上山信一の『見えないものを見よう』

未来は誰にもわからない。しかし洞察を深めれば、現実が変えられるかもしれない

日記

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前回と前々回は公共インフラを民営化するメリットや日本での普及の歴史を紹介した。今回は今後の展開を考えたい。
 
●上下水道に注目
 
 わが国の社会資本は、合計で約953兆円(2014年度、内閣府推計)ある。内訳を分野別に見ると、最大が道路の約35%、次いで農林漁業、治水、下水道が約10%ずつで並び、その次に文教施設(8.1%)、水道(6.0%)である。ちなみにコンセッション(公共施設等運営権制度)で話題の空港はわずか0.5% に過ぎない。
 
 これらのうち道路、漁港、ダム、文教施設のほとんどは、料金収入を伴わない。PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)の対象にはなるが、コンセッションや包括委託には向かない。また学校運営は民営化しにくく、ダム、堤防、漁港などはコンクリートの塊であり日々の運営という概念になじまない。となると今後、民営化の可能性が高い分野は料金徴収があって日々の運営がなされている下水道と上水道ということになる。
 
 すでに浜松市が下水処理場の一つにコンセッションを導入し、成果を出している。
ほかにも宮城県、奈良市、大阪市などが水道や下水道事業の施設(例えば浄水場、処理場)へのコンセッション導入を考えている。将来の財政支出を抑える観点から政府も支援しており、今後の導入は増えるだろう。
 
 しかし、上下水道は地形、人口密度等によって経営環境が大きく異なる。また自治体が所管することから、民営化の決定過程では様々な地域事情が影響する。地域それぞれに不確定要因を抱えており、その“筋目”をうまく読み取らないと単なる過剰期待と空騒ぎに終わりかねない。
 
●上下水道の事業特性を踏まえる
 
 空港やアリーナと上下水道は同じ公共インフラといっても性格が大きく異なる。上下水道は前者2つと比べると、市民生活に直結し、機能障害はすぐに衛生や浸水など安全問題につながる。だから政府も今後の施設の老朽化や財源の確保を考え、早めに経営課題を見える化し、合理化を進めたいと考える。多くの首長もそう思っているが、民間企業のようなスピードでは改革は進まない。
 
 例えば多くの場合、民営化や広域化で効率化した方がいいと関係者は思っている。
しかし、例えば「首長の手柄にしたくない」と議会の対立会派が意に反して反対する。市民に身近なテーマなので二元代表制特有の政治的なねじれ(議会 vs. 首長)の犠牲になりやすいのである。また上下水道の末端工事は地元の零細企業に任されている。彼らが現状維持を望み、議員たちに働きかけて「水道は命の水。直営が安全」といった議論を展開し、変化を拒む事例も見受けられる(実際は、現場作業の多くが直営ではなくなっているにもかかわらず)。
 
 このように上下水道の民営化は、自治体が主体であり、首長だけでなく議会の同意を必要とすることから一筋縄ではいかない。次回はそのなかでどうやって進めていくといいか、解説する。
 
前回は、公共インフラの民営化が日本で本格化しつつあることと、その背景を解説した。今回はより具体的に、インフラを所有する政府、運営を受託する企業、そして投資家(コンセッションの場合)の3者にとって、民営化がどういうメリットをもたらすのか考えたい。

 

●費用も効果も大幅に改善

 

 公共インフラの民営化には、最近ブームのコンセッション(公共施設運営権)のほか、部分委託、包括委託、指定管理者制度、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)、そして株式会社化などの手法がある。

 

 このうち指定管理者制度は発足から15年がたち、成果が明らかになりつつある。筆者が概観したところ、おしなべてコストは23割、苦情は35割減り、イベントや施設の運営では来場者数が35割は伸びるケースが多い。

 

