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いま英ロンドンで、あるテレビCMが、人気を博しているそうです。その名も「スーパーヒューマンズ(超人)に会いに行こう」。ロンドン・パラリンピックのCMです▼そのおかげというわけではないでしょうが、パラリンピックの会場はどこも熱気にあふれているようです。実際、選手のプレーには、思わず見るものを引き込む何かがあります▼アーチェリーの選手が、足先で弓を固定し、口で矢を射る姿、ひじから先のない卓球選手が、その先端にボールを置き、器用にサーブする様子、両腕のない背泳ぎの選手が、スタート台にかじりつきスタートする…。そんな場面を見ているだけで思わず目頭が熱くなります▼さらに、選手たちがこの場にたつまで、どれだけの苦悩や葛藤を乗り越え、障害を克服してきたか。そんなことにも思いを巡らせてしまいます▼紛争が続くアフガニスタンの選手がこう話していました。「支援も施設もないままここまできました。あったのは希望だけです」。厳しい状況を乗り越えてきた選手たちは、メダルの有無にかかわらず、だれもが「スーパーヒューマンズ」に違いありません▼しかし、残念なことがあります。日本では、そうした選手の姿があまり伝わってこないことです。とくに先の五輪を競い合うように報じていたテレビの落差はあまりに大きい。人間って素晴らしい―。そんな思いにさせてくれる、日本や世界のパラリンピアン。その姿をみたいと思うのは潮流子だけではないと思うのですが。 |
きょうの潮流
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世の中の様々な話題を軽妙に解きほぐし、思わずクスッとさせ、時に力の強い者を笑い飛ばし、なるほどとオチがつく。そんな話芸で親しまれる俳優の小沢昭一さん▼語りのラジオ番組「小沢昭一の小沢昭一的こころ」が40年も続く理由はこの辺にあるのかも。その新作10本を紹介する新刊『ラジオのこころ』(文春新書)も舌(絶)好調です▼アルファベット3文字に何があるか―。アイドルグループAKB、昔ならSKD。終戦直後のGHQ。DVDのレンタル屋。新型電球LEDと並べて、TPPは架空の賛否論争です▼「おまえな、日本は輸出立国だよ。日本製品、どんどん輸出したほうがいいだろう」「何言ってんのよ。結局、得するのは大企業だけですよ。お米が作れなくなったらどうするんです? 私、カリフォルニア米で納豆食べたくはありませんね」▼夫婦の会話は次第にヒートアップ。「だったら、バターライスにすりゃあいいじゃねえか」「あなたね、毎朝、バターライスとベーコンエッグでいいんですか」「うるせえな、もう。俺はな、バターライスも焼き海苔で食べるのが好きなんだよ。文句あるか」▼小沢さんの意見は。「私は奥方の意見の方に乗りますよね。日本から水田が消えたら赤とんぼが絶滅する。つまり、赤とんぼより経済成長が大事だからって、これ以上、日本の文化を破壊していいことはないと思うんでございます」。戦争の時代を生き抜いてきた昭和ひと桁の、背中はやや丸くなりましたが、芯の通ったひとことです。 |
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わが国で初めて人体を解剖した人は、京都の医者だった山脇東洋です。1754年のできごと。死刑にされた男性の体でした▼先立って、東洋は動物を解剖した、といいます。そこで、はっきりしたそうです。どうしても人の体を調べないと分からないことがある、と。彼がまず解剖した動物とは、カワウソでした▼さては東洋先生、カワウソを人の仲間と考えた? もちろん、これは冗談。が、人の子の姿に似る伝説の妖怪、カッパの正体はカワウソだという説があります。よりどころは、水かきです。日本の陸地に昔からすむ哺乳類で、カッパのように立派な水かきをもつ動物はカワウソだけらしい▼カッパだけではありません。イギリス・ネス湖の幻の怪獣ネッシーも、実はカワウソといわれます。数頭のカワウソの1列になって泳いでいる姿が怪獣にみえる、というわけです▼かつて、わが国各地の川辺にたくさんいたニホンカワウソ。環境省は先日、「絶滅種」に定めました。昔から毛皮めあての人たちに襲われましたが、明治時代から河川工事でふるさとを追われます。海辺へ逃げたものの、こんどは海の汚染や魚網のせいで滅んでゆきます。四国の愛媛や高知が、最後のすみかだったようです▼以上、動物学者の故・朝日稔さんの『日本の哺乳動物』に多くを教わりました。朝日さんは、日本が公害列島と化した1970年代、川や海の汚染に憤って書きました。「カワウソは、私たちより一足先に天国へ行ったのだと感じるのである」 |
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「昨日だれも知らなかった/地震が来た/今日だれも知らない/明日何が来るだろう/人間よ 人間よ」。1923年9月1日の関東大震災を詠んだ堀口大学の詩です▼人知をこえる自然の脅威への、いい知れぬ不安が読みとれます。死者・不明者10万5385人。全壊および半壊の家屋21万棟以上。焼けて失われた家屋は21万2千棟を超えます。熱海に12メートル、千葉県の相浜に9メートルの津波が襲いました▼伊豆と房総の間の相模湾トラフで起きた大地震。関東南部は、四つのプレート(岩板)がいりくみ、地震が多発します。しかし当時、人々が「プレートがぶつかりあい地震が起きる」と知るはずもありません。堀口大学の詩は、自然に対する無力感の大きさを伝えます▼いま私たちは、決して無力ではありません。しかし、自然をあなどり防災を怠れば、どうなるか。東日本大震災にともなう原発事故が、もっともいまわしい形で教えます▼最大32万人―。伊豆の西から九州沖へ延びる南海トラフで起きる、マグニチュード9ぐらいの巨大地震を想定して推し計った死者数です。どうやって、犠牲者をとことん減らすか。関東大震災のさいに秋田雨雀が詠んだ、首都・東京に「死の都よ!」とよびかける詩が考えさせます▼「お前は、とうから焼かれる運命を持っていた、…お前自身の懐の中に」。詩を警告と受け止めましょう。天災を人災に変える「運命」を抱え込まないよう、災害につよい街づくり・国土づくり・人づくりに励まなくては…、と。 |
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「すべての人間は、…尊厳と権利とについて平等である」。1948年12月に国連総会が発した世界人権宣言の第1条です▼ロンドン郊外にあるストークマンデビル病院の、戦傷者の車いすアーチェリー大会も、同じ年の7月末に開かれました。催したグットマン医師は、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害の魔手からイギリスへ逃れた人です。大会は、今日のパラリンピックに発展します▼生まれ故郷に帰ったパラリンピック。ロンドン大会の開会式は、宇宙の誕生ビッグバンを表すしかけで始まりました。宇宙ができ、人類が生まれ、私たち人類はどこへ? シェークスピアの「あらし」に登場する少女、ミランダを案内人にして旅する趣向です▼世界人権宣言を記す、巨大な本をかたどる島にも着きます。その場面をテレビでみて、手元の「宣言」を読む。「すべて人は…自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的および文化的権利を実現する権利を有する」(22条)▼パラリンピックは、その権利を実現して人間の可能性を押し広げてゆく、旅の大舞台です。わずか16人で競ったストークマンデビル病院のアーチェリー大会は、164カ国・地域の約4300人が20競技503種目に集う、ロンドン大会に発展しました▼「あらし」のミランダは、孤島で父と2人だけで育ちます。島に現れた人々をみていいます。「これほど美しいとは思わなかった、人間というものが!」。同様の発見に満ちた大会でしょう。 |



