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『10枚百円』
観光客向けの高めの値段の安い煎餅を、鹿は美味しそうに食べた。
神鶴白虎《カミヅルハクト》は鹿に煎餅をあげながら、ただボーっと眺めていた。
ここは産まれ育った都の隣の、とある公園。
なんども訪れたここには、相変わらず多くの鹿が闊歩している。
今さら特に驚くべき事もなく、とりあえず保護動物であるこの鹿の腹は満たされることはあるのだろうか、と実験してみている。
果たして、宇宙のような食欲は限界が見えず、先に小遣いをはたいて買った煎餅が切れそうだ。
「おぉーい、ビャッコ!お前はもう少しこう…楽しそうに遊べないのか?」
急に後ろから肩を組んできた馴れ馴れしい男は神鶴赤雉《セキジ》。『ビャッコ』とは俺のあだ名だ。
コイツと俺は一応親類で幼い頃からつるんでいる、いわゆる幼なじみだ。
『一応』というのは、いったい何親等離れているのか俺は知らないが、ただ俺は宗家で、赤雉《セキジ》は分家だからだ。
今日は赤雉《セキジ》が道場を持ち、その初給料で旅行に行くと言うので、連いて来た。
「アカネを見習えよ。あんなに楽しそうにしてくれてるじゃないか」
見た先には少女が一人、鹿に囲まれていた。
赤雉《セキジ》の実妹である赤猫《アカネ》は鹿に囲まれて楽しそうに、というよりあれは…
「ちょ、大丈夫か?」
白虎《ハクト》は素早く駆け寄ると、赤猫《アカネ》の周りにいた鹿を追い払い、助け出した。
「はぁ、はぁ」
赤猫《アカネ》は荒れた息を落ち着けると、言葉を紡いだ。
「ビャッコ…。もし私が助からなかった時は、同じ墓で眠らせて?」
「なぁ〜に、アホな事言ってんだ?すこしスカートがかじられただけじゃないか」
どうやら餌をあげている最中に囲まれ、その催促する鹿にやられたらしい、スカートには鹿の唾液がベットリと着いていた。
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