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私にとってのかけがえのない絵本・・・私自身のための絵本があります。
写真の手前に写っている、スーザン・バーレイ作の『わすれられない おくりもの』です。
絵も全て彼女によるものです。この絵本は、愛する人を失った者の悲しみと再生を題材にしています。
カバーの裏にはこう記されています。
『・・・略・・・すぐれた作品は、読む人それぞれの思いや経験によって、さまざまな
新しい発見があることと思います。どうか、この絵本との出会いが、お子さま方にとって、
貴重なものとなりますよう、お母様もご一緒にお楽しみ下さい。』
この文章はこの絵本の存在を的確に表現していると感心しています。
読み手の思いや経験によって、この絵本を読んだときの感動は違ってくるはずです。
私の友人は、昨年、長年可愛がっていた愛犬を老衰で亡くして家族で悲しみのなかにいました。
とくに彼女の一人娘は、愛犬とは姉妹のように一緒に育ってきただけに悲嘆にくれていたそうです。
私はそれを聞き胸が痛み、少しでも彼女達を慰めることができたならば・・・と思い、
この絵本を書店で求めて郵送しました。
彼女から泣きながら電話が入りました・・・主人公と亡き愛犬が重なったゆえの感動の涙でした。
涙を誘うことは私の真意ではなかったのですが、彼女が感動してくれたことは確かだったようです。
ストーリーは・・・
誰からも愛されていたアナグマは歳をとり、自分の死期が近いことを感じます。
それでも彼はそれを自然のことと受けとめ、慌てることも恐れることもありませんでした。
ただ気になるのは残していく友人達のこと・・・アナグマは自分が長いトンネルの向こうへ
行ってしまっても悲しまないでと友人達にいつも言っていました。
ある晩、アナグマはとうとうトンネルの向こうに行くときが訪れたことを悟り、友人達に手紙を書き、
そして静かに心安らかにそのときを迎えました。
『長いトンネルの向こうにいくよ。さようなら。アナグマより。』
あとに残された友人達はその手紙を読み、アナグマの死を嘆き悲しみます。
雪に閉ざされた厳しい冬の中、アナグマを想ってそれぞれが孤独で辛い冬を過ごします。
やがて雪が解け始め、動物達は集まってアナグマの想い出を語り合うようになります。
それぞれがアナグマから素晴らしいことを教えてもらっていたことに気づきます。
アナグマは、ひとりひとりに別れたあとでも宝物となるような、知恵や工夫を教えていたのです。
最後の雪が消えた頃、アナグマが残していったもののゆたかさのおかげで、悲しみも消え、
アナグマの話が出る度に、それは楽しい想い出に変わっていました。
暖かいある春の日に、アナグマを慕っていたモグラは、かつてアナグマとかけっこした丘に登り、
素晴らしいものを残してくれたアナグマにお礼が言いたくなって、
「ありがとう、アナグマさん。」・・・空に向かってそう言いました。
モグラは、なんだかそばでアナグマが聞いているような気がしました。
絵本の最後の言葉は、
『そうですね・・・きっとアナグマに・・・聞こえたにちがいありませんよね。』
私がこの絵本と出会ったのは偶然でした。
母が末期癌で余命半年だと知らされたのは、家族で海外で駐在生活をしている最中でした。
私は、幼稚園生活を送る6歳の娘を夫と使用人達とに任せて、3歳の息子だけ連れて一時帰国しました。
入退院を続ける母の世話を父と交代で続けながら2ヶ月を過ごしました。
母は極度の恐がりであったために、父と兄は、母への癌宣告を拒みました。
もともとは膵臓癌でしたが、転移して癌細胞が肝臓や動脈にからみついていたために手術は不可能との
こと・・・抗癌治療もさして意味は無く、また母に気づかれてしまうからということで、治療はせずに
痛みの緩和だけを図ることとなりました。
私は一度、海外赴任地に戻り、そして1ヶ月後に再び息子を連れて母の看病のために帰国しました。
その頃には母はもう二度と帰宅の見込みの無い入院生活を過ごしており、昔の面影が全くないほど
痩せ細り、起き上がる力も失せてしまった様子で、3歳の息子が恐がってしまうほどでした。
母の最期が迫っていました。
それを間近で見なければならない3歳の息子に、人間の死というものをどう説明すればいいのか・・・。
思い悩んでいました。
そんなある日、息子を連れて書店の絵本コーナーで時間を過ごしているときに、ふとこの絵本が
目にとまりました。そして開いてみると・・・
たちまちその場で号泣してしまいました・・・母の姿がアナグマと重なってしまって・・・。
息子のために求めたのですが、開く度にすぐに涙があふれてしまって、結局、絵本を最後まで
子供達に読んであげられたのは、絵本の中でモグラが悲しみの冬を越してようやく春の訪れとともに
悲しみを乗り越えたように、母の死後ずっとずっと後になってからでした。
そして子供達が成長してからはこの絵本は本棚の奥に眠っていたのですが・・・
4年前からの父の癌闘病、自宅介護、痴呆、その最期の看取り・・・
またまたこの絵本を開いては『最後まで読めない』状況となってしまいました。
来週、父の三回忌法要を迎えます。
父は、母が他界後は兄の家族と同居していましたが、毎年3〜5ヶ月は我が家で過ごしていました。
優しかった父は、子供達から心から愛されるお爺ちゃんでした。
他界して2年が経った最近では毎日のように、優しくて、つまらないジョークばかり連発していた
生前の父の想い出を語り合っては笑っています。
久しぶりにこの絵本を開きましたが、涙があふれてはきたものの悲しみの涙ではなく、
『ありがとう、アナグマさん。』
そう空に向かって語りかけた、春の日の丘にのぼったモグラのような気分でした。
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