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		<channel>
			<title>ShortStory</title>
			<description>{{{
ちょっとした読み物を書くんです。読んでください。
冗談ぽいのと大真面目のとあります。
読んで何か景色を思い浮かべていただければ最高です。
すいません、無断転載とか無断コピーとかはいけません。著作権は私です。
ドウゾ読んでください。
}}}</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird</link>
			<language>ja</language>
			<copyright>Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.</copyright>
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			<title>ShortStory</title>
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			<description>{{{
ちょっとした読み物を書くんです。読んでください。
冗談ぽいのと大真面目のとあります。
読んで何か景色を思い浮かべていただければ最高です。
すいません、無断転載とか無断コピーとかはいけません。著作権は私です。
ドウゾ読んでください。
}}}</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird</link>
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		<item>
			<title>Read a person&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;人は人生のできるだけ早い段階で&lt;br /&gt;
傘がすべての雨を防ぐわけじゃない&lt;br /&gt;
という事実を知る必要がある&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;雨は喩えではない&lt;br /&gt;
空から降ってくる、あの雨として&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/60121143.html</link>
			<pubDate>Thu, 30 Jul 2009 21:45:51 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>しかるにけっきょくのところ</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-d4-30/shionozakibird/folder/1475416/32/60121132/img_0?1254544473&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_320_240&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　電話を切ったあと、僕は風呂場に行って本を読みながら浴槽にお湯がたまるのを眺めることにした。&lt;br /&gt;
　理由ははっきりしている。風呂場に行って本を読みながら浴槽にお湯がたまるのを眺めることくらいしか、することがなかったからだ。&lt;br /&gt;
　休日の午後３時だった。&lt;br /&gt;
　お湯の温度をいい具合に調節して蛇口をひねり、僕は浴槽のへりに腰掛けて本を開いた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　じゃばじゃばと音を立てて、浴槽の底にお湯が落ちてゆく。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　綿矢りさの本を読むときに僕が考えることは、もちろん綿矢りさのことだ。&lt;br /&gt;
　彼女がかなりの美人だということを僕は知っている。ずっとまえに夜中までやっている街の電器屋に電池を買いに行ったとき、そこのテレビに映っているのを見たのだから間違いない。&lt;br /&gt;
　喫茶店風に整えられたスタジオの中で、白髪のキャスターから新しい本のことについていろいろな質問をされた綿矢りさは、軽い微笑みを交え、首を傾けながらそれに答えていた。白髪のキャスターは彼女が美人であることについては一切触れなかった。自分が美人だと言われて綿矢りさがどういう反応を示すか、僕はとても興味をもった。でも白髪のキャスターは最後までそのことを彼女に知らせなかった。もしかすると、彼は綿矢りさが美人だと言うことに気づいていなかったのかもしれない。彼女の新しい本のことばかりに気をとられていたのだろう。僕としては非常にがっかりだった。&lt;br /&gt;
　僕は『蹴りたい背中』という本を読みながら、綿矢りさの髪の毛のことやそれに包まれた耳のこと、それから肌のことなんかを考える。そのほかのことも考える。・・・それこそ、いろんなことを考える。そしていつも、変な気分になる。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　じゃばじゃばと音を立てながら、お湯が浴槽にたまってゆく。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　さっきの電話は青山ミキオからだった。&lt;br /&gt;
「３時ごろそっちに行っていいか？」とミキオは電話で言った。&lt;br /&gt;
「なぜだ」&lt;br /&gt;
「女房が３時から美容室に行くんでな、そのあいだ早紀を見てなきゃならないんだ。美容室がおまえのアパートの近くなんだよ」&lt;br /&gt;
　ミキオは自分の奥さんを女房と言った。『女房』だ。&lt;br /&gt;
　早紀というのはミキオとその『女房』の子供で、もうすぐ１才になる女だ。&lt;br /&gt;
「それはどうかな」&lt;br /&gt;
「なにか予定があるのか？おまえが」&lt;br /&gt;
「ああ」&lt;br /&gt;
「・・・そうか」&lt;br /&gt;
　僕はそのとき、することもないから３時になったら風呂場に行って本を読みながら浴槽にお湯がたまるのを眺めることにしようと決めていたのだ。もっと言うと、３時になったら風呂場に行って浴槽にお湯がたまるのを眺めながら綿矢りさのことを考えて変な気分になろうと、もうすでに決めてしまっていたのだ。&lt;br /&gt;
　電話があと３０分早かったら、僕は当然ミキオを僕のアパートに招いていただろう。彼はついていなかったのだ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　お湯はじゃばじゃばと音を立てながら浴槽にたまり、そこから白い湯気が立ち始めてきた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　ミキオとは１５才からの付き合いだ。ヤツは宅配便の会社でドライバーの仕事についていて、２年前に結婚している。仕事があって妻子があって、金がない。僕はといえば、湯をためるべき浴槽があり綿矢りさが美人だということを知っていて、そして金がない。&lt;br /&gt;
　金がないのはむかしから変わらない。スーパーのパン売り場でパンを万引きして食ったこともある。２３のときだ。&lt;br /&gt;
