レオニダス・カヴァコス

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カヴァコス待望のブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集は、
ピアニストにユジャ・ワンを迎えた注目のCDとなりました。
すでに室内楽やリサイタルで共演を重ねている2人ですが、
どんな仕上がりになっているのか、とても楽しみにしていました。

ゆったり目のテンポを守りながら、細やかなフレージングで聴かせていく演奏。
繊細なピアニシモは頻出しますが、野太いフォルテシモがガツン、なんてことは
ありませんから、デュナーミクの幅は半分抑え気味というところ。
その一方、大小様々なテンポ変化で情趣を変えていくアプローチをとっています。
テンポの揺れに強引さはなく、非常に緩やかに加速減速しています。
この辺、昨年のコンチェルトと同じですね。

それにしても、どのソナタも、1楽章はかなりゆったり。
展開部に入っても、前半はあまり動き出さないですね。
クライマックスまで、相当「お預け」で待たされる感じ。ワンワン。

ですので、ユジャ・ワンさんとのアンサンブルは、とても落ち着いた、協調的なもの。
クレーメルとアルゲリッチみたいな、強烈なカリスマのぶつかり合いというか、
あたかも猛獣対決のごとき、個性の火花が散るという感じではありません。
演奏解釈はカヴァコスが主導していて、ユジャはそれにしっかり応えるという形。

めっぽう巧くて、でも室内楽の経験はあまりないという若いピアニストにありがちな、
フライング気味に走ってしまう傾向はありません。
むしろユジャさんは、重厚な構造をがっちり構築しながら、カヴァコスの繊細な
フレージングに対応しています。よくコントロールされていて、逆に慎重すぎるというか、
安全運転すぎて窮屈に聴こえなくもないほど。自身のソロとはだいぶ異なりますね。
まだ室内楽に関しては、手探り感が漂ってますが、左手も右手もとても雄弁で、
縦の立体感もよく出ています。和声表現も美しい。実に立派なブラームスです。

ひとつだけ。
とはいえ、カヴァコスとユジャはどうも音の相性がいま一つな気が・・・。
ズシンとボディがあって、底まで降りた鍵盤をさらに押し込むような凄みのあるピアノには、
音量も響きもずっしりボリュームのあるヴァイオリンの方が合ってるかも。
よく聴くと、けっこうささくれ立った強い音も出してるカヴァコスですが、太さはいま一歩。
細身の美音が持ち味の彼のヴァイオリンは、どうも軽く浮き上がっています。
ピアノがやや引っ込み気味の録音バランスなので、弦の音が妙に浮いているように聴こえます。
気のせいかな?

みそ


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う〜、長いこと感想を書かなきゃと思いつつ、なかなか書けなかった、
カヴァコスのブラームス:ヴァイオリン協奏曲の新譜。
えい、思い切って書き進めるぞ!

ツィッター上でも何度かコメントしたのですが、
カヴァコスのブラームス。驚きます。なにしろ細いんだから。音が。すごく。
その一方で、音楽の運びは、実にゆったりとしたテンポで、各フレーズが
耽美的なまでに丁寧に掬い取られます。思い切った緩急の変化を伴いつつ。
一音たりとも漏らすまいとする誓いとともに。

比較的速めのテンポでサクサク進むブラ―ムスが増えてきた気がする昨今、
カヴァコスのブラームスは、そうした流れに抗うかのように、ひとつひとつの
フレーズをしっかり描き分け、きっちり解決させて次へ進んでいきます。
愚直なほどに。いや神経質なほどに。あるいはナイーブなほどに。

まるで、蚕の繭から繊細な繭糸を紡ぎだすように、
各フレーズの連係は、極細の糸でかろうじて繋がれている感じ。
確かにブラームスのコンチェルトは、個々の音型のユニットを巧みに重ねながら、
激しく上下行する起伏のあるフレーズが連続します。ですから、そのひとつひとつを
しっかり解決して先に進むことは非常に大切なことであり、不可欠ですよね。
そのためにテンポの緩急をつけることは、ぜひとも必要だと思うし、そういう演奏、好きです。
また、カヴァコスの音は、常に透き通るような美しさで、かつ健康的にすぎるほど明るく正確な
音程ですから、少しも陰鬱な重たさは感じさせません。
(それが、物足りなさにも通じるのですが。だって音色やテンションの変化による陰影が乏しいから。)

