになっていた。
今日も光江の到着を船着き場で待っている。
竜也 「(大きな欠伸)ああ、漁が休みだと退屈だな」
将雄 「退屈で退屈で堪りません・・だ。なあ、そっちは網の直しはねえのか」
竜也 「ねえ。そっちは」
将雄 「俺んとこもねえ」
武志 「まだ来ねえのかな」
竜也 「もうそろそろだ」
将雄 「なあ、親方さん、何時に町に行ったのよ」
竜也 「光ちゃん先生の迎えの他に用事があるからって9時ぐらいに出たな」
将雄 「なあ、光ちゃん先生の手伝い終わったらよ。たまの休みだ、車飛ばして町に行かねえか」
俊夫 「ああ、それもいいな」
武志 「俺は行かねえ」
俊夫 「なんでよ。たまの事だ付き合えばいいベや」
武志 「往復で四時間だぞ。明日の漁があるんだ、町に行ったっていくらも遊べねえベや」
将雄 「ジジイみてえな事言ってねえで行くべ」
竜也 「駄目だ。今日は地区担当の横川さんとイベントの相談あるべや」
横川は若者のリーダーである洋平からの相談を受けて若者達の嫁取りの為のイベントを企画していた。
武志 「なあ、花嫁募集ってよ、どの辺に出してるんだべ」
将雄 「そりゃあ、全国だべや」
武志 「全国?北は北海道から九州沖縄まで?」
竜也 「そりゃそうだべや。この辺の女はここの事情を知ってるんだ、わざわざ応募する様な物好きはいねえべさ」
竜也 「だから、此処の事情を知らない女を集めるのよ。ほら、この前横川さんがこの辺りの景色をバックに、俺達に魚持たせて写真撮ったべ。あれ、今度の募集の宣伝材料の写真よ」
武志 「ああ、そうだったんだ。やけに笑え笑えって言ってたもんな。じゃあの写真載ったビラでも配ってるのか」
洋平や横川にとって若者をホタムイに定着させるには家庭を持たせる以外にないという思惑があった。
そんな事には頓着なく、竜也達にとって結婚、嫁取りという言葉は刺激的なものであった。
船が着き、迎えに向かった一同。その最後尾になった竜也の視野に高槻恭子が入る。
恭子は数年前に駆け落ち同然に家出していたのだ。
知らせを聞き駆けつけた昇平。
双方に去来するものはなんであったか。
昇平はやおら恭子殴りつける。
昇平 「恭子!」
恭子 「父さん」
           緊張し固まる恭子。
昇平、やおら恭子にビンタ。
俊夫 「何するんだよ、親父!」
昇平 「お前は黙ってろ!」
昇平 「どんだけ心配したか・・・」
恭子 「すいません」
          沈黙。
               遠くから汽笛。
昇平 「・・・飯は」
恭子 「エッ!」
昇平 「昼飯食ったのか」
恭子 「いや、まだ」
昇平 「家に昨日上ったときしらずがある。食え」
俊夫 「オヤジ」
恭子 「父さん・・・」
       恭子、咽び泣く。
昇平 「泣くな、行くぞ」
恭子 「ハイ」
何となく収まったようだ。
    光江と靖が来てこの光景に唖然とする。
光江 「あの人は?」
靖 「高槻さんの娘さんの恭子さんです」
光江 「じゃ、俊夫君のお姉さん」
靖 「ええ、そうですね」
源蔵 「ようやく帰って来たか」
光江 「どこかに行ってたんですか」
源蔵 「・・・家出だ」
靖 「えっ、家出?就職したんじゃなかったんですか」
源蔵 「本当の事言える筈ねえべさ。・・・高槻の所も、ウチと同じで早くに母親亡くしてな、恭子が母親代わりに家の中の事やってたんだが、いやになっちゃったんだべな。たまたま旅行で立ち寄った行きずりの男と駆け落ちみたいに家出てしまったんだ」
靖 「そうだったんだ」
源蔵 「これからどうなるんだか・・・」
        肩を盛んにもみほぐす源蔵。
光江 「親方さん、具合悪いの」
源蔵 「いや、肩が凝ってるだけだ。歳なんだべ。さあ、行くべ行くべ」
光江はもう一歩ホタムイに踏み込んだようだ。
続く。
撮影者 鏡田伸幸
田所の禎子が腹痛で担ぎ込まれて来る。
その苦しみ様は尋常ではなく、診療室に入る前に光江はベンチで応急的に触診する。
素早く診断した光江が禎子を診療室に運ぶように指示するが、禎子は痛みに耐え、典子に話があると押しとどめる。
竜也・俊夫 「頑張れ、頑張れ」