 指定管理者制度の導入当初は、「公務員の高い人件費を民間の非常勤職員の報酬に置き換えるから安上がりになる」とその効果を短絡的に理解する向きが多かった。だが最近は作業手順の合理化や集客・増収に向けた民間らしい創意工夫の効果も出てきた。収益改善にコスト削減は必須だが、それを超える成果を出すにはサービスやコンテンツの価値を増し、施設稼働率を上げ、リピーターを増やし、客単価を上げる。つまりアップサイドの効果が大きい。

 

 例えば本連載第185回で紹介した大阪城公園の指定管理者制度の場合、かつて大阪市は年間約4000万円の維持費を負担していた。ところが20年間の計画で民間に委ねた後は、彼らが駐車場、レストラン、売店のほか、トラムや歴史文化イベントなどに約50億円もの投資をした。その結果、来場者、収入が大幅に増え、3年後には大阪市に2億円弱の収入をもたらしている。

 

 指定管理者制度に次いで注目したいのは、数年前から始まったコンセッションである。コンセッションでは、事業費が数百億円規模の案件が多く、中には関西空港と伊丹空港のように1兆円を超える例もある。運営を受託する企業にとっても、そこに投融資する企業にとっても、リスクもリターンも大きい。だが空港、下水道、アリーナ、有料道路などで導入が進んでいる。コンセッションでは、導入時に収支改善の期待効果がバリューフォーマネーとして計算され契約金額に反映される。発注側と受託側の双方が納得をした上での契約だからメリットは明確だ。しかし長期にわたる契約であり、始まったばかりの国内事例の成果の検証はこれからだ。

 

●かつての民営化推進とは異なる背景

 

 さて、このように公共インフラの民営化が拡大する背景には何があるのだろうか。世界のトレンドに沿った政府の意向が働いているのは間違いないが、それだけでは企業も自治体も動かない。現場の具体的事情としては、第一に公的インフラを担う現場部局、例えば下水道局や道路公社の都合がある。これら現場部局はかつて民営化反対の急先鋒だった。労働組合が高賃金と雇用を守るために政治力を駆使して反発した。国鉄改革はその典型と言えよう。

 

 だが、こうした状況は近年激変した。現場では団塊の世代の退職が続く一方で若手の技術人材が不足し、財政も余裕がない。そんな中でどんどん老朽化する設備の更新に対応しなければならない。人も金も足りない中、各地で効率的な事業経験のノウハウを積んできた企業に、運営や場合によっては更新まで任せようという流れが生まれつつある。

 

 第二に民間企業の動きである。例えばフランスのヴァンシやヴェオリアなどの公共インフラの運営受託企業は、これまで培ったノウハウを各地で生かしてビジネスを成長させたいと考える。さらに機材を納入していた企業も運営受託に参入し、業態を高度化させたい。

 

 第三に投資家だが、これまでは低収益でかつ長期に資金を寝かさなければいけない公共インフラへの投資にはあまり興味がなかった。だが近年は世界的な金余りに加えて、有望な投資先が減っている。リーマンショックのような株価乱高下にも直面しており、安定的な投資先をポートフォリオの中に組み込みたい。そんな中、上下水道や道路、空港などの公共インフラは長期安定の投資対象として新たな価値が見いだされている。

 

 以上3つの事情を総合すると、公共インフラの民営化を巡っては政府、受託企業、投資家の3者間に共存共栄のWin-Win-Win関係が成立しつつあると言えよう。

 

3段階に入った公共インフラの民営化これまでの総括と今後の展望(上)
 
 ここ数年、空港の民営化の話題が続く。関西空港に始まり、仙台、福岡、そして北海道、熊本、高松、南紀白浜など全国で18カ所がすでに民営化され、あるいは計画中である。空港だけではない。道路、図書館、アリーナ、美術館など、この20年ほどの間に公共インフラの民間委託や民営化がかなり進んだ。
 
