元・天津駐在員が送るエッセイ

中国と日本、それをつなぐ言語について、一緒に考えましょう。

ラスト・コーション

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ラスト・コーションに見られる易氏と王佳芝の関係を、「虎と伥」の関係と評論家達は言います。
虎と伥とは、下記の物語から来ております。

身を捨てて国のために尽くそうとした王佳芝も結局中国では、汪精衛と同じように売国奴扱いされてしまうようです。ここら辺の最終的な感情、判定が、今でも日本と中国では違うように感じます。

日本では、王佳芝は悪人にはなりえないと思います。
しかし、中国では悪人になってしまうんですね。


為虎作伥

昔、ある地方の洞穴に、獰猛な虎が住んでいました。
ある日その虎は食べ物が無くなりお腹がすいたので、洞穴をでて付近の山に獲物を見つけに行きました。
丁度その時、山の中腹の遠くない所に、一人の人が歩いて来るのが見えました。
すぐに走っていって襲いかかりかみ殺して、その肉を食べてしまいました。

しかし、それでもお腹が一杯にならない虎は、その死んだ人の霊魂を捕まえて、もう一人捜して食わせるように脅します。
そうしないといつまでも自由にはさせないと。
その霊魂は仕方なしに同意します。
そうして、その霊魂は、虎の案内役になり、ついに二人目を見つけます。
その霊魂は自分が自由になるために、虎の手助けをします。
まず、その霊魂が人を迷わし、帯を解かせ、服を脱がせ、虎が食べるのに便宜を図ります。
その虎を助けた霊魂は、「伥鬼」と呼ばれます。
それ以後、

悪人を助けて非道徳な事をすること

を「為虎作伥」というようになりました。


清朝高官の暗殺に失敗し、捕らえられた汪精衛は、獄中で詩を作り続けます。
その中で特に有名なのが、

《被逮口占》、別名《慷慨篇》

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口占:口を突いて自然に詩が出来たと謂う意味。
※唐代詩人の詩題は口號と書き、その後の詩人達は「口占」と書く様になった。特に清代の詩人に多く見られる。

この詩の訳文を探しておりましたが、なかなか見つかりません。一部解説してあるページがありましたので、ご紹介します。

慷慨(かうがい)して、燕市に歌ひ
從容(しょうよう)として楚囚となる
刀を引き一たび快を成せば
負(そむ)かず少年の頭に。

慷慨歌燕市:意気高らかに燕の市で歌っていた荊軻のように
從容作楚囚:騒がずに悠々と囚われの身となろう。
引刀成一快:刀を引き寄せて、素速く引き抜けば。
不負少年頭:若い時代に心に誓った「壮遊」の精神に悖ることはない。 
慷慨(kang1kai3):意気が昂ぶって盛んなさま。ここでは燕の市での荊軻のさまをいう。

※史記・刺客列傳に出てくる人物。戦国七雄の一人。
燕の太子丹より、強大になってきた秦王政(後の秦の始皇帝)の暗殺を命じられた荊軻は、
匕首を授かり秦に向かって旅立つ。決死の旅ゆえ、太子をはじめ皆は白の喪服に身を包んで、燕の国境である易水のほとりまで見送り、惜別に際して、高漸離が筑を奏で、荊軻がそれに合わせて歌ったのがこれである。

從容(cong2rong2):悠々としているさま。ゆったりと落ち着いているさま。 
楚囚:囚われた楚の人。異国に囚われの身となっても、郷国の作風を失わない囚人。
引刀:刀を引き寄せる。
一快:速い。鋭い。すばやく(抜く)。
負:そむく。期待を裏切る。
少年頭:若者のの黒い髪の毛。若者時代の決意。

ラスト・コーションの中でも、Kuang裕民が劇団の仲間を暗殺計画に引き込むために

「引刀成一快、不負少年頭」

この句をつかい説得します。この詩のなかでも特にこの句が有名で、よく引用されます。
あなたの中文の中にもいかがでしょうか。文章が一気に高尚になること間違いなしです。




易氏が王佳芝を虹口区の日本料理屋に呼び寄せる場面があります。そこで、易氏は、彼女にこれまでのスパイ生活の愚痴と恐怖を漏らします。彼女は、易氏を慰めるために歌を歌います。

その歌が、周旋(王編)が歌った「天涯歌女」です。
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作詞: 田漢
作曲: 賀緑汀
原唱:周旋(王編)

歌詞:

天涯呀海角 地の果て、海の果てまで
覓呀覓知音 尋ねて、知音を尋ねて
小妹妹唱歌郎奏琴 彼女は歌い、彼は琴を奏でる
郎呀zan們兩是一条心 貴方、私たちの心は1つ
愛呀愛呀郎呀 愛してます。愛する貴方
zan們倆是一条心 私たちの心は1つ
家山呀北望 故郷の山は、北を望み
泪呀泪沾襟 涙が、袖を濡らす
小妹妹想郎直到今 彼女はずっと貴方を想い
郎呀患難之交恩愛深 貴方と交わした苦難の愛は深く
愛呀愛呀郎呀 愛してます。愛する貴方
患難之交恩愛深 苦難の愛は深く
人生呀誰不惜呀惜青春 人生は、誰もが青春を惜しむ
小妹妹似綫郎似針 彼女は、彼と糸で結ばれたように
郎呀穿在一起不離分 貴方、ずっと離れられません
愛呀愛呀郎呀 愛してます。愛する貴方
穿在一起不離分 離れられません。