禎子 「ウーッ・・・ちょっと待ってくれ。ハアハア・・・典子」
典子 「なんだい義母さん」
禎子 「典子、ワチはもう駄目だ。ウーッ、今まで辛く当たってきたけどあんたの幸せを考えての事なんだよ。許してくれな・・・イタタ・・」
典子 「義母さん、すったら事言わないで」
禎子 「アアーッ・・ワチは死ぬ!」
典子 「義母さん!」
禎子 「・・・ワチが死んだら、典子、あんたは自分の・・・イタタ・・幸せだけを・・竜也、義姉さんを頼むよ」
竜也 「カアチャン!」
        禎子、診療室に入る。
何やら二人の間に他人には話せない何かがあるようだ。
あまりの苦しみ様に何事かと村人も駆けつけ様子を伺っていると、ケロッと回復した禎子が現れる。
典子 「義母さん、大丈夫かい」
禎子 「ああ、大丈夫だ。心配かけてすまなかったな」
竜也 「ほれ、座れ座れ」
        待合室の椅子に座る禎子。
洋平 「痛みは?」
禎子 「ああ、もうねえな。いやいや、若いけどあの先生は大したもんだ」
典子 「義母さん、よかったね」
禎子 「ああ、何にも痛くねえ」
竜也 「一時はどうなるかと思ったわ」
俊夫 「本当だ」
洋平 「なんの病気よ」
禎子 「ニョロ何とかって言ってたな」
洋平 「ニョロ何とか?なんだそりゃ」
光江の見立ては尿路結石であった。
光江 「禎子さん。さっきも言った様に病名は尿路結石です」
禎子 「ニョウロケツセキ・・・」
           典子と顔を見合す禎子。
弾かれた様に様子を伺う一同。
洋平 「(小さく)ン?何て言った」
武志 「(小さく)ニョロッセキっとか言ってたぞ」
民子 「ホラ!」
         首を引っ込め聞き耳を立てる一同。
典子 「ニョウロケツセキ?・・・」
竜也 「ニョウロケツセキ」
光江 「ええ、尿路結石」

漁師達は禎子の病名に興味津々である。

洋平 「(小さく)ああ、どこかで石ができるやつだ」
将雄 「へえ、石が・・・」
光江 「尿の通り道である腎杯(じんぱい)・腎盂(じんう)・尿管・膀胱・尿道をまとめて尿路と言うんだけど、この尿路にできた結石が、尿路結石っていうの」
典子 「ケッセキって・・石?」
竜也 「ああ、俺、それ知ってるわ」
光江 「そう、石ができて悪さをしたの」
禎子 「あたしの体の中に石が・・・何でそんなことになったんだべ」
光江 「禎子さん、お元気で病気一つした事なかったんだってね」
禎子 「ああ、トウチャンにもそこんとこ気に入られたんだ」
光江 「肉やお酒好きでしょう」
典子 「ええ、それは毎日でも文句言わねえベね」
竜也 「そうだな」
光江 「そういう食生活が大きな原因の一つって云われてるの」
禎子 「あらーッ、そうなの」
光江 「とにかく、ここで出来るのは応急処置だけなので、紹介状を書きましたから、明日、町の泌尿器科に行って下さい。そこで石を取り除くための診断を受けてください。」
原因と病名が判明してホッとしたのもつかの間、禎子の典子に対する態度が急に変わる。
          禎子立つ。
          