 この間に手法も段階的に進化した。第1段階は委託や指定管理者制度である。これは当初は清掃や警備などの部分委託が中心だったが、近年は施設全体の運営を任せる包括委託(下水処理場など)や指定管理者制度などが普及した。第2段階はPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)である。2000年頃から施設建設をゼネコン等の民間企業が肩代わりする日本型のPFI が広まった。そして第3段階が空港等の近年のコンセッション(運営権譲渡)ブームである。
 
 この間に担い手となる企業も広がった。第2段階までは、ゼネコンを除くと担い手はサントリーパブリシティサービスなどの専門企業、あるいは地元のビルメンテナンス会社などだった。ところが最近の空港民営化には、三菱商事やオリックスなど大手企業が入ってきた。
 
 「官から民へ」そして「不動産の金融化」は世界的な流れであり、公共インフラの民営化は今後も広がるだろう。しかし、空港の次には何が対象になるのか。また、いつ、どこからどういう手法で民営化されていくのか、わかりにくい。上・中・下の計3回にわたってこれまでのわが国の公共インフラの民営化を総括し、今後の動向を考えたい。
 
●「インフラビジネス」への関心の高まり
 
 「公共インフラ」の民営化はこの数年、「PPP(パブリック・プライベート・パー
トナーシップ)/PFI」というキーワードで語られてきた。旗振り役は内閣府と国土交通省である。両者は特に、空港を対象にコンセッションの制度整備から普及に至る過程で大きな役割を果たした。
 
 (参考情報)
  PPP/PFI推進アクションプラン(平成30年改定版)
  (内閣府 民間資金等活用事業推進室)
 
 民間側の関心も特に投資家を中心に高まってきた。例えば、三菱商事の100%連結子会社である丸の内インフラストラクチャーが、都市インフラ事業を推進すべく日本初の総合型インフラファンドを組成した。同社は民間企業分を含む国内インフラ事業を投資対象に投資事業有限責任組合(ファンド)を組成し、既に300億円超の出資のコミットを得た。将来的には最大1000億円を上限に国内の機関投資家から出資コミットを受ける予定という。
 
 (参考情報)
  三菱商事の報道発表資料(2017/12/11
 
 719日には日経ビジネスイノベーションフォーラム「インフラビジネスの未来」
(主催:日本経済新聞社)が開催された。地味なテーマだが400人の受講定員がすぐに埋まった。ちなみに、このセミナーで筆者は基調講演「公共インフラの今後と民間セクターの役割 〜自治体の経営と財政の視点から〜」を担当した。
 
 情報提供のサイトも充実してきた。例えば「新・公民連携最前線」(日経BP社)と「インフラビジネスJAPAN」(イノベーション推進センター)が全国の動きをくまなく紹介している。
 
●公共インフラの民営化は歴史の必然
 
 なぜ公共インフラの民営化が進むのか。4つの動きに着目して整理しよう。
 
 第1は、世界各国に共通する国と自治体の財政危機である。財政当局はとにかく支出は抑えたい。インフラの投資と維持管理の費用もなるべく民間に負担してもらいたい。日本も例外ではない。1999年にPFIが法制化され、下水処理場から美術館まで様々な建物の新規建設にPFIが使われた。さらに2011年には同法が改正され、既存インフラについても料金収入があればコンセッション方式による民営化が可能となった。
 
 第2は民間の金融ビジネスからの参入である。この20年の間にありとあらゆるア
セットの金融商品化が進んだ。特に不動産と金融の融合は著しく、不動産の証券化を経て上物REIT(不動産投資信託)が出現した。さらに、最近ではホテルや病院など分野特化型のREITまで出てきた。
 
 公共インフラについても主に海外で空港や上下水道が民営化され、民間の投資対象となった。公共インフラの収益性(ROI:投資利益率)は高くない。しかし、世界的なカネ余りの中で公共インフラは長期の安定投資先として魅力的である。しかもリーマンショックのような投資環境の激変のリスクが増している。代替投資の対象としても「公共インフラ」への関心が高まる。
 
