コンスタンツ通信

ボーデン湖岸の町コンスタンツに滞在していた社会学者です。帰国のためブログは終了しました。

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2011年3月「緑革命」

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昨日の日曜日、ドイツではバーデン=ビュルテンベルク州とラインラント=ファルツ州の二つで州議会選挙が行われた。どちらの州でも緑の党が劇的に躍進した。特に、ここコンスンタンツのあるバーデン=ビュルテンベルク州では、歴史上初めての緑の党の州首相が誕生することが確実となった。
 
ドイツ南西部にあるバーデン=ビュルテンベルクは、戦後連続して保守のキリスト教民主同盟(CDU)が政権を担い続けてきた、いわば保守の牙城である。そこで、1960年代新左翼の系譜を引き継ぐ環境政党、緑の党が首相の座を射止めたということは、州のみならず、ドイツ政治にとっても歴史的な出来事である。
 
この歴史的な2011年3月の「緑革命」にとって、日本の「フクシマ・ショック」が決定的な要因になっている。
 
このブログで何度も言及してきたように、日本の震災以来、ドイツでは原発政策が大きなテーマとなってきた。震災によって福島第一原発の事故が発生した直後から、ドイツでは原発の即時停止を要求するデモが各地で展開された。メルケル首相が昨年末に決まっていた原発稼働期間延長を3ヶ月間停止する「モラトリアム」を提案し、それが連邦議会で決定された。
 
当然、今回の州議会選挙でも原発問題が最も重要なテーマとして浮上した。公共放送局ARDの世論調査によれば、今回の投票を決める上で最も重要なテーマとして、原発政策や環境政策を挙げたものがもっとも多かった。バーデン=ビュルテンベルク州では45%の有権者が原発政策が最も決定的だったと答えている。2番目に多かったのは古典的な選挙テーマである経済政策で34%。原発政策を重要と答えた割合がはるかに高い。ラインラント=ファルツ州では、エネルギー政策が投票を決める最も重要なテーマだったとした割合が38%でトップ。2番目の経済政策が32%、教育政策が26%である。
 
原発政策は確かに重要なテーマであるが、ここまで選挙で決定的な役割を果たすのは今回が初めてだろう。例えば、前回2006年のバーデン=ビュルテンベルク州の選挙のときは、わずか7%が原発問題が最も重要であると答えるにとどまっている。今回の選挙でも、日本での地震が起きる前は、一桁台だった。
 
また、今回の選挙で顕著だったのは、その投票率の高さである。特に原発が多く存在するバーデン=ビュルテンベルク州でその傾向が強く、前回2006年が53.4%に留まった投票率は、今回は13パーセント近く上がって66.2%。原発問題が、多くの有権者を投票所へと動員したのである。しかも、前回投票しなかった者の約4分の3が緑の党へ投票しているという。
 
 ◆◆
 
簡単に、今回の選挙の結果を見ておこう。
 
なお、ドイツでは州でも議員内閣制がとられ、州議会での選挙で首相が選ばれ、州政府の政権を担う。また、ドイツの選挙は、連邦でも州でも、小選挙区と政党別比例代表制が併用されていて、各小選挙区で直接選ばれた議席(「直接議席」と呼ぶ)を前提として、政党の得票率に応じて全議席を割り振る。その仕組みはかなり複雑なので、ここでは説明しない。また、ドイツ独特の仕組みとして「5%の閾」というのがあり、政党の比例代表での得票率が5%に満たない政党は、直接議席で当選しない限り議席を与えられないことになっている。
 
バーデン=ビュルテンベルク州 
 
    政党              得票率(前回の選挙からの増減)   議席数


キリスト教民主同盟(CDU)      39.0%  (-5.2)                                 60
社会民主党(SPD)                  23.1%  (-2.1)                                35
緑の党                                24.2%  (+12.5)                               36
自由民主党(FDP)         5.3%   (-5.4)                7 
左翼党                2.8%   (-0.3)                0
その他                5.6% (-0.3)                                    0
 
総議席数                                                                 138
 
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ラインラント=ファルツ州
 
      政党               得票率(前回の選挙からの増減)   議席数


社会民主党(SPD)                     35.7%  (-9.9)                               42
キリスト教民主同盟(CDU)           35.2%  (+2.4)                                 41
自由民主党(FDP)                     4.3%   (-3.8)                                  0
緑の党                                  15.4%  (+10.8)                                18
左翼党                                   3.0%    (+0.4)                                  0
その他                                    6.5%    (+0.1)                                 0
 
総議席数                                        101
 
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この結果を見ると、他の政党が軒並み得票率を下げるなか、緑の党が桁違いに伸ばしていることがわかる。バーデン=ビュルテンベルクが約2倍。社会民主党を抜いて第二政党に躍進した。ラインラント=ファルツ州では約3倍に伸ばしている。
 
バーデン=ビュルテンベルク州で最大政党がCDUであることには変わりはない。70ある小選挙区のうちでも60でCDUが勝利している。だが、単独過半数は取れず、しかも連立相手たりうるFDPが惨敗した。それに対し、緑の党と社会民主党が連立によってかろうじて過半数を越え、政権がこの二つの政党に移ることが確実となったのである。
 