一方で、個々の小さなフレーズをまとめて運ぶ、力強い足腰というか、背筋力というか、
腰の強さも、ブラームスには欠かせません。大きな、息の長い旋律の射程を感じさせてくれないと、
音楽の構造、方向性、ヴィジョンがなかなか見えてきません。
今回のカヴァコスのブラームスには、ちょっとそういう嫌いがあるような気がします。
一歩間違うと、音楽が途切れ途切れに聴こえてしまうのです。特に2楽章など。

それでも、私は、カヴァコスのこのブラームス、とても好きなんです。
不満なところ、いろいろあるのだけど、聴き惚れてしまうし、実際、何度も聴いています。
ちょっと刹那的だけど、第1楽章の第2主題とか、カデンツの後のコーダとか、ほんとうに美しいもの!
シャイーはともかく、ゲヴァントハウス大好きだもん! (え?!)
正直、ソロとオケの音質・音色、マッチしてないけど、でもいいじゃん! (え?!)
(あ、アンサンブルはとてもintimateよ。シャイーも柔軟にサポートしてます。)

先ほど、繭のたとえ、絹糸のたとえをしましたが、
カヴァコスのこのブラームスは、実に美しく仕立てられた真っ白の絹のシャツのようです。
襟口、袖口、裾、どこもかしこも極限の注意深さで念入りに仕立てられた一着のシャツ。
テーラーの愛情が隅々まで行きとどいた、純白の無垢なシャツ。
らしくないブラームスかもしれませんが、カヴァコスらしい繊細なリリシズムです!

ちょっとレトリカルにすぎました。

みそ

【収録情報】
1. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.77
2. バルトーク:ヴァイオリンとピアノのための狂詩曲第1番
3. バルトーク:ヴァイオリンとピアノのための狂詩曲第2番
4. ブラームス/ヨアヒム編:ハンガリー舞曲第1,2,6,11番

 レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)
 ペーテル・ナジ(ピアノ:2-4)
 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1)
 リッカルド・シャイー(指揮:1)

 録音時期:2013年5月(1)、3月(2-4)
 録音場所:ライプツィヒ、ゲヴァントハウス(1) ベルリン、テルデックス・スタジオ(2-4)
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)


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ギリシャ生まれのヴァイオリニスト、レオニダス・カヴェコス。
彼が、イタリア生まれの名ピアニスト、エンリコ・パーチェと録音した、
ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全集。 昨年末の発売以来ずっと愛聴してます!
これ、ほんとすばらしいです! 歴史に長く残る見事な全集。
ここのところ、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ録音が相次いでいますが、
その中でも特筆に値する芸術性の高さと演奏のクオリティです。
みその、大切なコレクションのひとつになりました!

ブックレットには、カヴァコスがベートーヴェンへの想いを寄せた一文がありますが、
そこで彼は、ベートーヴェンを故郷ギリシャのパルテノン神殿になぞらえています。
神殿の前に立つとき、それは単なる大理石の建造物以上のもの、
まさに知識と叡智の箱であると感じられるように、ベートーヴェンの音楽に向き合い、
それに近づいていくとき、彼は同じような感覚を受けるというのです。

このメッセージには、彼と名手パーチェとの究極のデュオを存分に味わう鍵があります。
彼らギリシャ・ローマ組、ビザンチン・ラテン組のベートーヴェンには、地中海世界の暖かい
陽光に包まれながら、静謐なテオーリア(観想)を無上の歓びとし、またそこに使命を見出した、
古代の賢人たちの息吹が感じられる、そんな爽やかさが伝わってくるんです。

賢慮によってベートーヴェンのテクストを観取し、均整と中庸を旨としながら、音楽を彫琢していく。
その姿は、ヘレニズムの彫刻家のようであり、アテネの学堂に集う哲学者のようであり、
ローマの都市設計に携わる古の建築家のようです。