 第3は新興国の伸長である。新興国では港湾、空港、道路など公共インフラ投資が盛んだが、資金も技術もない。そこで先進国企業が政府と組んで機械をパッケージ輸出する。資金調達では先進国の投資家を募り、インフラファンドで対応する。そうした中からフランスのベオリア(上下水道)、バンシ(空港)など、先進国発祥の専門企業がグローバルオペレーターへと育っていった。
 
 第4は規制緩和と情報公開の進展である。考えてみれば道路、上下水道、港湾、空港などは、もともと「公共インフラ」として民間投資になじまないとされてきた。公平と平等を旨とする官僚制と民主主義に照らせば、社会の基盤を支えるインフラを特定の民間企業に任せるといったことは論外だった。また企業もかつては巨額の資金を長期にわたって寝かせ、しかも利幅の薄い事業には興味が薄かった。短期の投資でもうかる仕事がいっぱいあったのである。
 
 ところが状況は変わった。政府の事業運営の実態が情報公開されるようになり、企業は公務員集団よりも効率的で質の高いサービスを提供できることが分かってきた。入札制度も整備された。そこで業務委託から始まり、やがて投資についても競争の中で企業を選び、経過を情報公開しさえすれば、民間に任せてもよいと考えられるようになった。そして民間側もITを駆使すれば複雑な収支予測や契約手続きもクリアできるとの自信を得た。
 
(参考)日経ビジネスイノベーションフォーラム「インフラビジネスの未来」での
     筆者の基調講演の資料は
 
首都大学を都立大に戻すという改名案に私は賛成です。
1.受験生への浸透という意味では「都立大」のほうが絶対わかりやすい。
2.過去の経緯で女子大などとの統合の際に吸収される側の気持ちに配慮してあえて変えたという説がある(確かに「東京三菱銀行」の場合など企業でもそれはよくある)。しかし都民や受験生にとってはどうしたって「都立大学」が一般的でわかりやすい。「県立大」「府立大」が普通の名称です。
3.大学関係者の間では、首都大学東京は「首都大」「くびだい」と略して呼ばれることが多いが、「くび」はなんとなく生々しい感じで違和感を覚えます。
4.ちなみに石原さんが考えられたという「首都大学東京」「新銀行東京」はセンス自体はいいとは思います。しかし、昔からあって親しまれている平凡な「都立大」のままでよかったのだろうと思います。
なお、以上は都庁で仕事をした元特別顧問の経験にもとづくコメントではなく、首都圏に在住する一大学教授としてのまったく個人的な感想です。
 私は小池知事の知事就任直後から今年3月末まで、東京都の都政改革本部特別顧問(都庁の顧問も兼務)として、都庁が久しぶりに取り組む行政改革の設計に参画した。特別顧問は非常勤公務員でもあり、何をしてきたか一定の情報公開をすべきだと考えた。そこで約2年弱の特別顧問としての仕事を総括したい。なお、客観性を確保するため、知人との問答を要約した形でまとめた(日経ガバメントテクノロジーのメールマガジンで配信した内容を再構成して掲載する)。

●問1:特別顧問としては主に何を担当したのか?
 
【回答】
 都庁全体の顧問も兼務しましたが、ほとんどが都政改革本部の特別顧問の仕事でした。内容は都知事選直後から都議選(20177月)の頃までと、それ以降で大きく変わります。前半は2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の競技会場と全体予算、そして築地市場の豊洲への移転計画の見直しが中心でした。この二つの見直しは小池さんの選挙公約でもあり、かなりの時間とエネルギーを割きました。後半は東京大改革で掲げた行政改革の設計と実践の助言です。
 前半では、(知事が)都民との約束を(結果として)達成して見せないといけない。オリンピックも市場移転も、期待にダイレクトに応えなければならなかった。私たちも無理やり突っ走った面がある。しかし、後半の行政改革は、公務員組織がある程度納得して動かないと何も実現しません。事務局の調整のもと、各局とは時間をかけて話し合いながら進めました。
 
●問2:特別顧問は今までになかった役職だし、知事が直接任命する。都庁官僚たちの受け止め方はどうだったか?
 
