上山信一の『見えないものを見よう』

未来は誰にもわからない。しかし洞察を深めれば、現実が変えられるかもしれない

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 統一地方選挙、参院選と今年は選挙が続く。最近は若手を中心にビジネスから議員や首長に転身する方が増えた。政治を刷新する上では結構なことだ。一方、若くして政治家を辞める人もいる。政治家とは「辞めてしまえばただの人」、引退したら一般人である。秘書も車も肩書も一切なくなる。若くして公務を終えた政治家たち(特に35歳から50歳くらい)を社会はどう受け入れるべきか、考えてみたい。
●受け入れる企業側の戸惑い
 もともと弁護士や自営業だった方は前職に戻ればよい。あるいは公務の延長でNPO経営や大学教授、福祉系の仕事に就かれる方も一定数おられる。だが多くの元サラリーパーソンは、政治家を辞めるとまたビジネスに戻る。つまり就活か起業をすることになる。もともと世渡り上手な人が多いし、中には落選中に生活の糧を得るすべを身に付けた方も多い。たくましくアフター政治家の人生を切り開いておられる方も多いが、なかにはまだ若いのに才能を持て余しておられる例もあり、もったいない。
 受け入れる側の企業の姿勢はどうか。オーナー系やベンチャー系は比較的柔軟で、積極的に受け入れる。もともと支持者だったりもする。だが多くの一般企業では「アフター政治家」の受け入れに戸惑いがあるようだ。「政治色がつくと株主総会が心配だ」「取引先の官庁が嫌がる」「非営利の経験は会社では有用でない」といった懸念があるようだ。逆に「口利きが頼める」「法改正を働きかけてくれる」「官邸や役所とのコネに期待」といった過大な(あるいは勘違いの)期待も耳にするがこれも間違いだ。「アフター政治家」の採用は、どういう視点で行うべきか。
●自治体、特に市町村の元首長は経営能力が高い
 市町村長の仕事は現場で実際に人やモノや資金を動かす実務が多い。民間企業での実務経験が役に立つし、逆に市町村長の経験者は企業の経営にも向いている。また市町村長の場合、福祉から道路まで幅広い分野を経験する。いろいろな業種との付き合いから、豊富な実務経験を磨ける。特に市町村長で2期以上を経験された方はお買い得だろう。
 なぜなら、再選されたということは役所で部下をちゃんと使い、組織を動かし選挙もこなせた証拠であり、実務能力は高い。唯一、チェックすべきはプライドが高すぎないか、人との接し方はどうかという点だろう。というのは市町村長は独裁者に近い。選挙の洗礼は受けるが、それ以外の期間はオーナーのようなものである。まれだが、プライドが高すぎる、パワハラ傾向があるなどのリスクはあるのでチェックをしたい。
●政策通といえるか
 元政治家はどれくらい政策に通じているか。これは経験した役職と個人による差が大きい。知事は人による。現場に疎く、部下に任せていただけ、いわゆるおみこしに乗っていただけの人もいる。しかし市町村長は実務能力がないと厳しい。「タレント市町村長」がいないゆえんである。特に市町村長を長くやった人はかなりの政策通である。国の制度や予算と現場の実態の両方に精通している。
 議員はどうか。国でも自治体でも与党の政策担当を経験した議員は有能だ。与党だから役所の情報がかなり入手でき、実際の政策や予算策定にも関与してきた。これに対して野党は弱い。行政側が警戒し、与党ほど精度の高い情報を提供しない。実際の政策形成に関与することも少ないので、実務能力があまり磨かれない。
 もちろん人によるし、中には学者的に研究熱心な方もおられる。だが普通に野党議員をやっているだけでは、あまり経験が積めないといえよう。ちなみに民主党政権のときに閣僚になった方々が官僚組織をあまり動かせなかった印象がある(元官僚は除く)が、背景にはこういう事情もあるように思われる。ただし、組織政党(たとえば公明党や共産党)はやや違うかもしれない。もともと組織基盤があって、その中から厳選人材が議員になっている。主義主張が割合はっきりしていて、それに基づく会派内での勉強会、機関誌関連の仕事を通じた学習も盛んである。
●政治家をして磨かれるビジネススキルは何か
 さて、たとえば会社で中途採用の公募をしたら「大学を卒業後、サラリーマンをやめて議員を10年しました。またビジネスに戻りたい」という40歳男性が現れたとする。この方の議員生活10年をどう評価すべきか。実務から離れた空白期間と見るか、濃密な体験と見るか。
 評価したいのは個人で事務所を切り盛りし、支持者を組織化してきた個人商店の経営者としてのスキルである。資金集めはベンチャーのスタートアップと同様、腕力が必要だ。当選間もないころに先輩議員にいろいろ教えてもらって事務所を立ち上げるのもたいへんで、これは起業体験である。