第1番から第10番の全10曲は、ベートーヴェンの作曲年代、作風の変化、成熟に即して、
的確にキャラクターが捉えられ、各個性をしっかりと生かす形で、描き分けられています。
基本的にはオーソドックスに、1・2・3/4・5/6・7・8/9/10 という、5つのまとまりを意識し
それぞれのグループの中で、ある程度、内的に一貫した音楽的理解が与えられています。
もちろん、グループの垣根を越えた相互の関係性や類似性、発展や革新、飛躍なども、
きちんと聴き取ることができ、このへんの周到さも素晴らしいです。
(なお3枚のCDには、楽曲順に収録されていないのですが、けっこう納得できる並びです。)

【収録情報】
CD1
ベートーヴェン:
・ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ長調 作品12の1
・ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 作品12の2
・ヴァイオリン・ソナタ第3番 変ホ長調 作品12の3
・ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 作品24《春》

CD2
・ヴァイオリン・ソナタ第4番 イ短調 作品23
・ヴァイオリン・ソナタ第8番 ト長調 作品30の3
・ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 作品47『クロイツェル』

CD3
・ヴァイオリン・ソナタ第6番 イ長調 作品30の1
・ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 作品30の2
・ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調 作品96

 レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)
 エンリコ・パーチェ(ピアノ)

 録音:2012年

簡単に、各曲について感想を。
①まず、作品12の三連作である、第1番、第2番、第3番。
モーツァルトなど、古典派ヴァイオリン・ソナタの流れを汲む、いずれも3楽章形式の佳曲。
どれもクリアな透明感と明晰なアーティキュレーション、ソノリティの高さに驚かされます。
研ぎ澄まされた音程感覚には舌を巻き、放射する倍音に耳を奪われます。
アーティキュレーションには様式的な反映もあり、ピアノも含めて、音の響きの処理に
細やかな配慮が払われています。

ただし、彼のモーツァルト録音と比較すると良く分かりますが、ただ明澄な透明感だけが
強調されているのではなく、音の濁りや擦れも厭わぬ、厳しいアクセントの打ち込みもあり、
またリズムや音型についても、ときに妥協を許さぬ強調が、音楽に強い構築性をもたらします。

音楽は隅々までよく考え抜かれ、テンションの増減、デュナーミクの調整、
テンポの基本設定と音楽的で理にkなったテンポ変化など、神経がいきわたっています。
しかも、どの要素も、少しも突出したりせず、あざとく聴こえてしまうこともありません。
音楽の流れと全体的なプロポーションの中に、各部分がきちんと収まっています。
エキセントリックなはみ出しはありません。では、音楽が窮屈なのかというと、
そうではなく、聴き手にイマジネーションの自由を与えてくれます。

これらの印象は、残るすべての曲にも言えることで、今回の全集に貫かれた
最も大切な美質だといえるでしょう。

そして、どれも素晴らしいのが緩徐楽章。4番以降の作品も含めて言うと、
変奏曲形式の楽章が特に素晴らしいのです。 変奏曲はこうやって弾くのよ

②作品23と作品24、見事な対を成している、第4番と第5番《スプリング》
このころになると、ベートーヴェンは、ピアノとヴァイオリンのバランスに苦慮しながらも、
より対等な対話のソナタへと歩み出していきますが、そのあたりの作曲者の挑戦を、
カヴァコスとパーチェは、比較的ゆっくり目のテンポ設定で受け止めます。
ヴァイオリンとピアノは丁寧に、ときには念を押すように、じっくりと対話しながら、
より長大で複雑になった第1楽章のソナタ形式を、緻密に構築していきます。

その際、注目すべきは、冒頭の提示部を軽めに抑えていること。
やっと出てきた短調作品である第4番の不穏な焦燥感とか、
誰もが愛するスプリング・ソナタの心地よい旋律とか、もっと鮮烈な印象を与えるように
弾き始めたって良さそうなものを、このふたりはそうしないんですね。
むしろ展開部に入り、ベートーヴェンの意図したとおり音楽が密度を高めていくにつれて、
演奏の燃焼度が高まり、圧力も高まっていきます。まさに賢慮です!