【回答】
 当初は小池さんが一人で都庁に乗り込んだ状況で都民ファーストの会もまだなく、都議会に23人のサポーターがいるだけでした。一方で都民の(改革への)期待は高く、「都議会のドン」問題など政治的な課題もありました。そんな中で、私としてはできるだけ客観中立的に仕事をしました。しかし知事の意向で仕事をする以上、政治的な対立構造の中で特別顧問や都政改革本部の役割を受け止める向きがあったのは否めません。
 
 後半の行政改革については総務局、都政改革本部の事務局と一緒に作業をやり、彼らも主体的にやりました。職員は協力的、幹部も改革の趣旨をよく理解され、総じて順調でした。情報公開や内部統制などの制度の手直しは当初から進み、「見える化改革」もしだいに理解が進みました。
 
 もちろん当初、職員は外部から来た特別顧問にいろいろ言われるのに慣れていません。しかし個別・具体の話でなるべく実現可能な改革の出口を見いだす工夫をするうちに、抵抗感は薄れていったと思います。
 
 例えば「見える化改革」で(港湾局の)視察船「新東京丸」の見直しをしました。多くの職員の予測とは逆に、私たちは「造った方がいい」と助言しました。合理的に分析した結果です。この例で「初めに削減ありきではない」「政治的な意図で仕事をしているわけではない」とわかってもらえたと思います。
 
 教育庁と相談して、学校支援の監理団体を設立すべきという案も出しました。従来の行政改革は都庁に限らず、人も予算も「何でも削る」というものでした。だから庁内には戸惑いもありました。小池知事からも「大丈夫ですか」と聞かれたほどです。しかし、スクラップアンドビルドでいいから、ぜひ作るべきだと提言しました。また今もそう考えています。
 
 「2020改革」のような行政改革は、総務局も元々必要な時機だと考えていたと思います。しかし、この10年間、知事がコロコロと変わるし、歴代知事は必ずしも行革への関心が高いともいえず、提案しにくかった。そうした思いも今回は吸い上げて一気にまとめることができました。
 
●問3:個別の改革について見ると、下水道局が施設整備やサービス提供などの事業運営権を民間企業に期間限定で売却するコンセッション(公共施設等運営権)方式を提起している。
 
【回答】
 下水道事業へのコンセッションの導入は、世界や全国を見渡すと常識、歴史の必然に近くなっています。従来の公営のままだと、日本でも将来、大赤字になるのは明らかです。今は50年前に国鉄の民営化が「あり得ない」と言われたのと同じ状況でしょう。しかし、他の自治体がコンセッションを導入して赤字を減らせば、都もやらないわけにはいかなくなります。下水道事業のコンセッションは浜松市(終末処理場)が全国で初めて導入し、大阪府市なども検討中です。
 
●問4:独立法人化を検討することになった都立病院の経営改革についての見解は。
 
【回答】
 独法化は、方向性としては正しいが、他の選択肢も含めた検討の余地があります。個人的には全8病院を丸ごと一つの独法に入れるのではなく、岐阜県のように個々の病院ごとに独法化するやり方がいいと考えます。あるいは、民間委託もいいでしょう。個別に答えは違うでしょう。
 
 各病院のポテンシャルをまずきちんと分析しないといけません。現状では直営のガチガチの人事制度のもと、(各病院の裁量で)麻酔科医やリハビリの職員の増員すらできません。せっかくの立派な施設が人手不足で生かされず、結果的に稼働率が下がっています。直営にこだわるが故に、いい人材が取れない、いい医療ができないという悪循環に陥っています。経営形態を変えないとジリ貧に陥り、赤字の拡大、医療の質の低下、事故の可能性につながります。
 
●問5:大阪市では地下鉄を民営化したが、都営地下鉄はどうか?
 