　金があったら浴槽に湯がたまるのなんかわざわざ眺めることはしないのかもしれない。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　じゃばじゃばと音を立てながら、お湯は浴槽の下のほうにたまっていた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　そういえば、綿矢りさにインタビューをしていた白髪のキャスターは、自信に満ち満ちた顔つきで妙にわかったようなことばかりしゃべっていた。彼がなにかわかったようなことを言うとき、テレビはいつも彼のことを映し出した。僕は、もっと綿矢りさのことを映せばいいのにと思って少し苛立った。&lt;br /&gt;
　電器屋を出たあと、近くの夜中までやっている本屋に行って、綿矢りさの本を買った。なにが書いてあるのか、本の内容について興味があったわけじゃない。ただ彼女が書いた本を手にとって開いてみたかったのだ。&lt;br /&gt;
　僕がこのアパートに部屋を借りてからもうずいぶんになるけれど、外階段を上りきったところの天井についている蛍光灯の照明器具は、僕が気づいたときから今に至るまでずっとランプが切れかかってチカチカと点滅を繰り返している。確実に２年はあんな状態だ。はじめからそういう種類の照明器具なのか、それともランプが切れるたびに誰かがまたわざわざ切れかかったランプに交換しているのか、本当のところはわからないが、チカチカと点滅を繰り返すことが、アパートの外階段の天井に取り付けられた照明器具本来の役割でないことは誰が考えてもわかりきっている。そこを通るたび、僕は自然とイライラとした気持ちになる。&lt;br /&gt;
　風呂場の防水扉は、何日か前からギィギィと音を立てるようになっていた。その音は簡単に僕を苛立たせる。開け閉めするたび、犬がエサを食うみたいにいとも容易く僕を苛立たせる。&lt;br /&gt;
　綿矢りさの本を買ったとき、あの本屋の女店員は慣れた手つきで僕の買った本に紙のブックカバーをつけた。その慣れた手つきにも僕は苛立った。ブックカバーは帰りに歩きながらひっぺがして道端に捨ててしまった。&lt;br /&gt;
　本はあっけなく開いた。&lt;br /&gt;
　少しでも僕に抗うことなく、本当にあっけなく開いてしまった。&lt;br /&gt;
　それから、僕は頻繁に綿矢りさの本を開くようになり、そのたびに彼女の顔や髪の毛のことを考えた。たまに表紙に書いてある『蹴りたい背中』という文字に苛立つこともあったが、それはあまり気にしないようにした。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　じゃばじゃばと音を立てながら、お湯は浴槽にだいぶたまってきた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　自分の奥さんを『女房』と言ったミキオにも、僕は苛立っていた。&lt;br /&gt;
『女房』が美容室に行っているあいだ、ヤツは１才になる女を連れていったいどこで時間を潰すのだろう。次にその『女房』が美容室に行くときも、ヤツは僕に電話をかけてくるだろうか。&lt;br /&gt;
　以前は電話なんかかけずにヤツは僕のアパートに上がり込んできた。酒を飲み、夜中過ぎまで平気で居座った。&lt;br /&gt;
　アパートの家賃にも、僕は苛立っていた。&lt;br /&gt;
　誰彼かまわず朝のあいさつをする下の階の――おそらくは４０過ぎの――女にも苛立っていて、道路を挟んだ向こうの公園ではしゃぐ数人の子供にも苛立っていた。&lt;br /&gt;
　本は１０ページほど読み進んでいたが、話の筋なんかまったく覚えていない。僕が綿矢りさの本を読むときは、ページを開いて、そこに書いてある漢字やひらがなを彼女のことを考えながら一字一字潰すように見ていくだけだ。そうしてひとしきり変な気分になって飽きてくると、普段はそこにしおり代わりの紙切れを挟んで閉じてやる。本は閉じられたことに安堵して深く息をつく。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　じゃばじゃばと音を立てながら、お湯は浴槽にたくさんたまってきた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　でも、その後１５ページ読んでも、僕はいつものようには本を閉じなかった。その代わり、開いたページをより深く開き、そのままゆっくりと湯のたまった浴槽に沈めていった。肘まで湯の中に浸けて、そこで強く本を押さえつけた。片手だけではなく、身体をひねって本を持っていないほうの手で本を持っている腕の手首をしっかりとつかみ、そうして両手で深く強く押さえつけた。&lt;br /&gt;
　開いたままのページが弱い水流にあおられてゆらゆらと揺れ、徐々に本全体が水を含んで膨張していくようだった。&lt;br /&gt;
　やがてお湯は浴槽から溢れ出し、座ったままの僕のズボンの尻を濡らした。それでも僕はその場を動かず、本をさらに強く押さえつけていた。&lt;br /&gt;
　換気扇の回っていない風呂場の中は、息苦しいくらいに白い湯気が充満している。額からにじみ出た汗が頬を伝って落ち、浴槽のお湯と同化した。&lt;br /&gt;
　そのとき、押さえつけられた本の中から無数の歪んだ文字が力無げにじっとこっちを見ていることに気がついた。開かれたページの漢字やひらがな一文字一文字が、うつろな眼差しでしかし確実に僕のことを見返していた。一瞬背中にぞっと寒いものを感じたが、それでも僕は固く目を閉じてさらに強く本を押さえつけた。&lt;br /&gt;
　どのくらいの時間そうしていたかわからない。でも、しばらくして目を開けてみると、もう本の文字たちは僕を見返してはいなかった。お湯の中でただ膨れるだけ膨れて、ぶざまにゆらゆらと揺れながら、ただ本の文字だった。&lt;br /&gt;
　お湯は浴槽から溢れ続け、窓の曇りガラスがだんだんと夕日の色に染まってきた。&lt;br /&gt;
　――仕方なかった。なんの言い訳もない。それがそのときの僕にできる、あらゆるものに対する唯一の抵抗だったのだ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/60121132.html</link>
			<pubDate>Thu, 30 Jul 2009 21:42:58 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>Read a person&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;迷っている人がいたら教えてやっても良い&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「もし結婚とかするんだったら、いつでも荷物の多い人にせよ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;きっと、やさしい人だから&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/56369565.html</link>
			<pubDate>Sun, 31 Aug 2008 02:37:00 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>Read a person&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「明日」というものが&lt;br /&gt;
