コラム:対ロシア制裁が効かない理由=カレツキー氏2014年 05月 4日 10:48 JST
http://s2.reutersmedia.net/resources/r/?m=02&d=20140504&t=2&i=893988030&w=450&fh=&fw=&ll=&pl=&r=LYNXMPEA4300B
アナトール・カレツキー
[1日 ロイター] - 米国と欧州が先に発動した対ロシア追加制裁が、ロシアの通貨ルーブルとモスクワ株式市場の上昇につながったのはなぜだろうか。
このパラドックスを理解するには、英コメディー番組「Yes Minister」を思い起こすといいだろう。主人公である間の抜けた政治家は、危機に直面するたびに同じ発言を繰り返す──「何か行動を起こさねばならない。これがその何かだ。ゆえにこの行動を起こさねばならない」。
この三段論法で問題となるのは、何らかの行動を起こすことが、何もしないことより悪い結果を引き起こす可能性だ。ウクライナ危機をめぐりロシアに経済制裁を科すという西側の判断は、その典型的な例だ。
ロシア抑止を目的に欧米諸国が発動した制裁は哀れなほど効果のなさを露呈し、欧米の確信の欠如や計画性のなさを強調するだけの結果となった。一方その間、ロシアのプーチン大統領は、目標として掲げていたであろう2つのことを成し遂げた。1つは、クリミア編入を既成事実にする暗黙の了解を国際社会から得たこと。もう1つは、ロシアが敵対姿勢を続ける限り、ウクライナの暫定政権は国内分裂を防げない「無力な存在」であるということをトゥルチノフ大統領代行に認めさせたことだ。
経済制裁が失敗に終わるであろうと考える理由は他にも存在する。
その動機を理解するには、米ハーバード大学のマイケル・サンデル氏が著書「それをお金で買いますか:市場主義の限界」で示した道徳的な難題を考えるといい。同書によると、イスラエルの保育所は、子どもを迎えに来る時間に遅れた親に罰金を科すことにしたが、その結果、時間に遅れる親が前よりも増えたという。親は時間通りに迎えに行く道徳的義務を感じなくなり、時間を厳守する代わりに、罰金をベビーシッター料金とみなすようになったからだ。
つまり、この保育所は意図せずに、これまでの道徳的な関係を経済的な関係に変えたということだ。同様に、欧米諸国による対ロシア制裁は、軍事・外交問題を経済的な問題に変化させている。
では、ウクライナをめぐる軍事・外交問題を経済問題に変えたことが誤りであるならば、西側は制裁を科す代わりにロシアとの軍事衝突を選ぶべきだったのか。答えは明らかにノーだ。その理由は、西側が犯した第二の戦略ミスにある。
現代の民主主義では、軍事行動は、十分な議論や外交努力などの手段が尽きた後、真の脅威や道義的問題などへの措置として「特別な状況下」のみで検討される。しかし欧米の指導者らは、難しい外交交渉や議論を避けるための「楽な選択肢」として経済制裁を使っている節がある。
欧米の指導者らは、国境を侵すことは不可能で、民主的な正統性を持つのはウクライナ政府のみだとする姿勢を崩さず、結果的にウクライナとロシアに交渉の余地は与えられなかった。
そして、ロシアの軍事行動にいち早く経済制裁で応じるとの決定は、逆説的な効果をみせた。ウクライナの憲法改正をめぐる外交交渉は、長期にわたり複雑化したとしても、全ての当事者が受け入れる妥協を生み出していた可能性がある。しかし西側は長引く外交交渉よりも即時の経済制裁を選び、軍事衝突が起こるに十分な状況を作り出した。
もちろん長期的には、欧米諸国がロシア経済を破綻させ、同国の軍事力を損ね、最終的にウクライナでのロシアの優勢を変えることは可能だろう。ロシア経済は輸入に依存した弱い基盤の上に成り立っており、輸入の原資となるのは石油とガスの輸出だけだ。しかしこの考えは、外交交渉を経済措置に取って替える西側の戦略の最後の欠陥につながる。
国外にあるロシア資産が制裁の深刻な影響を受け始めれば、ロシアの新興財閥は海外資産をロシア国内に還流させることを余儀なくされ、短期的にはプーチン氏に有利に働くだろう。また長期的にみれば、ロシア経済の孤立化はさらに予想に反する結果を生み出す可能性もある。
ロシア経済は現在、他の中所得国に比べ、国際競争から国内産業を保護することにそれほど注力しておらず、驚くほど開放的だ。しかし経済制裁によってロシアが保護主義に走れば、国内の製造業やサービス産業は、たとえ質と生産性は西側の基準を大きく下回ったとしても、今より大きく成長することはほぼ間違いない。
西側からの輸入に頼る現在の消費社会にロシアが背を向け、旧ソ連式の自立やブラジルのような保護主義に向かい、アパルトヘイト(人種隔離)時代の南アフリカのように孤立した場合、ロシアはどのような政治的影響を受けるだろうか。
これが経済制裁の意図するところでないことは確かだろう。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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