【回答】
 大阪市営地下鉄の民営化は、今から12年前に私が初めて当時の關市長に提案しました。当時は労働組合が極めて強い中、過剰人員・過剰賃金が目に余る状態でした。国鉄改革に似て、組合問題が根っこにありました。しかし、その問題は今回の民営化までの間に政治の変化等で解決しました。民営化の目玉は、今や調達・入札の効率化や資産の有効活用です。
 
 東京都も基本は同じです。地下鉄もバスも上下水道も病院も、公営企業はすべからく柔軟な経営形態に切り替えた方が良いと思います。しかし、猪瀬知事時代に東京メトロとの統合案が出たりして、都営地下鉄は揺さぶられ、経営努力が進みました。ちなみに当面の問題は監理団体が小さ過ぎることです。もっと強い子会社を作るべきで、そこが民間企業として柔軟な仕事をすれば、実質的に「上下分離」の民営化に近い形にできます。ただ、現状では行革で監理団体の職員数が厳しく制限されています。ヒトもカネももっと投資すべきです。
 
 あと、大阪市営地下鉄は独占企業体に近かったから競争はあまりなかった。東京ではJRも強いし、都営地下鉄は一生懸命、東京メトロを追っています。公営だが決してのんびり経営しているわけではない。ただ、(経営主体が)手足を縛られているのは自由にしてやらないと、やがてやってくる人口減や設備老朽化には対応しにくくなるでしょう。将来、弱体化してくる関東の私鉄を救済する可能性などもありますから、早めに株式会社化しておいた方がいい。ただ、同じ地下を走っているからといって東京メトロと一緒にする意味はあまりないでしょう。
 
●問6:バスなど他の都営交通も民営化すべきか。
 
【回答】
 都市中心部のバスは恵まれていて、人口密度が高いから(単体でも)黒字化が可能です。路線の再編やダイヤの見直し、人件費の圧縮など大阪市並みの合理化を行えば、都バスは黒字になるでしょう。他の自治体でも多くが、バス事業は路線別に民間譲渡しており、やり方は色々あります。まずは「見える化改革」で地下鉄もバスも路線別の収支をオープンにするべきで、そこから経営センスが磨かれます。そしてダイヤやバスの場合は路線の見直しもする。改革はまずここからでしょう。
 
●問7:美術館などの文化施設や公園のサービス改善など住民向けの改善活動はどう進めたのか?
 
【回答】
 美術館などは監理団体の東京都歴史文化財団が指定管理者となっています。そこの学芸員は優秀で、展示の中身も高く評価されています。しかし都からの出向職員が担う建物の管理や来館者サービスは、いまひとつです。
 
 ハコモノの管理や来館者サービスは、百貨店やイベント会社に再委託すべきです。専門性のない都庁職員が副館長などに出向する慣行も廃止すべきです。理想的には財団形式をやめて、企画と学芸部門は独立法人化し、サービスや管理はノウハウがある民間企業に任せたらよい。仮に財団が全部を担当し続けるなら、ハコモノ管理については民間からプロの人材を雇ってくるべきです。そしてその人の下でプロパー職員を育てるべきです。
 
 役所の改革はまずは美術館や公園などサービス系の分野から取り組むのがよい。利用者の反応が得られ、励みになります。
 
 しかしこれまでの都庁は住民ニーズに向き合うよりも議員の顔色を気にしがちでした。何をやる前にも必ず「一部の議員が何か言ってくるかもしれない」と気をもみます。過去の知事の力が弱すぎたのか、組織が巨大すぎて都民の声が直接聞けないからかわかりませんが、もっとプロとしての自信をもって仕事をしてほしい。
 
 そのためには、ヒアリングやアンケート調査で普通の都民の反応を直接自ら取りに行くことが大切です。それをしておけば、一部の議員の思い付きのような発言に右往左往することもなくなるでしょう。
 
●問8:約2年間の改革を経て、都庁の印象は変わったか?
 