どっちの方向からやってくるのかがわからない&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;それがいちばんの問題だ&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/56284017.html</link>
			<pubDate>Sun, 24 Aug 2008 02:21:57 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>Read a person&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「理屈じゃない」&lt;br /&gt;
と主張する人が&lt;br /&gt;
なぜ理屈じゃないかについて&lt;br /&gt;
詳しく語ってくれた&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;頭が少し、混乱した&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/56108636.html</link>
			<pubDate>Fri, 08 Aug 2008 21:44:02 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>月末の地方銀行</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-d4-30/shionozakibird/folder/1475416/09/56108609/img_0?1247805450&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_228_171&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　月末の金曜日、僕は銀行の窓口にいて、今日中に済ませなければならない振り込みをしてしまおうと考えていた。&lt;br /&gt;
　４枚複写の手ごわい振込依頼書にボールペンで必要事項を書き込み、窓口の女性行員に手渡した。&lt;br /&gt;
　月末の銀行はひどく混み合っていて、このあとかなりの時間待たされるであろうことは容易に想像できた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「はい、お振り込みですね、お手続きをしますのでお掛けになってお待ちください」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　振り返ってロビーを見渡すと、随所に配置されているソファーや椅子にはどれもすでに誰かが座っており、僕の入る隙間などどこにもなかった。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「お掛けになっては待てそうにもないから、僕はあの柱に寄りかかって待つことにするよ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　窓口の女性行員にそう告げると、彼女は引きつったような笑みを浮かべたが、すぐに下を向いて作業にとりかかった。&lt;br /&gt;
　僕は次の客に押し出されるようにしてその場を離れ、そのまま何人かの人たちをよけてその四角くて太い大理石のような柱のところまで歩いて行き、窓口の方を向いて寄りかかった。当然のことだけど、その太い柱は僕が寄りかかったくらいではびくともしなかった。&lt;br /&gt;
　僕の振込依頼書を受け取った担当の女性行員は、もちろん僕の手続き以外にもたくさんのこなさなければならない仕事を抱えていることだろう。あの様子だと５分や１０分では僕の番にはならないことは確実だ。でもだからといって別にどうということはない。時間ならたっぷりあるし、柱に寄りかかっていろんな人を見ているのも悪くない。&lt;br /&gt;
　あらためて周りを見渡してみると、行内には本当にたくさんの人がいた。&lt;br /&gt;
　大学生みたいな若者や家庭の主婦、スーツを着たサラリーマン、帽子を被って杖をついた老人や腰の曲がったばあさん。その種類も実に様々だ。彼らは皆、それぞれなにがしかの金融目的を持ってこの銀行に集まっているわけだ。忙しそうにイライラと自分の順番を待っている人もいれば、隣の人と熱心に世間話に興じている女の人もいる。しかし大半は、やはりイライラしながら待っているようだった。&lt;br /&gt;
　カウンターの向こう側もだいたい同じようなものだ。&lt;br /&gt;
　大勢の行員が忙しそうに立ち働き、自分の書類に支店長だか課長だかの判が押されるのを待っている。ＡＴＭ機械の横では仏頂面のガードマンが昼休みの交代時間がくるのをじっと待っている。&lt;br /&gt;
　客が順番を待ち、行員が上司の許可を待ち、ガードマンが昼休みを待っている。低いマガジンラックの横に置かれた鉢植えのレンタル観葉植物は、ごくわずかな酸素を吐き出しつつ健気に来週の交換を待っている。&lt;br /&gt;
　けっきょく、この地方銀行の支店全体がみんな何かを待っているといってもいいだろう。銀行の各種手続きなどはこの際なにかの「建て前」に過ぎず、実はここにいる全員がただ待つことを目的に集まってきたようにも思えてくる。&lt;br /&gt;
　そして銀行だけでなく、よく考えてみると人はいつも何かを待っているみたいだ。待つことが目的のように暮らしている。きっとそうに違いない。&lt;br /&gt;
　週末を待ち、人と待ち合わせをし、目覚まし時計をセットして朝の７時３０分を待っている。四六時中何かを待っているのだ。&lt;br /&gt;
　僕は何も、人の「生」自体が「死」を待つ行為そのものだ、などというわかったようなヘボ哲学を展開するつもりはないが、そんな難しいことを考えなくたって、人がいつも何かを待って生きているのは明らかだ。&lt;br /&gt;
　この時間どこかでは、負けるとわかっている戦いに挑む拳闘士のような気分で歯医者の待合室に座っている人もいるだろうし、半月ほど遅れている彼女の生理を湖上に張った薄氷の上を歩くような心持ちで待っている１９歳の男もいるだろう。&lt;br /&gt;
　正面の入り口の自動ドアが開いて、新たに３０歳くらいのサラリーマンが入ってきた。&lt;br /&gt;
　彼はＡＴＭ機械の順番待ちをしている人たちの長い列を見て小さく舌打ちをした。腕時計に目をやり、ハンカチで額の汗をぬぐいながらあきらめたようにその最後尾に並んだ。&lt;br /&gt;
　四六時中何かを待っているにもかかわらず、待つという行為は程度の違いこそあれ、往々にして苛立ちや苦痛を伴うもののようだ。&lt;br /&gt;
　日本一有名な名前のない猫が言っていた。&lt;br /&gt;
「人間の定義というと外に何もない。只いらざることを捏造して自ら苦しんでいるものだと云えば、それで充分だ」&lt;br /&gt;
　自分で待ち、自分で苛立っている。&lt;br /&gt;
　いっそのこと、待つことなんかきれいさっぱり忘れて全部やめてしまえばいいと思ったりもするが、これがなかなかそうもいかないのだろう。&lt;br /&gt;
　人間には社会があり、暮らしがある。マイホームとショッピングの夢があって子供の成長がある。&lt;br /&gt;
　自分で待ち、そして自分で苛立たなければならないのだ。&lt;br /&gt;
