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山本哲士氏の名文



昨日ネットサーフィンの中で、東京藝術大学客員教授、山本哲士氏のキム・ヨナと浅田真央選手のオリンピック対決を綴った名文に出会いました。


長文ですが・・・じっくりとお読み下さい。
これ以上の名文・解釈はないと思えます。


貼り付け。
いやはやなんというドラマ。
感動というものをこえてしまうものがあるのだ、という新しい体験を観る者はさせられた。
完璧な演技をしきったキムヨナは、演技が終わったとやりきった安堵からか涙した。緊張がほぐれ、気強い彼女がはじめて見せた涙ではないのだろうか。やりえた歓喜ではない、苦しさから解き放たれた終わった涙にみえた。
浅田真央は、自分の演技ができなかったという悔し涙で息苦しそうにしゃくりあげながらこれも人前ではみせなかった大粒の声もでない涙で、長く短い4分間を語っていた。だがミスしても205点、銀メダル、しかもそんなものに喜びなどみせず、負けたというより、演技しきれなかったということへの悔し涙だ。なんというすごい子だろう。
そして、ロシェットは、数日前母を失った悲しみの中からの銅に表彰台で涙していた。
キムヨナの喜びにもどこか前にむいたものはない、夢をかなえてしまった果たし得たという空無のような歓びの涙。
この3つの異質な涙は、超絶した次元での異なる涙、歓喜あふれた涙はどこにもない。極限はこういうようになるのだろう、といういままでみたことのない地平である。
超絶した二人を、しかし審査員は的確につかみえていない。キムヨナの完璧さに異様な最高点をつけ、浅田のトリプルアクセル成功とステップに点を付けきれないでいる結果、20点ものへだたりがそれを表徴している。プルシェンコが怒ったように、審査する奴らは選手の演技を、また苦闘をわかっちゃいない、どれほどジャンプがたいへんなものか自らがなしえないからまったく理解しえないのだ。キムヨナのぶっとび点数に比してミスしたとはいえ、史上初3つのトリプルアクセルを決めた浅田への点がひくすぎる。会場からブーイングがおきた。
審査員たちの水準より、はるか先へ二人は行ってしまったのだ。
真央はキムヨナに負けたから悔しいのではない、自分がせいいっぱいやりながらミスしたことが純粋に悔しい。

だが、この勝利と敗北には、決定的な違いがある。
キムヨナはもう「宇宙人」と称されたような最高頂点へ到達してしまった。それは、オーサーコーチがしくんだ、金メダルをとるための作戦+政治の組み立てだ。こうすれば勝てるという審査員の評点の仕方を完全理解し、キムヨナがそれをなしうるように徹底して訓練する。ルールに従わせる完成の仕方、キムヨナゆえなしえた。だがこれは、なし終えて終わりだ。北米コーチたちの市場は開かれたが、キムヨナには、もう選手としての先は無い、あるのはプロとして生きていくか指導者として自己形成するかであって、演技選手としては自己完成させてしまった、彼女は終わったのだ。荒川が金メダルをとるべくリスクを回避して勝利の完璧さを実現させ、選手をおわったように。
だが、浅田は、金メダルをとるべく危険をさけるという仕方をとらなかった。たとえミスしようと3つのトリプルアクセルに取り組み、それを決めたことによって、フィギュア界に新たな世界を開いた。ルールがとらえきれない閾に挑戦し、それを開いた。そして自らは、それを入れて、ジャンプか演技表現かという現在の不毛な対立の次元をこえる世界を完成させていく途上にはいっている。
そしてソチではそれを達成する結果としての金メダルをとるであろう。


かつて、羽生名人が言っていたこと、将棋を闘っていて、こう打てば確実に勝つという経験上の局面にくることがある、そのときそれを打って確実に勝つ道を選んだなら、進歩は無い、それで終わっていく、自分はあえてその手とは違う未知の一手をうって、新たな勝負の閾をひらくことを選択し続けていくと。真央は、そういう道を選んだ。すごい人だ。