ちなみに当時、「七大歌星」といわれる女性たちがいたようです。周旋(王編)もその一人。
残りの5人は、見つけたのですが、もう一人がわかりません。
ご存じの方おられましたら、教えてください。

イメージ 2 李香蘭(山口淑子)
イメージ 3 白虹
イメージ 4 呉鴬音

イメージ 5 姚莉
イメージ 6 gong秋霞



映画の易氏が、丁黙村で有ることは、先に書きましたが、

王佳芝は、鄭苹如です。

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鄭苹如は浙江蘭渓の人で、1918年生まれ。父は、鄭鉞、別名英伯。彼は、若いころに日本の法政大学に留学、孫中山と革命に奔走。同盟会に加入し国民党の元老でありました。

彼は東京で日本旧名家の娘木村花子と知り合います。花子は中国革命に非常に同情し、結婚後花子は夫と中国で暮らし、名を鄭華君と改名。彼らは二男三女をもうけ、鄭苹如は次女。彼女は幼い頃から聡明で、人の気持ちをよく察し、母親から流暢な日本語を学んでいました。

鄭英伯は帰国後上海復旦大学教授を務め、また江蘇高院第二分院の首席検察官をつとめたこともあります。鄭苹如は明光中学に行っておりましたが、その時の中学の校長が丁黙村でありました。

抗戦が始まってから、鄭苹如は抗日救国運動に参加。上海陥落後、彼女自身の卓越した条件(社会的人間関係と日本語能力)によって、抗日の地下工作を行います。中統に加入当時わずか19歳。

鄭苹如はきわめて優秀な諜報員で、彼女は母親の人間関係を利用し、日本側の高級幹部の内、日本首相近衛文磨が上海に派遣した早水親重と関係をつけ、早水の紹介で近衛文磨の息子近衛文隆、近衛忠磨、および華中派遣軍副参謀総長今井武夫などと知り合いになります。


丁黙村暗殺

汪精衛政権は、当時上海の極司菲爾路(現在の万航渡路)76号に、スパイ工作本部を設立。主任丁黙村は原軍統(国民党特務組織)第三所所長、売国奴の李士群と日本側に寝返って、抗日を邪魔しておりました。

中統上海潜行組織の責任者、陳果夫の甥にあたる陳宝華(馬編)は、彼の弱点である好色をついて、「美人計」を考え、彼の抹殺を決定します。中統は、時機が来たのを見て暗殺にかかります。

初回、鄭苹如は丁黙村を彼女の家に招待。鄭家付近に狙撃者を張り込ませます。彼の乗用車がもうすぐ鄭家に着く時、彼は考えを変え、帰ってしまいます。

第2回、1939年12月21日丁黙村は滬西の友達のところで、昼食をとっておりました。彼は鄭苹如に電話して誘い出し夕方まで一緒に過ごします。丁は虹口へ行かなければいけないと言い、鄭は南京道に行かなければならないといいます。一緒に車に乗り、静安道、戈登路(現在の江寧路)のシベリア皮革製品店まで来ると、鄭苹如が急に毛皮の外套が買いたいと言い出します。彼も彼女と一緒に車を降り、一緒に外套を選びます。しかし、その時彼は気づきます。ガラスの窓の外に、2人の不審な男がこちらをじろじろ見ているのに。丁は情勢が怪しいことに気づくと、オーバーコートのポケットから札束を取りだし、ガラスケースの上に置き「自分で選んで。俺は先に帰る。」と言い残し、外に駆け出します。

店の外を徘徊していた中統特務は、丁黙村が、外套も選ばずに飛び出して来るとは思いもせず、一瞬躊躇します。丁の運転手は、彼が狂走して来るのを見つけ、エンジンをかけ、ドアを開けます。銃声が鳴った時には、彼はすでに車内の中に入り込んでいました。銃弾は、防弾車に撃ち込まれますが、彼には全く傷は有りませんでした。

彼女は、自分一人で彼を暗殺する事を考えます。拳銃を隠し持ち。しかし、丁もすでに彼女を捕らえる網を張っておりました。翌々日、鄭苹如は、車で76号行き、丁黙村を尋ねます。しかし、そこですぐに丁の側近林之江に拘留されます。李士群の妻、叶吉卿はすぐにそのことを知り、沈耕梅を行かせて尋問させます。丁黙村は、阻止することができません。鄭苹如は彼女と中統の関係を否認。しかし、丁を殺そうとしたことは、彼にもてあそばれたからだと認めます。丁黙村は鄭苹如が、自分の暗殺に関係したことを恨みます。しかし、彼女の美しさに未練があり、彼は彼女を死地送ることはできませんでした。

しかし、丁黙村の妻、趙慧敏は密かに林之江を捜し出します。そうして、鄭苹如は、秘密裏に憶定盤路三十七号の「平和救国軍」第4路司令部内に移されます。このことは、丁黙村も李士群も知りませんでした。1940年2月ある月の光の無い晩、林之江は、囚人室から丁黙村が呼んでいると鄭苹如を連れだし、車で歪んだ道を通り、滬西中山路の空き地に着きます。

鄭苹如は、3発の銃弾に倒れます。当時わずか23歳。


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