　かわいそうなものだ。僕は行内にいる人たちがこの上なく不憫に思えてきた。ポケットから拳銃を取り出して、天井に向けて一発派手にぶっ放してやりたいような気がしてきた。そうすれば、もうみんな待つことなどしなくなるだろう。きっと現状を打破できる。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;――「唐杉様！」　&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　みんなを一瞬で解き放ってやることができるだろう。&lt;br /&gt;
　この考えはわりと楽しい感じがする。&lt;br /&gt;
　救済的銀行強盗だ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;――「唐杉様！」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　天井に一発ぶち込んでこう叫ぶ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「全員一歩も動いてはいけない！金はいらないが、その代わり全員がいま行っている作業を即刻中止してまっすぐ家に帰るんだ！いますぐにだ！」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　彼らは一瞬恐怖におののくが、それが救済的銀行強盗だとわかると、みんな喜んで手にしていた払戻し用紙やキャッシュカードをその場に投げ捨て、先を争うように家に帰ってゆく。銀行が済んだら近くの大型スーパーに行ってまた一発ぶっ放す。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;――「唐杉様！カ・ラ・ス・ギ・サマ！」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　妄想はどんどん僕の頭の中で膨れ上がってゆくが、窓口の女性行員が大声で僕の名前を叫んでいることに気づき、柱から身を離して先程の窓口まで歩いて行った。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「僕が唐杉です」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「はい、唐杉様お待たせ致しました。お振込みのお手続きが完了いたしました。こちらがお控えになります。ご利用ありがとうございました」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　そしてすぐに次の作業に取り掛かろうとしていた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ちょっとごめん」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「はい？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「これで僕の振込みは滞りなく完了したわけだね？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ええ、お手続き致しました」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「では間違いなく、僕の相手の口座に僕の指定した額の金が移ったことになるよね」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ええ、そのとおりです」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「よかった。ありがとう。別に疑っていたわけじゃないんだけどね。月一回の大事な振込みだから、ちゃんと今日中に振り込まれるか確認しておきたかったんだよ。毎月そうさせてもらっているんだ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「はあ、そうですか」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ありがとう。じゃ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕は混雑した銀行を出て、そのまま駅まで歩いて行った。&lt;br /&gt;
　駅にもまた、電車やらバスやらを待っている人が大勢いた。&lt;br /&gt;
　そんな人たちを横目で見つつ、僕は構内の雑踏の片隅でひっそりと佇む公衆電話にコインを入れて電話をかけた。番号は手帳を開いてみるまでもなく、おぼえている。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「はい」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「あ、おれだけど」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ええ。・・・なに？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「いま今月分を振り込んできたよ。窓口の係に確認したから間違いなく今日中に入金になると思うんだ。一応知らせておこうと思って」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・なんだか周りが騒がしいわね」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ああ、駅の公衆電話なんだよ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「公衆電話？ケータイじゃないの？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「うん。携帯電話はこのあいだ解約したんだ。あまり使う機会もないからね」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・そう」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「今日の銀行は混んでいたよ。月末の金曜日だからね。列がいくつもできていて――」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ねえ、わざわざ連絡をくれなくってもいいのよ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「えっ？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「毎月こうやって電話をくれるけど、こっちはこっちでわかるから」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「でもね、一応のことを考えると――」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「それだけじゃない。・・・ねえ、私ずっと言おうと思ってたんだけど、・・・電話だけじゃなくって、振り込みそのものもいらないわ。・・・必要ないのよ。・・・だって、私たち別にそんなこと決めたわけじゃないじゃない。子供がいたわけでもないし。・・・そうよね？」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・ああ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・私、もういいかげん気持ちを切り替えてやっていきたいの。仕事も順調で忙しくなってきているし。・・・なんとなく、これからいろんなことがいい方向に進んでいくような気がしているの。