③ロシア皇帝アレクサンダーへの献呈品、作品30の三連作。第6番、第7番、第8番
この3部昨では、4番、5番で切り拓かれた新境地へ、さらに大胆に歩みを進めます。
6番はやや肩慣らしというか前哨戦の感じがしますが、元々6番の終楽章にするつもりだった
楽章を、《クロイツェル》の終楽章に置き換えたいうことですから、相当気合の入った制作だった
に違いありません。リズミックな個性はベートーヴェンの面目躍如ですし、緩徐楽章の静謐さも
ぐっと増しています。作品30ですから、まだ《傑作の森》より前、つまり中期ベートーヴェンに
入る前と言った方が良いのかもしれません。(それを言うなら《クロイツェル》もですが・・・)
でも、音楽的な充実は目を見張るものがあります。

カヴァコスとパーチェは、この三連作のうち、6と7のペア、そして8番という感じに、
描き分けているようです。6番と7番は、ちょうど4番と5番のペアを、調性と楽章構成の面で
反転させた関係にありますし、8番は続く9番《クロイツェル》との連続性が強く意識されています。
ハ短調の7番は、とても悲劇的な冒頭主題で有名ですが、やはり落ち着いたテンポでスタート。
音楽的なクライマックスは、展開部が進むにつれて高まっていく構成になっています。
一方8番は、しばしば初期のソナタを想起させる、軽やかで明朗な印象がありますが、
ここでは逆に、続くクロイツェルを先取りするような、内に秘めたパトスがたぎる、力動的な演奏です。

このへんになると、カヴァコスの演奏もさることながら、パーチェさんのピアノの構築性が
一段と際立ち、圧倒的な説得力となっています。もう理想的なアンサンブルです!

作品49はヴァイオリン・ソナタの異端児にして革命児、第9番《クロイツェル》
徹底した自律によって余計な脚色を排し、ベートーヴェンの望んだ音響を彫琢・練磨してきた
ふたりですが、ついに、最も激しくスパークする《クロイツェル》に到達します!
しかし、冒頭の序奏から主部の第1主題提示あたりまで、実に抑制的。テンポも抑えぎみ。
主部が始まるところには、プレストと指定されてるのに。「ちょっと遅すぎません?」って
思う人もいるかもしれないし、みそも、初めて聴いたときはちょっと思いました。
でも、彼らがこれまでのソナタで行ってきたアプローチを考えれば、首尾一貫しているし、
序奏のアダージョの余韻と残像を保ちつつ、漸進的に加速していくアプローチは、
音楽的にもなかなか良いセンスだと思うし、説得力があります。
速度記号を単純に楽曲の時間的な進行速度と見なしてはいけないし、
念を押す形で第1主題が提示されると、ピアノとの掛け合いを何度か繰り返しながら、
かなり早い段階で、ごく自然に、プレストらしい疾駆するテンポに到達していますから、
とても合理的な速度変化だと思います。
逆に、主部の開始と同時にテンポを激変させるのは、やや不自然な感じがするかも
しれません。実際かつての巨匠たちも、徐々に加速していく、大きな構えの演奏でした。
(なおトップスピードに入ってからのカヴァちゃんは、逆にめっちゃ速いです!すさまじい!)

⑤作品96、芸境に遊ぶ自在の世界 第10番
そして最後の第10番。これ、言うことなし。すごい好き。このふたりの演奏。
みそは、オイストラフ=オボーリンの演奏、ヴェーグ=シフの演奏など、
これまですごく好きな10番がいくつかありましたが、それに伍する名演。
ピアノに関しては、パーチェさんの演奏が最高!
9曲にわたるカヴァコス=パーチェの航行を締めくくるに相応しい10番。
ふたたび地中海のきらめく陽光のなかで、穏やかにテオーリアに浸る
ルートヴィヒの姿を想像してしまいます。
2楽章は、まるで観想の祈りのようです! 究極の美しさと慰めに満ちています。
3楽章の変奏曲は、途中で思わず涙ぐんでしまいます。

