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これは嫁さんに聞いた話だが、
あまりにも感動的なので記事にすることにした。
結婚した女性が、そのあとに両親の仲が急に悪くなって終いには離婚騒動。
『そんな歳になって離婚なんてしなくとも。』と親戚やらなにやら巻き込んでやっとこ収まったらしい。
それ以来、彼女と親父の関係はしっくり行かなくなって疎遠になってしまった。
その親父は厳格で格式ばった冗談も通じないような堅物だったらしく、自分が黒といったら周りが黒といわない限り怒ってしばらく口も聞かなくなるような性格だったので、以前から仲のよい親子ではなかった。
彼女は結婚を期にこの親父から開放されたが、母親のことは気になっていた。
だから、離婚騒動の時から親父に対する嫌悪感はますます強くなっていった。
『いま、両親の関係は上手くいっているのだろうか。』そんな不安がいつもあったが、親父がいるときには実家に行く気にはならなかったらしい。
5年くらいが過ぎて、どうしても実家に行かなければならない用事が急にできた。
玄関を入ると母親は留守で、まずいことに父親がリビングのソファでうたた寝していた。
気づかれないようにそっと2階に上がり取るものを取って下におり、喉が渇いたことに気づいて、台所へ、冷蔵庫を開けて物色する。
と、突然っ!
『♪負けないで!♪ もうすこし 最後まで走りぬけて!♪
どんなに離れてても♪ こころはそばにいるわ〜っ!♪』
親父の聞いたことのない大きな歌声がリビングに響いた。彼女の身体は驚きのあまり凍りついたらしい。
そして、次に元気よく
『イチ・ニイ・サン・シイ〜! イチ・ニイ・サン・シイ〜!』
とその父親の声が台所に近づいてくる。
『チ〜たんっ。元気ッかなぁ?』
の言葉と同時に飛び込んで来て彼女の前に着地した親父はパンツとランニング姿だった。
二人は目を大きく見開き、固まったまましばらく見つめ合っていた。親父は彼女を母親と間違えたのだ。
我に返った父親はすくっと立ち上がり無言のままリビングに消えていった。
彼女は何があったか訳わからないまま。そそくさと取るものを取って玄関に向かい靴を履いた。
そのとき、その辺にあるものを着込んだ親父が玄関におもむろにやってきて、
『ほらっ、これっ』っと彼女に何かを手渡した。
見ると一万円札だった。
『何かと金が要るだろう。』そういうなり、また振り向いて父親はリビングに戻っていった。
『口止め料?』と彼女は思ったらしい。
彼女がいままで見たことのない父親の真の姿。夫婦の関係だった。
これを期にこの親子の凍りついた関係が溶けていったことは言うまでもない。
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