はっきり言って、経済的にだっていくらか余裕もあるわ。実際あの口座はあれ以来ぜんぜん手をつけてないの。あなたからの振り込みも全額そのまま残っているのよ」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕は黙っていた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・ねえお願い。もうやめにしましょう。やっと私、いろんなことがうまく進みそうな気がしているの。もう失敗したくないの。いままで振り込んでくれたお金はぜんぶ返すから」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「いや――」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「あなたは変わらない。携帯電話も解約しなくちゃならないくらいなら、なんだってお金なんか送るのよ。・・・そういうの、やめてよ。私、ときどきたまらない気分になる・・・」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　泣いているのかもしれない。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「いや、おれは別にそういうつもりじゃ――」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「ちがう。どういうつもりもなにも、もうなんでもいい。けっきょくあなたは自分のことしか考えてないのよ。ずっとそうだった・・・。とにかく、お金はぜんぶ返すから。前の口座にぜんぶ振り込んでおく。もう電話もしてこないで。・・・悪いんだけど」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕はなにを言っていいのかわからなかった。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「・・・ねえ、わかる？私、このことをずっと言おうと思ってたの。何ヶ月もずっと。ずっと考えて、ずっと言おうと思ってたの・・・」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　公衆電話の受話器を元に戻して振り返ると、僕の後ろに待っている人が二人いた。学生と、スーツを着た初老の紳士だ。&lt;br /&gt;
　僕はすごくゆっくりと歩いて駅を出て、来た道を引き返して行った。&lt;br /&gt;
　しばらくして気がつくと、さっき振込みの手続きをした地方銀行の前まで来ていた。通りに立ち止まって行内を覗いてみると、ＡＴＭと窓口には相変わらず長い列ができていて大勢の人が順番を待っていた。椅子やソファーも全部埋まっているようだ。&lt;br /&gt;
　僕はまた通りを歩き、時間を潰すために大きな本屋に入った。&lt;br /&gt;
　ズボンのポケットには振込用紙の控えがくしゃくしゃになって収まっていた。取り出して広げると、用紙の右下のほうに今日の日付の銀行の受付印が少し斜めに押されていた。&lt;br /&gt;
　本屋にはたくさんの本があり、それが棚の上の方までびっしりと並んでいる。&lt;br /&gt;
　僕はこれから先、何を待ち、そして何に待たされることになるのだろうか。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/56108609.html</link>
			<pubDate>Fri, 08 Aug 2008 21:42:29 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>Read a Cupfood&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;一年の早さに唖然とし&lt;br /&gt;
三分の長さに呆然とす&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;貴様という食い物は・・・&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/53302787.html</link>
			<pubDate>Wed, 06 Feb 2008 02:10:35 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>Read a person&amp;#039;s mind</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;壁掛け時計の電池が切れていた&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;壁掛け時計の電池が切れた　&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;と言ってみた&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/53263516.html</link>
			<pubDate>Mon, 04 Feb 2008 01:00:07 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>ある季節　　-下-</title>
			<description>&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　ニセコは日を追うごとに寒さを増していき、僕はめったに風呂に入らなくなった。&lt;br /&gt;
　替えの下着を持って大浴場まで行ってみるが、脱衣所に先に入っている人のスリッパがあると、そのまま西棟の部屋に戻った。ジェフリー・アーチャーの短編小説は、最初の一編を読んだだけでベッドの横の床に投げ出したままになっている。食べるものと飲み物がなくなったときだけ、例の食料品店にワインと食パンとソーセージを買いに行き、そのほかは外に出なくなった。食料品店の店主は僕が３度目に行ったときに話しかけてきた。旅行がどうとか雪がどうとか・・・。僕は適当に受け流し、その次からはそこより少し遠くのコンビニエンス・ストアに行くようになった。銀行の封筒に入れたまま持ってきた現金を数えることもしなくなった。ふいに最初の夜に見た不快な夢を思い出しそうになることがあったが、そんなときはワインをぐっとあおったり、洗面所に行って冷たい水を頭からかぶったりして無理に押さえつけた。&lt;br /&gt;
　僕に関係なく、時間はよどみなく着実に過ぎていった。川岸に立って静かな水の流れを眺めるように、僕はその時の経過の外側にいた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　もうここに来てどれくらいの日数が過ぎていったのかわからない。羊蹄山の山頂に薄っすらと雪が降りた日の午後、僕は本館のロビーまで降りていき、低いソファに身を沈めて新聞を広げていた。&lt;br /&gt;
　玄関脇の大きな窓から見えるスキー場直行のゴンドラ・リフトが試運転を始めるらしく、何人かの作業員が厚い上着を着て忙しそうに立ち働いていた。&lt;br /&gt;
　羊蹄山に積もった雪も活動を開始したゴンドラ・リフトも、僕の目にはいまいち現実味のない絵空事のように映った。&lt;br /&gt;
「村井様、少しよろしいでしょうか？」&lt;br /&gt;
　急に名前を呼ばれ、少し驚いて顔を上げると、ホテルの制服を着た５０くらいの、やけに髪型のきっちりした男が軽い微笑みを浮かべて立っていた。&lt;br /&gt;
