コンスタンツ通信

ボーデン湖岸の町コンスタンツに滞在していた社会学者です。帰国のためブログは終了しました。

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福島の英雄譚

数日前、リビアへの空爆が始まってから、ドイツにおける日本の震災報道は若干割かれる割合が若干低下しているとはいえ、やはり相変わらず大きく報道されている。ラジオの定時のニュースでは、福島原発の状況の変化が伝えられている。
 
ドイツでの報道では、福島原発の原子炉冷却のために働いている自衛隊員、消防隊員、東電の従業員や電気メーカーの技術者たちの「英雄的」行動に注目が集まっている。「カミカゼ飛行士」などの言葉で彼らの献身的行動を報じる際に用いられたりしている。そこには、身の危険を顧みない自己犠牲的行動に対する驚嘆とともに、ある種の「日本異文化論」的要素が多少なりとも混じっているように思われる。
 
一つの例として、今日発売された週刊誌『フォークス(Focus)』の記事から、「福島の英雄」について書かれた部分を抜いておこう。
 
わずか数分、放射線量が高い場合にはたった1分ごとに、人々は交代で原子炉の中で作業にあたる。そして地震と放射線から防御された部屋に戻らなければならない。東京電力によれば、これまで22人の作業員がけがをしている。そのうち1人は重傷である。けがをした作業員のうちの一人は、水蒸気を逃がすために1号機のヴェント(弁)を明けに行った際、100ミリ・シーベルト以上の放射線を10分間浴びた。そのすぐ後、その作業員は眩暈と失神で病院に運ばれた。ちなみに比較しておくと、欧米の放射能技術者の場合、年間に20から50ミリ・シーベルトが許容量の範囲である。
 
技術者、エンジニア、作業員が計測機材や配管を修理しようと熱心になっている一方で、自衛隊のパイロットは被害を受けた原子炉の上を飛行し、ホウ酸を含んだ海水で原子炉を冷却しようとしている。東京消防庁は消防車を派遣し、極めて危険なプルトニウムを含んだ3号機にむけて放水している。放射線が高いため、消防隊員もまた常に交代で作業にあたらなければならない。日本政府は自衛隊員と消防隊員のために、年間被爆量の基準を100ミリ・シーベルトから250ミリ・シーベルトに引き上げた。
 
実のところ、自衛隊はこのような核危機に対処するためのノウハウをまったく持っていない。そのことをある防衛省の職員が認めている。「われわれは確かに核攻撃の場合のための防御服は所持していますが、原子炉の放射能に対する防御服は所持していません」とある官僚は話している。「われわれは、われわれの仲間の生命を保証することができません。これは極めて危険なミッションなのです。」
 
それにしても、危険地域から避難した20万人とは違い、むしろあえて自分の健康を、場合によっては生命さえも危険にさらすような行動に彼らを駆り立てているものは何なのか。第二次大戦中のカミカゼ飛行士の伝統なのか。自分は死ぬ用意がある。ある東京電力の従業員はアメリカの友人に先週メールを書いた。また、東電の従業員オオツキ・ミチコは強調する。「私は東電の職員であることに誇りをもっています。そしてなるべく早くそこに戻れるよう願っています」。原子炉で働く全ての従業員は、人々を救うために自分の命を犠牲にする用意がある。そうオオツキは語る。インターネット上で、彼らはすでに「福島の英雄」と称えられている。
 
「ハイテク社会」として知られる日本において、また科学技術の粋を尽くした原子力発電所のなかに忽然と現われた「カミカゼ飛行士」。それが合理的には説明のしつくせない、何か特殊日本的な自己犠牲の「伝統」として紹介されているのである。
 
「カミカゼ飛行士」とは、いかにも欧米的なステレオタイプだ。この手のステレオタイプは、ドイツにいるといくらでも耳にするものなのだが、ここではこの「カミカゼ飛行士」の比喩を笑えないのは、福島にいる作業員たちが現実に、極度に危険な作業のために命を賭して働いているからである。
 
考えてしまう。現在必死に行われている原子炉の冷却という作業には、いったいどれほどの見通しがあるのだろうか。仮に現状が維持されるとしても、原子炉を数年間冷やし続けなければ安全な状態にはならないらしい。外部から電源が通じれば冷却も容易になるのかもしれないが、原子炉はすでにかなり被害を受けている。今も時々煙が発生して作業が中断したりもしている。進んだかと思えば、また後退。このようなギリシャ神話に出てくるシーシュポスの物語のような絶望的作業を、彼らはこれから継続していかなければならないのだろうか。その間の作業員の被爆量は堆積されていくに違いない。
 
私を含め、一般人は彼らの絶望的作業に自分の生命の安全の行く末を委ねている。その立場で、この英雄譚を聞くのは心に重い。とても簡単に「賞賛」する気にはなれない。
 
 
【付記】
原発で作業する人たちへの賞賛は、他にも『ニューヨークタイムス』など欧米メディアでも見られるそうだ()。
 
 
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考えてしまいます。
英雄になるよりやはり命の方が優先すると一般人は思ってしまいます。
でも日本を救うために自分の命をかけて下さる人が見えるのですね。
こんな事になる前にもう少し早くの対処法があったのではと素人の私ですが思ってしまいます。

2011/3/22(火) 午後 9:21 エリザベス 返信する

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実は私、圧力弁を手動で開ける人はいないと思っていたので例の記者会見を見た直後、最悪の事態がおこると勝手に確信していました。

ドイツにいると福島の事故が起こる前でも、ドイツ人からよくKAMIKAZEとHARAKIRIについて聞かれます。武士道はすごいと宣う人がほとんど。もしかしてかっこいいと思ってる?という印象さえ受けました。自己犠牲を払える人が真の英雄ということでしょうか。キリストの影響?
当の日本人としは、原発で消化活動にあたる人の命を危険にさらさせている罪悪感と、こんなことになる前に何とかならなかったのかという思いばかりが頭をぐるぐる回っています。 削除

2011/3/23(水) 午後 9:29 [ エンテ ] 返信する

僕も「カミカゼ」や「武士道」などに関し、あまりにナイーブなエキゾチシズムが横行しているのに驚くことがあります。

2011/3/25(金) 午前 5:17 Soziologe 返信する

エリザベス様、
すでに被爆者が出ていますが、残念なことです。

2011/3/25(金) 午前 5:20 Soziologe 返信する

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