【回答】
 知事選挙の直後からオリンピック予算や築地市場移転の見直しにかけての頃は、職員の間に抵抗と戸惑いがありました。しかし都政改革本部が機能し始めるにつれ、改革の狙いを理解し、変えることに対して納得する人が増えました。
 
 利用者の生の声やデータを集め、それを公開する。そこから改革の方法を考えるというやり方にも、だいぶ慣れていただいたと思います。事業分析の対象になった部局のほかにも、監理団体や局のヒアリングを行う中で、「世の中の常識はこうではない」「数字を基に費用対効果を見直す」ということを相当、考えてもらうようになったと思います。
 
●問9:都庁や議会からの反発もあったか?
 
【回答】
 東京都に限らず、企業でも役所でも改革というものは、全員がすぐ同意するものではありません。反発はあって当然です。何の反発もなければあまり意味のない改革とすら言ってよいでしょう。
 
 とにかく当初はいろいろな混乱がありました。我々も、わかっていてあえてかき回したことがあります。私は改革へのエネルギーの源泉は、共感でも怒りでもいいと割り切っています。過去よりも今後に向けた中長期の動きが大事です。今回の都政改革では、全体として次第に「新しい考え方に変えなくてはいけない」という気運が醸成できました。
 
 ちなみに特別顧問への反発だの支持だのなんて、どうでもいいんです。我々は所詮、組織の構成員ではありません。職員や知事には寄り添うけれど、改革の触媒役です。だからあちらから見たら使い捨てでいいんです。その役割は十分に果たせたし、今の都庁はいい方向に反応しつつあるのではないでしょうか。
 
●問10:やり残した仕事は何か?
 
【回答】
 やり残しはありません。『2020改革プラン(http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/2020kaikakuplan/2020kaikakuplan.pdf』に全て反映してあります。これまでもやるべきことを順番にやってきました。ただ、都庁改革を車にたとえていうと、知事お一人ではなかなかエンジンがかからなかった古い高級車を、私たちが蹴飛ばして無理やり動かしたようなものです。蹴飛ばし続けたら、とうとう反応して動いた。それで最近は近所なら言うとおりに走れるようになったという程度です。
 
 たとえば、公園や美術館などの現場に行って、目に見える形で都民サービスの改善やコストダウンがどんどん進んでいるかというとまだまだです。これは10年前にエンジンがかかった大阪府市とは全く違います。大阪では現場から民間に改革案を問うという動きも出てきました。役所内から一部事業を民間譲渡する案も出てきます。都庁の場合、監理団体の統廃合や役割分担を大きく変えることは大きな課題です。しかし動きはまだまだで、これからが勝負です。
 
●問11:今後の都政に期待することは?
 
【回答】
 前任の過去二人の知事が任期を全うせずに辞められた組織です。そんな中、都庁はやっと小池さんというまっとうでパワフルな知事を得ました。大臣の経験もあって安定感があります。寸暇を惜しんで職員の話を聞かれるし、ろくに都庁に来ない知事の時代とは隔世の感があるでしょう。
 
 だから職員は知事に相談しながら、『2020改革』をちゃんとやってほしい。その意味でいうと、「しごと改革」「仕組み改革」は順調に進んでいますが、「見える化改革」は心配です。自分でどこまで事業のあり方が見直せるか。限界への挑戦です。少しでも手を抜くと、絶対に失敗します。現場は現状肯定に走りがちですから、特に副知事、局長が率先して改革案を作らないと枝葉末節の改善作業に終わるでしょう。

 ただ、都庁はオリンピック開催を控えた特殊な時期にあり、その準備で忙しい。そして前の二人の知事の退任や議会勢力の激変に伴う混乱もあったので、他の自治体とは状況が違います。情報公開や内部統制などは最優先課題ですが、そのほかの改革は優先順位を考えながらやるべきで、その見極めは知事の采配にかかっていると思います。
(以上)
 

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上山信一
上山信一
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