　この男は何度か見かけたことがある。いくらか偉い立場にあると思われるフロント・マンらしい。&lt;br /&gt;
　僕は反射的に後頭部の寝グセを手で撫でつけた。&lt;br /&gt;
「ええ、なにか？」&lt;br /&gt;
　フロント・マンは表情をもう少し打ち解けたような微笑みに変えて、右手で胸のポケットに差した高級そうなボールペンの柄に触れた。&lt;br /&gt;
「おそれいります。ご覧のとおり、この時期はなんと申しますか、ひまでして。空欄ばかりの宿泊予約帳を眺めるのにもいささか飽きてしまいまして、ご迷惑でなかったらお話でも、と思いまして。コーヒーをどうですか？」&lt;br /&gt;
　僕は少し考えてから、広げていた新聞を四つ折にしてテーブルに置き、向かいのソファを手で示した。&lt;br /&gt;
「おい、コーヒーを頼むよ」&lt;br /&gt;
　彼はラウンジの女性に声をかけてから、いくぶんリラックスしたように見せかけながら腰を下ろした。&lt;br /&gt;
「失礼します。いや、あとひと月すればスキー客でごった返すのですけどね、毎年この時期は開店休業のような状態です。もっともそれは、私どものホテルに限らずこのあたり一帯に対して言えることではありますが。紅葉の季節も過ぎて雪が降るまでのあいだ、すべてが気の抜けたようになるんです。お湯の出具合にクレームを言われることもなく、食材業者の納品が遅れることもない。仕事が極端に減るんです。ですからね、失礼も省みず自分のひまつぶしのために、数少ない大切なお客様にこうして話し相手になっていただいたりしてしまうのです」&lt;br /&gt;
「あなたはもう長いんですか？このホテルは」&lt;br /&gt;
　僕は足を組みなおして彼に尋ねた。&lt;br /&gt;
「あ、これは失礼しました。私は岡田と申します。・・・もう２５年になりますかね。改築する前からずっとこのホテルで働いております。現在はフロント・マネージャーなんていうものをやらされております。と申しましても、シーズン中はクレーム処理係、オフシーズンは備品管理係のようなものですが」&lt;br /&gt;
　そう言って彼は声を上げて笑った。&lt;br /&gt;
　ラウンジの女性がコーヒーを２つ持ってきた。彼女は低いガラスのテーブルにほとんど音も立てずにカップに入ったコーヒーと伝票を置き、そして立ち去った。&lt;br /&gt;
「さあ、コーヒーをどうぞ。・・・失礼ですが村井様、こちらへは？」&lt;br /&gt;
　彼はコーヒーに砂糖をスプーンで２杯入れてかき混ぜながら、僕の方は見ずに言った。&lt;br /&gt;
「いやもちろん、そのようなことを私が尋ねる権利はないのですが、そのなんと申しますか、オフシーズンのフロント係はときに図々しくなるものでして、聞き流していただければけっこうです」&lt;br /&gt;
　僕はこの岡田というフロント・マネージャーの胸につけられたスチールの名札に目を向けていた。そこには当然のように「マネージャー岡田」という文字が彫り込まれていた。&lt;br /&gt;
「仕事で来ています」&lt;br /&gt;
「ああ、やはり、お仕事で・・・」&lt;br /&gt;
「取材なんです。このあたりの自然に関する、少し長めの記事を書かなければならなくて。長めの記事には長めの滞在が必要です。少なくとも、私はそう思う」&lt;br /&gt;
　岡田は納得したように大きく頷いてコーヒーを啜った。&lt;br /&gt;
「記事とおっしゃいますと、村井様はなにか新聞か雑誌の記者の方でいらっしゃいますか？・・・いやもちろん、これも差し支えなかったらという、オフシーズンのフロント係の――」&lt;br /&gt;
　僕は右手を少し上げて笑って見せた。&lt;br /&gt;
「そんなところです。どこかの雑誌社に依頼されて書いたり、自分で適当なのを書いてそれを売ったり。中途半端なページを安く埋めるために、僕のようなのはちょうど使い勝手がよいのですよ」&lt;br /&gt;
　岡田は、「そんなご謙遜なさらずに」というように何度か頷いた。&lt;br /&gt;
「それで今回は、ニセコの自然を・・・」&lt;br /&gt;
「そうです。羊蹄山を中心とした、このあたりの自然について書こうと思っています。・・・もちろん、オフシーズンのね」&lt;br /&gt;
　岡田はさらに顔をほころばせた。&lt;br /&gt;
「それはこっこうですね。自然というものはけっして決まった季節だけのものではないです。とくに羊蹄山はそうだろうと思います。私はもう長いことこの土地に住んでいます」&lt;br /&gt;
　ロビーの太い柱に掛けられた仕掛け時計が３時を告げた。&lt;br /&gt;
「村井様はお気づきになられていましたか？我々はこのニセコにいるかぎり、ほぼいつでも羊蹄山を見ることができるのです。どこにいても、顔を上げてどちらかの方向を向きさえすれば、そこに羊蹄山を見えるのです。それぞれの方向から、そしてそれぞれの季節で、あの山はいろいろな表情を見せてくれます。パンフレットの写真のように、なにも夏や真冬だけのものではないと、私は思います」&lt;br /&gt;
　僕は手を伸ばして前に置かれたカップをとり、少し口をつけた。岡田もそれにつられたように、コーヒーを飲んだ。&lt;br /&gt;
「そしてこういう言い方はちょっと感傷的に過ぎているかもしれませんが、・・・我々ニセコの住人は、生まれてからずっと、あの山に見守られている気がするのです。もちろん、親や友人たちとあらたまってそんな話をすることは決してないですが、誰もが心のどこかでそう思っています。誰になにも言いはしませんが、それは確かなことです」&lt;br /&gt;
　岡田は少し照れたように、また胸のボールペンに手をやった。&lt;br /&gt;
「参考になります」&lt;br /&gt;
「いや、お恥ずかしい。オフシーズンのフロント係はむやみに口数が増えてしまっていけません。なにとぞお聞き流しになりますようお願いします」&lt;br /&gt;
「いや、地元の方ならではの考えを聞けてよかったです。そういう想いは私みたいなよそ者にはなかなか沸いてこない」&lt;br /&gt;
　僕はコーヒーを飲み干し、少し音を立ててカップを受け皿に戻した。&lt;br /&gt;
　岡田はもう少しなにか言いたそうに膝の上で組んだ両手をこすり合わせていたが、やがて僕ににっこりと笑って見せてから腰を上げた。&lt;br /&gt;
「おじゃましました、村井様。どうかよいご滞在を」&lt;br /&gt;
　彼はコーヒー２杯分の伝票を手にし、バーカウンターのほうに歩いていった。しかしすぐ、何かを思い出したように立ち止まって振り返った。&lt;br /&gt;
「村井様、お車はご入用ではないですか？もしよかったら私のをお貸し致しましょう。取材なさるのにも何かと便利でしょう。私の勤務時間であればいつでもお使いいただいて構いません。ひどいオンボロですが、そのほうが気兼ねなくお使いいただけるでしょう」&lt;br /&gt;
「ありがとう。そのときはそうさせてもらいます」&lt;br /&gt;
「いつでも言ってください」&lt;br /&gt;
　岡田は僕に向かって軽く頭を下げ、カウンターまで歩いていくと、さっきコーヒー持ってきた女性になに言って、そしてドアの向こうに消えた。&lt;br /&gt;
　僕は折りたたんだ新聞をとって顔の前で大きく広げ、機械的にページを繰った。&lt;br /&gt;
　泥水のような苛立ちが、みぞおちあたりから落ちて胃の底に溜まっていった。&lt;br /&gt;
　とんだ茶番だ。クソでクソを塗り固めたようなクソ茶番だった。&lt;br /&gt;