緑の党と社会民主党は、これまでも他の州や連邦で連立政権を組んできた経験がある。しかしこれまで緑の党は、多数を占める社会民主党の「ジュニア・パートナー」の位置に留まっていた。しかし今回は立場が逆転した。緑の党が僅かながら優位になったため、首相の座は緑の党によって占められることになるのである。
 
ラインラント=ファルツ州では、SPDが大きく得票を下げ、これまでの単独政権が不可能となった。ここでは緑の党が社会民主党の連立のパートナーとして政権に入ることが確実である。
 
このように今回の二つの選挙では、どちらも緑の党が政権に参画することになったわけである。
 
 ◆◆
 
だが、なぜここまで緑の党の圧倒的勝利に終わったのか。
 
一つには、いうまでもなく「フクシマ・ショック」により、有権者の間で原発からのなるべく早期の撤退への希望が高くなったことである。例えばバーデン=ビュルテンベルク州では、なんと71%が2020年までの原発からの撤退を望んでいる。2020年というのは、2002年にシュレーダー政権(社会民主党と緑の党の連立)が決めた脱原発政策である。今の保守/自由民主党政権は、これの脱原発の時期の延期を昨年決めたばかりであった。
 
現メルケル政権は、日本の地震の直後、原発稼働期間延長を一時停止することを決めた。しかし多くの有権者は、この「モラトリアム」政策を信用していない。バーデン=ビュルテンベルク州では、有権者の20%しかこれを信用していない。なんと78%が、「モラトリアム」をCDUとFDPの単なる選挙戦術としか受け取っていないのである。
 
このような政府の原発政策への信用の失墜は、現政権内でメルケルの原発政策の「転換」に対し、曖昧な発言を繰り返す政治家が少なくなかったことに起因している。例えば、FDPの現経済大臣のブリューデレという政治家は、ドイツ産業連盟(BDI)の幹部会で、現政権のモラトリアムは州議会選挙のための選挙対策にすぎず、必ずしも合理的なものではないなどと発言していたことが明らかになった。ドイツ産業連盟は、原発産業を含むドイツ産業界の団体である。また、選挙の2日前、元首相のヘルムート・コール(CDU)が、メルケルの原発政策転換を批判する発言を新聞のインタビューで行った。
 
このような状況のなかで、メルケルのとった「転換」は有権者からの信頼を失うことになった。CDUやFDPは「原発ロビー」と裏で手を結んでいるのだという見方が広まったのである。
 
他方、日本の福島原発がコントロールを失い、汚染のニュースが伝えられるたびに、ドイツ国民の原発に対する不安は増大し、原発撤廃を望む人間も多くなっていった。選挙の直前には、ベルリン、ミュンヘン、ケルンなどの大都市で反原発デモも行われ、25万人が参加したという。
 
そうなると、緑の党への支持は必然的に高まっていく。原発政策にとどまらず、多くの重要なテーマに関して立場の一貫しない社会民主党とは異なり、緑の党はどの問題にも非常に明確な立場を打ち出してきた。そのなかでも、結党以来の重要課題である原発問題に関し、緑の党の反原発の立場は、全く疑いようのものだったのである。
 
こうして、昨日の選挙で緑の党が躍進し、「緑革命」が達成されることになった。
 
 ◆◆
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この選挙結果は、州レベルだけでなく、連邦政府の原発政策にも少なからぬ影響を与えることは間違いない。メルケル政権は、原発からの撤退へ向けての、より真摯な取り組みを迫られるである。
 
だが、今回の選挙が、日本での震災という特殊な環境のもとで行われた選挙であることも疑いを得ない。ほとんど原発問題の単一イシュー選挙になってしまった。
 
だが、政治は決して原発問題だけがテーマではない。「再生可能エネルギーへの転換」というかねてからの緑の党の主張は多くの支持を得た。しかし、それと経済状況との関連はどうなるのか。
 
緑の党の経済政策については、批判も多い。緑の党の標語の一つに「仕事は母なる自然によって創られる(Jobs made by Mutter Natur)」というものがある(上のポスター)。環境にやさしい再生可能エネルギーへの転換が、人々に職場も提供するのだという考え方である。
 
バーデン=ビュルテンベルク州の首相になる緑の党のヴィンフレート・クレッチマンが、環境政策・エネルギー政策と他の政策とのバランスをどのようにとっていくのか。連邦政府で外務大臣になったヨシュカ・フィッシャーがそうであったように、もしかしたら、意外に現実路線をとっていくのかもしれない。今後が見物である。
 
 
【付記】
・なお、私の住むコンスタンツでは小選挙区でも緑の党の候補が当選した。シュトゥットガルトやフライブルクといった大都市、そしてハイデルベルク、チュービンゲン、コンスタンツといった大学町で緑の党が強かった。
 
・ARDの世論調査については以下()を参照した。
 
 
 
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