ベートーヴェンと同時代、啓蒙の世を生きたゲーテは、イタリアに憧れて、
実際に紀行もしました。最期は「もっと光を」とつぶやいて、天に召されたと言います。
ベートーヴェンはイタリアに行くこともなければ、光り輝く地中海を見ることもありませんでした。
でも、ギリシャとイタリアに生まれた現代の名手たちによる、偉大なるソナタの演奏は、
耳の聴こえなくなったベートーヴェンに、こんなふうに語りかけているようです。
「あなたの作品は、こんなにも音が輝くのです。光のように!」

みそ
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ラヴェルのヴァイオリンとチェロによる二重奏曲を聴いてからというもの、
(マイ・)ラヴェル・ブームが再来中。しかも、エネスク(エネスコ)と並べて聴くの。

ジョルジェ・エネスク(エネスコ)と言えば、20世紀前半を代表する大ヴァイオリニスト。
ルーマニア出身ですが、パリと二重生活を過ごした当代随一のヴィルトゥオーゾ。
ピアノも天才的なうまさで、作曲の才にも恵まれたスーパー・ミュージシャンだったわけです。

ギリシャ出身のヴァイオリニスト、レオニダス・カヴァコスと、ハンガリー出身のピアニスト、
ペーテル・ナジのデュオによるこのCDは、

ラヴェル: ヴァイオリン・ソナタ(遺作)(1897年)
エネスク: ヴァイオリンとピアノのための「子供の印象」(あるいは「幼時の印象」) (1940年)
エネスク: ヴァイオリン・ソナタ第3番 「ルーマニアの民俗様式で」 (1926年)
ラヴェル: ツィガーヌ (1924年)


このようにラヴェルとエネスクを並べると、ふたりの特徴がよくわかります。
ラヴェルは、母がバスク人ということでイベリア半島への憧れが強かったし、なんといっても
ラヴェルの異国趣味は半端ではありませんでした。東欧や北アフリカ、アラビア、インド、中国、
そしてもちろん日本の美術品や工芸品を片っ端から蒐集したラヴェルは、作曲に際しても、
ルーマニアやハンガリーといった東欧由来の民謡調の旋律を多用しました。
ハンガリー生まれの女流ヴァイオリニスト、イェリ・ダラーニにインスパイアされたツィガーヌは
その代表例ですね。

一方、エネスクは、ヨーロッパにおけるロマ(ジプシー》文化が最も色濃く根づいていた地域の
ネイティブさん。1926年作の3番ソナタはその名の通り、いかにも民族色が濃厚です。
ただ、1940年の「子供の印象」は、民族性がぐっと内面化された印象をうけます。
3番ソナタと同様、鳥の鳴き声のような形態模写的な技法もありますが、とても抽象度が高まり、
もはや単なる望郷の歌ではない、そんな感じを受けます。すごく深い音楽です。
(3番ソナタにもすでに、ノスタルジーどころではない、ただならぬ空気が感じられますが。)

この深化の理由は、おそらくエネスク自身の音楽的な成熟に加えて、1940年という作曲年に鍵が
ありそうです。前年に第2次大戦が勃発、故郷ルーマニアは瞬く間にナチスに占領されてしまいます。
そして戦後、今度は共産圏に組み込まれてしまう。故郷とパリの往還生活を断念したエネスクは、
とうとう亡くなるまでルーマニアに戻ることはありませんでした。

そんな運命を予感するかのように、この作品は、「子供の印象」という名前とは裏腹に、
言い知れぬ不安と諦念、悲しみ、そしてやはり故郷への切なる思いが交錯した胸の内。
室生犀星の詩を思い起こします。


ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや


この詩は、望郷の詩のように思われがちですが、よく読むと、
自分にはもはや戻るべき故郷はなく、都会に生きていくしかないのだという、
故郷喪失の悲しみを歌っています。エネスクの「子供の印象」には、そんな
室生の悲しみが共振しているように感じます。勝手な思い込みかもしれないけど・・・。