　岡田が僕に話しかけてきたのは、自分のひまつぶしなんかのためではなく、本当は僕のたまった宿泊費の件であることは明らかだったし、僕が雑誌の記者で、取材のためにこのホテルに泊まっているなんてことを、彼はハナから信じてはいなかった。&lt;br /&gt;
　そしてそれをお互いが最初から最後まで全部知った上で、阿呆のようなクソ茶番を演じたのだ。&lt;br /&gt;
　今にも口から溢れ出しそうな泥水を、僕は深い息をついて必死に押しとどめた。&lt;br /&gt;
　さっきと同じ女性がやってきて、また音もなくコーヒーを置いていった。伝票はなしだ。&lt;br /&gt;
　僕はそれを冷え切るまでほうっておき、立ち上がって一気に飲み干した。そしてその足で大浴場に行った。&lt;br /&gt;
　他に入浴者がいるかどうかなど確かめもしなかった。剥ぎ取るように服を脱ぎ、備え付けのタオルを取って洗い場に座り、液体の石鹸を大量につけて身体を洗った。皮膚が剥がれ落ちそうなくらい強く、肩や胸を擦った。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　『 ああ、やはりお仕事で・・・ 』&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　みすぼらしく垂れ下がった陰茎を、半ば殴るようにして洗い、&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　『 村井様、お車はご入用ではないですか・・・ 』&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　足の指の間をなにかの仕返しのように強く爪で引っ掻いた。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　『 お父さんはゴルフ。おじさんはなにやってるの・・・ 』&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　火傷しそうなくらい熱い湯を頭から何度も何度もかぶった。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　『 コトネ、静かにしなさい・・・ 』&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　目の前の曇った鏡に水をかけ、そこに写った自分の姿を眺めた。鏡は耐えかねたようにまたすぐ無数の水滴をつけ始める。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　『 夏になったら北海道に行こうよ。きれいなホテル泊まって、木を見に行って・・・ 』&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　西棟の部屋の窓辺に立って、濡れた髪のまま外に目をやると、そこには薄っすらと雪をかぶった羊蹄山が相変わらず押し黙ったままたたずんでいた。と同時に、今はその頂上からやや斜め上方に白く淡い光を放つ月がひょっこりと浮かんでいる。&lt;br /&gt;
　月は自らの光で山を照らすでもなく、妙にちぐはぐな距離を保ったまま、控えめに巨大な山の様子をうかがっているようだった。&lt;br /&gt;
　彼もゴンドラ・リフトと同じく、来るべき季節に向けた予行練習を始めたのだ。&lt;br /&gt;
　これから毎日、月は山の斜め上に浮かび、やがて寡黙な山が納得する芸術的な定位置を獲得するだろう。多くの人間が訪れる、ちょうどその季節に合わせて。&lt;br /&gt;
　僕は部屋の窓を開け放ち、身を乗り出すようにして羊蹄山を見た。凍るような冷たい風が、僕の全身を刺し貫いた。&lt;br /&gt;
　山はなにも語らず、僕を見てさえもいなかった。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/53263493.html</link>
			<pubDate>Mon, 04 Feb 2008 00:59:00 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>ある季節　　-上-</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-d4-30/shionozakibird/folder/962697/19/53263419/img_0?1202618163&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_320_240&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　倶知安の駅で電車を降り、改札を抜けた左手にある小さな売店でペットボトル入りの水を買った。&lt;br /&gt;
　駅員以外に人がほとんどいない構内を、一人の女の子が元気に走り回っていた。&lt;br /&gt;
　僕におつりを渡した女の店員が「コトネ、静かにしなさい！」と叱りつけた。&lt;br /&gt;
　それは、３年前の夏に来たときには乳母車に乗っていた女の子だった。&lt;br /&gt;
　女の子の母親に次のバスの時間を調べてもらい、外のベンチに座ってバスを待った。&lt;br /&gt;
　狭いロータリーの向こうに伸びた短い通りの風景は、この前に来たときと何も変わっていないように感じた。角の甘味屋はいまも開いているのか閉まっているのか判然としない。&lt;br /&gt;
　手袋とマフラーがあってもいいくらいの寒さだった。&lt;br /&gt;
　あのときのホテルは、いまはもうないことはわかっている。あったところで金額的にまず無理だ。でも、ニセコのスキー場付近まで行けば宿泊施設が何軒かあるだろうから、その中でいちばん安いところに泊まろうと僕は思っていた。&lt;br /&gt;
　２、３人の地元民と数組の旅行者を乗せたバスに１時間弱揺られ、最初に着いたホテルでいちばん安く泊まれる部屋はいくらかとフロントで訊ねた。&lt;br /&gt;
「もし料金のことだけでしたら、スキー客用の西棟の部屋がよいかと思います。部屋は狭いですが十分寝ることはできますし、私の知る限りではすきま風が入ってくるようなこともありません」&lt;br /&gt;
　そう言ってフロントの女性は笑った。&lt;br /&gt;
　金額を聞くと、思ったよりもずっと安かった。他のホテルをあたるのももう面倒な気もするし、僕はその部屋に決めた。&lt;br /&gt;
　宿泊カードに名前と住所を書き込んで、１週間分の宿泊代を前払いし、西棟の２０３号室のキーを受け取った。フロント係の女性が、時間があるので部屋まで案内します、と言って荷物を持ってくれた。&lt;br /&gt;
　部屋は言われたとおりひどく狭かった。簡易ベッドが置いてあるほかは、小さい書き物机と椅子が一脚でほぼいっぱいだった。&lt;br /&gt;
　トイレと洗面所は各階廊下のつきあたりにあり、その反対側の一角にはコイン・ランドリーと自炊のできる簡易キッチンがある。風呂は本館の大浴場をご利用ください、とフロント係の女性に言われた。３階から上は６人部屋になっているそうだ。&lt;br /&gt;
「冬になると選手を目指す学生たちでいっぱいになってうるさいくらい賑やかです。北海道出身の選手の中には、毎年このホテルに泊まって合宿した人がたくさんいるんですよ」&lt;br /&gt;
　まだ雪が降る前のこの時期は、西棟の客は僕だけとのことだった。&lt;br /&gt;
