上山信一の『見えないものを見よう』

未来は誰にもわからない。しかし洞察を深めれば、現実が変えられるかもしれない

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 2019年8月16日に愛知県は「愛知トリエンナーレのあり方検証委員会」を発足させた(議事録は別のページ、本ブログで公開)。わたしは副座長をつとめることになった。委員会では9月下旬には中間的な経過報告をする予定である。
 さて関心の高いテーマだけあっていろいろな方から「どうするのですか」とか「こうしてほしい」というご質問や意見をいただく。そこで作業の準備と頭の整理の意味から現時点で気になる着眼点を紹介しておきたい(個人としての考えに過ぎない。また委員会でこれを全部調べるかどうかは別である)。
〇着眼1 展覧会の企画と準備のプロセスの解明と情報公開が重要
 本件の検証では「企画展」の検討と決定の過程を県民にきちんと情報公開する必要がある。特に実行委員会、会場、県庁の3組織がどう関わったか(あるいは、関わらなかったとしたらその背景と事情)。要は組織機能の解明が先決だろう。
 その上で芸術祭の運営とガバナンスのあり方を評価する必要がある。それを経て芸術監督、キュレーター、出展作家、作家との窓口になっていた不自由展実行委員会の5人の方々、会場管理者、県庁職員、知事らがどういう役割を果たしていたかを考察する。ちなみに芸術監督の個人の経験&能力不足(キュレーションの巧拙)や人選の妥当性についてはいくら検討しても価値判断から自由にならない。組織としてのプロセスの妥当性をむしろ検証すべきと考える。
〇着眼2 芸術祭のガバナンスのあり方を見直す
 運営や意思決定の過程に何か課題があったとしたらそれは、実行委員会、会場、県庁など芸術祭を支える組織の個々と芸術祭全体の運営とガバナンス構造に問題があったということだろう。また、今回のような事件が起きると美術館や芸術祭のブランドや信用が損なわれるという問題もある。

 組織のガバナンスは柔軟かつ丈夫にできている。もしも誰か個人やどこかの部門が間違っても他の仕組みが機能して補正が利くようになっている(はずだ)。三権分立がいい例だ。企業でも社長が間違った場合は、取締役会や株主総会でチェックを受け、それを前提に修正が起きる。そしてそれを会社法は義務付けている。

 だが、実行委員会形式の芸術祭のガバナンスは役所の枠を超えた広がりがあり、また芸術家の個人の意思なども尊重する必要がある。公立の場合、さらにステークホルダーは広がるのでなかなかに難しい。愛知に限らず各地の芸術祭に共通するガバナンス課題があろう。
 実は、私は2年前、小池都知事のもとで都庁の顧問及び特別顧問として東京五輪の予算膨張問題の解明を担当したことがある。本件は芸術祭だが、あちらはスポーツ祭。ガバナンス問題のむずかしさと構造は似ている気がする。
 五輪の準備は、都庁が出資する公益財団法人であるオリンピック組織委員会(会長は元総理の森さん)、IOC/JOC、そして都庁が一生懸命に進めていた。だが、全体予算の予測が当初予定の数千億円からどんどん膨張し「2兆、3兆(小池さんいわく、「お豆腐屋さんじゃあるまいし」)」といわれていた。いったいどうなっているのか、どう歯止めをかけるのか、調査チームとして予算の統括管理体制をチェックしたところ、誰も責任をもたない不思議な構造が露呈した。
 あいトレの場合もガバナンスは複雑なようだ。権限、予算、人事のすべてについておそらく実行委員会、会場である美術館(芸文センター)、県庁が複雑に関与しあっている。
〇着眼3 県庁と実行委員会の間は上場会社の親子上場問題に似たむずかしさがある
 実はその複雑さの一つに県庁と実行委員会の関係の曖昧さがある。後者は前者とは別だが、実質、資金面でも人的資源でも前者は後者を凌駕する存在である。
 だが、芸術文化には「内容については政治や行政は口出しすべきではない」という世界共通の原則があり、両者は単純な親子関係(いわゆる実施団体、外郭団体的存在)にあるわけではない。
 ここで想起されるのが最近、あいつぐ上場企業の親子上場問題である。例のアスクルの社長と役員の解任問題では、ヤフーがアスクルの親会社として子会社アスクルの社長と社外役員を解任した。社長解任まで踏み込むべきだったのか、さらに少数株主の利益をも体現する存在である社外役員まで解任してよかったのかどうか、ヤフーは各方面から権力の乱用だと批判を浴びている。
 さて、あいトレの場合はおそらく逆の批判が起きている。愛知県庁は「芸術文化には不介入」という原則に従って企画を実行委員会にゆだねた。手続き的には違法性はない。しかし結果的にはよくなかった。現地の展示を見た方はそうでもないようだが、行かずに報道だけに触れた県民の中には「政治プロパガンダのような作品展示を公共の施設で公金の入ったイベントでやってよいのか」という疑問をいだかれた方が多数おられたようだ。
 このように手続き的には違法ではないが、結果的に妥当ではないかもしれない事案はどう扱うべきだったのか。ことは単純ではない。
 芸術監督や知事の権限で進めたのだろうとか、やめさせられなかったのかという単純な話ではない。もしも、柔軟で丈夫なガバナンスが機能していたら今回の問題は起きなかった可能性が高い(展示するにせよ、しなかったにせよ、である)。
 
 以上は現時点での私の個人的な感想の域を超えない。他の委員の知見もいただき、委員会としての検証作業を始めたい。

(参考:過去の類似案件への取り組み実績)
 私の専門は政策評価と公共経営である。国交省の政策評価会の座長として各種事業の評価検証を行ってきた。公的機関の改革では08年から最近までの大阪府市の一連の経営改革のほか、福岡市(山崎市政)、新潟市(篠田市政)、東京都(小池都政、16-18年度)の行政改革、さらに国連機関、各種財団や大学病院等の改革をプロデュースしてきた。著書は行政改革、行政評価に関するものが10冊くらいあるが本件に関連する参考文献は「改革力」(朝日新聞社)である。
 ミュージアムに関しては静岡県立美術館の評価制度の設計を評価委員会の委員として担当。その後、東京芸大美術館、江戸東京博物館などの評価と運営改革を助言した。また新潟市立美術館の管理運営体制の見直し、横浜市立動物園の統廃合問題、長野県立美術館の建て替え問題等の検討委員会に参加した。そのほか、東京都では政策連携団体(いわゆる外郭団体=監理団体)の経営評価を行う委員として歴史文化財団、スポーツ財団等の評価と改革助言を行ってきた。ミュージアム分野では『ミュージアムが都市を再生する』(日経新聞社)を学芸の専門家と共著で書いた。

(補足)最後になるが私が大阪市の改革において大阪市音楽団の民営化や文楽の補助金見直しを提案したという情報が流布しているようだが事実ではない。私は上下水道や地下鉄バス病院等の民営化や独法化には関与した。しかし文化事業で積極的に関与したのは美術館博物館の独法化と美術館の統廃合問題、動物園改革、中ノ島公会堂の改革のみ。また大阪府については中ノ島図書館のサービス改善と公民連携である。他の案件については各部署や首長からの相談にのり、またヒアリングをしたことがある程度である。


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上山信一
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