シギーのブログ談

マーチャント・バンク、インベストメント・バンク、投資銀行、航空機ファイナンス、音楽、グルメなど雑談を気ままにしています。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

(父の戦争体験記 「占守の春 」 No.1から続けてお読みください。)

4.天皇陛下!茲(ここ)に制裁してお詫び致します

あの気の毒な山田二等兵の事件があってから、又ついに
中隊本部にも思いがけない事件が起きた。
本部付き当番兵の後藤二等兵は愛知県のとある
半島の漁村の出身者であった。彼は本部で当番雑役
をしていた兵であったが色黒のこれと言う目立たない
男であった。少し陰気な面があり黙々として何かを
見つめ考えるような顔をして働いている男であった。

時々「戦争はどんなになることやら」と彼が洩らしている
のを私も耳にしたことがあった。

初夏である6月末頃の或る夜、「大変だ、大変だ、
全員起床!! 後藤が手榴弾を本部に投げ込むぞ!!」
と不寝番が大声で叫んだ。そして二、三の兵がばたばたと
戸外に出て後藤を追いかけて抱きすくめている。

「殺してやる、隊長も准尉も」とドス声でうめいている
のは紛れもない後藤二等兵であった。
後藤が捕らえられて全員緊急集合したのは静かに
アライド島が姿を現わし始めた早朝である。

貴公子然としたタイプの中島中隊長は
口をきゅうっと締めて蒼白となり「皆よく聞け!!
無敵北方の守りの我等の中に最も恥曝しの
事件が起きたのだ。後藤二等兵は昨夜半本部
の弾薬倉庫より手榴弾を持ち出し、これを
本部内に投げ込まんとしたものである、
この様な国賊はどんな制裁をしても救えない、
中隊長は天皇陛下に対して申し訳がない」
とがんじがらめに縄で縛り上げた後藤二等兵
を全員の面前に据えて更に興奮して、「この奴が!!
この奴が!!皆よく見ろ国賊を」と声を震わしていた。

当時北千島の辺地には重営倉の設備がなかった。
野外にそのままで後藤を杭に繋ぎ急ごしらえの
小型天幕を張り特別警固として司令一名、衛兵上等兵二名、
一等兵一名、計四名を付けることになったのである。
この忌々しい司令に病気上がりの私が命ぜられたの
である。

着銃剣を持った姿で昨日まで戦友として働いていた後藤
を罪人として扱わねばならない。そのことは
何とも言えないやり切れない心持ちであった。
私は暇を見て後藤二等兵の傍らに行った。
後藤二等兵はいずれ上官殺人未遂と反逆罪に
問われ軍法会議に廻され若い生命を散らさねば
ならない運命かもしれないと思いつつ。

後藤よ!!お前はどうしてあんな大それたことを
したのだ、「気持ちを落ち着けて話してくれ」と
私は再三尋ねたが口をきゅうっと結んだまま眼を
沈めて一言も喋らない。

「兵長殿!!」と低くつぶやくように
声を洩らした。「どうした」と言うと
「便所に行かして下さい」と「よおし」と私は答えて
杭から後藤を脱し本人の縄を引いてタコツボ便所に
連れ出した、その時、「兵長殿だけに話して置きますが、
兵長殿!!戦争は日本の負けかも知れません」
私は内心ギックとしたが表面素知らぬ顔をして彼を
見詰めた。

「自分は我慢が出来ません。毎日毎日上官の
世話と洞くつ堀り、又使用にこき使われる自分達
初年兵はやがてカジカ(北千島特有の角ばった
頭の大きい身のない魚」のようになって栄養失調
で死んで行くんでしょう。同じ人間で天皇陛下の
赤子であれば、こんなにこんなに差別があるのでしょうか
何故ですかーーーー自分は本部で毎日ーーー」
クックッと涙声になった。

私は「後藤よお前の気持ちも分らんことはないが
これが軍隊の掟であり姿だ、どうしょうもないぜ」
とうわずった慰めの声になった。彼は「隊長も
准尉も、曹長もーーーー」と言ったが後は
何も語らなかった。そして「どうせ自分は死のみ
残されたのです。ただ一つ気掛かりなのは
姉さんです。私には両親がありません。
親代わりになって世話してくれた姉が
この自分のことを聞いたらばなんと嘆くか、
これが、これが耐えられません」と腕を
涙に溢れた顔に当てながら泣いていた。

「後藤よ!!泣くな。この上は総てをお任せせよ」
と彼が用便を済ませて元の杭のある高地近くまで
来た時である。小石准尉の甲高い声が私の頭上に
かぶさった。

「兵長!!貴様何しとるか?国賊に用便をさせんでもよい」
と中島中隊長と連れ立って長靴を鳴らして近づいて来た。

「後藤を連れて来い」と命じそして准尉は
「中隊長殿、これより小石准尉は命により
天皇陛下に対してお詫びの制裁を行います」と
敬礼して、”大声で”「申し訳ありません、天皇陛下!!
北千島占守島、中島隊国賊後藤二等兵を茲(ここ)に
制裁致します御照覧下さい」。

私はこの眼で見この耳で聞いた。それからは帯革の
嵐、後藤二等兵のひいひいと言う、うめき声、
地獄でもとうてい見ることのできない見るに
耐えないあの制裁が三十分間が続いた。

「後藤よ死ぬな!!頑張れよ!!」と
傍らで不動の姿で私は見詰めていた。

「こんな奴がこんな奴が」と准尉も涙声
で中隊長の面前で帯革を振り続けた。

後藤の顔は小岩の様に青黒くふくれ
身体供に化け物の様になった。
私は内心身震いと、どうしようもない涙で
むせんでいた。どうせ殺さねばならないのであれば
こんな制裁はしなくてもよいのではないかと
思いながら!!

当時としては当然後藤二等兵の不心得からでは
あるが隊長も准尉も全て許されない運命を
背負わされていたのであった。統率上どうしようも
ない制裁だったかも知れない。

ー続くー

全1ページ

[1]


.
シギー
シギー
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

標準グループ

Yahoo!からのお知らせ

過去の記事一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事