典子が付き添い体を支えようとする。
典子 「義母さん、大丈夫かい」
禎子 「なんだい、余計な事するんじゃないよ」
典子 「えっ!」
竜也 「なんだよ、カアチャン、それは」
禎子 「ワチはピンピンしてるんだ。病人扱いするんでないよ」
典子 「あたしはそんなつもりは・・」
竜也 「カアチャン、さっきのカアチャンはどこ行ったんだよ」
禎子 「なんだいさっきのって・・・」
竜也 「義姉さんが幸せになってくれって言ってたべ」
禎子 「知らないね。すったら事ワチが言う訳ねえべさ」
典子 「義母さん・・・」
禎子 「何だいその顔は。ああ、そんな顔見たくねえな、家から出てけばいいんだ」
竜也 「カアチャン!」
           さっさと行く禎子。
周りの人間にはその事態を飲み込む事は出来なかった。
竜也 「2月に兄貴の三回忌やったべや」
洋平 「ああ。いや、月日の経つのは早えなあ」
将雄 「誰の三回忌よ」
俊夫 「お前知らねえのか。田所の一郎さん、船から落ちて亡くなったべや」
将雄 「俺、その頃東京にいたからな」
武志 「ああ、二年前だよな、確か」
竜也 「丸二年で三回忌なんだ」
武志 「そうなのか」
竜也 「その頃から、カアチャンの奴、何だか義姉さんに突っかかる様になってよ。訳わかんねえんだ。前は実の親子以上に仲良かったのによ」
洋平 「どうしたんだべな」
竜也 「俺には分かんねえ」

外からは窺い知れない人間関係が謎がそこにはあった。

続く。

撮影者 鏡田伸幸
父ちゃん先生に代わる光江はホタムイの若者にとって興味津々の存在であった。
http://shibaiya.blog.ocn.ne.jp/photos/uncategorized/2012/11/11/016.jpg診療所に来た光江に無遠慮に好奇な目を向ける若者達を、迎えに出た年寄り達が咎める。
禎子 「なに入口で溜まってんだ。薄らボケた顔して、ちゃんと先生に挨拶したのかい」
竜也 「・・い、今するとこだべや」
昇平 「まったく何もかんもねえな」
俊夫 「だから、今するって」
禎子 「そんな事言ってる暇があるんだったら、早く挨拶すればいいべさ」
光江のそっちのけの若者と年寄りのいがみ合いとあっていく。

この状況を早く収めようと苦労する地区担当の横川靖を尻目に、いがみ合いは続くのであった。

光江をないがしろにする、村人の態度に、ついに堪忍袋の緒が切れた靖は村人を説教するのであった。

http://shibaiya.blog.ocn.ne.jp/jyohakyuu/images/2012/11/11/101_2.jpg

         靖 「わかってない、みんなわかってないよ。この地区に、こんな田舎に出張診療所あるって事の有難味を」
源蔵 「それはわかってるべさ」
昇平 「そんなのはな」
禎子 「みんな感謝してるべさ」
ザワつく一同。
靖 「イヤ!わかってない!」
語気に飲まれ黙る一同。
わたしね、十八歳で町役場に入って、此処の地区の担当になってから十五年になります。その間ね、過疎対策でいろんな場所に行かせてもらって勉強させてもらいましたよ。ええ、いろんな所があります」
昇平 「・・・何が言いたいの」
靖 「でね、わたしが言いたいのはね。ホタムイ地区ぐらいの規模の所で、一週間に一回とはいえお医者さんが来る出張診療所を持っているところは少ないって事なんだよ。いや、少ないどころか、今や過疎地の医療体制は崩壊してお医者さんがいなくなっているんだ。どんどんお医者さんがいなくなっている地域が多くなっているんだよ」
禎子 「でもここには父ちゃん先生がいるべさ」
靖 「だからその事なんだよ。この診療所に来て下さっている柴田先生は、公立や市立、町立の病院の先生でないの。分かってる?町で自分の医院を経営している、この地区とは何の義理もない先生なんだよ。居て当たり前の先生でないの。その柴田先生は自分の休みを犠牲にして、しかもホタムイ地区のみんなを診れるという事で、わざわざ漁の休みの水曜日に来て下さってたんだ」
一歩も引かない靖の迫力に村の実力者の源蔵も白旗を上げざるを得なかった。
靖 「こうして、父ちゃん先生が倒れて、その代わりに娘さんの光江さんが来てくれてるのも、父ちゃん先生がここの地区を心配してくれて、自分の手術の前に光江さんに言ってくれたからなんだよ。長くなりましたがね、敬意を持ってくださいよ。お願いですから敬意を持ってお迎えください。わたしが言いたいのはそれだけです。よろしくお願いします」
改めての自己紹介。
靖の言葉が身に染みた村人は不器用ながら素直であった。
よろしくお願いします!!
兎に角波乱に満ちてはいたが船出はした。
続く。
撮影者 鏡田伸幸

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