日本中を感動させ、また感動を越えた次元があることを感じさせる、あまりに超絶している真央に、だれしもが感銘するのは、なぜなのか? 他者ではない、自分の自分に対する対決を果敢にしつづけるということが、だれしにもそれなりにある、そこへ響く純粋なものがあるからであろう。19歳の少女に、若者だけでない、おっさんやおじいさんまでもが感銘してしまう。彼女は他者を見ていない、自分を自分として前へ前へとずらしていく、進歩への挑戦しかとりくんでいないこと自体が、他者へ響くものをうみだす。安藤美姫の限界は、他者への感謝とか他者への喜びとかという疎外させたそらぞらしさにとどまっているところにある。それでしか、苦しむ自己を開放しえなかったからだが(それはまたそれとして大衆受けする仕方であるが)、浅田やキムヨナの次元とあまりにも違いすぎる。
浅田真央、たいへんな存在が現れた。もう、無邪気にスケートをしている女の子はいない。ひきしまってきたその顔は、次の金をめざすというより、金を不可避な結果としてもたらす次元でのフィギュアの深化と飛躍へと向いている。
日本人1億人が、彼女を見た、感じた、そこに自分をみるような、そういう存在表象を彼女はなしえている。世界も彼女に、キムヨナ以上に改めて驚愕した。
真央を乗り越えるべく、キムヨナは苦闘し、完成、実現した。だが、真央は、キムヨナを乗り越えようとはしていない、自分に課せられた限界を自らで越えていこうとしている。キムヨナにはキリスト教的な欲望・羨望の三角形があったが、真央にはそれがない。それが、オリンピックという場では負ける結果をもたらしはしたが、真央は終わっていない、西欧なるものを越えて深化し続ける。


偉大なる二人の少女に、世界は釘づけになった。


フィギュア日本選手は男女全員が入賞した、それにくらべて審査員にひとりも日本人がいないというなさけなさ、スポーツ指導者・管理者たちの遅れが露呈した今回のオリンピックである。スポーツほど、政治的でかつ経済的な効果を波及させるものは無いということを日本のスポーツ指導者・管理者たちはまだまったくわかっていない。苦闘し苦しむのは選手たちだ。
純粋なあまりにも純粋な浅田真央の闘いの敗北、米露の対立政治をこえた敗北、だが、この純粋なるがゆえの敗北から、新たな時代が開かれていく。

閉じる コメント(12)

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おばさんが感じていたことを見事に理路整然と表現していただいて、感謝です。そうですよね、キムヨナはもう辞めるだろうなあって思ったのは、そうかぁ、こういうことなんですね。ありがとうございます

2010/3/1(月) 午前 9:45 [ 鉄子の部屋41 ]

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ありがとうございました、 真央さんが次のオリンピックで
金メダルに輝いたとき
真央さんもまたキムヨナさんのように評価される時がきます、
楽しみです。

2010/3/1(月) 午前 11:21 yoshikamera

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金メダルだけが、勝利じゃないのですね。

そうでないと、世の中つまらないもの。

2010/3/2(火) 午前 6:27 Michan

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karumaさま、紹介記事ですので、ご了解下さい。

2010/3/2(火) 午前 8:27 sinde

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ヨシさん、真央ちゃん輝いてますねぇ。

2010/3/2(火) 午前 8:28 sinde

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kicyanさん、地震の影響大丈夫そうですね。
良かった。(*^_^*)

2010/3/2(火) 午前 8:29 sinde

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シンディさん、またトラバさせてください。
リンクもさせてもらいました。

2010/3/3(水) 午前 4:56 [ nagata ]

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只、キムヨナが色っぽいだけ…。

2010/3/7(日) 午前 6:30 黄昏清兵衛

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そう、キムヨナはなんであんなに色っぽさを見せつけるのかしらと私は思った。
私たちの感じていることをこうして読ませていただき、これで完結したなと思いました。美姫の嘘っぽさもまさにこれなんだと納得。ありがと、シンディさん。

2010/3/7(日) 午後 8:57 usubeni

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大学の先生は、なんと難しく考えるのだなと感心しました。真央ちゃん4年後は、頑張ってほしいですね。

2010/3/7(日) 午後 11:02 t31*02

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こんばんは。
風邪も治られてよかったですね。
再度トラバさせてください。

2010/3/8(月) 午前 2:07 [ nagata ]

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お気に入り登録ありがとうございました。また、寄らせてもらいます。

2010/3/14(日) 午前 5:27 para

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