　刑務所の独房というには豪華すぎだが、壁に洒落た絵画なんかが掛けられていて、ナイト・テーブルに清掃担当者のメッセージ・カードが置いてあるような部屋よりは、このとびきり質素な部屋が、なんとなく今の自分には合っているように思われた。&lt;br /&gt;
　フロント係の女性に礼を言い、それから少ない荷物を全部ベッドの上に置いてホテルの外に出た。&lt;br /&gt;
　すでに陽が落ちかけていて、あたりはさらに冷え込んでくるようだった。役目を終えて地面に落ちた少し汚い木の葉っぱが、物憂げに風に吹かれていた。&lt;br /&gt;
　両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、ホテルから伸びた坂道を下り、しばらく歩いて小さな食料品店を見つけ、そこで徳用パックのワインを３本と袋入りの食パン２斤、チーズ、ミネラル・ウォーター３本、ポテトチップスと魚肉ソーセージを２袋、それから石鹸とハブラシと歯磨き粉を買った。&lt;br /&gt;
　この食料品店は小さいわりに生活用品は一通り以上揃っているらしく、レジカウンターの横に文庫本の書棚まであって、僕はそこからジェフリー・アーチャーの短編小説を一冊抜き取り、それも買った。&lt;br /&gt;
　大きな紙袋を２つ抱え、西棟の２０３号室に戻ったときはすでに暗くなっていた。&lt;br /&gt;
　買ってきたものを書き物机や床に置き――冷蔵庫がないのでワインはビニールの袋に１パックだけ入れて窓のロックのフックにぶら下げた――、それから上着とズボンを脱いでベッドに横になった。&lt;br /&gt;
　そしてその後１４時間、僕は眠り続けた。&lt;br /&gt;
　とくに睡眠が必要と感じていたわけでもなく、意識して眠ろうとしたのでもなかった。でもとにかく、僕は１４時間ものあいだ、ずっと眠り続けたのだ。&lt;br /&gt;
　その久しぶりの長い眠りの中で、僕はさまざまな夢を見た。僕にプラス・ドライバーを貸してくれないとなり町の夏祭り実行委員会との言い争い、と言った滑稽なほどつじつまの合わない断片的なものや、１週間か２週間前の出来事をまるきりそのままなぞらえたようなひどく不快な夢もあった。他にもたくさん見たが、どちらかというと不快なもののほうが多かったようだ。もっとも、翌日の朝９時に目が覚めたとき、それらの夢は僕の頭の中からあらかた消え去っていた。&lt;br /&gt;
　部屋の暖房を入れっぱなしにしていたせいで、喉が痛いくらいに乾いていた。&lt;br /&gt;
　ミネラル・ウォーターの栓をあけ、ぬるくなった水を勢いよく喉に流し込んだ。少し身体がこわばっていたが、とくに頭痛はしていなかった。&lt;br /&gt;
　カーテンを開けて椅子に座り、窓から外を眺めると、灰色の曇り空を背景にして三角形の大きな山がひょっこりとたたずんでいた。&lt;br /&gt;
　あれは羊蹄山という山だ。&lt;br /&gt;
　ここの来るまでのバスの中で、旅行者らしい初老の夫婦が指を差しながら言っていたのと同じ山だ。&lt;br /&gt;
　バスから見えた山が、こうしてホテルの窓からも見えるというのは、なんだか少し意外な気がした。&lt;br /&gt;
　偶然に行き着いたホテルの安っぽい椅子に座って外を眺めているうち、あらためて僕は、自分がずいぶん遠くまで来たんだということを知った。&lt;br /&gt;
　昼近くになって本館の大浴場に行って身体を洗い、部屋に戻ってワインを開け、食パンとチーズを食った。下着の枚数を数え――４枚だ――、ナイフを使って上手にソーセージの包みを剥いだ。買った本を読もうとしたが、それはうまくいかなかった。トイレに行って小便をし、手を洗わずに戻ってまた椅子に座った。窓の真下でパーゴルフに興じる家族を眺め、それからたぶん、おそろしく長い時間、羊蹄山を見ていた。&lt;br /&gt;
　暗くなって山がほとんど見えなくなると、暖房と照明を点け、ベッドに寝そべってまたワインを飲んだ。しこたま飲んで、寝た。&lt;br /&gt;
　３日４日、５日とだいたい同じように過ぎていった。&lt;br /&gt;
　少し天気が良い日などは、時間をつぶすためにホテルの敷地内の散歩道をぼんやりと歩いたりもした。&lt;br /&gt;
　正面玄関から北側の建物には、スキー場に直結しているゴンドラ・リフトの乗り場があった。だが、いまはそのリフトも動くことはなく、太いワイヤーのはるか先のスキー場にもまだ雪は積もっていなかった。&lt;br /&gt;
　パターゴルフ場の脇のベンチに座って前を見ると、ドイツトウヒの太い枝の合い間から羊蹄山が見えた。夏であればここは涼しく気持ちのいいベンチだろうが、冬の初めのこの時期では、ドイツトウヒの黒い幹や枯れた芝生は必要以上に寒さを感じさせるだけだった。&lt;br /&gt;
　上着のポケットに両手を突っ込んだまましばらく羊蹄山を見ていると、どこからともなく５、６才くらいの男の子が僕に近寄ってきた。&lt;br /&gt;
「おじさん、なにやってるの？」&lt;br /&gt;
　少年はニット帽を目深にかぶり、水色のジャンパーのファスナーを顎の上まで閉めていて、鼻の頭が真っ赤だった。&lt;br /&gt;
　僕は少年の無邪気さに少しだけ気持ちを軽くした。&lt;br /&gt;
「君、名まえは？」&lt;br /&gt;
「コウジ」&lt;br /&gt;
「お母さんは？」&lt;br /&gt;
「お母さんはエステしてる。お父さんがゴルフ。おじさんはなにやってるの？」&lt;br /&gt;
「外でソーセージを食うのさ」&lt;br /&gt;
「ソーセージ？」&lt;br /&gt;
「そうさ。コウジはソーセージを上手にむけるか？」&lt;br /&gt;
「うーん、わかんない」&lt;br /&gt;
「来てみろ」&lt;br /&gt;
　少年を脇に座らせ、僕は上着のポケットからナイフと魚肉ソーセージを取り出し、ゆっくりと実演つきで上手なソーセージのむきかたを教えてやった。少年は僕の折りたたみ式のポケット・ナイフを不思議そうに見つめていた。&lt;br /&gt;
「いいかコウジ。男はな、ハタチになったら、一生使えそうな頑丈なナイフと、程度のいい中古のトラックを手に入れなければならないんだ。」&lt;br /&gt;
　コウジ少年はポカンと口を開けて僕の顔を見上げた。&lt;br /&gt;
「知らなかったか？だったらよおく覚えておけよ。大人になったら、こういう頑丈な小さいナイフと、エンジンの調子がいいトラックを手に入れるんだ。これはもう決まっていることなんだ、いいな、中古のトラックとナイフだ」&lt;br /&gt;
　少年はさらにポカンと口を開けて、少し首を傾けた。&lt;br /&gt;
「さあ、もうお父さんのところに戻りな」&lt;br /&gt;
　背中を軽く叩いてやると、コウジ少年は弾かれたように走っていった。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　７日目の朝、フロントに行って、もうしばらく滞在するつもりだ、と伝えた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
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			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/shionozakibird/53263419.html</link>
			<pubDate>Mon, 04 Feb 2008 00:54:33 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
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