 一方で議員の活動には企業のサラリーマン的要素もある。例えば会派で要職を得ていくのは出世の階段を上るのと同じことだ。たまには理不尽な先輩やいじめもあろう。いろいろな意味で鍛えられる。
●消費者との対話
 政治家の数多くの有権者と接した経験はたいへん価値がある。常に人に見られてきたので、話し方や人との接し方がこなれてくる。特に営業やクレーム対応に向いている。また、物腰の柔らかさから、例えば消費財や証券、生命保険などで、多種多彩、さまざまな雇用形態の営業パーソンを束ねる支店長、労使交渉などにもうってつけだろう。
 社内や交渉のコミュニケーション能力も高い。議場での丁々発止は交渉術そのものだし、演説をするのでプレゼンテーションがうまい。当選を重ねるには日ごろからの地味な地元活動や機関誌の編集もする。マーケティングや企画力も磨かれてくる。
 一言でいうと議員生活の期間は、起業してベンチャーを経営していたのと同等の評価をしていいと思う。ただし、再選しなかった、あるいはいわゆる組織政党に属していた、二世議員などは少し割り引いて見る必要がある。
●ネット上の誹謗中傷は気にしない
 さて「政治色」の問題をどう考えるか。政治家に限らず、学者やジャーナリストなど誰でも政治に関係し、大事な政策形成に関与すると必ずといっていいほどネット上で誹謗(ひぼう)中傷を受ける。あるいは週刊誌や怪文書で批判される。内容的には妥当なものもあるが、単なる誤解が多いし、反対勢力が意図的に流すデマもある。
 これを見て「政治色」を恐れ、元政治家の採用を躊躇(ちゅうちょ)する企業がある。確かに会社組織としては政治から距離を置き、中立でいたいだろう。しかし、これらを気にして有能な人物を遠ざけるのは間違っている。いわゆる「政治色」、スティグマ(レッテル貼り、偏見)は政治活動にはつきものだ。むしろ有能な政治家であればあるほど、ネット上では賛否両論の評価が出回る(しかも否定的なものが多い)。あれはある種の嫌がらせでもあり、それをいちいち気にしてはならない。
 民主主義とは究極は多数決である。また議会は社会の究極の利害調整の場であり、会派と会派のぶつかりあいは必須である。世が世なら戦争や決闘で決めていたことを議員たちが私達の代わりに議場の口論と議決で決める。だから議員はけんかをするのが仕事である。誹謗中傷は勝負を挑んできた脛(すね)の傷のようなものだ。
 ともかくデマ、誹謗中傷、怪文書に惑わされない。経営者が本人にまずは会ってみるべきだ。そして疑問があるなら、面と向かってデマの真偽を当人にズバリと聞くことが大事だ。
●新陳代謝が政治の質を上げる
 アフター政治家の再就職促進は、社会全体で取り組むべき課題だ。なぜなら、当選して政治家になっても辞めた後の人生が描けないとなると、有能な人物は政治を志さない。また、アフター政治家の道筋が見えないと、現職がなかなか辞めない。すると選挙で当選し続けることが自己目的化する。揚げ句の果てに族議員になって利権の媒介業に手を出しかねない。
 政治家の新陳代謝を促すためにもアフター政治家のキャリアデザインが大事だ。若くして選挙に出て数年、公務に就く。その後、またビジネスなどほかの世界に有利な形で行けるのが理想だ。そうでないと政治と民主主義の質が上がらない。
 もしかしたら不謹慎と思われる事例かもしれないが、このメカニズムは実は自動車メーカーの工夫に通じる。各メーカーは新車を売るのに負けず劣らず、中古車の流通促進に熱心だ。なぜなら新車に買い替えてもらうには、中古車が高い値段で買い取りされなければならない。そのために中古車市場を活性化させる、最後は途上国にも積極的に中古車を輸出する。
 事情は住宅などでも同じだ。プライマリーからセカンダリーへ、その次へと多段階の流通市場が活性化することで新陳代謝が進み、全体の質が上がっていく。
 その意味で日本の民主主義の質を上げる近道は、実は、有能で若い元政治家たちが退任したあとで社会のさまざまな場所で活躍できる場を作ることかもしれない。
(注)なお、この問題については引き続き私が主催するDMMのオンラインサロン「街の未来、日本の未来――市町村経営を考えよう」
で考えていきます。このサロンは、政治家志望の方々や現職の首長、国と地方の議員、公務員、NPO、コンサルタントなどまちづくりと行政のプロが集まるサロンです。テーマはスマートシティ、行政改革、財政のほか 産業、交通、福祉、教育など様々な分野について。ナビゲーターは経験豊富な元マッキンゼーのコンサルタント3人です。特に生活に身近な市町村のあり方を考えつつ、都道府県や国政、世界の政治も射程にいれます。詳しくは、以下をご覧下さい。https://lounge.dmm.com/detail/1745/

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