窓から独り言

TOTO北海道販売(株)の元社長であり、トイレット博士でもある重岡 洋昭(しげおか ひろあき)による水に流せない話

第71話 2度あることは3度あるかな?(続き)

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(前号のつづき)

 

あの東日本大震災の翌朝、宅急便の配達に現れた若者の出身地をズバリ当て、続いて5月には生保の新入社員の出身県を見事的中させ気分は上々。3度目のチャンスを心待ちしていた。


そんなある日、妻が「台所の蛇口が古くなったので、新しいタイプに取り替えましょう」と言い出した。「お隣さんは最近取り替えて調子がいいみたい。節水タイプで微妙な温度設定ができるそうよ」。

うちでは昨年給湯器を取り替えたばかりだが蛇口はそのまま。水漏れもなく実用上は問題ない。少し気になるのは数年前浄水器へのバイパスを取り外してから首振り部分が少し固い感じ。


早速、最近の機種の勉強のため近くのショールームを訪ねた。ピカピカの新鋭機器がズラリお出迎え。「蛇口」「カラン」「水栓」「混合栓」などの呼称はもう古い。機種は豊富、機能も多彩だ。


一通りの説明を受け「これは」と思うタイプに絞ってリフォーム店に電話でお願い。「明日早朝には伺います」の快い返事。私はもう巌流島で武蔵を待つ小次郎の心境。


翌朝、武蔵が現れた。若い、40台半ばだろうか。近所のリフォームを幅広く手掛けている評判の社長。技術屋さんというより、フレンドリーで話し好きな営業マンの雰囲気。早速名刺をいただく。待ちに待った緊張の瞬間である。「○○さん」。

さて、この苗字は鈴木さん、田中さんほどではないが、かなり多い。過去に8人くらいは出会ったかな・・・、だが出身地はバラバラ。
こりゃ特定は難しいぞ。いきなりズバリ正解は無理だ。これからの会話の中で、訛り(なまり)や口調から探りを入れるしかない。剣道の決め技に「面」、「胴」、「突き」、「小手」などあるが、今回は「小手」調べから入って、最後に竹刀(しない)を「面」に打ち込もうと決めた。ところが、竹刀を合わせる間もなく、武蔵が先に打ってきた。
「重岡さん。ひょっとして山口県のご出身で?」。ズバリ当たり。不意打ちで脳天がクラクラ。
「ハ、ハ、ハイ、よくご存じで」
「実は私、学生時代は剣道部で、後輩に山口出身の重岡という男がいましてね、彼の入部のときの自己紹介がすごく印象的で今でもよく覚えています」「ボク、『重岡』と申します。名前は重いけど腰は軽いので、今日から『軽岡』と呼んでください」
まだまだ続く。「確かに彼は嫌なことでも気軽にやってくれましてね、人気者でしたよ」

話が旨い。表情も豊か。方言も訛りもない。3度目の快感を狙って身構えていた緊張感がヘナヘナと萎えていく。
「ご主人、彼はよく、山口の方言で『ブチ上手い』とか『ブチ美味しい』とか言ってましたよ」。
懐かしい、久しぶりに聞く故郷の方言。(ブチ)とは(すごく)という意味だ。すっかり社長の話術と人柄に魅せられて、機種も見積もお任せで「取り替えの方よろしくお願いします」となった。
作業はあっという間に終ったのだが、さすが剣道部、次の竹刀を打ち込んできた。
「洗面所と浴室の水栓、シャワーも新しいものに替えましょうよ。ついでにやればお安くなります。お孫さんが喜びますよ」。

かくして当初予算を大幅に上回る工事に発展。社長の言葉には特に訛りはなかった。「訛りがないのは静岡県」とよくいわれるので、最後に
「因みに社長は静岡のご出身ですか?」と聞いてみた。「いいえ」。万事休す。3度目はなかった。

しかし我が家の水回りは「ブチ」良くなって、日々快適に過ごしている。

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