さて、演奏ですが、文句なく素晴らしい!
カヴァコスは、濁りや淀みのない、非常に透明感のある音の持ち主なので、
最初の印象では、そっけないというか、さっぱりしすぎという感じを持たれかねない
ヴァイオリニストですが、その凄まじい技術で、信じられないほど細やかな表現が、
何の苦もなく、さりげなくできてしまう。泥臭くはありませんが、多芸多才を要する
ラヴェルとエネスクの音楽を、余すところなく表現し切っています。

そしてナジのピアノがまたすごい。日本ではほとんど無名だし、ヨーロッパでも
決して有名ではないと思いますが、このハンガリアン、異能の持ち主です!
ツィガーヌのピアノ、そのラリってる具合が、「あの〜、ツィンバロムですか?」って感じ。
エネスクの両曲は、ピアノ・パートも難曲で有名ですが、完璧です!

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こちらもどうぞ⇒カヴァコスのメンデルスゾーン
こちらもどうぞ⇒これでいいのだ!カヴァコスのモーツァルト

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パパです。こんばんは。

今年はメンデルスゾーン生誕200年のメモリアル・イヤーなので、演奏会や新たな録音が多いわけですが、
やっぱりヴァイオリン好きとしては、今年上半期の注目盤は、レオニダス・カヴァコスでしょうか。
ギリシャ生まれのヴァイオリニスト。長身スーパーマリオみたいな人ね。チョコレート屋さんではありません。

このCDのリリースは実は昨年末なのですが、記念イヤーの今年に合わせた発売でありましょう。
しかも2枚組で、1枚目はコンチェルトの弾き振り(オケは、カメラータ・ザルツブルク)。2枚目は、
ピアノ・トリオの1番と2番。(ピアノは、エンリコ・パーチェ! チェロはパトリック・デメンガ)

いやぁビックリ! なんと細身のスッキリとしたメンコンかしら! これが大男が弾くメンコンなの?
1楽章はアレグロ・モルト・アパッショナータですぞ。最近はそのことを意識した、非常に威勢のいい
メンコン1楽章が増えてきたというのに! なんとカヴァコスのメンコンは、まるでピアニシモで勝負
するかのようなアプローチ。どこか楚々として、可憐。それは「引き算の美」という感じかな?
ふーむ。アリかな? でも何となく1、2楽章は平凡に聴こえて、物足りないかも・・・。
3楽章でようやくカヴァコスの良さが出てる気がする。

パパは昔、N響定期でカヴァちゃんのメンコンを聴いていて、あまりの美しさと張り詰めるような緊張感に
心底感動した経験があって、以来、カヴァちゃんのメンコンの録音を楽しみにしてたんだけど、当時よりも
ずいぶん可愛らしくなっちゃったこと。どういうことなんだろう? 

カヴァちゃんのメンデルスゾーンのイメージは、どんな感じ?
「ドイツ・ロマン派のモーツァルト」みたいなイメージ? 「品行方正なアマデウス」かな? 
モーツァルト同様、早熟の天才で夭折。フェーリクス・メンデルスゾーンは38歳でこの世を去りました。
カヴァコスのメンデルスゾーン演奏はウィーン古典派の趣さえあって、実際、彼のモーツァルトの録音と
続けて聴くと、すぅ〜っと繋がって聴こえてきます。今回のCDで、ロマン派らしい熱さがいくぶん
伝わってくるのは、ピアノ・トリオの2番かしら。(何派だから、という聴き方もいかがとは思うけど)

ところで、パーチェのピアノは素晴らしいのに、トリオの録音はイマイチなのが残念。
ヴァイオリンを前面に出した感じで、ピアノは奥まって聴こえるし、チェロはモコモコしてる。
パーチェ好きのパパとしては、ほんと残念!

・・・ともあれ、カヴァちゃんはほんと、音きれいね。弱音も実に美しい! 
しかも、弦の上をうわ滑りするような刹那的な弱音じゃなくて、ちゃんと楽器が鳴ってる弱音だからいい。
パパはこういうピアニシモがすきである! 

パパ

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